やぁ諸君。長門だ。今日は・・・特にすることがない。夕立は阿賀野に連れられ津軽海峡で訓練出撃している。ちなみに言うと、私は出撃出来ない。艤装は爆破されて修理中だし、横須賀に残されているはずの私の艤装は、ご丁寧にもあいつが破棄していた。ガッデム。提督代理のビス子が艤装を建造中だと言っていた。そのせいで大湊の私と横須賀の陸奥は身動きが取れない。
「・・・大淀。」
「なんでしょう?」
「湯飲みに紅茶を淹れるのはやめろと言った筈だが?」
「味は変わりませんよ?」
こいつ・・・私に喧嘩売ろうって言うのか。・・・いかんいかん。どうも如月の報告からそわそわイライラしてしまっていかん。それに胸がざわざわする嫌な予感が拭えない。胸焼けなら薬を飲めばいいんだが・・・食堂にあるのはせいぜい胃薬・・・いや胃薬でいいじゃんか。落ち着け私。
「ぴょーん!長門さーん!肩車してほしいぴょーん!」
「ああいいぞ。よっ・・・と」
「うひょー!めっちゃ高いぴょーん!」
「卯月は軽いな。ちゃんと食べてるのか?」
「長門さんにかかったらみんな軽い筈ぴょん。」
「そうでも・・・そうかも。」
こういうとき無邪気に飛びついてくる卯月はいいものだ。素直に一緒に楽しんで遊べる。
「如月もずーっと背中にくっついているがおやつとかはいいのか?」
「・・・いらない。」
「じゃあ如月ちゃんのもうーちゃんがもらっちゃ、イダダダ!おしり突っつかないで欲しいぴょん!いたっ!いたいいたい!」
如月は報告以降ずーっとくっついたまんまだ。娘が増えたみたいだな。よきかなよきかな。会議が終わった後、提督は阿賀野に本格的に夕立の訓練を命令した。夕立もやる気まんまんだからいいが・・・怪我でもして帰ってきやしないかと不安だ。
「はっはっはっは!」
「あ、長門さん紅茶淹れますね。」
「せめてティーカップもってこいティーカップ。」
「長門さんのティーカップは高級なので触るの怖いんです!」
金剛からもらったティーカップにはそんな秘密があったのか・・・というかそんな高級なものだったのか。知らんかったわそんなの。
「あー長門さーん如月ちゃんはわかるけどどーしてうーちゃんまでお留守番ぴょーん?」
「それはうづきが寝坊したからだろう?弥生が帰ってきたらちゃんと謝るんだぞ。」
「てへぺろー」
「はっはっはっは!可愛い顔したって何も出ないぞ-!」
「きゃー!早いぴょ・・・」
如月をくっつけたまま卯月をぶんまわしていると耳をつんざく警報が鳴り響いた。
『津軽海峡に深海棲艦出現!大淀を旗艦に酒匂、如月、卯月は準備ができ次第順次抜錨し訓練中の第二水雷戦隊へ合流せよ。繰り返す、津軽海峡に・・・』
「如月ちゃんっ!」
「わかってるわ!」
「卯月!急げ!」
「りょうかいぴょーん!」
くっついていた二人が飛び降りて、大淀が両手に抱えて走って連れて行く。私は・・・何も出来ない。とりあえずは見送ることは出来る。出撃ドックへ急ごう。
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「提督!状況は!」
「なっ!?長門さん!?貴方は出撃出来ないだろう!」
「そんなことわかりきっている!」
「大淀以下三名準備出来ました!」
「よし!急いで抜錨し・・・」
次の瞬間、ドックが体が浮くほど揺れた。転びそうになる大淀達を抱きかかえて辺りを見渡せば揺らめく光と黒煙が見える。あ、提督は手が足りなかったから転がった。すまん。
「いたた・・・何事だ!」
「( :; ´^;ิ益;^ิ;.)(´⊙艸⊙`;)(・:゜д゜:・)」
「なんだと!?敵の長距離艦砲射撃・・・ぐわぁっ!?」
再び大きく揺れるとドックの天井から瓦礫が降ってくる・・・いかんこれは陸奥湾まで敵に進入されていることになる。
「お前達!急いで出ろ!提督は私が連れて行く!」
「は、はい!酒匂!卯月ちゃんをお願い!私は如月ちゃんを!」
「長門さん!地下司令部へ!」
「了解した!」
提督を担いで本棟へ走る。低速戦艦と侮るなかれ、陸上ならその長い手足を生かして人よりは早く走れる。おっと島風お前は座ってろ。ドックから飛び出た瞬間、私の視線の先には三発の砲弾が見えた。
「提督すまん!」
「え・・・うわぁああああああ」
提督は危ないので本棟へぶんなげた。硝子窓をやぶって入っていったけど怪我しないことを祈る。
「おおおおっ!!!」
私はというと・・・いつか見たことがある、金剛が拳で敵の砲弾を弾き飛ばす所を。いつ見たかはわからない遠い昔だ。しかし金剛に出来て私に出来ない筈がないのだ。
「ふんっ!」
裏拳を繰り出せば三発の砲弾は愉快な音を立てて海へと弾き返されていく。この大きさの砲弾は・・・重巡!!先ほどからの砲撃のペースを考えると、敵の数は多くない筈だ!!
