スピードスター森崎   作:AMDer

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第一話 早すぎた男 森

 魔法の名門百家が一、森崎。

 さして魔法力が強いわけでもなく、特別な魔法を使うわけでもないこの一族がかの座を占める理由はただ一つ。

『クイックドロウ』

 現代魔法のアドバンテージの一つである、高速発動。これを愚直に磨き続け体系化したのがかの一族であった。

 

そして、時は21世紀末。

国立魔法大学付属第一高校。毎年、国立魔法大学へ最も多くの卒業生を送り込んでいる高等魔法教育機関として知られるこの地に森崎一族の男が降り立つ。

 

 

第一話 早すぎた男 森

 

 

 2095年春第一高校入学式早朝、司波達也は妹に付き添い開式2時間前に登校していた。新入生総代である妹は入学式において、答辞とそのリハーサルのためにこのような時間に登校しなければいけなかった。とはいえ、自分は付き添い。リハーサル中は手持無沙汰になるため残りの2時間をどう潰すか、歩き始めたのだった。

 

 とりあえずベンチに座ろうかと歩いていると、最も近いベンチに先客が一人いた。見るからに暇そうにしているので、在校生とは考えにくい。しかし、同じ新入生としても積極的に関わろうとは思わない。彼の肩にある花弁がなおさらそれを引き立てる。そう思い前を素通りしようとしたら

 

「おはようございます」

 

…妙に堅苦しい挨拶に在校生と間違えられたのかと思いつつ挨拶を返し、前を通り過ぎた。

 

 あの後、少し離れたベンチで読書をしながら時間を潰していたら、この学校の生徒会長を名乗る人物にもうすぐ開式の時間であることを告げられ講堂へと入る。ちなみに先客である彼は入場時間10分前にあの場を離れ講堂へと向かっていった。講堂に入ると既に座席は半分以上埋まっていた。しかし、座席は自由のはずだが前半分が一科生が座り後半分にニ科生が座っている。

 

(最も差別意識が強いのは、差別を受けている者で、あっ)

 

そして後ろの方に異物を発見した。先客であった彼が二科生に囲まれ俯いていたのだ。そう彼は早すぎたのである。

 

 

 森崎駿は速いのが好きだ。まあ早いのも好きだ。そんなわけで彼は入学式に張り切って開校時間に登校していた。開式三時間前の話である。勿論学校に着いたとてやることもないのでベンチに座り呆けていた。

朝練や入学式の準備であろうか、前を通り過ぎる生徒には挨拶をしながら時間を数える。一時間ほどしてまた彼の前を男子生徒が通り過ぎる。なかなかの体格の持ち主で、年不相応の威厳のような物も持っていた。気配は薄かったが...。なので同じように挨拶をした。多少訝しまれるのももう慣れっこで、その男子生徒も挨拶を返してくれた。そして通り過ぎた彼は少し離れたベンチに座り端末を弄りはじめた。そこで新入生と気づき、時間つぶしの手段を逃したことを残念に思う。今更行くのもかっこ悪いので先ほどと同じく時間を数える。その後も何人か生徒が前を通り挨拶をする。そして少し離れた彼も挨拶をしている。

 

”偉いな、しかも堅い。”

 

この時、同じ新入生が片方は挨拶をし、もう片方は挨拶をしないのは居心地が悪いと思って達也は挨拶をしていた。勿論森崎が居なくなったあとは辞めたが。

そうして入場時間10分前にベンチを離れ、講堂へと向かう。いくら入学式とはいえ入場時間前にも人の出入りはあるし、そこまで厳格でも無いはずだ。つまり入場時間”数分前”に入っても咎められる心配はない。そう思い講堂へと足を踏み入れる。彼の思い通り中は人もまばらながら居り、そして注意を受けることもなく彼は一着の余韻に浸りながら、後ろの方へと歩を進める。特に座席の指定も無かったからだ。そして座席に着くと睡魔に襲われた、少し寝るかと目を瞑り、気づいた時には周りは紋無しの制服を着たニ科生に囲まれていた。

 

「おっ、ようやく起きやがったか」

 

隣に座っている大柄で掘りの深い精悍な顔つきの男子生徒に声をかけられる。

 

「…座席って決まってたかな?」

「いや、決まってないぜ」

「そうか、いや有難う」

「なんだ、移動しないのか」

「こういうのって前例に習うべきなのさ。実は俺、新入生で一番にここに来たんだぜ。つまりは俺が正しい」

「おいおいここは民主主義国家だぜ、前例じゃなく多数に従うべきじゃねーか」

 

 笑いながら反論される。どっちも屁理屈なのだが。

 

「気に入らないから俺は寝る。ああ、俺は森崎駿。君は?」

「西城レオンハルトだ。レオでいいぜ」

「じゃあ、レオあとはよろしく」

 

そして狸寝入りを決め込む。おいおいと笑いながらレオも追及しようとはしない。しかし、開会して新入生総代の答辞が始まったとき

 

「おい駿、講堂に入った新入生はきっとあの子が一番だぜ、お前はあっちに行かくなくていいのか?」

 

 茶々を入れられ、また一連の会話を聞いていた周りのニ科生もクスクスと笑っている。森崎はさらに俯くしかなかった。

 

 

 

「入学式最中に居眠り、なかなかいい度胸ね」

 

そのとき第一高校の生徒会長である七草真由美は視覚魔法”マルチスコープ”で講堂内を見回していた。その視界には居眠りする森崎駿が映し出されていた。そして彼の肩の花弁を目にし、内心ほくそ笑む。

 

「本当にいい度胸」

 

 

 

 

 式が終わりに近づきつつあるなか、森崎はどのタイミングで席を立つべきか悩んでいた。周りに紛れるべきかそれとも一番を目指すべきか。しかし、奥から座ったので座席の位置から入口は遠い。一番は諦めるべきか。ならば競技よろしく一番最後に退場するか。そう思ったとき先ほどのレオの言葉が頭をよぎる。そうこの講堂に最初に着た新入生は総代の彼女だ。ずっと俯いていたので顔は見てないが声は澄んでいて綺麗だった。きっと彼女は終わった後も裏で戯れるに違いない。不本意ながら周りに合わせるべきか。そう決意し閉式の言葉が終わり…

 

「終わったぜ、駿」

「…………」

「どうしたんだ行かないのか?」

「いや動けん」

 

レオが困惑していると

 

「そこの固まっている新入生、話がある」

 

 腕に赤い腕章を巻いたさぞや男装が似合うだろう凛々しい女子生徒に声をかけられる。腕章には風紀委員と書かれている。俺に察知されず魔法をかけるとは中々の腕前である。えっ、誰かいるの?をやろうにも首までガッチリホールドされているのでこれじゃ首肯もできない。

 

「居眠りの件だ」

 

罪状まで述べられ、逃げ場は塞がれた。罰は羞恥プレイである。

 

「じゃあな、駿。クラスは違うだろうけど仲良くしような」

 

仲間は逃げた。しかしいつのまにか呼び捨てである。まあこっちも呼び捨てだが。

 

「さあ弁解を聞こう」

 

否応なしに現実は迫ってきていた。




ありがとうございます。

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