テイルズオブジアビスAverage   作:快傑あかマント

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第23話 決断そして承諾

「外の空気を吸って考えたい……」と、マルコに展望デッキに案内してもらったルーク、ティア、コゲンタの三人は、夕日で赤く染まり始めたエンゲーブの田園風景を何をするでもなく、眺めている。

 

「ルーク殿とティア殿。御二人とも『ただモンじゃぁない……』とは思っていたが……」

 

 不意にコゲンタは手の平で夕焼け空を軽くなぞると、目の前の手摺りを、ぽん……と叩いてからルークとティアに笑い掛けた

 

「まさか、空を飛んでやって来たとはの……。驚いた、さすがに。あははは」

 

「嘘をつくつもりは無かったんですけど……」

 

 コゲンタが屈託無く笑う一方で、ティアは申し訳なさそうにうつむき呟く。

 

「そりゃ、なかなか説明しづらいだろう、突飛すぎての……。まぁ何はともあれ、ややこしい事に巻き込まれてしまったの……。あそこまで聞いてしまっては、他人事で済ます気にもなれん。わしにできる事があれば、なんでも致すぞ? ルーク殿。無論、『とんずらするのだって手伝う』って話ですぞ? あははは」

 

 ルークと並んで手すりにもたれ掛っていたコゲンタが、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて、ルークに笑い掛けた。

 ルークは、そんなコゲンタを、ふて腐れたように横目で見る。

 

 その目を再び田園に戻し、身体を手すりに預けたルークは、ウンザリした様子で零し始めた。

 

「……つーかさ、オレはナニしてどうすりゃイイのかケントーもつかない。つぅの……? 『戦争が起こるかもしれない!』なんてイキナリ言われてもネミミニミズ……? つうかさぁ。エンゲーブ、全然そんな感じしなかったし。おっさんも、ローズさんも、そんな感じそんな風に見えなかったし。ワケわかんねーよ!」

 

 ルークは、最後の方を吐き捨てるように、語気を強くする。

 

「そりゃあ、そうだ。余ほどのデカい戦争でもない限り、民草にとっては、戦争だの政治だの外交だのは、雲の上の出来事ですからな。村には、キムラスカの行商人も来るし、個人的な知り合いがいるという者もいる。農民は、クワが振るえて、メシさえ食っていられれば、キムラスカだろうがマルクトだろうが、それほど興味はないという話ですな」

 

 コゲンタは苦笑しながら、達観的かつ自嘲的な言い方で、一般市民の『おおよその戦争観』を語る。

 そして、自嘲の色を更に深くすると……

 

「極端な話ですがの。自分達の生活さえ保障してくれるなら、イザとなりゃ『異界からの侵略者』にだって、ペコペコできるんだ。わたしらは……、あははは」

 

 おどけた口調で、突飛な例え話を口にした。しかし、ふざけているだけではない『色』があるのが、ルークにも分った。

 

「なんだそりゃ? ますます、ワケわかんねぇぞ? おっさん」

 

 しかし、ルークは苦笑しながら、素直な感想を口にする。

 

「まぁ、むかし戦争で身内と住む場所を無くした者としては、起きないに越した事はない……とは思いますがの。まぁ、よくある話ですな。あははは」

 

 コゲンタは、さらり。と『弱み』を見せた。しかし、すぐに……

 

「しかし、まぁ、そもそも戦争なんてデカい事を、一個人の良心や正義感でどうこうできるモンじゃぁない。いかにルーク殿が王族様でもの……。『起きる時は何をしても起きる。起きない時は何もしなくても起きない。』といった所ですかな。気楽に……というわけにはいかぬだろうが、ご自分の身の丈以上の事を無理矢理しようとしているのなら、考え直した方が良い」

 

 コゲンタの話に、ルークは何かを感じたが、それが何なのかまでは分らない。余計にモヤモヤしただけだった。

 

