それではどうぞ
~マキナside~
昼休み、私は一夏に誘われて屋上に来ていた。一緒に昼食を食べようとのことだったから、本音も誘ったけれど生徒会の用事があるそうだ。
「どういうことだ……」
一夏に誘われたであろう箒が不満そうな顔で不満気な声を上げる
「大勢で食った方がうまいだろ」
「確かにそうだが……」
以前までなら一夏の言葉を否定していただろう。大勢で食べても味など変わらない、と。でも最近は生徒会メンバーで食べることも多くなり、大勢で楽しく食べる方が美味しく感じるような気がしてきた。
まあ私の変化は兎も角、集められた箒、セシリア、鈴音がそれぞれの顔を睨みながら火花を散らしている。
「僕ここにいてもいいのかな…?」
「気にしなくていいわよ。いつもあんな感じだから」
気まずそうに同席しているシャルルが聞いてきたので不安にさせないように返事する。
「おお!酢豚だ!」
「そ、今朝作ったのよ。あんた食べたいって言ってたでしょ」
いつの間にかタッパーの蓋を開けていた鈴音の先制攻撃。乙女の戦いは既に始まっていたようだ。
「ゴホン!一夏さんわたくしも今朝は偶然、そう偶然早く目が覚めまして、こういうものを作ってみましたの」
見た目は美味しそうなサンドイッチがバスケットから顔を出す。見た目は完璧ね。
「それじゃあこっちから」
そう言って一夏はサンドイッチに手を伸ばし口に運ぶ。少し咀嚼すると一夏の顔が急に青くなる。何が入っていたのか気になったからサンドイッチにスキャンを掛ける。これは……
「セシリア、貴女何を入れたのかしら?」
「ええっと、もう少し彩りがほしいと思ったので、とりあえず赤い液体を……」
頭を抑え溜息を吐く。とりあえず赤い液体って……ちなみに入っていたのは卵、ケチャップ、タバスコ、砂糖、塩、胡椒である。タバスコと砂糖以外はまだいいだろう。いや、ケチャップが入っているのに塩と胡椒もどうかと思う。入れた順番が分からないからなんとも言えないが。
「貴女も食べてみなさい」
「ですが……」
「い い か ら」
有無を言わせずに食べさせる。するとセシリアの顔も青くなってきた。
「これからは人に出す前に味見をすることね」
無言で頷くセシリア。他人に出すものなら味を確認するのは当然だと思うのだけれど。
「そ、それじゃあ次は箒の」
「私のはこれだ」
弁当箱の蓋を開けるとそこには美味しそうな唐揚げがあった。
「すごいな!どれも手が込んでそうだ」
「ついでだ、ついで。あくまで私が食べるために時間を掛けただけだ」
素直じゃないわね箒は。もっと素直になれば一夏なんてすぐに落とせそうなもの―――でもないか。
「そうだとしても嬉しいぜ。箒、ありがとう」
「ふ、ふん」
嬉しそうな顔をしながらその顔を逸らす箒。そして一夏が食べている最中は不安そうな顔で見ている。
「おお!うまい!これって結構手間が掛かってないか?」
箒は一夏からの好評をもらい嬉しそうな顔をして、唐揚げの説明に入る。
「それじゃあ次は私でいいかしら?」
「お、マキナも作ってきたのか?」
「ええ。本当は生徒会メンバーで食べようと思っていたけれど、仕事があるみたいだったからこっちに持ってきたわ」
そう言いながら重箱を広げる。今日のメニューは、だし巻き卵、牛肉のタレ焼き、コロッケ、サバの味噌煮、後は生野菜をある程度入れている。
「うまそうだな!」
「確かにこれは美味しそうだな」
一夏の箒が料理を褒めてくる。まあ、悪い気はしない。
「好きに食べていいわよ」
「じゃあいただきます!」
一夏の言葉を皮切りにみんなが箸を伸ばす。
「うまい!」
「とても美味しいですわ!」
「私はこんなに美味しく作れないぞ」
「なんでこんなに上手なのよ……」
