長門の視線 ー過去編開始ー   作:電動ガン

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page12 私と駆逐艦

やぁ諸君。長門だ。昨日は夕立を寝かしつけてそのまま一緒に寝てしまった。結構な回数夜泣きされてしまって大変だった。これを世の母は経験していると思うと頭が上がらない。しかし朝起きたらお腹の上に夕立がいた時、この上ない幸福感に満たされた。私の膨大な給金を母子の会に寄付してみようか。

 

「夕立、夕立。起きなさい。もう朝だ。」

 

「ぽい~・・・?」

 

「朝だ。朝食に遅れてしまうぞ?」

 

「ぽい~・・・」

 

「顔を洗って、歯を磨いてきなさい。」

 

「・・・。」

 

「ああ、そうか。わかった。少し待っていなさい。」

 

なるほどやはり赤子同然というわけだな。やはり私が世話しないとダメか!そうだな!

 

「おはようございます長門さん、夕立。」

 

「長良か!夕立の歯ブラシやタオルはどこだ?」

 

「あ、やっぱりそうですか。長門さんは確か提督に呼ばれていますよね?お先に朝食を召し上がってください。夕立は私が。」

 

「わかった。すまんな。」

 

「いえ!元々は私のお仕事でしたから。」

 

「それでも、だ。」

 

夕立は長良に任せて、先に朝食をとろう。そういえば食事は長良型の誰かが作ると言っていたな。間宮はお菓子以外全滅とのことだから・・・うむ。

 

「ふむ。米かパンか・・・今日はパンの気分だ。というか選べるのか・・・?・・・お、あの長い髪は。」

 

「あ、おはようございます長門さん!」

 

「おはよう綾波。」

 

ぴっと綺麗な敬礼をする綾波は朝から元気そうだ。なによりだ。お日様のような笑顔も高得点だ。

 

「これから朝食か?」

 

「はい!長門さんもですか?」

 

「あぁそうだ。どうだ?一緒に?」

 

「いいんですか!他の綾波型も一緒でも構いませんか?」

 

「構わないさ。なによりまだ着任したてだからな。もっと、その、会話を増やしていきたい。」

 

「ふふっ綾波型はみんなおしゃべり大好きですからすぐ仲良くなれますよ。」

 

「それは良かった。じゃあ行こうか。」

 

食堂に向かう僅かな間だが綾波はいっぱいおしゃべりしてくれた。・・・しかし内容は戦いのことばかりだった。いかんな・・・こんなに可愛いのに戦いのことばかりなのはいただけない。

 

「そういえば今日の朝食は誰が作ってるんだ?」

 

「確か・・・由良さんです。由良さんはパンケーキが多いですね。ジャムがお手製でとっても美味しいんです。」

 

「それはいいことを聞いた。」

 

「敷波が場所を取ってくれているはずなので、あ、いました。」

 

「あ、綾波、な、長門さんも!」

 

食堂に入ると敷波達綾波型達が立ち上がって敬礼しようとしたので手で控えるよう促す。

 

「すまんな、同席させてもらう。」

 

「いえ!」

 

「私!みんなの分取ってきます!潮もお願い。」

 

「は、はい!」

 

「(-_-)長門さん綾波が失礼なこと聞きませんでした?」

 

「ふむ、向上心があるのはいいが、四六時中考えてる必要はないな。」

 

「('A`)あぁやはり」

 

「ちょ、漣ぃ!長門さんもぉ!」

 

「('∀`)長門さん、綾波型駆逐艦の漣です。綾波は戦闘狂ですので。おきをつけて。」

 

「こら!漣!いい加減にしなさい!」

 

「('A'(ほげわぁー」

 

「綾波型駆逐艦、敷波です。昨日はごちそうさまでした。」

 

「うむ。口にあったようで良かった。」

 

敷波に右ストレートを食らった漣を撫でながら敷波の自己紹介を聞く。敷波はちょっと強気な駆逐艦だ。だが口元にジャムがついてる。

 

「長門さん!綾波型駆逐艦七番艦の朧です!長門さん教練いらっしゃったんですよね!よろしくお願いいたします!」

 

「朧、長門さんは新人の教育の為に来たのよ?あ、綾波型駆逐艦の曙です。うちではまだ睦月型の数人が新人みたいなものなんです。教練、よろしくお願いいたします。」

 

「お待たせしました!」

 

「ジャムも皆さん牛乳で良かったでしょうか・・・!」

 

「あぁありがとう。」

 

「長門さん、綾波型駆逐艦の潮です・・・あの、その、き、昨日の親子丼、とっても美味しかったです・・・・緊張しちゃって、ごめんなさい!」

 

「ああ。大丈夫だ。潮の話しやすい速度でいい。それより早速食べよう。」

 

・・・私は戦艦だからだろうか。綾波達よりパンケーキが四倍くらいあるのだが。ちらりと台所を見ると由良がにこにこと手を振っている。とりあえず反射的に手を振り返した。

 

「いただきます。」

 

「「「「「「いただきます!」」」」」」

 

「しかし、朝から、山盛りだな・・・」

 

「え・・・由良さんに長門さんの分だと言ったら・・・たくさん・・・」

 

「由良め・・・まぁいい。それより特製のジャムがあるらしいな。それはどれだ?」

 

