白き妖犬が翔る   作:クリカラ

9 / 24
UA通算12000以上、お気に入り800以上、平均評価は8以上、日間ランキング上位……

……皆さん、何かに脅迫でもされてるのかな(白目

という訳で4話も楽しんで下さい

……楽しくないならブラウザバックだよ!


変わらない誓い

 

 

 

 

 

―――とある住宅の一室

 

「えー、みたせ、みたせ、みたして、みたせっと。

 繰り返すつどに五度……あれ? 四回じゃ駄目か。

 五回って書いてあるし、増やしてみようかな。

 みたせ、みたせ、みたして、みたして、みたせっと、よし今度はバッチリ!」

 

そう言って、古めかしい書物を片手に一人の男性が居た。

 

彼の名前は、雨生龍之介。

容姿はオレンジ色の髪が特徴の、20代前半の青年である。

 

龍之介がいる此処は、彼の自宅ではない。

友達の家でも、ましてや彼女の家でもない、全くの赤の他人の家。

 

何故、彼は他人の家に居ながら、其処に住んでいる住民に何も言われないのか?

彼らは何も言わない。

正確に言えば、既に言えない状態(・・・・・・)なのだ。

 

彼らは、人としての生が終わっている。

つまりは死んでいるのだ。

 

誰が彼らをこんな風にしたのか?

勿論、この場に居ながら平然としている、この男(龍之介)がこの惨状を生み出したのだ。

 

彼は、日本各地を転々としながら殺人を繰り返してきた、

連続殺人犯であり、その犯行は40以上にも及ぶ。

 

いま、彼が行っているのは聖杯戦争でサーヴァントを召喚する詠唱の呪文だが、

龍之介は参加者ではない。

厳密に言うと、魔術師でもない。

彼は、魔術回路があるだけの一般人なのだ。

 

ならば何故、彼は聖杯戦争の召喚魔術などを詠唱しているのか?

龍之介がこんな事をしている理由は、ただ悪魔に会ってみたかったからだ。

 

彼が、実家の土蔵から古文書なる物を偶然にも発見し、

そこに書かれている召喚呪文を悪魔を呼び出す何かだと勘違いしたのが始まりだ。

 

もしかしたら、悪魔は居るのかも知れない。

もし、居るのなら会って話をしてみたい。

この古文書を見つけた時に、彼はそんな事を考えた。

そして、龍之介はそんな考えの下にこの惨劇を引き起こした。

 

今の彼は、殺害した夫妻の血液で召喚魔法陣を描きつつ詠唱をしている最中だった。

そんな彼に、荒い息遣いが聞こえてきた。

 

夫妻には、まだ小さな少年が居た。

少年は親を目の前で殺されていながら、まだ生きていた。

正確には龍之介が親と一緒に殺さず、縄で縛ってその辺りに放置しているのだ。

 

龍之介は悪魔をホントに召喚できた際には、

何か供物を奉げなければいけないのでは……と考えていた。

その場合、何をプレゼントしたら喜ばれるかを彼は考えた。

そして龍之介は、贈り物をコレ(子供)に決めたのだ。

 

「ねえねえ? ぼーやは悪魔ってホントに居ると思う?」

 

彼は人を殺したとは思えないほどの気軽さで、子供に話掛けた。

 

「テレビとか新聞でさぁー、俺の事を悪魔呼ばわりしたりする人たちがいるんだけど、

 それってさぁ、本物の悪魔が居たら失礼な話だよね?」

 

そう言って彼は、少年の傍に寄っていったが彼の体は震えていた。

 

当然だろう、いつもの日常を過ごしてきたら、唐突に訳も分からない内に親を殺され、

居るかどうかも知らない悪魔の生け贄にされる等、こんな地獄があるだろうか?

 

少年にしてみれば、居るかも分からない悪魔より目の前の龍之介(悪魔)に恐怖するのは当たり前である。

だが、龍之介はそんな彼の心境などお構いなく話を続ける。

 

「だからさぁ? 偶然にも家の土蔵で発見しちゃった、この古文書に書いてある呪文でさ、

 ひとつ本物の悪魔って奴を呼びだそうって考えた訳よこれが!」

 

少年にとって、この男(悪魔)は一体何の話しているのか理解できなかった。

言葉が通じないなどの話じゃない。

コレ(龍之介)がホントに自分と同じ人間なのかも、今の彼には分からなかった。

だが、そんな彼でもこれだけは理解できた。

 

「でも、ホントに悪魔って奴が出て来ても茶飲み話だけってのも味気ないじゃん?