上から一夏、セシリア、箒、鈴音の順で半分は褒め、半分は悔しがっている。
「ほら、シャ……デュノアも食べなさいよ」
「あ、うん。それと、慣れてないならシャルルでいいよ」
「だったら私もマキナでいいわ」
万人受けするであろう笑顔で返事をしてくる。笑顔にどこか影が見えるのは気のせいかしら。
「わぁ!すっごくおいしいよこれ!」
コロッケを食べながら幸せそうな顔をするシャルル。さっきのは気のせいだといいけど。
「そう。それなら良かったわ」
その後、平和な昼休みは無事、過ぎて行った。
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放課後、またしても一夏に誘われ、専用機持ちと箒が一緒にやっているという訓練を見に来ていた。
「つまりね。一夏が勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからだよ」
「うーん…一応分かってたつもりなんだが……」
とまあ懇切丁寧に教えているシャルルだ。他の三人は……まあ分かりにくいとだけ言っておこう。その後は一夏が自身のワンオフアビリティーの解説を受けて、現在、射撃の練習中だ。とそこで、デウス・エクスのレーダーにもう一機のIS反応が表示される。
「ねえ、あれ!」
「ドイツの第三世代じゃない!」
「まだ本国でトライアル段階だって聞いたけど?」
あれがドイツの第三世代機『シュバルツェアレーゲン』か。スキャン開始…………なるほど。おもしろいもの積んでるわね。とそこまで終わったところでラウラが一夏を睨みつけている。
「織斑一夏、貴様も専用機持ちのようだな」
「……だったらなんだ?」
「丁度良い、私と戦え」
「嫌だ、理由がねえよ」
「貴様に無くても私にはある」
理由としては千冬の大会二連覇が無くなってしまったことかしらね。
「今じゃなくてもいいだろ。もうすぐクラスリーグマッチがあるんだから。その時で」
「ならば、戦わざるおえなくしてやる!」
そう言ってラウラがレールカノンを構えてこちらに射撃してくる。もちろん攻撃をくらう訳にもいかず、一夏の前に立ち拳で弾丸を弾く。見ていた全員が驚いた表情を見せる。
「マキナ・オリジン……!一度ならず二度までも邪魔をするか!」
「邪魔だなんて心外ね。友人を守っただけじゃない」
「ならばまずは貴様から……!」
『そこの生徒たち!何をしている!クラスと出席番号を言え!』
襲ってくるかと思いビットを展開させたが、監督の教師に止められた。
「ふん、興が削がれた。今日のところは引いてやる」
そしてラウラはシュバルツェアレーゲンを解除し、こちらを一瞥してピットへ戻って行った。その後は、訓練を続けるという空気でもなかったため、一足先に自室へ戻ることにした。
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「あの転校生の子たちはどんな様子かしら?」
夕食も食べ終わった夜の自室。部屋に来ていた楯無からこんなことを聞かれた。
「シャルルは今のところ何かしそうな気配じゃないわね。ラウラの方は一夏を目の敵にしているだけよ」
「それで、マキナから見てデュノア君はどうなの?」
どうとは、まあどう見えるかということだろう。
「あの子は女ね。まず男とは骨格が違うし、歩き方とかもよく見ると違うわ」
「なるほどね。わかったわ、ありがとう」
「ありがとうなんて言っても、既に情報は手にしてるんでしょ?」
裏に詳しい更識家なら個人の情報程度、すぐに手に入れることができるだろう。
「まあそうなんだけどね。ちょっと聞いてみただけよ♪」
その手に持つ扇子には『お見事!』と書いてある。試されたってことかしらね。
ドンドンドン!
