テイルズオブジアビスAverage   作:快傑あかマント

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「不幸な男」

 

 ルークは重い、重い、とにかく重い瞼と格闘すること数分(いや、実際はもっと短かったかもしれないし長かったかもしれないが……)、やっとの事で眼を開く事ができた。

 

 できたのだが……、何かがおかしい。奇妙な違和感を感じる。しかし、その正体が分からない。寝惚けているのだろうか?

 

 周囲の状況を確かめようと視界を巡らす。そこは見た事のない家の一室だった。

 

 そこは非常に質素な作りの部屋で、あまり飾り気がないが、いかにも清潔で、自然と好感を抱く内装だった。質素な部屋に僅かに彩りを加えているのは、可愛らしい小物や置物、一輪の白い花を生けた涼しげな一輪挿し。それらの物から、この部屋の主が年若い女性だと思い至り、少し焦るルーク。

 

 それはひとまず置いておくとして……

 

 身体に痛みがないのはティアが治してくれたのだろうから、疑問はないのだが、しかし、身体がまったく動かないのはどうした理由か?

 

 それに自分はつい先ほどまで眠っていたはずなのに立っているのは何故か? 確かに寝起きは悪かったが、眠ったまま歩き回っていた事は流石になかった。

 

 そして、戸惑うまま、視線を彷徨わせたその先に、一枚の姿見があった。素朴な木彫りの枠に中にはさらにルークを戸惑わせる物が映っていたではないか。

 

 姿見に映った自分は、何故かアッシュと全く同じ黒い法衣を着て、髪型まで真似ていた。それに仏頂面までそっくりだ。その仏頂面が嘲笑うように歪んでルークを見つめ返す。表情すら『今の自分』とは違う。ルークは混乱で恐慌状態に陥るが、その叫び声すら出ない。

 

 ルークの脳裏に砂漠の街での忌まわしい記憶が蘇る。優しい少女に向けた白刃の重み、そして、刃の光の向こうに蒼白に凍り付く彼女の表情の記憶。

 

 とそこに

 

(聞こえるか。レプリカ、お前はこっちだ。)

 

 アッシュの声が聞こえた。いや、頭の中に響いてきた。

 

 部屋の角を見ると、自分が寝台に横になっていた。一瞬死んでいるのではないかと思ったが、胸が上下して、呼吸をしていた。

 

(今のお前の精神は俺の支配下だ。完全なレプリカと被験者の間には、フォンスロットを通じて繋がりができる。お前のフォンスロットが俺の方に開くよう、コーラル城で操作した。あれ以降、お前、何度か俺の声を聴いただろう)

 

 アッシュがうんざりしたように答えた。

 

(ふぉん? 何を言ってるのか分からない)

 

(ふんっ、本物の俺がレプリカのお前を一方的に操れるって事さ。なんなら、このままお前を殺してやろうか)

 

 アッシュは寝台の方へ歩いて行き、ルークを見下ろした。

 

 アッシュは口を動かしていない。これらは彼の脳内で展開される会話だったのだ。もちろん、そんな事に驚いている場合ではない。

 

(やらせるか!)

 

 ルークの『大声』に、「耳元でわめくな」とアッシュは眉をしかめたが

 

(屑相手に、卑怯な真似は使わないさ)

 

と、にやりと笑った。

 

 そこへ部屋の扉が開いた。

 

「っ! アッシュ様、ここで何をしているのですか? 誰の許しを得て入ってきたのですか? しかもここは仮にも病室ですよ」

 

 ティアが非難の色を浮かべた表情で入ってきた。診療鞄らしい黒い鞄を小脇に抱えている。

 

 ルークは、戦いの場でも滅多に見せなかったような彼女の険しい表情に驚いたが、それだけ心配してくれているのかと嬉しかった。

 

(屑も隅に置けないな)

 

 アッシュは皮肉げな笑みを浮かべたが、その表情を消して、ゆっくりと振り向く。

 

「心配しなくても、無抵抗のこいつを襲う卑怯な真似はしないさ」

 

 ルークとの会話は当然聞こえないティアには、その『間』を「馬鹿にされた」と感じて、

 

「そういう問題ではありません。早々に退室願います。今から診察なんです」

 

と目を眇めて、呟くと、

 

「聞き入れて頂けなければ、警備を呼びますよ。この街の取り決めは、いかに神託の盾とあっても守って頂きます。」

 

続けて、ピシャリと鋭い声で言った。

 

「分かった、そう大声を出すな。まったく、甲斐甲斐しい事だな」

 

 アッシュは、カッと顔を赤らめて睨むティアから目を逸らして、部屋から出て行く。

 

(ティアの今の表情? なんだ?)

