げんそうごろし!~Imagine Breaker~【凍結】   作:海老酢

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【第二話】あのとき

 

 

家計簿って頼もしい。

 

 

つけているとなんと来週のことがわかるのだ!

この部活が始まった頃は明日の事も分からなかった。

 

この部活。学園生活部はめぐねぇと私が考え、みんなで作り上げた部だ。

あの『災害』……といっていいのかは分からないけれど。

 

ある日私たちの日常(せかい)は終わり、新しい非日常(せかい)が始まった。

唐突に。何かの伏線など存在せずに。続くと思っていたものは呆気なく。

 

知り合いも、他人も、全てが『彼等』になってしまった。

横目に窓の外に広がる景色を眺める。そこにはおぼつかない足取りで校庭を歩く『彼等』。

既存の言葉で表すのなら腐った死体。尊厳を失った動く遺体。ゾンビ。

 

それが。その言葉たちが適切だろう。それ以外に『彼等』を表してはいけない。

そう私の心が叫ぶ。自分に言い聞かせている。

 

『彼等』を生前の姿に。人間という一つの種として扱ってしまえば。

おそらく私は持たない。『彼等』を直視できなくなってしまう。

 

だがそれ以上に。くるみはもっと耐えられない。

 

 

(………………………………)

「?」

 

 

椅子に腰掛けながらシャベルを磨いているのはくるみ。

私と同じ巡々丘学院高校の三年生であり、学園生活部の戦闘係(・ ・ ・)

 

彼女には本当に申し訳ないと思っている。くるみはその手に握るスコップで何体もの『彼等』を処理してもらった。

処理してきた『彼等』の中にも親しい友人や親友、顔見知りも居たはずなのに。

 

そう思うだけで胸が苦しくなってゆく。くるみのほうがもっと辛いはずと分かっていても。

ただ悲しく、ただ(むな)しく。自分の無力さが憎く感じて。

 

だけど。彼女には守りたい人がいるからおそらくは大丈夫だろう。

その人が彼女の心の支えになっている、くるみの精神安定剤の役目を担っている『彼』がいる間は。

 

 

「……………………先輩」

 

 

小声でくるみが『彼』のことを呟く。

その表情は完全に恋する乙女そのもの。

 

 

「先輩が恋しいのかな~?」

「は、はァァぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!??」

 

 

顔を真っ赤にしながら急に叫びだしたくるみ。

思わず耳を手で塞ぎ、叫び声をシャットアウトに成功した私はニヤニヤと悪戯に引っかかった子を見るような視線をくるみに向ける。

 

ぼそぼそと「べべ、別に先輩が気になっているとか先輩が大好きだとかそんなこと言ってないし」と盛大に自爆していた。

そこまで言っていないのになぜこうも綺麗に自爆出来るのかが知りたい。

 

混乱しているくるみを見ながら飲む水は格別だと改めて確信する。

そんな思考が出来る私はやはりちょっとしたSなのだろうか?

 

混乱から立ち直ったくるみは顔を真っ赤にしたままシャベルの柄を握り締め、片方の手で私を指差す。

深呼吸をしてからくるみは――――――――――――

 

 

「当麻のことになるとポンコツになるりーさんに言われたくない!!!」

「ぶっ!?」

 

 

爆弾を投下した。わたしにとってはとにかく特大の。口に含んでいた水を一気に吐き出す。

まるでスプレーから噴射される水のようだと思うが。結局は汚い。

 

一度口に含んだからこそ、起きている事は同じでも全然違う。ああ、いくら爆弾を投下されたからって吹かなければ良かった……………じゃなくて!!

 

 

「くるみ!?ななな何を言っているのかしら??べ、別に当麻は関係ないじゃな

「おっ、赤くなってる。赤くなってるなぁ~りーさん」

「そんな訳っ」

「やっぱ図星か」

「~~~ッッ!!」

 

 

ヤバイ。流れが完全にくるみに行っている。主導権を握られてしまった。

これでは……………これでは頼れるお姉さんキャラが売りの私への被害が尋常ではなくなる!!

一言で言うと洒落にならないのよ!!