「うぅん……。なぁ、ティアはどう思う? オレ、どうすりゃイイのかな?」

 

 ルークは、唸りながら腕を組み、ティアに向き直ると、尋ねた。

 

「わたしなんかの身分で、意見して良い事柄じゃないと思うけど……」

 

 ルークの気安い口調に、ティアは言いよどむ。事が事である。彼女は、一介の元騎士の小娘が「口出しすべきではない……」と考えたのだ。

 

「は? イイじゃねーか。オレが許す! ハハハ」

 

 ルークは、歯切れの悪いティアを、叱りつける調子で、おどけてみせた。

 

 ティアは、そんなルークに微苦笑してから、指先で頬を僅かに撫でながら遠慮がちにだが口を開く。

 

「戦争の事とかは、ともかくとして……。ルークは、ルーク自身の身の安全を優先するべきだと思う。確かに……ジェイドさん達マルクト軍に護ってもらえれば早いし比較的安全だけど、リスクが無いワケじゃないわ……」

 

 ルークを真っ直ぐに見つめながら、ティアは努めて冷静に……しかし彼に余計な不安を与えないように穏やかな口調で言葉を紡ぐ。

 

「彼らと一緒なら、マルクト国内は安全だろうけれど、国境……つまりキムラスカの国境守備隊との衝突に巻き込まれる可能性があるわ。イオン様もおいでだし……あのジェイドさんなら上手くやってくれるとは思うけど……」

 

「な、なるほど……」

 

 思いがけないキナ臭い話に、ルークは動揺したが努めて冷静に頷く。(声が上ずってしまい、どちらかと言えば失敗しているが……)

 

「そして、コレはずっと後の事になるだろうけど、ルークのお父様……ファブレ公爵様を快く思わないキムラスカの他の貴族様が、ルークが『マルクト軍に保護されて、和平の協力をした』という出来事を『マルクト軍に捕まって、脅しに屈して使い走りをさせられた駄目な王族だ。』という感じに歪めて、公爵様の御立場を悪くするような悪口を広めるかもしれないわ……」

 

 ティアは、冷静に『可能性』を上げていく。

 

 ルークには、父であるファブレ公爵の立場や評判については、イマイチ分らないので、ともかくとして『自分をダシにして……』という部分がすごく気に入らなかった。

 

「多少時間は掛るだろうけど、セントビナーに行って正式な手続きを踏んで、キムラスカに身元を照会してもらった方が安全だと思う。けれど、しばらくは窮屈な生活をしなくちゃならないでしょうね……」

 

 ティアは、やや硬い表情でそこまで言うと、一息吐き、

 

「確かに、戦争を無くそうっていう、ひとりひとりの想いは大切な事よ。でも、それは今のあなたが担うべき事柄じゃないわ。だから、ここは、ルークにとって一番安全だと言える選択をしたとしても、誰も責めはしないわ。だから……」

 

 と、表情を緩めて、言った。

 

 ルークは、窮屈な生活に関してなら「オレの右に出るヤツなんていねぇ!」と豪語できたし、そして、ティアの言う通り『そういう事』は師 ヴァン・グランツのように、自分より知恵や力を持った者達の仕事だとも思った。

 

 だが、しかしである……。

 

「……よし。決めた! 協力する! ラクでハヤい方がイーもんな。母上に、あんま心配かけたくねぇしさ! ティアにも、あんまメーワクかけらんねぇし……」

 

 手すりから跳ねるように離れたルークは、伸びをしながら、まくし立てるように言った。最後の一言が小さく尻窄みになっていたのは、ご愛嬌。

 

「ルーク、いいの?」

 

 ティアは、気遣わしげに言う。

 

「ああ、男にニゴンは無いぜ! それに戦争なんかになったら、今度は父上が屋敷からいなくなるんだ……。母上が心配するのは変わんねぇ。だから……、『やらないでコーカイするより、やってコーカイしろ!』だろ? ティア!」 