 

 ルークは感覚などないはずの顔が熱くなるのを感じながら、呟いた。

 

(知らん。十年早い)

 

 アッシュは苦虫を嚙み潰したような顔になって、歩みを速めた。

 

 

 

 ティアは少しの間、彼の出て行った扉を睨んでいたが「ふっ」と溜め息を吐くと、ルークの眠る寝台へと歩み寄り、脈や瞳孔を診るティア。今までも彼が意識を失う事はあったが、今回の物は何かが違う気がしていた。

 このまま眼を覚まさないのではないかなどと悪い方に考えてしまう。ユリアシティにも医師はいる。協力してもらって精密検査をするべきだろう。

 

 そんな事を考えている所へ扉を叩く音がした。どこか遠慮がちな音である。

 

 ティアはルークの手に触れていた事が先程のアッシュの言葉も相まって恥ずかしくなって、彼の手を慌てて寝台に戻すと、居住まいを正すと、

 

「……どうぞ」

 

となるべく平静な声で招き入れた。

 

「やぁ……」

 

 ガイが長身を少し屈めて扉を潜って入ってくると、扉を閉じるとそのままそこに立つ。いつも背筋を伸ばしている印象の彼が今は少し猫背だ。

 

「……ルークの調子はどうだい……?」

 

 ガイは大きく溜め息を吐くように尋ねる。

 

「俺はジェイドの旦那達にくっついて、タルタロスで地上に上がることにする……よ」

 

 所在なさげに空を彷徨わせた右手を額に当てて、顔を隠すように言うガイ。今まで見た事のない彼の弱々しい姿だった。

 

「えっ、どうして? ルークが眼を覚ました時に貴方がいてくれた方が喜ぶわ」

 

 ティアは、戸惑った笑顔を彼に向けた。

 

 ガイはその笑顔を眩しそうに見ると

 

「いや、会わせる顔がない。ルークにはティアとイシヤマの旦那がいれば大丈夫だ」

 

と苦笑いを浮かべた。、

 

「貴方はルークの親友じゃない。わたしたちには分からない事が分かるわ」

 

 ティアはガイを労わるように微笑んだ。

 

「親友なんて言う資格はないよ。俺はあいつを……馬鹿にしていたからな」

 

「そんな事……。人が人に抱く感情はたった一つとは限らないわ。色んな感情が入り交じっても、一緒にいようと思うのが、友達でしょ」

 

 沈痛な表情で俯き、落ち込むガイに、ティアは彼の肩に手を差し伸べたようとしたが、「あっ」と手を引っ込めた。

 

 ガイは「すまない」と軽く手を上げて、詫びると

 

「はは、ティアは俺なんかより大人だよ。……いや、悪い。疲れて、弱気になってた。皆だって同じなのにな」

 

 彼は照れ臭そうに頭を掻いて、もう一度、溜め息を吐くと、

 

「アッシュのやつの見張り役も必要だろう。なんせ周りは元神託の盾ばかりだからな。イオン様は粗末に扱わないだろうけど、ナタリアとアニスの事は心配だしな」

 

 いつもの屈託のない笑顔を浮かべ、背筋を伸ばした。

 

「ガイ……」

 

 ガイはティアが引き留める声を背中で聞きながら、「じゃあ」と部屋を出て行った。

 

 

 

 イオンとアニスが譜石が安置されている大きな部屋で、それらを見つめて聖句を唱えている。そこへアッシュが苦虫を嚙み潰したような顔で入ってきた。ルークはイオンに声を掛けようとしたが、今の自分の声は聞こえない事に気が付いて、口をつぐんだ。

