テイルズオブジアビスAverage   作:快傑あかマント

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 拙作は、「にじファン」でakamanto名義で投稿していた物を、補筆、改訂した物です。

 とにかく、ルークが嫌いという方や原作のティアが好きという方はお読みにならない事をお勧めします。


第1話 運命の出会い、そして旅立ち

 

 預言(スコア)

 

 それは星の誕生から消滅までの記憶を有する第七音素(セブンスフォニム)を利用し、未来に起こるであろう様々な出来事を見通したものである。

 

 今から二千年以上前の創世暦時代。

 ローレライの始祖ユリア・ジュエは人類に未曾有の大繁栄をもたらすべく惑星オールドランドが歩むであろう歴史の預言を詠んだ。惑星預言(プラネットスコア)と呼ばれるこの特別な預言は、その後の人類の歴史を大きく変える事になる。

 惑星預言が、もたらすのは未曾有の大繁栄、預言を守る事こそが約束された未来をつかむ最良の方法とされた。しかし、長い年月を経て、預言への敬虔な思いは、いつしか強迫観念と依存へと変わり、人類を救うはずの預言は人を支配し始めた。

 

 そして新暦2011年、その不自然な摂理に疑問を覚えた一人の男によって歴史は再び大きく変わろうとしていた。

 

 

 

 キムラスカ・ランバルディア王国 光の王都『バチカル』 レムデーカン・レム・23の日

 

 その日、ルーク・フォン・ファブレは少しばかり不機嫌だった。何故なら彼の剣術の師ヴァン・グランツが今日からしばらくこの屋敷に来れなくなると言うからだ。

 ヴァンは、ルークにとってヒーローだった。強くて優しくてなんでも知っている、ダアトという国の神託の盾(オラクル)騎士団の主席総長(騎士団長)をしていて、「とにかくカッコイイ!」の一言なのだ。

 しかし、今回はその他所の国の騎士団長という事が仇になった。ダアトの導師(国王のような存在)が、行方不明らしく、探しに行かなくはいけないらしいのだ。

 

(ヴァン師匠、ウチの白光騎士団になってくれればイイのに……)

 

 白光騎士団とは、ルークの父であるクリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレ公爵直属の騎士達であり精強無比で知られる精鋭部隊だった。

そして、広大な屋敷の数ヵ所に詰所を設け、そこに交代で寝泊まりし昼夜問わず常に屋敷を守護している。

 

 ゆえに、ヴァンが白光騎士団になってくれれば、毎日会えるし、剣の稽古も毎日して貰える。

この屋敷から、外に出る事の出来ないルークにとって、ヴァンとの剣の修行が数少ない楽しみの一つだった。

 屋敷の使用人で親友のガイ・セシルや、白光騎士団の騎士とも修行はできるが、やはりヴァンとするのが一番楽しいと感じるからだ。

 

 今日、ヴァンが来れない間の《代わりの神託の盾の騎士》も屋敷に来ているらしい。しかし、ルークにとってヴァンでなければ誰だって同じで、「意味がない……」のだ。

 

 中庭に到着すると、そこには、ヴァンと共に見知らぬ少女が待っていた。

 新入りのメイド……という事ではないようだ。ゆったりとした白い法衣に、音叉状の杖、どう見てもヴァンと同じダアトの関係者である。という事は、この少女が『代わりの騎士』なのだろうか?

 

 ヴァンの話では……「私やガイとは違う方向性の強さを持った者だ。きっと良い刺激になる」との事だった。しかし、ヴァンの話を疑うわけではないが、ルークには彼女がとても強くは見えない、というより、戦いをするような人間には見えなかった。

 

 綺麗に三つ編みにまとめられたヴァンと同じ胡桃色の髪、淡い瑠璃色の瞳、透き通る様に白い肌、法衣の袖から覗く細く華奢な手と指、少なくともルークが思い描く《騎士》という感じでは無い。

 屋敷で働くメイド達のほうが、まだ力強くルークには見えた。

 