 

 

「ふ、ふふふふふふふ」

「ど、どうしたよりーさん?」

「そういえば先輩のお世話。しなくていいの?」

「えっ…………………………………ああッ!?」

 

 

慌てた様子でくるみは手提げ袋を床に置いてある段ボール箱の山の一つから取り出し、

水の入ったペットボトルやカンパンなどを中に敷き詰める。

くるみが行っている役割は二つある。一つは『彼等』の処理。そしてもう一つは。

 

 

「先輩、私がいなきゃ何も出来ないからなぁ♪」

 

 

当麻以外の学園生活部の仮入部部員である先輩さんのお世話。彼の名前は分からない。

くるみが以前入部していた陸上部での先輩で、くるみの初恋の人。

 

 

あの日、くるみと先輩は当麻と共に私たちがいた屋上に避難してきた。

何とか噛まれずに済んだようだが避難している途中で足に怪我を負い、歩くことが困難になった。

 

 

そうあの時は――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!」

「ッ!?」

 

 

一度にいろんな事が連続で、連鎖的に起きすぎて私は状況を飲み込むことが出来ない。

いや、飲み込もうとしたはしたものの結局は今なお動き続けるこの状況の一つ一つに対応することが精一杯。

 

今起こっていること、過去起こったことを振り返り、分析するほどの余裕が私には無かっただけだ。

その中で私はくるみの一声で現実へと引き戻された。ここは屋上。園芸部が所有する菜園があり、多くの野菜を育てている。

 

継続して止まらない振動が私の身体を揺らす。振り返るとロッカーがあった。

普通の状況ならば何故扉の前をロッカーで塞いでいるのか、それを私たちが身体を使って押さえつけているのかは

分からない。

 

 

それが普通の状況ならば、だ。

 

 

扉の奥から『何か』、得体の知れない『何か』が迫っている。私たちを狙うように。

これは日常(ふつう)ではない。非日常(いじょう)だ。

 

 

ここには普通はない。

ここには異常しかない。

 

 

そんな思考に埋もれていきそうになる。

正常が異常に浸食されていく。自分の思い描き、過ごしてきた日常が見たこともない非日常に切り替わっていく。

 

 

「大丈夫だ」

「へ?」

 

 

異常な思考に飲み込まれる寸前。

泥沼のように、一度入り込めば絶望しかない。

そんなものに入り込む直前に。彼は私に言う。

 

 

それは混乱する私を落ち着かせるために言ったのかもしれない。

 

それは泥沼に向かっていた私を引き留めるために言ったのかもしれない。

 

それは己自身に言い聞かせるために言ったのかもしれない。

 

 

けど。

 

 

「確かにこの状況は絶望的かもしれない。救いがすぐ来るなんて考えなんか思い浮かんでもすぐに消してしまうような事態かもしれない。何とかなるなんて楽観的な考えは一蹴されるような緊迫とした状況になるかもしれない」

 

 

けれど。

 

 

「だけど。それでも希望はあるさ。どれだけ絶望がやってきても、不幸が襲い掛かってきても。俺達には夢や希望を持っちゃいけないなんてことは絶対にない。絶望は持っても希望を持ってはいけないなんてそんな道理は歪んでる」

 

 

その言葉はきっと。誰かが聞いたらくさい台詞だと馬鹿にするかもしれない。

だけど。それでも。その言葉は今の私へ安心と何か暖かいものを与えてくれた。そんな気がした。

 

 

「絶望があるなら希望で埋め尽くせばいい。救いが無いってんなら自分達で自分を救っちまえばいい」

 

 

夢物語に出てきそうな、子供向け番組の正義の味方(ヒーロー)が言うような台詞。

本当に今この瞬間にも常に動き続けている現実(リアル)に正しく向き合っているのか。

そう思ってしまう人がいそうな台詞。

 

 

けど。

 

 

「だから、そんな顔をしないでください。若狭先輩。アンタには笑っていてほしいんだ」

 

 

そんな言葉を大真面目に、馬鹿みたいに。こんな絶望的な状況を一蹴するかのように。

彼は。上条当麻は笑顔を浮かべていた。どこか達観しているかのような瞳をしながらも。

 