その後楯無と雑談をしていたら乱暴にドアを叩く音が聞こえてきた。
「マキナ!開けてくれ!」
この声は一夏ね、何かあったのかしら。ドアに近付き顔を出すと焦っているような顔をした一夏が見えた。
「どうしたの一夏」
「実はシャルルが、その、えーっと……」
「とりあえずそっちに行けばいいのかしら?」
「来てくれるのか?ありがとう!助かるぜ!」
一夏にすぐに行くからと言って、先に帰らせる。
「楯無はもう戻ってもいいし、ここにいてもいいわよ」
そう言って自室を出て行く。その時に楯無がどこか不満気な顔をしていたが気にしないでおこう。そして自室を出て一夏の部屋の前に着く。
「一夏、入っていいかしら?」
少し遅れて、入ってきてくれ。と言われたから周りに人がいないことを確認してから部屋に入る。
「こ、こんばんわ……マキナ……」
「こんばんわ、シャルル。初日でばれちゃうなんて運がなかったわね」
そう言うとシャルルは体をビクッと跳ね上がらせて驚いた顔でこっちを見てくる。
「わかってたのか?マキナ」
「ある程度はね。それで?なんで男装なんかして来たのかしら?」
シャルルの言ったことによると、シャルルはデュノア社長の愛人の子で、母と暮らしていたがその母が病死し父親に引き取られた。その後IS適正が高いと分かったので、社のテストパイロットとして道具のように扱われてきたらしい。社長夫人からは度々、暴力を振るわれてきたらしい。
そして、第三世代型ISの開発が遅れ会社の経営が傾き、打開策を求めて男性操縦者のデータを欲したらしい。だから一夏に接触しやすいように男装させられ、IS学園に派遣されたそうだ。
どれも問題有りなことしてるわね。IS学園へのスパイ行為なんてしたら退学どころじゃ済まされないでしょうね。そしてシャルルがばれてもトカゲの尻尾切りとして捨てる気でいるんでしょうね。
「ところでなんで一夏は私を呼んだのかしら?」
「いや、マキナならシャルルを助けるのに協力してくれるだろうなって思って」
まったくこの子は……どうして助けてくれるなんて思えるのかしらね。
「で、協力してくれるよな?」
「なんで私が協力しないといけないのかしら?」
そう言うと一夏は呆然とし、シャルルは絶望しているのか顔を俯かせており、その表情は読み取れない。
「ど、どうして」
「犯罪者に然るべき対処をすることが間違ってるのかしら?」
シャルルを犯罪者と言うと、一夏は顔を怒りで歪ませこちらに掴みかかってくるような勢いで捲し立てる
「シャルルは犯罪者じゃねぇ!」
「そうね。でも未遂でも犯罪は犯罪よ」
「でも!友達が困ってたら助けるのが普通だろ!」
「それには同意するわ」
「だったら―――「でもね」?」
一夏の言葉を一旦遮る。
「助けてなんて言ってない人間を助けるほど、私はお人好しじゃないわ」
今にも殴りかかってきそうな一夏は拳を握りしめて耐えている。
「それでシャルル。貴女はどうしたいのかしら?」
「どうしたいって?」
「だから、ここに居たいのか、一人寂しく独房で暮らしていくのか、はっきりしなさいよ」
「どうせ無理だよ。僕はもう……」
シャルルがさらに顔を抱えていた膝に埋めてきた。
「そんなことは聞いてないわよ。ここに居たいのか居たくないのか、それを聞いてるのよ」
「僕だってここに居たいよ!女として、皆と、一夏と一緒にここで暮らしたいよ!皆を騙しながらここに居たくないよ!誰か……助けてよ……」
涙を流しながら必死に学園に居たいと言ってきて、さらに助けも求められたら助けないわけにはいかない。
「わかったわシャルル。後は私たちに任せなさい」
「それって……」
「どういう……?」
一夏とシャルルが状況を飲み込めていない様子で聞いてくる。
「だから、助けてあげるっていうことよ」
「なんで急に。さっきまでは見捨てる気だったじゃねえか」
さっきまで言っていたことを覚えていないのだろうか。まあ頭に血が昇って覚えていないのだろう。
「私は友達から助けを求められたから助けるのよ」
「どうやって助けるんだ?」
「それは、じきに分かるわ。貴方たちは、今はシャルルの素性をしばらく隠すことを考えていなさい」
そう言って部屋を出る。そして携帯電話を取り出し、掛けたところはもちろんご主人様のところだ。
「もしもし。ご主人様、いきなりで申し訳ないんですが頼みたいことが―――――」
今回はどうだったでしょうか。デュノア社については2、3話後ぐらいに出せると思います。
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それではまた次回