「ルーク、紹介しよう。これが先程話した代わりの者だ。名をメシュティアリカという」

 

 ヴァンが少女……メシュティアリカの名を告げる。

やはり、彼女が《代わり神託の盾の騎士》らしい。

 

「お初にお目にかかります、ルーク・フォン・ファブレ様。メシュティアリカ・グランツと申します。お見知りおきを……」

 

 メシュティアリカは自身の名を改めて告げると、ルークに深々と恭しく頭を下げた。

彼女の長い胡桃色の髪が、ふわり……と揺らいで日の光と交わる。

 

 何故そうしたくなったのかは解らないが、たまに毛先を整える程度で、普段は伸ばし放題のロクに手入れもしていない緋色の髪を、ルークは不自然にならない様に手櫛で整える。

 ルークは背筋を伸ばし、努めて「イヤなカンジ……」にならない様

 

「お、おぅ、ル、ルークだ。よろしくな」

 

 と、握手をしようと左手を差し出した。

 

   

 しかし、返ってきたのは握手では無い全く別の物だった。

 

 

 メシュティアリカは何を思ったのかルークの前に跪くと、差し出されたルークの手を両手で優しく支えると、静かに手の甲に口付けをした。

 瞬間、ルークの頭が真っ白になった。そして、みるみる顔が紅潮するのが自分でも分かった。

 

(ヤワラけぇ?! ナニした? ナニされた?!!)

 

「? ……あのう、ルーク様?」

 

 メシュティアリカは、全く動こうとしないルークに困惑し、呼び掛けた。

 その声に我に返ったルークは、弾かれたように後ろに跳びメシュティアリカから距離を取り、

 

「なっ何しやがる!!」

 

と思わず叫んでしまった。

 

「え? ……も、申し訳ありません! ルーク様!」

 

「あっ、いや怒ってる訳じゃなくてだな。別に……良いから、もう立てよ」

 

 跪いた姿勢から、そのまま土下座をしかねないメシュティアリカを目の当たりにしたルークは、さらに冷静さを取り戻す。

 

「すまない、ルーク。驚かせてしまったな。妹は堅物でな、行動が杓子定規になりやすい。許してやって欲しい」

 

 しばらくルーク達のやり取りを見ていたヴァンが苦笑しつつ、二人の間に立ちルークに頭を下げた。

 

「いえ! 全然気にしてないです。ヨユーです! ……ん? 妹?」

 

 ルークは師に頭を下げられ、慌てて姿勢を正すが、ヴァンの言葉に首を傾げた。

 

「ハハハ……そうだ。歳は今年で十と六、お前とも話が合うだろう」

 

「はぁ……」

 

 ルークは、未だ跪いた姿勢のままのメシュティアリカに、再び注目する。

 なるほど、髪の毛や瞳の色、そして眼差しも師になんとなく似ている。そう言われてみれば、家名が同じであった。

 

「ティア、いつまで跪いている? ルークは許してくれたのだ。それでは、逆に非礼だぞ」

 

「はい、おにぃ……主席総長」

 

 兄に指摘され、メシュティアリカは、やっと姿勢を正した。

なるほど、堅物である。

 

「ティア……話したと思うが、ルークはある事情で、この屋敷から出る事ができない。ゆえに先程のような王侯貴族の慣例には不慣れなのだ」

 

「あ……」

 

 続けての兄の言葉に、ルークの境遇を失念していた事を自覚した彼女は、さらに申し訳なさそうな顔になる。

 

「申し訳ありません、ルーク様。不愉快な思いを……」

 

「ふ、フユカイなんて思ってねぇよ!!」

 

 頭を下げ謝罪を口にしようとするメシュティアリカに、ルークは思わず間髪入れずに叫んだ。

 

「た、ただ、ちょっと驚いただけだ! だから、イチーチ謝んなよな。ウゼぇから!」

 

「は、はい、申し訳ありません……」

 

「……っから、謝んな!」

 

「え、えぇと……ありがとうございます?」

 

「ん……」

 

 メシュティアリカの顔も見ず、言葉と口調も横柄だが、ルークが彼女を気遣っている事は誰の目にも明らかだった。

 

