魔法少女リリカルなのは -転生者共を捕まえろ-   作:八坂 連也

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これでアリサとすずかの運命が変わってしまったのです……


第25話 壊れてしまった心〈後編〉

 

 

 

 

 

 

薄暗い部屋を見渡し、ベッドがあるのが分かった。

 

その上にエヴァとすずかがいた。

 

すずかもアリサと同じ様に服を全て脱がされ、全裸になっていたのだ。

 

さっきから何か変だと思ったら、真ん中に結界らしいモノが張られていた。

 

普通に通る事が出来たから、音だけを遮断する結界だった様だ。

 

「どちらの能力だったのかな。まあ、良いか」

 

俺は闇の剣で結界を切り裂いた。

 

結界は音もなく消滅して、向こうの音が聞こえてきた。

 

「っく……アレス君……」

 

すずかのすすり泣く声が聞こえる。

 

エヴァはすずかを襲おうとした男を縛っていた。

 

〈とりあえず、縛っておきますね。まあ、目が覚める事は無いと思いますが〉

 

〈分かった、頼む〉

 

〈ハイ♪〉

 

縄で縛ってるエヴァを横目に俺はすずかに近寄る。

 

すずかは身体を一瞬震わせた後、顔を上げる。

 

俺と視線が合った後、すずかの目から涙が溢れて来た。

 

「あ……アレス君……アレスくーん!」

 

嬉しそうな顔をしてすずかは立ち上がって俺に抱きついてきた。

 

「恐かった……恐かったよぅ……アレス君……うえぇぇぇぇぇん!」

 

すずかは大きな声で、泣き叫んだ。

 

「……ごめんな……来るのが遅くなって……」

 

俺はすずかの背中を撫でながら耳元でささやいた。

 

「ううん……大丈夫……だよ……見ての通り、裸だけど……ギリギリ大丈夫だったよ……」

 

すずかもギリギリだったのか。

 

もし、あと30秒遅れていたら……。

 

大変な事になっていただろう。

 

エヴァに感謝しないとな。

 

俺だけだったら、間違いなく遅れていただろう。

 

「そっか……間に合ったなら……良かった」

 

俺は安堵のため息をつく。

 

そして魔法のポシェットから毛布を取り出してすずかの身体に掛ける。

 

「あ、ありがと……アレス君……」

 

「いつまでも、裸でいるのも恥ずかしいだろ?」

 

「……大丈夫だよ……私、アレス君になら見せてあげたい位だよ?」

 

「……すまねぇ、俺が恥ずかしいんだ」

 

「うふふ、お風呂で散々見てるのに?」

 

「見てても恥ずかしいモノは恥ずかしいんだよ……。それに、お風呂で見るのと部屋で見るのはまた違うんだ……」

 

「アレス君ってウブなのかな?」

 

すずかさん、貴女は何処でそんな言葉を覚えるのですか?

 

「うぅ……ん……」

 

気を失ってるアリサから声が聞こえてきた。

 

どうやら目を覚ましたみたいだ。

 

俺はアリサの元に駆け寄る。

 

 

「……」

「……」

 

 

目を覚ましたアリサは俺を視線が合った。

 

「お目覚めか?」

 

「……」

 

アリサは上体を起こしてから自分の身体を見つめてた。

 

「どうした? どっか痛いのか?」

 

「……」

 

俺の言葉に反応せず、今度はアリサが固定されていた器具を見つめる。

 

そして、また俺の顔を見つめてきた。

 

「………いわよ……」

 

「え?」

 

「遅いわよ! もっと早く来なさいよ!」

 

いきなり大声で怒鳴ってくるアリサ。

 

「……す、すまん、アリサ……」

 

「恐かったんだからね! 恐かったんだよ……!アレスのばかぁ……ばかばかばかぁぁぁっ!!!」

 

そう言ってアリサは目から涙を溢れさせてから俺に抱きついて来た。

 

身体に掛けていた毛布は落ちてアリサは全裸で抱きついてきたのだ。

 

「ごめんな、アリサ……」

 

俺はそう言ってアリサの背中を撫でる。

 

「許さないよ……アレス……ずっと……許さない……だから、ずーっとあたしと一緒にいるのよ?」

 

「私も……許さないよ? アレス君は……許すまでずっと私と一緒にいるのよ?」

 

これって、遠回しのプロポーズじゃね?と思う俺がいた。

 

 