「意外と出来るもんだな・・・」
「な、長門さんすげぇ!!」
「ぼけっとしてる場合か!!地下司令部へ急げ!私はこのままドックを防衛する!」
「艤装も無しに・・・ちょ!待っ・・・」
海へは出られないが。ドック波止場に駆けつけると再び砲弾が飛んでくるのが見えた。見えるぞ・・・私にも砲弾が見える!
「でりゃあああああっ!!!」
鋼のひしゃげる音がして砲弾はたき落とし、海に着弾する。いける。それに今のは軽巡級の砲弾だ。
「ヾ(゚д゚)ノ゛」
「む!妖精さん!ここは危険だ・・・それは、通信機か。ありがたい!」
「ヽ(`・ω・´)ノ」
「うむ。約束だ。私も危なくなったら逃げる。」
激しい、とまでは行かないが重巡級と軽巡級の艦砲射撃は時間をおいてやってきていた。時には身に受け、時には殴り飛ばし、時には投げ返した。そしてしばらく、砲撃が止み、あたりに静けさが戻る。大淀達が湾内に出現した敵を撃破したのか。しかしこの胸騒ぎ、不快感は増している。何故だ。
『・・・もし・・・しもし!なが・・・!きこ・・・』
「こちらドック、長門だ。」
『・・・よかった!長門さん大淀です!ただいま阿賀野さん達と合流しました!みんな無事です!いま急いで帰投しています!あ、驚くことがありますよー!』
「うむ、今は置いておけ、それより湾内の敵は?どうだった!」
『湾内の敵は重巡二杯、軽巡一杯で、私達でも充分対抗出来ました!あ、今鎮守府が見えて・・・長門さん!!!そこから離れて!!!』
「む・・・」
通信機から大淀の叫びが聞こえると同時に私に巨大な影が二つ刺した・・・見上げれば・・・海中から現れた、爛々と輝く黄金の目が二対。これは・・・まずい・・・
「戦艦・・・タ級と・・・ル級・・・はは・・・私も・・・老いたものだ・・・これほどの接近にきづかッ・・・!?」
艤装もなく、戦艦級深海棲艦の砲撃をこの至近距離ではまず私でも耐えられないだろう・・・そう覚悟した瞬間だった。砲撃ではない大爆発が私を吹き飛ばした。
「ウオオオオオオッ!!!」
「・・・うぐ・・・」
「ママにッ!!!!何するっぽいッ!!!」
「ゆ、夕立・・・?」
「ギ・・・ギギギ・・・」
「ウアアアッ!!!」
「ギャアアアッ!!」
ギラギラと憤怒に満ちた深紅の目、煌めく金髪・・・黒光りする巨大な魚雷、獣の咆吼のような叫びと金板を引き裂いたような叫びがぶつかり合い、二つの影は火を噴きながら身体を折られ、海中に没していった。
「ママッ!ママァッ!!」
「お前・・・改二に・・・?何故・・・」
「夕立ちゃん!っ長門さん!!」
「阿賀野さん!早くママを入渠ドックに!!!」
「わかった!第二水雷戦隊は湾内を索敵!」
「うぐ・・・」
「ママぁぁぁぁ!うわぁぁぁぁん!!」
「泣くな夕立・・・お前は・・・母を救ったぞ・・・」
「ママぁ!夕立が守るって!言ったのに!ごめんなさい!!ごめんなさいママぁ!!!」
「いい・・・大丈夫だ・・・それより夕立・・・首、首絞まってる・・・くるし・・・」
「うええぇぇぇん!!うわぁぁぁぁん!!」
なんッッッてことだ。あのちっこくて可愛かった夕立が!!!改二になって!!!大人になって帰ってきたッッッ!!!!子供の成長は早いとかってレベルじゃないぞ!!!外傷よりそっちのダメージがでかくて腰が抜けて目眩と頭痛が痛い。あああああああ嫌な予感とはこれか!!!!私の夕立があああアアアアア!!!!まだ、まだ一緒にお風呂も一緒にお昼寝も一緒にお出かけもあれもこれもそれも!!!!まだまだちっこい夕立とやりたいことがいっぱいいっぱいあったのに!!!夕立!夕立!夕立!夕立ぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!夕立夕立夕立ぅううぁわぁああああ!!!あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくんんはぁっ!白露型駆逐艦四番艦夕立たんの煌めくブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!おんぶしてる時の夕立たんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!改二になれて良かったね夕立たん!あぁあああああ!かわいい!夕立たん!かわいい!あっああぁああ!ママも嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!あっ、もう意識が