 

 アッシュが入ってきた事に気が付いたアニスがキッと睨んで、イオンとアッシュの間に入り、

 

「イオン様はお祈りの最中です邪魔する事は許しません」

 

 イオンは敵意を剥き出しにするアニスの肩に手を置いて制すると、「どうも……」と気まずそうに挨拶をした。

 

「今更、何に祈るんだ? 力を貸してくれない神や聖人に泣きつく暇があるなら、身体を休めたら、どうだ?」

 

 そんなアニスを無視して、アッシュはイオンに溜め息交じりに声を掛けた。

 

「貴方から人を気遣う言葉を聴けるとは思いませんでした。伝え方が乱暴な所は、やはりルークに似ていますね」

 

 イオンは会釈して、気まずそうに微笑む。

 

「気遣い? 俺は現実的な対応の話をしているんだ。それにあんな偽物と俺は似ていない」

 

「そうでしたか。……でも、貴方の言う事は聞けません。」

 

 大声ではないが激しい声音で言い返すアッシュに、イオンは落ち着いた様子で頷いたが、きっとアッシュを睨んで、

 

「何故なら、貴方は僕の恩人を罵倒した」

 

と決然とした口調で言った。

 

(イオン、俺はお前を助けてなんかいないぞ)

 

 思いもよらないイオンの言葉に驚くルーク。

 

「恩人? あの馬鹿のせいでひどい目に会っているだろう?」

 

 アッシュは片眉を吊り上げて、呆れ声で言った。

 

「それでも、貴方がたに連れ去れた時バチカルの廃工場で助けてくれたのはルークです。」

 

 平静な声で答えるイオン。

 

(イオン、違うんだ。あれは何故かアッシュが許せなくなって)

 

 ルークはイオンに聞こえない事を分かっていても、彼に訴えずにはいられない。

 

「どうやら、あいつは俺への憎しみで斬りかかったようだぜ」

 

 アッシュはうるさそうに顔をしかめて言った。

 

 イオンは一瞬困惑の表情を浮かべたが、何かを察したのか、一層表情を引き締め、

 

「それでも僕は嬉しかった。僕の中では彼は『英雄』になったんです」

 

と背筋を伸ばして、真っすぐにアッシュを見返した。

 

(俺が……英雄?)

 

 嬉しさで、感覚などないはずの眼の裏が熱くなるのを感じるルーク。その反対にアッシュは不快さを顔に表し、イオンを睨み、

 

「あの屑のせいで無関係の人間が何人死んだと思っている。」

 

「ルークは確かに馬鹿だけど、アンタと違ってどうなるか分かってて、人を殺したりしたんじゃないっーの! カイツールに根暗ッタけしかけたのわすれてないよねぇ?」

 

 アッシュの冷たい言い草に棘のある言葉を投げ返すアニス。

 

 アッシュ彼女を睨み付けたが、皮肉げに笑って

 

「どいつもこいつも、どんな事でも犠牲や危険は付き物だろうが。誰も死なせない解決法があれば、誰も苦労はしないぜ」

 

と、胸を反らして、イオン達を見下すように溜め息を吐いた。

 

 アニスはじっと押し黙って目を眇めた。身勝手な言い分への怒りとは違う感情が混じったようだが、その場の誰にも分からなかった。それでも彼女に危険な色を感じたイオンは「アニス。」と彼女を押し止めると、

 

「それは貴方が一人だったからです。貴方は仲間を創るべきだった。仲間がいれば、その分だけ誰かを殺さずに済んだ」

 

 イオンはいつになく、強い口調で言った。

 

 アッシュはそれが意外だったのか、一瞬沈黙したが、

 

「仲間?導師が人を敵味方に分けるのか?」

 

とわざとらしく意地悪なに言い方で反論した。

 

 イオンはほんの少し眼を伏せたが、パッと顔を上げ、

 

「差別ですね。分け隔て作ってしまう僕は凡人ですね。でも、僕は見守るだけで何もしない聖人より、実際に一握りでも救える凡人でありたい」

 

 強い眼差しで言った。

 

(イオン……)

 