 

 

 

 

 

ロープでグルグル巻きに拘束された2人の男達。

 

男達は違う部屋に放り込んでおいた。

 

天界に連絡して確認したら2人とも転生者だった。

 

まあ、違っていた場合は深層意識を書き換える勢いで記憶操作しておくところだったが。

 

今回はアリサとすずかに天使姿を見られるのはまずいから、人間の姿で引き取りに来る様にお願いしておいた。

 

来るまでに失血死しないように傷は塞いでおいた。

 

もっとも、腕とか足とかは骨と筋肉をズタズタにしているからまともに動けはしないが。

 

エヴァの方は身体は無傷だが、頭の中がズタズタなのでこれも動けはしない。

 

アリサとすずかは身体を毛布で覆ってからベッドの上で大人しく座っていた。

 

「あ~、この部屋少し暑いね……」

 

「暑いね……」

 

そう言って2人は下半身部分だけ覆って上半身は裸のままお構いなしにしていた。

 

……淑女なら恥じらいを持って貰いたいモノだが。

 

ちなみに、胸が微妙に膨らんでいるように見えたが、気のせいだと思うことにした。

 

「で? そこの金髪美少女は誰かしら?」

 

アリサがにこやかな笑みで俺の顔を見る。ただし、額に青筋を立てているが。

 

俺の隣にはちょこんと正座しているエヴァがいる。

 

「えっと、初めましてアリサさん。私はアレスお兄様専用デバイス『武神の魔導書』の管制人格、エヴァンジェリンと申します」

 

「……へ?」

 

口を開けて呆然と驚くアリサ。

 

「……まあ、そう言う訳だ。実はな、こうやって実体化出来るんだよ」

 

「……嘘?」

 

「嘘も何も、現にこうやって目の前にいるじゃないか」

 

「……じゃあ、アンタがいつも身に付けてるあのネックレス……なの?」

 

「ハイ、ですから初対面と言う訳では無いのですよ?」

 

「……確かに、以前見たネギま!のDVDで聞いた声と一緒ね」

 

そう言ってアリサはエヴァの頬をつついたり、頭を撫でたり、髪を手に取ってから眺めていた。

 

すずかはアイドルを見るような目でエヴァを見ていた。

 

「……大丈夫だぞ? ウチのエヴァは滅多に怒る事は無いからな」

 

俺がそう言うとすずかもエヴァの方に行き、同じように顔を見つめたり、頬をつついたり、髪を手に取っていた。

 

「はぁー、ホントお人形さんみたいな容姿ねぇ……服装がなんかコスプレチックだけど」

 

「良いなぁ……エヴァちゃん……アレス君と一緒に生活かぁ……」

 

〈アレス様、転生者を引き取りに来ました〉

 

死神職の天使が来たようだ。

 

「エヴァ、2人を頼む。俺はちょっとだけ席を外す」

 

「了解です、お兄様」

 

「……すぐ、帰ってくるよね?」

 

「あたし達を置いて帰らないでよ?」

 

アリサ、すずかの目を潤ませた視線が俺を射抜く。

 

「……大丈夫だ。ちょっと『荷物』を渡すだけだから」

 

そう言って俺は別室にいる2人を担いでから玄関に向かう。

 

 

 

 

 

「お疲れ様」

 

「そんな、私みたいな下っ端天使に……」

 

俺の前にいるのは黒髪のロングヘアの女性だった。

 

ちなみにかなりの美人と表現しておこうか。

 

「良いの良いの、気にしない。ああ、コレお願いね」

 

俺は拘束されている2人を見せる。

 

「……これは……またエラいズタズタですね」

 

頬に冷や汗を流す女性。

 

「……ああ、アリサとすずかを強姦しようとした愚か者だ」

 

「……なるほど、そういう事でしたか」

 

女性は壺を取り出し、2人をその中に吸い込ませる。

 

「まあ、そいつら1万2千年位修行させてやってくれ。改心しても続けてくれ」

 

「分かりました。そう進言しておきます」

 

そう言うと、女性は玄関の扉を開ける。

 

「それじゃあ、私はこれで……」

 

「ああ。頼んだよ」

 

「はい」

 

そう言って俺は2人を天使に託してまた部屋に向かう。

 

 

 

 

 

部屋に着くと3人で談笑していた。

 

ふぅ、これで決着がついたかな?