 何故だかは解らないが、ルークはメシュティアリカを視界に入れる事が出来ず、所在なげに頭を掻きながら中庭のあちこちに視線を彷徨わせた。

 

 ふと、ルークは、妙な物を見つけた。

庭師のペールが、よく世話をしている植え込みの向こう側に、何やら黄色い毛玉が揺れているのが見えた。くつくつくつ……と、ムカつく音を立てている。

 

「おいコラ、ガイィ! なにコソコソかくれて笑ってんだぁ?! ケットバすぞぉ!!」

 

 黄色い毛玉に向かって、ルークが吠えた。

 

「ハハハ、悪い悪い。しかし……今のは、ルーク坊ちゃんには刺激が強過ぎたなぁ? くっ……ハハハ!」

 

「ふざけんな! あんなのナンでもナイね! あと、ぼっちゃん言うな!!」

 

 はたして、植え込みの向こう側から、長身で金髪碧眼の青年が爽やかだがイタズラっぽい笑みを浮かべ姿を表した。

 

「特に、彼女の様にお美しい御婦人の御挨拶なら尚更だな?ははは」

 

「だから、ヘーキだっつってんだろ?! イキナリだったから、ちょっと驚いただけだ!」

 

「う~ん……まぁ、ルーク坊ちゃんがそこまで仰るなら、そういう事にしておきましょう。ハハハ」

 

「このヤロ……」

 

 実に、気安いやり取りを繰り広げるルークと青年。

 

 一方、メシュティアリカはいささか困惑していた。何故ならば、ガイというらしい青年は雰囲気や容姿はともかく、その出で立ちは貴族の物では無かったからだ。

帯刀している事から彼も護衛の騎士なのだろうか?

メシュティアリカには、見当が着かなかった。

 

「あのう……ルーク様。こちらの方は?」

 

 と、思わずルークに尋ねてしまった。

はっと、我に返ったメシュティアリカは慌てて口を押さえるが、時既に遅しであった。

 しかし、当のルークは彼女の言葉を特に気にした様子も無く、青年の態度にウンザリした様な表情で青年の顔を指差しながら口を開く。

 

「あぁ、こいつはガイ。ウチの使用人兼、オレの親友みたいなモンだ。」

 

「おいおい、みたいなモンじゃなくて、親友だろ?」

 

 ガイと呼ばれた青年は、ルークの肩を小突くように叩き、屈託なく微笑んだ。

 

「親友……ですか? 使用人の方が?」

 

「ああ、まぁガイは特別だ」

 

 ルークもまた屈託のない笑みをメシュティアリカに向ける。

 

「その……初めまして。メシュティアリカ・グランツと申します。ガイ……ええと」

 

「ガイ・セシルだ。よろしくな、メシュティアリカ・グランツ様」

 

 ガイは爽やかな微笑みでメシュティアリカの自己紹介と疑問に答える。

 

「ティアと呼び捨てで構いません。セシルさん」

 

「ハハハ、使用人風情が、神託の盾の騎士さまを呼び捨てになんか出来ませんよ」

 

「でも、わたしの方が年下ですし、騎士と言ってもまだまだで……」

 

 ガイは苦笑しつつ腕を組み、しばし何かを考える素振りを見せた。

 

「そう……だな。これからグランツ謡将が来れない間、ルーク坊ちゃんのお守りをする仲だしな。よろしく、ティア。その代わり俺の事もガイで頼むよ」

 

 ガイは爽やかに親指を立てつつ、その白い歯を輝かせて微笑む。

 

「はい、……ガイ」

 

 少しだけ、はにかんだ微笑みで、ガイの微笑みに応えるメシュティアリカ。

 

 爽やかな微笑の青年剣士と、はにかんだ微笑の少女騎士が微笑みを交し合う。

 

 まるで、物語の一場面の様な微笑ましくも甘い、年頃の少年少女達が見れば、思わずときめいてしまう事であろう。

 

 しかしである。

 