 

なら。

 

 

彼の言葉に応えるためには。私がやるべきことは。彼に宣言すべき意志は。

 

 

「じゃあ…みんなで笑顔になることを考えましょう。私と貴方を中心に。みんなで一緒に」

 

 

最悪の結末(バットエンド)じゃない。犠牲の払う可能性のある現実(トゥルーエンド)じゃない。

彼の望み、みんなが望む。笑顔で生き残る最高の結末(ハッピーエンド)を作る。

 

 

 

だから私は。精一杯、今できる、最高の笑顔で。

 

 

 

「頑張りましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう誓った。当麻と私はあの時、あの『災害』の最中(さなか)で。

誓いを立てた私達はその後屋上で一緒に扉を塞いでいたゆきちゃん、スマホで情報収集を行っていためぐねぇ、怪我の痛みに悶える先輩さんと先輩さんを抱きしめるくるみを連れて避難場所を確保しに屋上を出た。

 

『彼等』の排除は菜園にあったシャベルを手にしたくるみと当麻がその役を担い、全うした。

始めは抵抗感を持っていたくるみも『彼等』が元々は人間だったことをなるべく考えないようにして何とか処理出来るように。

 

 

それに対して。

 

 

当麻には一切の抵抗というものが存在しなかった。『彼等』の脳天へ正確に。

その手に持つシャベルを『彼等』へと叩き込み、その首を跳ねるために。

本来は土を扱い命を育てる道具を人ならざるものの命を刈り取る凶器へと変えながら、薙ぎ払う。

 

色々と大げさな表現で説明したが、まさしくその通りだった。

そんな表現が適当だと判断してしまう程に。彼は圧倒的な猛威を『彼等』に振るう。

 

 

それは明らかに自分達と同種だった者達への扱いではなかった。

それは明らかに自分達と同じ形をした者達への意識を向けていなかった。

 

 

彼はやはり頼もしいという信頼や彼なら大丈夫だという信用を私に与えると同時に得体の知れない恐怖も与えた。

何故。という言葉ばかりが、そればかりが付いてしまう疑問が頭の中を飛び交う。

 

思い返せばそうだった。常人では混乱の余り冷静な判断を下すことが出来ないような状況下であっても。

当麻はいつも冷静的で、私達へ平常心を取り戻させ、意見を仰ぐことが多く、その役目もよく担っていた。

 

普段は補習常習犯で、親友らしき人物と馬鹿をやっていて、女の子といつも一緒にいて、「不幸だ」と呟いている

それが私の知る上条当麻という後輩。

 

だけど。

 

冷静で、平静で、詳細が一切判明していない『何か』を相手にしてもまるで攻略法を知り尽くした敵を相手にしているかのような動きで『彼等』を殲滅していく。

 

そんな彼に私は畏怖すら感じてしまう。

『彼等』をいとも簡単に殲滅し、道を切り開いていく姿に。

何度も攻略したゲームの周回し続けているプレイヤーのような無駄を極限に省いたようなその動きに。

 

でもそれ以上に。

 

そんな彼に置いて行かれそうなこの状況が怖い。

彼を理解し、支えていける自信が見いだせない自分に怒りが湧く。

 

何とか避難し、3階を制圧出来たその時には『恐怖』と『怒り』が私を支配した。

彼を支えたい、理解したい、隣に立ちたい。

 

ただそれだけだった。

ただそれだけの願いなのに。

 

 

 

どうしようもなく…………………遠かった。

 

 

 

彼はそんなことは気にしないだろう。

これは私の独り相撲。彼が納得するだとか、周りが認めてくれるという問題ではない。

結局は私が納得し、自分自身で認められるか認められないかというだけのこと。

 

でも。

 

いつか彼を理解し、隣に立ち、肉体的にも精神的にも支えることが出来ると認めることが出来たらば。

喜んで彼を支える。それが今の私の目標。その一つ。

 

私と彼が初めて出会ったあの時から、あの『災害』の日を通して、今に至ることで建てることが出来た目標。

絶対に叶えてみせる!!