 

しかし、これでははやての家には行けなくなったな。

 

後で連絡しておこうか。

 

アリサとすずかの2人を自宅に送らないとな。

 

服も下着も全部破られているから転移しないといけないな。

 

ちなみに、2人の鞄は大丈夫だった。

 

まあ、身体が目当てなんだから鞄は放置するよな。

 

「さて、先にどちらの家が良いか?」

 

「う~ん……」

 

「あ、あたしより先にすずかの家に行きましょうよっ」

 

……? アリサは少し……焦ってる?

 

まあ、良いか。とりあえず、すずかの家に行こうか。

 

「エヴァ、ネックレスになってくれ」

 

「はい、お兄様」

 

そう言うとエヴァは光り輝いてネックレスになる。

 

そして俺はそれをいつも通り首にかける。

 

「へぇ~」

 

「なるほどねぇ~」

 

アリサ、すずかの2人は目を丸くしていた。

 

「ああ、エヴァが実体化出来るのは黙っててくれよ? いずれは他の皆に言うが、まだ秘密にしたいんだ」

 

「……ふっふぅ~ん?」

 

「まだ、秘密なんだ?」

 

……何だ? その『これは良いことを知ったわ!』と言いたそうな表情は。

 

「……2人に貸し1つずつな。コレで良いか?」

 

「良いよ~」

 

「良いわよ。さあ、どんなお返しして貰おうかしらねぇ~」

 

「余り妙なお願いはしないでくれよ……」

 

とりあえず、2人には毛布で身体を覆って貰う。

 

そして、転移魔法ですずかの家に向けて転移した。

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃ?」

 

転移先はすずかの家にしたハズだが?

 

着いた先は女の子の部屋。

 

色んな漫画とか小説等、本が沢山ある部屋だった。

 

「あ、ここ私の部屋だよ。そっか、アレス君は私の部屋に入ったこと無かったっけ?」

 

なるほど、確かにすずかの家はリビングまで来たことは多々あるが、すずかの部屋に案内された事は無かったな。

 

「とりあえず、私とアリサちゃんはベッドに腰掛けるね」

 

そう言って2人はベッドに腰掛ける。

 

俺は周りを見渡す。

 

色んな漫画、小説がある。

 

大半が前世、前世の前世で読んだ事がある本ばかりだ。

 

もっとも、『魔法少女リリカルなのは』と『新世紀エヴァンゲリオン』だけは無かったが。

 

「そう言えば、すずかの家には結構来た事あるけどすずかの部屋は来たこと無かったなぁ……」

 

「そっかぁ……じゃあ、今度から案内してあげるね」

 

「あ、ああ……」

 

「その時はあたしも一緒だからね!」

 

やたら息巻いているアリサ。

 

「何故に?」

 

「決まってるでしょ! すずかの家に来る時はあたしも一緒なんだから!」

 

まあ、確かに俺1人で来る事は無いからな。

 

「……すずか様? お帰りになられてましたか?」

 

そう言って部屋のドアが開いた。

 

現れたのはノエルさんだった。

 

「っ!?」

 

ノエルさんは俺達の様子を見て目を見開いた。

 

「ど、どうなされたのですか!? すずか様、アリサ様!」

 

「あ、ごめんねノエル。悪いけど、私とアリサちゃん、お風呂に入りたいの。それと下着と私服を用意してくれないかな?」

 

身体を毛布で包んでるアリサとすずかを見たらそりゃビックリするよな。

 

「は、はい。かしこまりました。(もしや、アレスちゃんと……なんて羨ましい……!!)」

 

ノエルさんは羨望の眼差しで部屋から出ていった。

 

……絶対、変な勘違いしてるよな、あの人。

 

〈絶対してますわよ……〉

 

エヴァの念話が頭に響く。

 

すると、ノックが響く。

 

「すずか様? おられます?」

 

今度はファリン嬢だった。

 

「大丈夫よ。入ってきて」

 

「はい……ノエルさんに言われて服と下着を……ひゃわ!アレス君!」

 

部屋に入って俺の姿を見るなり驚くファリン嬢。

 

「あ、久しぶりですね?」

 

「アレス君がいるとは思わなかったなぁ~」

 

そう言ってファリン嬢はすずかとアリサの姿を見る。

 

「……アレス君の仕業?」

 

「……何が言いたいのかね?」

 

「だって、2人とも全裸ですし……」

 

「……俺が犯人じゃねぇ。あ、忍さんいる?」

 