「これです。」

 

「ありがとう敷波。みんなは今日は何をするんだ?」

 

「私と敷波と漣、潮が鬼怒さんと由良さんと一緒に遠征、朧と曙が午前中に遠征書類整理、午後から天龍さんの教練です。」

 

「ほうほう仕事熱心でいいことだ。頑張ってくれ。」

 

「はい!長門さんは確か昨日提督に呼ばれていましたよね?お時間は大丈夫ですか?」

 

「ああ。大丈夫だ。ゆっくり朝食を食べよう。君たちは?」

 

「あたし達も出発まではもう少しあります。」

 

「そうか。朝食くらいはゆっくり食べなさい。」

 

「('∀`)はーい。」

 

「あのクソ提督・・・長門さんにセクハラでもしたら許さないんだから。」

 

「はっはっは!それはいらん心配だぞ曙。私にそんな不埒なことをする輩は全て私の前から水平線の彼方に消えた。」

 

「・・・冗談に聞こえないのがすごいわね。」

 

「いつの時代も上官の死因第一位は部下の誤射だ。」

 

「わぉ・・・」

 

それから綾波型達ともおしゃべりできた。綾波の言う通りみんなおしゃべりが大好きなんだな。潮と敷浪もオロオロしながらもたくさん話す事が出来た。そしてひとつわかった事がある。綾波型はどうも戦闘に傾倒しすぎている感じがある。ふとした拍子にやれ魚雷は砲はと・・・みんな武闘派だ。

 

「さて私はそろそろ行こう。」

 

「わかりました。ありがとうございました!」

 

「すまんな。失礼する。」

 

部屋に戻って歯を磨き、執務室の前まで来て扉をノック!!!ちょっとみしみしいってしまったが大丈夫だろう。返事があったので入る。

 

「おはよう、提督。」

 

「おはよう長門さん。」

 

「おう、おはよう長門。」

 

中には天龍もいた。秘書艦なのか?しかし旗艦は長良なのだろう?

 

「じゃ、提督、演習場の準備に行くぜ。」

 

「わかった午前中は軽巡だったな。」

 

「おう!」

 

なるほど訓練か。

 

「さて長門さん、まずは座ってくれ。」

 

「失礼する。」

 

執務室のソファーに座るとどこからともなく大淀がお茶を入れてくれた。ちょっと待てマジでどこにいたんだ大淀。全然気づかなかったぞ。この私から逃れる等・・・フッ・・・私もまだまだだな。お茶を飲んで・・・

 

「・・・ぶはっ!?紅茶じゃないかぁ!?」

 

「ひゃ-!?ごめんなさい-!?」

 

「げっほげほ・・・湯飲みに入ってるし完全に日本茶かほうじ茶かと思っていた・・・」

 

「えー・・・でも湯飲みに紅茶を入れちゃいけないなんてありませんよ?」

 

「確かにそうだが・・・」

 

絶対に勘違いするだろうこれは!てへぺろじゃない全く。

 

「おーおー大丈夫か長門さん・・・」

 

「ちょっと驚いただけだ・・・それで私にして欲しい仕事とはなんだ。」

 

「なんてことない。昨日夕立がよくなついているのを見て思いついたんだ。長門さんには夕立の面倒を見て欲しい。夕立は・・・」

 

「知っている。ドロップ艦だろう?」

 

「長良から聞いたか。」

 

「ああ。」

 

「なら話が早い。出来れば艦娘の訓練が出来るくらいまで見てもらいたいんだが・・・」

 

「あの小さな体で戦えると思っているのか?見た目より全然幼いのだぞ?」

 

「もちろん出撃させるつもりはない。ただここは北方海域攻略の最前線。何かあったときに逃げるくらいは出来る様になって欲しいんだ。」

 

「・・・。」

 

「何かなんてないに越した事はないが・・・なにぶん数多のある一手先、二手先を読まなきゃならない仕事なのでな・・・」

 

「わかっている・・・その仕事引き受けたぞ。」

 

「そうか!ありがとう。この大湊警備府では食事、洗濯など長良型に任せっきりになってしまっていて・・・少しでも負担を減らせたらと思っていたんだ。」

 

「長良型頑張りすぎじゃないのか!?」

 

脳内にガンバリマス!ガンバリマス!と連呼する長良達の姿が浮かぶ・・・これ絶対いつかガンバレナイ・・・ってなるパターンだ。そうなったらこの警備府は機能停止するぞ。

 

「長門さん、夕立のこと頼む。」

 

「心得た。この長門に任せておけ。」

 

「長良たちには私から伝えておく。下がっていいぞ。」

 

「了解。失礼した。」

 

執務室のドアを静かに閉める・・・よしヒビなどはないな。それにしても正式に夕立のお世話か・・・なんだろう、この気持ちは。長良も言っていた。湾内にまで深海棲艦が入ってくることがあったと。そういう危険から夕立を守らなければならない。今まで多くの命を守るために戦うことはあったが・・・何か一つ大事な物を守る為に戦うということはなかった。この胸にわき起こり心を揺さぶる感触・・・そうだこれが。こういうときに使えば良い言葉だったんだな。

 

「胸 が 熱 く な る な !」

 

 

 


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