 この場にいる唯一の少年 ルーク・フォン・ファブレは、一寸もときめいてなどいなかった。

むしろ、イライラしていた。そう、何故かイライラしていた。そして、ルークは、

 

「おい、ガイ! お守りってなんだ!? あと坊ちゃんは止めろって言ってんだろ!」

 

 特に気にしていなかった事で、無理矢理ガイに食って掛かり、彼とメシュティアリカの間に割って入った。

 

「ハハハ、早速打ち解けたな。これが若さか……少し羨ましい。」

 

 少年少女達のふれあいを、見守っていたヴァンは嬉しそうに笑ったが、最後の言葉に少し自嘲の陰りが見えた。

 

「さて、自己紹介は一通り済んだな? ルーク、稽古を始めよう。これから来れなくなるぶん、今日はとことん付き合うぞ!」

 

 ヴァンは陰りを払拭するように、明るく優しい口調で中庭の中央に移動すると、用意していた訓練用の木剣を掲げ、ルークに微笑み掛けた。

 

「はい! 師匠! じゃ、ガイもメシュティアリカも後でな!」

 

 ルークは、本当に嬉しそうに元気よく返事をし、腰の木剣を抜き、二人に明るく声をかけると師に続き中庭中央へと向かった。

 

「ああ、あんま情けない剣は振るなよ。今日はギャラリーが一人多いからな。ハハハ」

 

「お怪我などしませんように……」

 

 ガイとメシュティアリカは、ルークの笑顔に思い思いの返答をした。

 二人が中庭の外周に設けられたベンチに向かおうとした時、異変は起きた。

 

 ルークは十歳の時、何者かに誘拐された(敵国であるマルクト帝国の仕業と見られている)。その時のショックからなのか、発見された時には全ての記憶を失っていた。そう、全てだ。喋り方も歩き方も、十年の人生で得た全てを忘れ去っていた。

 

 そして、その誘拐事件がルークに残したもう一つの傷跡がある。

 それは幻聴を伴う頭痛、何人もの医者や治癒術士がルークを診たが、原因は杳として知れなかった。

 その頭痛は、一定周期でルークを襲った。そして、いつもなら直ぐに治まるのだが、今回の物は少し様子が違った。

 

(ッ! ……なんっ、だよ! こんなっ、時にぃ……!)

 

 声にならない呻きを漏らし、ルークはその場に蹲った。

 

「ルーク様!?」

 

 もっとも、ルークの近くにいたメシュティアリカが、とっさにルークの身体を支える。

 メシュティアリカは、そこで初めてルークの身体が、淡く輝いている事に気が付いた。

 

(これは、第七音素……?)

 

 その瞬間、ルークの輝きが力を増し、目を開けている事さえ難しくなった。

 

「いかん! 二人とも離れろ!」

 

「ルーク! ティア!」

 

 目が眩み、ヴァンもガイも思うように二人に近付く事ができない。

 

  一方、メシュティアリカ自身も、その眩い輝きに目を開けられないながらも、なんとか音素の働きを制御しようと意識を集中させる。

 

 そして、その瞬間。

 

 メシュティアリカは、この場にいる誰とも違う声を聞いた。

 

『響け……ローレライの意志よ届け……開くのだ!』

 

それは、男なのか女なのか、老いているのか若いのか、判然としない不可思議な声だった。

 

 次の瞬間、中庭全体が凄まじい輝きに包まれた。

 

「ルーク!! ティア!!」

 

 ヴァンとガイが、同時にルークとメシュティアリカの名を叫び呼ぶが、輝き治まった時には二人の姿は、もうその場にはなく、彼らの呼び掛けは虚しく宙に消えた。

 

 

こうして、彼らの運命の出会いと旅路の第一小節が奏でられた。




 この物語は、戦争を知らない今時の若者や、戦争を知っているつもりの今時の大人に対しての問題提起。
という感じの名作や問題作を目指すのではなく、飽くまでも平凡、平均的などこかで見た事のあるような凡作を目指しています。

 Average(アベレージ)平均的な、平凡

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