「忍様ですか? おられますよ」

 

「じゃあ、ちょっと用件があるんだ。行って大丈夫かな?」

 

「大丈夫ですよ。先程、紅茶を持っていったら本を読まれてましたし」

 

「了解。すずか、アリサ。行って来て良いかな? 報告したいし」

 

俺は2人の方を見て話す。

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「早く帰って来なさいよ?」

 

そして俺は忍さんの部屋に向かう。

 

今日遭った事件の事を話す為に。

 

 

 

 

 

 

 

忍さんの部屋の前に立つ。

 

ドアをノックすると、中から「どうぞ」と声が聞こえた。

 

俺はゆっくりとドアノブを回して扉を開ける。

 

「失礼します……」

 

ゆっくりと中に入る。

 

忍さんはソファーに座って本を読んでいた。

 

ちなみに読んでいた本は漫画版『魔界都市ハンター』だった。

 

何やねん、そのチョイスは。

 

「あら、アレス君。今日はすずかとアリサちゃんと一緒にはやてちゃんの家で魔法の練習じゃなかったかしら?」

 

「ええ、その予定だったのですが」

 

「……アレス君? 何かあったの?」

 

神妙な顔つきで俺の顔を見る忍さん。

 

俺は今日起きた事件を説明した。

 

 

 

 

 

 

 

「と言う訳だ……申し訳ない! 妹さんを大変な目に遭わしてしまって!」

 

俺はテーブルに頭がひっつく位頭を下げる。

 

「……ん~……とりあえず、すずかは大丈夫なんでしょ?」

 

「ああ、それは大丈夫だけど……」

 

「それなら良いわ。前に1度助けて貰ってるし。それに今回だって、アレス君が居なければ……今頃……」

 

そう言って忍さんは紅茶を飲む。

 

確かに俺がいなければアリサ、すずかは散々陵辱されていたのだ。

 

もし、2人が塾へ行く途中ならなおさらだ。俺の発見が遅れて2人はあのバカ転生者共の慰み者に……。

 

それを考えると、俺がいたから2人はこうして無事に助かったのだ。

 

何とも、釈然としないが。

 

「……まあ、確かに……俺が一緒に下校していたから……でも、俺自身は……」

 

「良いの。私としては、アレス君に感謝しても、しきれないの。だから、言わせて」

 

忍さんは一呼吸置いてからこう言った。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

その一言で少し気が楽になった。

 

忍さんは慈しむような微笑みで俺の顔を眺めていた。

 

「……ありがとう、忍さん……。そろそろ2人の所に戻りますね」

 

「ええ。お願いするわ」

 

俺は忍さんの部屋からお暇してリビングの方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

はやてに今日は行けないことを伝えた後、リビングに向かう。

 

『そっか。それならしゃあないなぁ。今度来た時に理由を話して貰うで?』

 

と言われてしまった。

 

……なのは達に説明して良いモノやら。

 

学校でも性教育まだだしなぁ。

 

非常に悩むなぁ。

 

と頭の中で考えながら、リビングに着くといつも通り2人はテーブルに着いてお茶を飲んでいた。

 

服は2人ともワンピース。すずかは淡い水色でアリサは淡い黄色だった。

 

いつも通りの光景で俺は一安心した。

 

テーブルに近づくといつもの様にネコ達が近寄ってくる。

 

「お、おい……そんなに近づくなって……」

 

 

「ミャー」

「フニャー」

「キシャー」

 

 

相変わらず地球外生命体みたいな鳴き声をあげるネコがいるな。

 

見た目は普通の三毛猫なのだが。

 

もしかして、中身違うのか?

 

俺は怪しい鳴き声のネコを抱える。

 

「キシャシャシャシャ……」

 

余計怪しい鳴き声あげるな、こいつ。

 

見た目はかなり可愛いのに、残念チックな雰囲気が漂ってる。

 

まあ、人でも見た目はかなり可愛いのに中身が残念な場合があるからな。

 

「どうしたの?」

 

「あら、アンタそのネコがお気に入りなの? 鳴き声がかなり変なヤツなのに?」

 

「いや、常々思うのは見た目可愛いのに鳴き声で損してるなぁと……」

 

「そうだね、見た目はとても可愛いのにね……」

 

「そうそう、見た目は良いのになぁ……」

 

そう言って俺はアリサを見る。

 

