やぁ諸君。長門だ。如月から、言葉を話す深海棲艦の話が出た。そんな、馬鹿な。鬼級、姫級の深海棲艦は大侵攻のあの戦闘で全て撃滅した。・・・新たな、鬼級、姫級が生まれたというのか。また、あの凄惨な大侵攻があるというのか。
「な、長門さん・・・?」
「如月、その話を私以外の誰かにしたか。」
「ま、まだです・・・怖くて・・・誰にも・・・」
「今すぐ執務室に行って提督に話すんだ。手遅れになる前に。」
「でも、あの時、私はぐれちゃって・・・怖くて、幻覚かも・・・」
「幻覚でもなんでもいい。海は怖いところだ。真実はいらん。事実だけ話せ。」
「ひぁ・・・はい・・・!」
いかん。非常にいかん。ここの艦隊では太刀打ちは出来ない。早急に対策を練らねば再び海が赤と黒に染まる。そうならないために私は戦ったのだ。
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「提督、いるか?私だ。」
『入ってくれ。』
「失礼します。」
「し、失礼します。」
執務室には改築の報告書類に埋もれる提督と大淀が忙しそうにしていた。申し訳ないが、更に忙しくなるぞ。
「どうした?如月まで。」
「夕飯の材料とかですか?間宮さんに一任しているので後で報告書を出してもらえればこちらは・・・」
「提督、緊急だ。」
「・・・何があった?」
「如月。」
「は、はい・・・あの、先日の出撃で私が、はぐれてしまった時のお話なんですが・・・」
「アリューシャン列島からの迎撃か・・・それで。」
「・・・うぅ。」
「大丈夫だ。如月。」
「あの時、辺りは濃霧に包まれていて、一人でいるときに、声を聞いたんです・・・」
「声・・・?」
「あれは、あの深く響く、ひっぐ・・・あの声は・・・間違いありません・・・!ひぐ・・・あれは深海棲艦の、声、でした!」
「・・・大淀、旗艦達と、天龍を集めてくれ。急げ。」
「はい!」
「うぇ・・・うわぁぁぁぁん!しれ、しれいかぁぁぁぁん!!ごめんなさい!ごめんなさいぃぃぃ!うああぁぁぁん!」
「如月、気づかなくてすまなかった。よく勇気を出して言ってくれた。ありがとう如月。」
「うあああぁぁぁん!」
「・・・言葉を発する深海棲艦など、鬼級と姫級以外ありえない、新しく生まれたか・・・」
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「第一水雷戦隊旗艦長良、入ります。」
「同じく第二水雷戦隊旗艦阿賀野入りまぁす。」
「教練顧問天龍、入るぜ。」
「よく集まってくれた。」
会議室に集まった私含め七人、着席すると提督が口を開く。如月はまだ私の隣で小さくなっている。安心出来るかどうかはわからないが手を握ってやろう。びくっと顔をこちらに向けたがすこしはにかんでまた視線を戻した。
「集まってもらったのは先日のアリューシャン列島に出現した敵高速戦隊の迎撃作戦のことだ。長良、あの時の状況を教えてくれ。」
「え、あ、はい。深海棲艦出現の通達を受けて長良率いる五十鈴、名取、睦月、如月、弥生の水雷戦隊が迎撃に出撃、これを撃滅しました。帰投途中、濃霧に遭遇し如月が遭難するもすぐさま合流。他特に問題はなく、フタフタマルマルに帰投しました。」
「ありがとう。・・・その濃霧に如月が巻かれた際に、敵上位深海棲艦の存在をにおわせるような現象が確認された。」
「・・・!?」
「うそぉ・・・!」
「おい!?どういうことだ!?」
「如月、霧の中で何が起きた?」
「は、はい・・・」
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「あらら・・・みんな、どこいったのかしら・・・おーい!長良さーん!睦月ちゃーん!」
声は帰ってきませんでした。燃料も帰投分しかなくて、不安で、このまま遭難するんじゃないかって・・・怖かったです。
「おかしいわ・・・羅針盤も、めちゃくちゃ・・・一応、魚雷と砲の準備を・・・」
(ススミタイノ…カ……?)