 ルークは大人のような物言いをするイオンを見て、驚きとは違う感情を抱いた。これはルークがまだ知らない感情“痛ましさ”だった。

 

 アッシュは小さくため息を吐くと、

 

「神学論争なんてしている暇は俺にはない。ほどほどにしておけ」

 

 アッシュはイオンの隣を横切り、

 

「付いてくるなら、邪魔にならないように導師を見張ってろ」

 

とアニスも一睨みすると、譜石の間を出て行った。

 

 

 アッシュが回廊を歩いていくと、そこにナタリアが落ち着かない様子で佇んでいたおそらくアッシュが来るのを待っていたのだ。

 

 ルークには彼女が何か我慢しているかのように見えた。そう、子供の頃、屋敷で飼っていた小鳥が死んで一緒に埋葬した時に泣くのを必死に堪えていた時の彼女の顔に似ている。

 

「あのっ! 私のこと……覚えていらして」

 

と、ルークが知るあのナタリアかと思う程、おずおずと話しかけた。

 

 ナタリアの問いかけにアッシュはむっとして、彼女から目を逸らした。

 

「その……ティアから聞いたのですが、ルーク……いえ、あの方を操ってティアを斬ろうとしたのは、あなたなのですの? 何故そんな事? それにカイツールの兵士たち、家臣たちを大勢殺したのは何故なんですの?」

 

 ナタリアは関を切ったように言葉を並べる。それは非難のようであったが、表情には悲しさと思慕が入り混じっていた。何を話して良いのか分からないのだろう。

 

 彼女は自分の肩を両手で抱いて震えている。ルークには本当は自分に、いやアッシュに縋り付いて、泣きたいように見えた。

 

「何故……何故帰ってきて下さらなかったのです?」

 

と呟くと、顔を両手で覆って俯いた。涙がこらえきれなかったようだ。

 

「あの女に剣を向けたのは単なる悪ふざけだ。それから、カイツールの件は必要だったから殺した。それだけだ」

 

 アッシュの感情を殺した言葉に、ナタリアは涙で濡れた瞳を見開いて彼の顔を見据えた。

 

 ナタリアはわなわなと震えて、再び俯いた。今の今まで想いを寄せていた人物に幻滅した事に気が付いたのだ。それでも半狂乱になる事を必死に堪えているのだろう。一瞬、フラッとよろめいたが、ぐっと堪えて、すっと立つと、

 

「ルーク……変わって……しまいましたのね。昔とはまるで別人ですわ」

 

 彼女は涙を床にこぼしながら、押し殺した声で言った。

 

「……その通りだ。昔には戻れない」

 

 ナタリアはパッとアッシュに背中を向けて、そこから走り去る。

 

 アッシュは呆然と彼女を見ていた。ルークに彼の感情が流れ込んでくる。それは『失望』。彼は言葉とは裏腹に、ナタリアなら分かってくれる。自分を受け入れてくれると、どこかで思っていたのだろう。ルークすらいたたまれず、泣き出してしまいそうな感情が沸いてくる。

 

 そこにそんな物とは比べ物にならない感情がルークの悲しみを覆い隠した。

 

 

『知らなかったんだよ、分からなかったんだ!』

 

 

『誰も気付いてくれなかったじゃねぇかっ! 誰も助けてくれなかったじゃねぇか!』

 

 

『父上、母上……、ガイ……ペール……』

 

 

『ナタリアだって俺とレプリカの区別が付かなかったくせにっ! 偉そうにっ!!』

 

 

『……そいつは僕じゃないんだよ、ナタリア……!』

 

 

『誰か僕を助けて!!』

 

 

 これらの激しい言葉は、実際にアッシュが叫んでいたわけではない。悲しみに孤独感、怒り、悔しさがごちゃ混ぜになった叫びが、ルークの中にも流れ込んでくる。アッシュの苦しみが血を吐くような叫びが、ルークの心を押し潰さんばかりに次々と浮かび上がる。

 ルーク自身も持つ、ナタリア、父母、ティアや仲間たちへの僅かな不満がアッシュの感情に吊られて“憎しみ”へと変質していきそうだ。

 

