第一部の最後でヒロインは復活しているけど、あまり自由に行動できない。みたいな感じで。
「お前、千年先も生きてるつもりか?」
次瞬、護堂の胸を射貫くような鋭い声が突き刺さる。
「百年二百年なら実例もいるから生きれるだろう。だが三百、四百、五百年先まで生きていられるか? 寿命云々が無くなって、だから生きていられると、お前は確信を持って言えるのか?」
――言える訳が無い。
護堂自身が常々思っていることだ。
「よしんば生きていたとして、お前自身が暴君になっていないと確約できるか?」
――出来る訳がない。
未来は誰にも分からない、などという決まり文句ですらなく。
百年経てば時代は移ろい価値観は変わり、旧世代の老害と化すのは自明の理だ。
魔王暴君の代名詞たる羅濠教主もヴォバン侯爵も、百年二百年前には当時の偉人英雄像そのものだったろう。
「元来、度を越えた頑固者が神殺しだ。一度根付いた価値観はそうそう変わりはしない。時代に合わせて、など出来よう筈もないだろう」
だからこそ石上鉄也は、神を殺しても滅ぼさない。
神は世界の守護者として、世を乱す神殺しを仇敵と定める。
神殺しは人類の守護者として、営みを乱す神を仇敵と定める。
「
それゆえ、どちらも共に抑止力なくして守護者たり得ない。
陰陽が両立し喰らい合うこの太極図は崩せない。もし天秤を傾けるなら、その後に総てを白紙に戻すしかないのだ。
「俺はその方法を探してる。神と魔王の対立を無くすべく、遍く神々を現世から葬り去るため」
彼の望みは究極的にはただ一つ。始まりの時から変わらず今も、愛しい彼女と永遠に――だからこそ、自分の死後にネイアが顕現しないため。両者が共に消滅するべく、鉄也とネイアは行動している。
「黒円卓は神殺しの騎士、自滅因子の軍団だ」
宿主を殺し己もろとも死滅する
それを愚かしい自壊衝動と、嘲笑う事などできはしない。
「斉天大聖は殺さない。奴にはこのまま日光で、防波堤として留まってもらう。神と神殺しの存在が無くなるその日までな」
――天を超越した天上の果て。
少女の型をした宇宙の意思は、淡く柔らに微笑する。
「それでいいのよテツヤ。あなたは良い子ね、本当に」
そう、だから。これは総て予定の通り。
「ここまでおいで、私の可愛い七人目の
絶望の導師、第六天パンドラが定めし運命に従い。
そも、石上鉄也は生粋の求道者。
――ではない。彼の本質はそうではなかった。
彼に限らず、神殺しとは元来が覇道を歩む者らである。
例えば現存する最古の神殺し、サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン。彼は典型的な覇道を歩む王である。孤児という身の上で神殺しを達成し、その才気を発揮し身一つで玉座に着いた覇王。
例えば二百余年を生きる古参の一人、羅翠蓮。人知の及ぶ限りの武芸を極めた達人にして、魔道方術をも納める天下の女傑。己の力量を正確に把握する故に、大陸の頂点に君臨し民を従える武道王。
例えば、新世代にて最も尖った剣狂い、サルバトーレ・ドニ。上記二人とは違い、彼は天下に覇を唱えるという意思は薄い。ただひたすらに己の剣を高めたい。その祈りは一見すると求道に見えるが、しかしよく思い返して欲しい。
求道の典型、求道の極致――壬生宗次朗という剣鬼の事を。
天狗道の幕下に生まれた彼の抱く
――人は一人じゃ生きられない。彼の言葉はその通りの真実であるが、それは人だからの一面だ。ただ生きるだけなら、生命活動の継続という意味だけならば、求道神に他の存在など必要ない。
その観点からすると剣の王は求道に一途とは言えまい。
剣を誇る彼はそれを高めることを至上とするが、その要因を外に求めているからだ。
己が至高ゆえに総べてを斬り伏せそれを証明するのではなく、剣技を高め頂点へと登り詰める。
神と神殺しを相手に切り結ぶことで腕を磨こうとする彼は闘争の探求者。
その点で言えば剣鬼よりもむしろ黄金の獣にこそ似通っているだろう。
――さて、ここで異質に映るのは石上鉄也だ。
彼は覇王である。
軍団を率いて神を殺めし簒奪者にして、その根底を他者への情に委ねているゆえに。
彼の望みは究極的にはただ一つ。始まりの時から変わらず今も、愛しい彼女と永遠に。