 だからさぁぼーや……ここはひとつ殺されてみてくんない?」

 

自分は此処で死ぬのだと。

 

その瞬間、彼は塞がれた口からあらん限りの声を上げた。

 

……死にたくない!

……まだ自分は、死にたくない!

 

それだけを、今の彼は考えた。

その必死に生きようとする彼の姿に、龍之介は爆笑していた。

 

「はっはっはっはっ! 悪魔に殺されるのってどうな体験なんだろうね!」

 

龍之介が少年の反応を楽しんでいたその時、

彼の右手に痛みが走り、三画の聖痕が浮かび上がった。

彼はこれが一体何なのか考えていると、魔法陣の方から眩い光が差し込んできた。

 

その光景に彼は言葉を奪われていると、光の中から一体のサーヴァント(悪魔)が姿を現した。

 

「問おう。我を呼び、我を求め、キャスターを依り代に現界せしめた召喚者(マスター)

 貴殿の名を此処に問う。祖は、何者なるや?」

 

それは異様な風体をした存在であった。

着ているローブは古めかしく、長身で在りながら体を大きく曲げて自身を小さくし、

カエルめいた異相をした悪魔というより、絵本にでてくる黒魔術師などに見て取れた。

これに対し龍之介は、何か答えなければと思い言葉を発した。

 

「……あぁー、えっと、名前は雨生龍之介っす。

 職業フリーター、趣味は人殺し全般、子供とか若い女が好きです」

 

通常この様な自己紹介をされれば色々と問題が生じるが、サーヴァント(コイツ)は普通では無い。

寧ろ、その龍之介の解答はこのサーヴァントにとって、正しい正解であったのかもしれない。

 

「よろしい、契約は此処に成立しました。貴殿が求める聖杯は私も悲願とするもの、

 かの楽園の釜は必ずや我らの手にする所でしょう」

 

「……せい……はい?」

 

龍之介はキャスターが言っている事の意味を、

余り理解していなかったがそこは如何でも良かった。

そこで、悪魔?に奉げる生け贄を用意してた事を思い出した。

 

「あっそうだ! アレ(子供)、アンタの為に用意しといたんだけど、食べない?」

 

キャスターが視線を向けたその先には、先ほどまで恐怖に怯えていた少年が居た。

少年もその視線に気づき何とか逃げ出そうと試みたが、子供の力では到底抜け出せなかった。

 

キャスターはそれを見て何かを考えた後、懐に手を入れて奇妙な本を取り出した。

 

「あっ! それ人間の皮で出来てる奴でしょ!」

 

人は殺し続けてきた彼だからこそ、すぐに分かったのだろう。

だがそんな彼の言葉を無視して、キャスターは龍之介が理解できない言語を

少し呟くとその本を懐に締まってしまった。

 

次にキャスターが行った事は何と、少年の縄を解き始めることだった。

これには少年も驚いき、また龍之介も驚いた。

てっきり殺されるのだとばかり思っていた少年は、困惑した表情でキャスターを見た。

 

「――怖がらなくていいんだよ。坊や立てるかい?」

 

キャスターの言葉に少年は頷きで返事をした。

彼は子供の動作に微笑みで返し、言葉を続けた。

 

「さぁ坊や、あそこの扉から部屋の外に出られる。周りを見ないで、前だけを見て、

 自分の足で歩くんだ。――ひとりで、行けるね?」

 

少年は流されるようにその扉を開け、そして明るい廊下の先に出た。

その行動に今まで黙っていた龍之介が声を上げようとしたが、

それはキャスターに止められ出来なかった。

 

キャスターは分かっているのだ。

この少年は此処で自身が操る水魔に、その短い生を終えるのだと……

 

 

 

 

 

此処で少年は死ぬ。

間違いではない。

間違いではないが、それは正しくもない。

 

世界とは都合が良い事も、悪い事も含めての世界なのだ。

物語で囚われたお姫様が、悪者を退治する勇者に助けられるのは王道すぎるのか?

 

いや、王道の何が悪い。

物語の定番だからと云って、それが在り来たりだから駄目なんて誰が決めた?