「何でそこであたしを見るのよ……?」

 

「特に深い意味は無いのだが……」

 

「嘘仰い! あんた、『見た目は良いのに中身が凄く残念だなぁ』とか思ってるんでしょ!?」

 

「ばれたか」

 

「そこは否定しなさいよぉ! あんた、そこに直りなさい! あたしの中身の素晴らしさを教えてあげるから!」

 

「どうやって教えるんだよ?」

 

「もちろん、肉体言語に決まってるじゃない!」

 

「その時点で残念美少女になってる事に気付かないのか?」

 

「うるさいうるさいうるさーい! アンタはもうあたしの大事な人なんだから文句を言わないの!」

 

なんつー無茶苦茶な理論。

 

そして、しれっと大事な人とか言うなって。

 

飛びかかってくるアリサの攻撃をかわしつつ俺はお菓子を食べる。

 

こうして時は流れる。

 

 

 

 

 

 

 

アリサとすずかとの談笑も終わりに近い。

 

時計を見ると午後5時半を指そうとしていたから。

 

「さて、アリサを送ろうか。今日起きた事を話さないといけないだろ?」

 

「……うん」

 

「アリサ……ちゃん?」

 

途端、元気がなくなるアリサ。

 

おかしい。『青菜に塩』と言う言葉が合う位、しょんぼりとしてるアリサ。

 

「……どっか、痛いのか?」

 

「ねぇ、今日はアンタの家に泊まっても……良い?」

 

「……それは構わないが。でも、1回アリサの家に行ってご両親に……」

 

「……うん」

 

どこか、歯切れが悪いアリサ。

 

俺の頭で警鐘が鳴る。

 

何かが、ひっかかる。

 

まるで、家に帰りたくないみたいだ。

 

では、何故……すずかの家に?

 

俺はリビングを見渡す。

 

視界に入る、ノエルさんとファリン嬢。

 

……すずかの家は、忍さん、すずか、ノエルさんとファリン嬢だけで、全員女性だ。

 

アリサの家は、使用人の鮫島さんを筆頭にメイドさんもいるが、執事の人もいる。

 

それに、ご両親も……いる。

 

 

……。

 

 

…………。

 

 

………………。

 

 

待てよ? アリサは前に伊集院先生に頭を撫でられた時、言ってたな。

 

『アンタには分からないでしょうね! 大人の男に撫でられただなんて…気持ち悪い!』

 

そして、その後にすずかはこう言った。

 

『アリサちゃんの気持ち……分かるよ。私も……大人の男の人に近寄られるのは……ちょっと……』

 

もしかして……。

 

俺は頭にある事項が浮かんだ。

 

アリサとすずかは完全に男性恐怖症になったのではないのかと。

 

「俺の勘違いなら良いが」

 

俺はアリサとすずかの2人を見つめた。

 

「もしや、2人は……大人の男性が……恐いのか?」

 

俺がその言葉を告げる。

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

2人は無言で頷いた。

 

目には涙が浮かんでいた。

 

「そうか……」

 

全て分かった。

 

アリサとすずかは、心が壊れてしまったのだ……。

 

大人の男性に相当の恐怖を抱いてしまったのだ。

 

アリサは親しい執事の鮫島さんや、自分の父親にすら、近寄ることが出来なくなったのだ。

 

だから、自宅に帰りたくないのだ。

 

俺はノエルさんの方を向く。

 

ノエルさんも俺達の方を見る。

 

『し・の・ぶ・さ・ん・を・よ・ん・で・く・だ・さ・い』

 

俺は声に出さず、ノエルさんの方を見ながら口を動かした。

 

ノエルさんなら、読唇術で分かる……と思う。

 

すると、ノエルさんは一礼してから部屋を出ていった。

 

「恐いの……家に帰るのが……男の人が……」

 

アリサは目に涙を浮かべ、唇を噛みしめながら呟く。

 

「パパや鮫島に……くすん……」

 

「もう良い。分かったよ、アリサ」

 

俺はアリサを抱きしめた。

 

「男の人が恐いのよ……もうイヤだよ……」

 

泣くじゃくるアリサ。

 

「アレス君……私も……」

 

すずかも、同じだった。

 

「すずか、今日はウチに泊まりに来るか? アリサと一緒に」

 

「……え?」

 

「何しようか? トランプか? ゲームか? モンハンでも良いな」

 

「……うん」

 