 しかし、ルークは必死で自制心を保ったが、彼に繋がるもうアッシュの自制心は燃えるような怒りとドロドロに歪んだ悲しみに押しつぶされたのが、ありありと分かった。

 

 次の瞬間、アッシュは長剣の柄を握りしめたではないか。

 

「アッシュッ!! ナタリアに何する気だ!」

 

 ルークはアッシュの鼓膜が破れるのではないかという程の声を張った。

 

「ナタリアだってパニくってるだけだ!! 冷静になれ!!」

 

 ルークは今の自分には身体が無いのも忘れて、アッシュを羽交い締めにしようと藻掻く。

 

「黙れっ! 紛い物の屑が知ったような口を利くな!!」

 

 ルークの言葉にアッシュは激高し、彼の黒い手袋がルークの“首”に伸びてきた。今まで曖昧だった身体の感覚が嘘のように、窒息の苦痛が襲い掛かってくる。

 

 視界が明滅する。その視界の中にアッシュの怒りに歪んだ顔が現れる。今のルークは、アッシュに両手で首を絞められている格好になっていた。

 

 苦しい。ルークはアッシュを引きはがそうとするが、戻ったのは感覚だけで身を捩るほどの抵抗もできない。

 

 ついに窒息により、ルークの視界が揺らぎ、暗くなり始めた時だった。

 

 ……カチリ……カチリ……と石畳を鳴らして、赤黒い影がこちらへゆっくりと近づいてくる。

 

 静謐なユリアシティの景観とは似つかわしくない赤錆がまだらに浮いた漆黒の甲冑と薄汚れたぼろきれのように成り果てた外套。ルークは息苦しさに霞む思考の中で、物語に出てくる悪魔のようだと思った。

 

 そんな異様な人物が脇を歩いて行くのに、ナタリアは何にも気に止める様子もなく、走って廊下の角を曲がり立ち去った。

 

 今のルークにはその奇妙さも気にする余裕はなかった。苦痛に呻きながら、アッシュを睨んだ時、彼の背後から錆び付いた手甲がアッシュの顔を鷲掴みにした。

 

 口を塞がれる形になったアッシュが声も上げられず、ルークから引きはがされた。

 

いつの間に背後に回ったのか、謎の男は赤錆の兜に覆われた顔をアッシュに擦り付けるように顔をルークの方に出し、

 

「もう良いだろう、アッシュ? 何の手向かいもできない相手を殺すのが、貴様の誇りか? 後の事は私に任せて、休め」

 

 と唸るような声で呟いた。面頬越しでくぐもっていたが、優しげ口調だった。

 

「そして……、頭を冷やせ、屑が!」

 

 今度ははっきり聞こえた。その声は最近よく聞いた声に似ている。そうアッシュに、自分によく似ていた。

 

 




 お久しぶりです。随分お待たせしました。

 今回は、ほぼアッシュの主役回でした。おそらく、原作の脚本の方はアッシュは完成されたキャラなので、成長も克服もしない。というように考えていたのかもしれません。……ぜんぜん伝えられていないと思いますが(笑)
 しかし見方を変えれば、傲慢で独り善がりな男が、差し伸べられた仲間の手を振り払って、落ちぶれていき、最後には死んでしまうという物語にもなってしまっています。
 逆境によって歪んでしまった男が、人々の協力によって心を解きほぐし、生き直していく。という描き方の方がアッシュの魅力を引き出せた気がします。

 今回のサブタイトルは、『人斬り以蔵』(著:司馬遼太郎)の「そして、不幸な男が生まれた」という書き出しから拝借しました。これはもちろん、岡田以蔵を言い表した言葉なのですが、私にはアッシュにそのまま当てはめられるなと感じました。
 類稀な才能と技術を持ちながら、境遇によって、あるいは偽善的な上司に上手く使われて、好きな生き方が出来ず、手を汚していくという面が、アッシュと岡田以蔵はよく似ていると思います。(武市半平太のファンの方がいたら、すみません。)

 この辺りは、随分前から構想があり、ようやくここまで描く事ができました。皆さんにはもっと先も読ませろと怒られそうですが、また気長にお待ち下されば幸いです。


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