そして再会が叶った今、外へ外へと広がっていた意思が収束する。
収束する集束する終息する。
想いが巡り、因果は集い――――
いつかのどこかで、永遠の宝石が解けて流れて広がったように。
生まれながらの神格は、大きな転機を迎えることで歩むべき道が転化する事もある。
自滅因子という存在。
神格を植え付けられて生まれた半人半神。
純正純血の神格に対して混血という表現をされることもあるそれは、宇宙の総体が死を渇望する故に生まれる自壊細胞。
神座を殺すという特性から自然と覇道の気質を持つ彼らだが、しかし。重要なのは宿主殺しというその一点であると考えれば、逆説的に座を殺す事が可能ならば求道でも問題はないと言えないだろうか。
癌細胞という性質上、宿主たる神が死ねば諸共に滅びる自壊の宿命。
覇道であっても座を獲ることは決して叶わぬ事なのだから、むしろ座の特性から求道の方が都合が良ければ、そちらにこそ天秤は傾くと思わないだろうか。
いつかも言ったとおり、
今代の
元来、
そもそもが座の眷属として生まれた存在なのだから、彼女は神座の役割も、魂の行方も、覇道の意味も知っていた。だから、こう思ったのだ。
――
そこに至るまでの道筋は、ここで語るべきでないだろう。
何はともあれ、今の彼女は第六天として座に着いている。しかしそこには大きな誤算があった。
彼女はそもそも、自身の理がもっと慈愛に満ちている物だと認識していた。傲慢で幼稚な神を殺すことで、世界に自由と希望を振りまく物であると。
だが、世界に流れ出してのち愕然とした。
己が流出させた覇道の行き着く先は、今までと何ら変わらない世界。
確かに傲慢な
しかしその代わりとして、葬った残滓が型を成して地上に現れ始める。
エンキがいた。イシュタルがいた。ティアマトがいた。ニンリルがいた。イナンナがいた。シャマシュがいた。エレシュキガルがいた。デーヴァが、チャンドラが、アグニが、ヴァ―ユが、ラーヴァナが、シヴァが、クリシュナが、パールヴァティが、ダグザ、ダヌー、マッハ、ヌアザ、ルー、バロール、アリアンフロッドアポロンメルクリウスセトインドラマルステュールバルドルロキオシリスアルテミステスカトリポカトールミーミルポセイドンヘスティアユノミネルヴァラークーベラスーリヤヘパイストス――――――。
かつて世界を彩った神々の影が像を結ぶ。
女神はどういう事だと狂乱し、いつしか納得と共に膝をついた。
とある人間が第五天の残滓を打ち倒し、その力を己がものとして振るい始めたのだ。
それは正しく、かつての彼女自身に重なる姿で。後に「まつろわぬ神」と、「神殺しの魔王」と呼ばれる彼らの誕生を見て、自身の渇望がどんな物であったのかを自覚した。
――ああ、自分は何と愚かで浅はかな女だったのか。
絶望の導師と銘打たれる彼女は、嘆息と共に絶望の闇に包まれた。
ただ「神を殺したい」、それだけが己の
故にまつろわぬ神とは己の眷属同胞、勝手気ままに人の世を乱す悪なる者。神殺しの魔王とは己の自滅因子、愚かな
――見るに堪えない、心底から下らない。
そこに至る悲劇、喜劇を台無しにする衆愚の祈り。
自分の宇宙がそんな下らないものであったと知り、彼女は自死を決意する。
だが、ただ己の自滅因子に討たれるのでは意味がない。世界が無色の白紙となって漂うのでは、第五天を討った意味がないと。
そんな決死の覚悟から幾星霜、遂に彼女の望みが叶おうとしている。
石上鉄也――ようやく現れた
ただ倒すだけでは足りない。壊すというならその先がいる。この愚かな神を破壊する
いつか何処かで存在したかも知れない
「さぁ、この
座して死を待つ太極の神が、
断頭颶風の世界は単一時空ですが、変質者が神座宇宙を弄繰り回したから広がった支配領域に穴が開き、その取り逃がした世界の一つということで。
分かる人しか分からない例えかたをすると、サタさんまではハイペリアだけだったのに変態が時間樹エト・カ・リファを掌握して、でもその騒動で千切れた分枝世界の一つが独立して存在している、というような感じ。
分かりにくい? 本人もよく分からないまま適当に取り繕った独自解釈・独自理論だから仕方ない。妄想乙、ということで許してください。