そう言ってすずかも俺を抱きしめてくる。

 

「忍さん、今日はすずかをウチに泊めて良いですか?」

 

入り口に立つ忍さんに向かって俺はそう訪ねた。

 

「ええ。お願いするわ、アレス君」

 

 

 

 

 

 

 

 

-分身体アレス視点-

 

 

アリサとすずかは本体に任せて。

 

俺はアリサのご両親に説明しないといけないな。

 

と言う訳で、俺は母さんと忍さんを連れてバニングス家に行く事となった。

 

アリサの家に着いて、俺達は応接室に通される。

 

まあ、豪華な内装でさすがバニングス家だなと感心してしまう。

 

事件の事は母さんにはきちんと説明しておく。

 

話せない部分は念話で言っておく。

 

すると、ドアが開いてバニングス夫妻がやって来る。

 

どうやら今日は上手い具合家に在宅だったようだ。

 

企業のトップだから家にいないことが多々あるのだが。

 

「これはこれは、藤之宮さん」

 

「ようこそ、今日は娘を泊めて頂いて申し訳無いですわ」

 

ちなみに、ウチの父さんと母さんはアリサの父さんと母さんと仕事のつき合いもしているとか。

 

何気なく侮れない両親だな!

 

「突然お邪魔して申し訳無いです。実は、ウチの息子がお二人にお話したいことがありまして……」

 

「ほう? アレス君がですか?」

 

「あらあら、どの様な事かしら?」

 

「ほら、アレスちゃん」

 

母さんが促す。

 

「申し訳ない、バニングスさん。聞いてください、今日遭った出来事を」

 

俺は今日遭った誘拐事件をバニングス夫妻に話した。

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、今夜はウチに泊まらせて頂くと言うことでお願いしたいのです」

 

俺は一息ついてから紅茶を口に含む。

 

うむ、高価な紅茶なのだろうな。パックのモノとは何か違う。

 

 

「……」

「……」

 

 

バニングス夫妻は無言だった。

 

「申し訳ない、俺が付いていながら、アリサさんにあんな目に遭わせてしまって……」

 

俺がそう言うと、奥さんは手を挙げて制止する。

 

「謝らないで、アレス君。貴方のお陰でアリサは無傷で済んだのでしょう?」

 

「……ハイ、確かにアリサは無傷です。ただ……」

 

「ただ?」

 

「アリサさんは、極度の男性恐怖症になってしまいました。鮫島さんやお父さんですら、近づくのを怖がる様に……」

 

「っ!」

 

「な、何だって……!?」

 

驚いた顔で俺を見るバニングスさん。

 

「ウチのすずかも同じようになってしまったの。これは、かなりの問題です」

 

「ええ、1月半前の誘拐事件でも同じ様に強姦未遂に遭い、そして今回も同じ様に……。9歳の女の子が2度、そんな目に遭えば……」

 

「なんたる事だ……。藤之宮さん、その犯人は……?」

 

「その犯人は、こちらの手で然るべき処置を。詳しくは言えませんが、1つだけ言える事があります」

 

母さんは一息ついてから、こう言った。

 

「この世にいない……と言う事です。ですから、アリサちゃんとすずかちゃんに害を及ぼす事は一切ありません」

 

「……そう……ですか。せめて、私のこの手で……」

 

「貴方」

 

握り拳を作って、歯を食いしばるバニングスさん。

 

奥さんはその握り拳の上からそっと手を添える。

 

「ですから、当面はウチのすずかは塾は休ませる事にしました。学校の方は何とか男性教師と接触を控えさせますが、塾はそうもいきませんから」

 

「……そうですな。月村さんの言うとおり、アリサも塾を休ませる事にしましょう」

 

大きく2人の人生が変わってしまったな。

 

本来なら、何事も無く過ごして大学に行くはずだったのにな。

 

「……そう言えば、アレス君。確か、魔法で記憶改竄出来ると聞いていたけど?」

 

忍さんが唐突にそんな事を言ってきた。

 

「ほう? そんな事も出来るのかね?」

 

ちなみに、バニングス夫妻も魔法の事は話してある。

 

「確かに、記憶改竄は可能です。ですが、今回の場合は……」

 

「場合は?」

 

「2人の深層意識にまで男性恐怖症が食い込んでいる可能性があると言うこと。例え、誘拐された事を忘れさせたとしても、無意識に男性を恐れる可能性が高いと言うことです」

 