 

 

「りーさん?」

「ひゅ?!」

「うお!?」

 

 

考えに耽っていたらいきなりくるみが私に話しかけてきた。

びっくりした……………先輩さんの元へ一目散に向かっていったと思っていたのに。

 

 

「ど、どうしたの?先輩さんは?」

「え?」

「え?」

 

 

くるみが何言ってんだこいつ的な視線を私に突き刺す。

その瞳には呆れ、その口元は口角が上がり笑みを作りだしているという不思議な表情。

 

 

「もうとっくに用事は済ませたけど?」

「えぇ!?」

 

 

なんと。私が思い出に浸っている間に先輩のお世話は完了していたらしく、丁度今戻ってきたらしい。

 

 

「あっ……………もしかして当麻のことでも考えてたのかな~??」

「ッッ!!」

 

 

ボンッと。私の顔が茹で上がったかのような感覚に陥る。

いや実際に茹で上がった訳では無い。あくまで比喩だ。そう、比喩。

 

 

「ああ~やっぱり!やっっっぱり!!りーさんの当麻愛には誰も勝てないなぁ~」

「な、なん、ななん……………!!?」

 

 

煙も出ているかもしれない。くるみはくるみで自分が優位に立っていることに優越感を持ち始めている。

愉悦でも感じているのか!そうなのくるみ!?

ダメだ、このままでは先程のように話題を逸らしてまで回避した事態になってしまう……………ッッ!!!

 

 

「でも」

「?」

「先輩さんとずっとイチャコラしている所を見ている私達の立場にもなって欲しいわね」

「……………ッ!うぅ~」

 

 

あ、顔が真っ赤に。例えるなら茹でた蟹やエビのような赤さだ。

顔が一気に赤色に染まっていく様はとても愉快………………ではなく可愛い。

 

これも貴女が悪いのよくるみ。

私を弄る覚悟があるなら自分が弄られる覚悟もしておかなきゃ、ね?

 

というか私とくるみの間で認識の齟齬が生じている。

具体的に言えば、くるみは勘違いをしているのだ。

 

 

「そもそも」

「?」

「私と当麻の間に恋愛感情なんて存在しません!」

「またまた~」

「……ほんとに無いのになぁ」

 

 

あの頃もそうだった。

私が当麻と居るだけで周りが(はや)し立ててくる。

 

別に私と当麻は親友で、部員仲間で、私の家族と仲が良いだけの男友達。

それ以上でも、もちろんそれ以下でもない。

 

 

「で、どうなんだ?」

 

 

手に持っていた手提げ袋の中身をテーブルに置きながらくるみが私に問いかける。

中身を出し終え、用済みとなった手提げ袋はポイッとゴミ箱に丸めたティッシュを捨てるように段ボール箱の中へ。

 

 

「だから本当に…」

「ああ、当麻との関係じゃなくて」

 

 

くるみの否定が私の反論を遮る。

どうやらその話は終わったらしい。

 

 

「その家計簿のこと。どうなんだ?今月は」

 

 

くるみが人差し指でツンツンと家計簿を(つつ)く。

視線を落とすと家計簿には何種類もの物資の在庫の数や消費した電力などの数値が書かれている。

 

そろそろ物資の数が心持たなくなってきた。

電気も、太陽発電で賄っているのだが。横目で外を見ると……

 

 

「物資も少ないし、電気もこのところ雨続きだから………」

「そっか。なら早く調達しに行かないとな」

 

 

この数日間―――――――――現在で五日程だろうか――――――――――雨が降り続け、節約し溜めていた電力も少なくなってきた。

それよりも今は物資の調達が最優先事項だろう。

 

電気は無くとも、多少は不便だが生きていける。

しかし。

食料などの必要不可欠なものが無ければこの状況から助かるどころか、生き残ることすら困難なのは火を見るよりも明らか。

 

 

(早めに行かないと………)

 

 

食料や制服などの物資は購買部に存在する。

そこまでの道のりに闊歩している『彼等』は粗方処理したものの………

 

 

(油断は出来ないわね。いつ、どう湧き出てくるかなんて予想は付かないもの)