 

 ルークは以前、ティアが言った言葉を自分風に脚色して、イタズラっぽい笑顔を彼女に向けた。

 

 こうして、ルーク達は通路に待機していたマルコに声を掛けると、イオンの船室に戻る事にした。

 

 

「ルーク様! よもや、再び戻って来て下さるとは、感激です! コレは約束通り、私はオヘソでお茶を沸かさなくてはならないようですね!」

 

 ジェイドは、ヤカンを小脇に抱えながら、再び椅子に腰を下ろしたルーク達に、深々と頭を下げた。

 

「では、とくと見よ!」

 

 そして、ジェイドはヤカンを掲げた。

 

「大佐。つまらない冗談は、その辺りで切り上げていただけますか? そもそもそんな約束はしていません」

 

 それを、すかさずマルコが冷静に諌める。

 

「私も舐められた物ですね。人間の重要な音素要点(フォンスロット)である、オヘソでお茶を沸かす事など夜ご飯前ですよ! ……という冗談はさて置いて! ルーク様、お逃げにならずノコノコお越し下った事に、痺れます♪ 憧れます♪ では、お返事をお伺いたしたい……」

 

 ジェイドは、いかにも「心外である……」という悔しそうな顔をしつつ、マルコにヤカンを手渡すと、胡散臭く微笑み、ルークに向き直るとオベンチャラのような事を言うと、胡散臭さを一瞬で消し、静かに深々と頭を下げた。

 

「ルーク。どうか、ぼくに力を……」

 

 イオンもまた、ルークを祈るように手を組み、見つめている。

 

「おがむな! おがまなくても協力してやるよ! 伯父上にとりなしてやる。その代わり、オマエらバチカルまでオレの『足』な」

 

 ルークは、イタズラっぽい笑顔で、ジェイド達を見下ろす。

 

「なるほど、騎馬戦♪ というワケですね? 馬の後ろ足をやらせたらちょっとした物ですよ、私。まぁ、何はともあれ、交渉成立♪ 貴方様を必ずや、王都へお送りします。」

 

 ジェイド達は再び、何の躊躇いもなく跪き、ルークに頭を下げた。

 

「ルーク、ありがとう……。本当にありがとうございます」

 

 イオンも彼らに続き、ルークに深々と頭を下げた。

 

「い、イチーイチあたま下げんな! ウザいっての!! カンチガイすんな! べつに、オマエらのために協力するんじゃねぇからな。ティアの……じゃなくて、ティアを心配してるヴァン師匠のためだ。お前らをユーコーテキに使ってやるんだ! ありがたく思え!!」

 

 またしても、頭を下げられてしまったルークは、顔を真っ赤にしながら腕を大きく振って、精一杯横柄にまくし立てた。(顔が赤いのは、怒っているからではないのは、言うまでもない。)

 

 ジェイドとイオンは、苦笑を見交わした。

 

 ティアも内心、ルークの照れ隠しに苦笑するしかなかった。

 

 こうして、ルークはイオンの和平工作に協力する事を決断した。

 

 これで、大小無数の危険に怯える必要が無くなった……わけではないが、ずっとすくなくなった。ルークは、迷いがないではないが、内心「ほっ……」としていた。

 

 

 しかし、計画という物は、大抵上手くいかない物である……。




 この物語のティアの考え方や方針は、冒険活劇の主要キャラクターにしては、非常に消極的で後ろ向きです。
 これは、ティアが平和主義的ではないとか、自分と自分の周辺さえ無事なら他はどうなっても良いと言うような利己的な考えで言っているわけではありません。
 突発的にとはいえ、ルークの護衛という立場上、慎重になっているのです。
 ですが、ゲーム本編の登場人物の雰囲気で考えると、この行動も無責任とか軽薄とか最低とか世間知らずと言われてしまうのでしょうか?
 皆さんはどう思われたでしょうか?

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