「そうですか……」

 

「もう少し、早くこの事に気付いて記憶改竄していればここまで症状が進む事は無かったと思いますが……。まあ、今更言っても後の祭りですが」

 

「そう……よね。こればかりはどうしようも無かったわ……」

 

「ですから、時間をかけてゆっくり改善させるのが一番良い方法かと。あと1つはあるにはありますが、俺はやりたくありません」

 

「……それは、どういう方法かね?」

 

「記憶を『全て消す』。深層意識から全て、綺麗に真っ白にする……方法。忍さん、バニングスさん、認められますか? 9年生きた、2人の全てを消すんですよ? これは、『アリサ・バニングス』と『月村すずか』を殺すのと同じ事です」

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

忍さんとバニングス夫妻は無言になった。

 

「ですから、俺はそれだけはやりたくないのです」

 

出会って3年。

 

小学1年生からつき合ってきた2人。

 

俺だって、その思い出を消したくは無いのだ。

 

「分かった。アレス君が拒否する訳が。それは、私達とて望まない方法だ」

 

「ええ」

 

「それで、当面は……どうしましょうか? お2人は、ウチで泊まらせますか?」

 

母さんが訪ねて来る。

 

「しかし、藤之宮さんに迷惑が……」

 

「ウチは全く構いませんよ? 見たところ、アリサちゃんもすずかちゃんもウチのアレスちゃんにゾッコンみたいですし」

 

イヒヒヒと笑いそうな顔で俺を見る母さん。

 

シリアス空気が壊れそうになってきたんですが?

 

「……なるほど、2度助けて貰ったアレス君なら」

 

「そうねぇ……アレス君と一緒なら……。2人も安心出来るわね」

 

「……まあ、当面は良いのですが」

 

俺は苦笑するしか無かった。

 

「まあ、いつ治るか分からない以上はねぇ……」

 

「そうですわねぇ……。大人になるまで治れば良いのですけど……」

 

「うむ……。男性恐怖症では会社経営は困難だな……。まあ、従兄弟の才人君に継がせるから良いとして……」

 

「アリサの嫁ぎ先は……もう、決まった様なモノねぇ……。あの子、いつもアレス君の事ばかり楽しそうにお話するし……」

 

「あら。ウチのすずかもアレス君の事、楽しそうにお話するんですよ?」

 

何か、段々ときな臭い話しになってきたんだが。

 

「まあ、致し方ないか。もし、治らなければアレス君が面倒を見てくれるでしょう」

 

「そうですわね。惚れてしまった以上は好きにさせましょうか」

 

あれ? なんか、公認になってるんだけど?

 

何このご都合補正?

 

親なら止めても良いと思うんだけど?と言うかむしろ止めて。

 

「アレスちゃん、諦めなさい。アレスちゃんが2人の心を奪ったんだから」

 

「母さん、意味が分からないよ。俺は別に2人の心を奪った記憶は無いんだが?」

 

「心も体も陵辱される所を颯爽と助けに来たのよ? 2人の目には白馬に乗った王子様みたいなモノよ? しかも、2度も」

 

「いや、確かに、結果助ける事になったんだけど……」

 

「なら良いじゃない。まあ、結婚話しになったらその時にはその時で」

 

何その未来に丸投げ的な先送り。

 

「それでは、アレス君。ウチの娘を頼む。ちょっと、お転婆な所があるが……」

 

「お願いするわ」

 

「アレス君。すずかを頼むわね」

 

保護者3人はそう俺に言ってきた。

 

そう言われると拒否出来ないんだが……。

 

「……分かりましたよぅ……。この先どうなるか分かりませんが、2人をお守りします」

 

こんな訳で、俺はアリサ、すずかの保護者達公認でお付き合いとなってしまった。

 

その時、俺の頭に浮かんだのは……。

 

 

 

 

機械仕掛けの神(デウス・エクス・マーキナー)

 

※古代ギリシャの演劇において、劇の内容が錯綜してもつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ神が現れ、混乱した状況に解決を下して物語を収束させるという手法を指した。

 

 つまり、ご都合主義と似たようなもんである。

 

だった。

 

あの野郎、今度異世界の神界で会った時1発殴っておこうか!

 

ちなみに、俺は『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マーキナー)』と知り合いである。

 

 




 
実は色んな神族とお知り合いなのですw

あと、シリアスやるなら最初からやれと言う話w

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