断頭颶風の神殺し   作:春秋

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あれ?
何が書きたかったんだっけ?



17

 

 

 

 紫織(シン)との邂逅から幾日。鉄也はだらけていても仕方がないと気合を入れ直し、別段得意という訳でもない書類仕事に向かっていった。

 

 ……のだが、幸か不幸か除霊師の人手が不足しているらしく、布都御魂剣の霊力を頼って応援要請がかかった。形だけとは言え王たる鉄也を顎で使うあたり沙耶宮馨も流石だが、彼らの間では文句も齟齬もなく決着しているので問題ない。鉄也も事務よりは役に立てるだろうと、コロを伴って現場に向かう。

 

「大人しくしておけよ?」

「バウッ」

 

 了解! とでも言ったのだろうか。本当に賢すぎて涙が出そうないい子である。

 

 ……主に俺が負けてそう的な意味で。

 

 車を回してもらって着いたのは、郊外の一角に建つ大きな倉庫。事情を知る人間に案内してもらい出入り口の扉を開けると、見るからに慌てふためいている男とそれをなだめている男の二人がいた。

 

「すいません、特命係からの応援ですけど~」

 

 気が引けながらも話しかけると、なだめていた方の男が素早く振り返って近寄ってきた。

 

「やあこれはこれは石上さん、よく来てくださいました~」

「……いや、なして甘粕さん?」

 

 滅茶苦茶見知った顔だった。というか、ある意味で最も親しいと言える同僚だった。

 

 彼は沙耶宮馨の子飼いであり、昼行灯を気取ってはいるが相当な使い手なのは分かる。だからこそ鉄也は理解できない。なぜ彼がここにいるのか、そして彼がいて解決できない問題とは何なのか。応援として来たからには、遠慮なく追求する事にした。

 

「そもそも、どうしてあなたがここに? 除霊関係だって聞いてきたんですけど……」

「いやあ、身内の恥なので言い辛いことですが……まあ石上さんも身内というかある意味のトップなんで大丈夫でしょう」

 

 正史編纂委員会は対外的に鉄也傘下の組織ということになっている。名義だけ貸している状態だが、名目上はトップなのは間違いない。

 

 なので自分が顔を出して怯えられたりしないだろうかと及び腰になりかけていたが、相手が甘粕冬馬とあれば何ら気を遣う必要もなしだ。鉄也が自分を納得させていると、冬馬も同じ結論に達したのだろう。遠慮は無用とばかりに本題に入った。

 

「実はこの倉庫の建っている場所なんですが、戦時中は委員会(うち)の術師が所有していた倉庫が建っていましてね。この術師は終戦を迎えるより早く亡くなってしまい、戦後の混乱で管理が杜撰(ずさん)になっていた事もあって、大した処理もせずに土地が売却されてしまったらしく……」

 

 その後に土地を買って新しく建てたのがこの会社という訳か。で、話の内容から察するに当時の処理から漏れたナニカが出現したと。

 

「はい、要はそういう事ですね。過去の事とは言え、正史編纂委員会の不始末が原因で起こった事のため、馨さんに呼ばれて私が出てきたという訳で」

「でも、甘粕さんじゃ手に負えなかったと」

「お恥ずかしながら、私は僧侶でも神官でもないのですよ」

盗賊(アサシン)浄化呪文(ニフラム)を覚えませんからね」

「職業とそのフリガナに思うところはありますが、まぁそういう事で間違ってませんよ」

 

 身のこなしや沙耶宮家令嬢の子飼いという立場から、忍者的な何かだろうとは思っていたがやはりそうだったか。隠密・工作・暗殺、全て忍の技術である。やはり何も間違った事は言っていない。

 

「それに、その現れた悪霊がまた厄介でしてね。どこかにある寄り代を本体としているらしく、祓っても祓っても戻ってくるわ、この社長の夢枕に立ったりまでするらしく恐々とされているんですよ」

 

 慌てふためいている男は、どうやら社長だったらしい。冷や汗とユルユルのスーツを見る限り、元はもう少しふくよかだったようだがすっかり(やつ)れてしまっている。でもまあ、夢枕にとなると素人じゃ恐ろしくて敵わないよな。

 

 本当に悪霊の類なら相応の妖気邪気を有しているはず。それが何の耐性もない一般人に害を成そうというのだから、生きた心地がしなかったことだろう。

 

「早々に解決してやりたい所ですけど、布都御魂で祓っても復活したりしないんですか?」

「そこはほら、もしそうなっても石上さんが何とかしてくれるでしょうし」

「対処法まるなげですか!? ホントに遠慮ないですね甘粕さん!!」

「はっはっはっ」

 

 胡散臭い程に爽やかな笑顔である。呆れていた鉄也だが、邪気を知覚して目を細める。

 

「戻ってきたようですね」

「ですねぇ、という訳でお願いします」

「はいはい、っと」

 

 『召喚』したるは霊剣・布都御魂。神刀として破邪の霊気を漂わせている。

 

『呵呵呵呵……呵呵呵呵呵呵呵呵呵――ッ!』

 

 呵呵(かか)大笑(たいしょう)で現れたのは、いかにもという感じの瘴気の塊。漫画にでも出てきそうなくらいに、いっそ見事なまでの悪霊だった。

 

「なんかシオンタウンで出てきそうですね」

「あれの寄り代は骨なんですかねぇ」

「ガラガラだけに、ですか?」

「ええまさしく」

 

 馬鹿な会話をしつつも、霊刀の刃は神々しい光を放っていた。そのまま一閃――特に手応えもなく振り払えた。

 

「なんか、追い払い(・・・・)はしても追い祓った(・・・・・)感じはしませんでしたね……」

「という事は、やはり寄り代の骨ですか」

「まだ骨とは決まってませんって」

 

 などと続けつつも、さてどうしたものかと頭を捻る。冬馬と二人して悩んでいた所で、言い付け通り大人しくしていたコロがワンッと吠えた。

 

「どうしたコロ?」

「ワンッ、ワンッ!」

 

 鼻先で向こう脛を突きながらある方向に向けて吠える姿に、さしもの鉄也もティンと来た。

 

「……お前、まさか分かったのか?」

「ワオォ~ンッ!」

 

 そのとぉ~り。的な音程の鳴き声を聞いて、冬馬と鉄也は顔を見合わせる。まさかという思いは強かったが、もしかしたら、或いはやはりという思いもあって案内させる。

 

 たどり着いたのは裏手にあった枯れ木。その根元を掘り出したので手伝ってみれば……

 

「やっぱ骨でしたね……」

「やはり骨でしたか……」

「ちょっと気分が悪くなったんで離れていいですか?」

「どうぞどうぞ、後は私がやっておきますので」

 

 お言葉に甘えて、鉄也はコロと共に入口の扉まで戻った。何ともスッキリしない仕事であり、愛犬(しきがみ)の有能さを再認識した一件だった。

 

 





蜃気楼戦の前に通常業務を挟もうとしたんですが、なんだか思惑と違う感じに出来上がってしまいました。

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