 

 

必ずしも予想通りに行かないというのが現実というものである。

突然のトラブルやハプニングはこういった状況下では日常の頃よりも起きやすい。

 

だからこそ下準備などが必要で。

ここからが人間の知恵や適用力の見せ所というものなのだが。

 

さぁ、どうする。

行くとしてもメンバーは先方に戦闘要員のくるみ、その後ろに私とゆきちゃん、最後尾を当麻に任せる配置。

先輩さんは怪我のためお留守番。めぐねえは何かあったときのために先輩さんの近くで待機。

 

メンバー振り分けはこうなるのが必然だろう。

これでもしものことがあっても問題は………ないはず。

 

そう何も………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

ズキッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………ぁ」

 

 

 

 

 

痛い。頭が痛い。頭痛かと思ったが何か違う気がする。

何かの光景が脳裏に浮かぶ。

 

 

それは。

その光景は。

 

 

「りーさん?」

 

 

そこで。止まった。

痛みも何かの光景も。

 

 

「ぁ、ああごめんなさい。ちょっと頭が痛くなって」

「っ…大丈夫か?」

「うん。大丈夫」

 

 

くるみの一声で何とか戻れた。

あの身体の芯を揺さぶるような痛みは無くなった。

痛みと共に浮かび上がってきた光景は消えて無くなった。

 

それが何だったのかは、分からない。

それを理解する前に消えてしまったのだから、解らない。

 

けれど。

 

それを思い出すことはしたくない。

痛みが走ると同時に感じたものが一つあったからだ。

 

恐怖。溢れ出たその感情が私を襲った。

ただそれは原始的な、敵を恐れるような、そんな恐怖ではなかったと思う。

 

 

(何だったのかしら、今のは)

 

 

疑問は尽きない。

その光景が何なのか。知ってはいけない気がするのにしたくなる。

相反する、矛盾した欲求。というよりも好奇心だろうか。

 

だが現状の問題は物資の件。

あの光景、記憶はまた後日に考えることにしよう。

 

さて、どうしたもの―――――――――――――――

 

 

 

 

「学園生活部ちゅうも~く!!」

 

 

 

 

ガラッと部室の扉が勢いよく開かれる。

そこに立っていたのは学園生活部のみんなに笑顔を届ける元気いっぱいの女の子、ゆきちゃんこと丈槍由紀。

 

 

「もうっ、扉は静かに開けなさい」

「ははは、ごみん」

「ふぁ~」

 

 

その後ろにはゆきちゃんを叱るめぐねえこと佐倉慈先生。大きな欠伸をしながらツンツン頭を掻く当麻。

おはようと朝の挨拶を三人と交わしながらゆきちゃんに尋ねる。

 

 

「で、どうかしたの?」

「ゆきのことだから、また変なことでも考えついたんじゃないか?」

「くるみちゃんひどくない!?」

 

 

ゆきちゃんが少し涙目に陥りながら私の胸に飛び込んでくる。

ああ……………………癒される。

 

ゆきちゃんは何だかそう、母性をくすぐる何かを持っていると思う。

それくらいに彼女からは癒しオーラと甘えさせたくなる何かを秘めているのだ。

 

ありがとうと感謝の言葉を述べながらゆきちゃんは私の元から離れていく。

もう少しだけ味わいたいとも思うが仕方ない。

 

 

「それじゃあ改めて!」

 

 

決して大きくはないがある程度の可能性を秘めているだろうその胸を大きく前に突き出す。

自信に満ちあふれる表情を浮かべながら、ゆきちゃんは宣言した。

 

私達にその意志を伝えるために。

その瞳を爛々(らんらん)と輝かせながら。

 

 

 

「みんな、肝試しをやろうよ!!!」

 

 

 

思わず目を細めてしまいそうになるほどの眩しい笑顔で。

 

 




先輩生存ルートです。
今回はりーさん視点。何か矛盾点などがあればよろしくお願いします。

それと一話のゆきの「上条さん男子唯一」発言は正規部員としてはという意味です。
先輩は仮入部員なので唯一はいまだに上条さん。
それではまた次回。

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