「ッ!だれ!!」
振り向いても濃霧で何も見えなかった。でも耳ではなくて全身で感じた・・・
(イマイマシイ……ガラクタドモメ・・・)
「っひぃ!?」
(サビシイナ……)
(ウッフフフフフフ……!ヘイキヨ・・・ミンナ・・・)
「どこ・・・どこなの・・・!?みんな助けて・・・睦月ちゃん・・・!司令官・・・!」
霧の中でいくつもの声が聞こえてくる・・・物悲しくて、苦しくて、憎らしい・・・怨嗟に満ちた声・・・とても、とっても怖かったわ・・・
「いたーっ!おーい!如月ーっ!」
「如月ちゃーん!」
(・・・)
(・・・)
(・・・)
(・・・)
「あっ・・・長良さん・・・睦月ちゃん・・・!」
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「いくつもの・・・!?」
「如月、数は、わかるか?」
「たぶん・・・よっつでした・・・」
「うそだろ・・・まさか俺達が仕留め損ねたっていうのか・・・!?」
「それはないだろう天龍。自分でもわかるはずだ。作戦後も掃討作戦を練って残党を撃滅したんだ。」
「じゃあどうして!!」
「・・・新しく、生まれたのだろう。」
「そんな・・・また、海が、大侵攻があるっていうのか・・・?」
「それはわからん!」
「姫級がいるってんならそうってことだろうが!」
「静かにしろ!」
しまった、私まで、熱くなってしまった・・・提督に声を荒げさせてしまうなど・・・
「長門さん、天龍。幸いまだ大きな動きはない。敵もあそこで如月を見たことを気づいているだろう。今はまだ、敵も動けないんだ。」
「わかったぜ、提督、今の内に叩くんだな?」
「焦るな。今の話を聞く限り上位深海棲艦の数は四体だ。大湊の戦力で叩くのは無理だ。」
「了解、了解!わーったよ!」
「長門さん、天龍・・・正直、うちの戦力でどこまで出来ると思う?」
「そうだなー偵察くら・・・」
「何も出来ん。出れば犬死にする。」
「な!おい長門!!」
「なんだ?」
「だから・・・」
「そうだな、第一、第二水雷戦隊合わせて私を撃破することが出来れば偵察は可能だろうが消耗は激しいことを覚えておけ。」
「あちゃー・・・」
「ちょ、ちょっと!いくら長門さんでもそれは!」
「そうです!阿賀野達だって!頑張ってやってきたんだから!」
「・・・じゃあ、やってみるか?大湊の戦力の中で勝負になるのは天龍だけだろう。」
「やめろ、長門煽るなよ!長良と阿賀野もよせ!」
「・・・くっ」
「もぉー!」
「この事は大本営に報告、指示を仰ぐ。これより大湊警備府は戦力増強に方針を変更する。幸い、大型建造ドックも出来るしな。天龍は教練のレベルを引き上げ、防空と対潜に重きを置いてくれ。長門さんは・・・」
「私は、ここでの仕事は戦闘以外だ。それに努めるよ。」
「・・・変なこと考えないでくれよ。」
「ふっ・・・まるで私が変なことをしたみたいだな?」
「まぁいい。このことは追ってまた連絡する。解散!」
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会議が終わった後、私は如月を抱きながら長良と阿賀野を呼び止めた。
「長良、阿賀野。」
「なんですか?」
「さっきは・・・すまなかったな。」
「・・・いえ、きっと大侵攻で上位深海棲艦と戦った長門さんだからこそわかることもあるんだと思います。」
「それでも、だ。すまない。」
「ロートルの私に出来ることは少ないが、やれることはやろうと思っている。何かあったら提督と私に言ってくれ。」
「はい!」
「ありがとうございます!」
「では、私は夕立の元へ戻る。二人とも、出撃の時は用心しろよ。」
・・・早急な戦力強化をしなければ、かつてのラバウルやショートランドのようになる。ドックの改築は二、三日で終わるだろうが・・・それまで何も無いといいがな。