なんか続きを書いてたら思いついてしまったので、我慢できず投稿します。
――そして、出会った。
「サルバトーレ・ドニか……」
「テツヤ=イシガミ、だったかな?」
『断頭の剣鬼』と『剣の王』が出会ってしまった。
「どうしてだろうな、自分でも不思議だけどさ」
「一目見てすぐに思ったんだ、君もそうなんだろうって」
あまりのおかしさに笑みすら零れる。
両者共に当然の如く剣を執り、自然の流れで前へと踏み込む。
「俺はお前が――」
「僕は君が――」
――心の底から気に入らないッ!
ぶつかる刃は同じ軌道を描いた故に衝突した。
即ち共に、問答無用で首を飛ばしに掛かった証拠。
立ち上る気炎は剣気ではなく極大の殺意。
斬り合いを愉しもうだとか、腕を高め合おうだとか、そういった馴れ合いの尽くが放棄されている。
斬りたい。殺したい。――斬り殺す!
石上鉄也なら常に見られる冷徹な思考が跡形もない。
今の彼は、ただ殺意の赴くままに刃を振るう悪鬼でしかない。
それは対するサルバトーレ・ドニもまた同じく。
常なら戦場に在ってなお変わらぬ朗らかな笑みが鳴りを潜めている。
日常と寸分変わらぬからこそ戦場では怖気が走る彼の笑顔が、今はいっそ分かりやすいほどに冷え切っているのだ。
返す刀で首を狙う剣閃は、同じことをした相手に再び防がれる。
だが、防がれたと感じたのは相手もまた同じく。
剣に余裕がない。
殺意に遊びがない。
どこまでも純粋に相手への殺意のみで腕を振るうから、フェイントや他の部位を狙うという発想が頭から抜け落ちている。
神殺しとしても剣士としても、石上鉄也としてもサルバトーレ・ドニとしても、これは有り得ない失態だろう。
より疾く敵の首を落とすことにのみ執着する理解不能の接戦は、しかし数十秒と待たず終わりを迎えた。
唐突に静まり返った場の空気。
それは事態の収束ではなく、爆発に向かって張り詰めているだけだ。
「ああなるほどな、そういうことか」
「どうして君が気に食わないのか、少し解かったよ」
冷え切ったままに高まる呪力の渦が、遂に暴風となって吹き荒れる。
次の瞬間、銀の魔剣と黒の神刀が真の意味で激突した。
「自分は何だって出来ると信じているその傲慢! その自尊! 虫唾が走る。思い上がりも甚だしいッ!」
「君は強い。君は鋭い。なのにどうして殺意を押し殺しせっかくの刃を納めるのか、僕には理解できないな」
彼我はどちらも純正の剣士でありながら純粋な剣士ではない。
方や剣に拘り剣で敵を倒す状況を作り上げる策士の面を持ち、方や剣を愛の象徴とし殺意を乗せながら、あらゆる能力を剣以外に徹底している潔癖症。
サルバトーレ・ドニは魔剣変生の権能を持ちながらも、それは己の腕はあらゆる剣の性能をも凌駕するという自負故に。
石上鉄也は神刀侵食の権能を持ちながらも、それは己の女神へ捧ぐ愛と誓いの証たる故に。
「俺たちは剣士、剣客だ! 斬るべきを斬り、斬らざるべきを斬らぬ。武の道を歩む者として当然の心構えすら持たない愚物めッ!」
刃を振るう。刀を振るう。愛を振るう。
この尽きることなき愛に誓って、目の前の
「僕たちは剣士であり戦士だ。目の前の悉くを斬り伏せる気構えもなく剣を持つなんて在り得ないだろう!」
刃を振るう。剣を振るう。命を振るう。
命の限りを尽くす信念に基づき、目の前の
どちらも共に言っていること自体は真っ当なことだ。
しかし、その言葉に掛ける誇りが、情念の重さが尋常ではない。
「このッ――剣に狂った凶鬼がァッ!」
「君はそう――愛に狂った剣鬼さッ!」
より一層強く衝突する刃。
伝わる衝撃の重さが相手の意思の強さを感じさせ、だからこそ退けずにまた繰り返す。
絶え間なく響く刃と刃の鳴動が、まるですすり泣いているかのようだ。
これほどの腕を持つ達人が、自分の心を理解してくれない哀しみ。
そんな主の慟哭を剣が肩代わりしているかのようで。
「そうだ。俺は彼女の愛に生かされた! 彼女の愛の為に生きている! これが俺の彼女への愛だァァ――ァッ!」
だから有無を言わさず斬り捨てる。
こんな出会いしかできなかった好敵手よ、我が愛を証明する礎となれ。
「そうだとも。僕は僕に斬れぬものを許さない! 地上の全てを斬り尽くし、天上の神々を僕の刃の錆にするッ!」
故に何も言わず朽ち果てろ。
こんな出会いしかできなかった好敵手よ、我が剣を飾る華となれ。
「お前は此処で斬り殺すッ――!!」
「君はこの場で斬り殺すッ――!!」
他のなにを切れなくても神だけは斬る絶対の神殺しになりたい男と、神々を含めたすべてを斬る無双の剣士になりたい男。
似ているようで決して違う両者の邂逅は、過去最高に殺意に塗れた出会いであった。
IFです。断章なのでIFです。今のところは。
なお、本編で出会ってしまったら「(前略)アレは嘘だ」となる可能性もあります。