 

そんなの、世界(作者)が決める事だ。

とある世界の主人公はある作家の英霊に、この物語は“書きたいもの”なのかと問うた。

 

『バッカ、そんなものオマエ、“書きたいもの”に決まっているだろう!!』

 

彼はこう言って退けた。

……まあ、彼の楽しみ方はちょっと、変わっていたかもしれない。

 

だが、言いたい事は概ね同じだ。

描きたいものを書く、正しくその通りだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さあ、物語(別世界)の続きを話そう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は廊下に飛び出した後、玄関先から溢れてくる光に目を細めた。

生きてる……その実感を噛み締めながら、彼は一歩一歩前に歩いていく。

 

その時、音が聞こえた。

何気なく後ろを見やると、目の前に何かが居た。

言葉で表せない何かが、其処には存在した。

 

 

――あっ、死ぬんだ

 

 

何故か少年は、そんな感情が出た。

唯々、分かってしまったのだ。

今からコイツに、殺されるんだな……と。

 

 

――なら、もういっか……

 

 

少し、遅れてしまったが家族が居る場所(天国)へ。

少年は、その瞳を閉じた。

 

 

……

 

 

…………

 

 

………………

 

 

……………………?

 

 

何時まで経っても、少年に魔の手が来ない。

少年は、恐る恐る閉じていた目を開けると其処には……

 

 

――白い、モフモフだった

 

 

???

少年は困惑した。

形容し難いものが消えたと思ったら、代わりに白いモフモフが在る状況に

困惑するなという方が無理だろう。

だが、よく観察するとそれは自身の目の前に立っている、

大きな人の肩から垂れ下げっているものだと理解できた。

こちらの視線に気付いたのか、その人はゆっくりと身体を反転させ、その全貌を魅せた。

 

白い。

少年の感想はそんな処だ。

その人間離れした美貌も、腰や背中に差している刀も目に入らず、

白い着物、白い?髪、白いモフモフ。

白色にしか、少年の視線はいかなかった。

 

そんな、子供の呆然とした顔を気にせずにその人物は、少年をそっと抱いた。

少年は一体何事だと焦ったが、次の瞬間には睡魔に襲われていた。

 

彼には理解できないだろうが、これは簡単な催眠魔術の一種だ。

魔術に対抗する術がない一般人には、すぐ効く代物だった。

 

現に、少年の意識は残り僅かとなっていた。

そんな彼の耳に『これは全部、悪い夢だ。次に起きた時は、全てを忘れて日常に戻ると良い』と

優しく聞こえてきた。

 

 

――そうか、これは悪い夢なんだ

 

 

少年は、すんなりとこの暗示に掛かった様だ。

これも一般人には効くのだろうが、このような衝撃的な出来事は、早々忘れられないだろう。

一端、忘れたとしてもいつの日か思い出してしまうかも知れない。

こればっかりは、この少年の心を信じよう。

そう願いながら、白い人物はその魔術を掛けた。

 

そして、ここで少年の意識は完全に失った。

 

 

 

 

 

―――さて、ならここからはサーヴァント(殺生丸)のお仕事だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨生龍之介は困惑していた。

子供を逃がしたのもそうだったが、目の前にいきなり現れたコイツ(殺生丸)の登場にも困惑した。

そして、コイツ(殺生丸)が登場した辺りからこっち(キャスター)の様子も変だった。

 

キャスターが変だったのは、ただ歓喜していたからだ。

共に戦場を駆け抜けた戦友(・・・・・・・・・・・・)と時空の果てに出会えた奇跡を。

 

「ああ! ああ! ああ! 会いたかった! 私は貴方に会いたかったのですよ、殺生丸!!」

 

「――お前は、ジル…なのか?」

 

「ええ! ええ! ええ! 貴方とジャンヌと共にあの大地を駆け抜けた、ジル・ド・レェです!!」

 

 

 

 

 

―――ジル・ド・レェ

 

聖女ジャンヌ・ダルクと共に、百年戦争の終結に貢献した『救国の英雄』とも呼ばれ存在だが、

彼女が異端として処刑されたことで精神を病んだとされて、

子供を次々と拉致しては凌辱・惨殺するという所行を繰り返し、

後の世の童話『青髭』のモデルとされた人物だ。

 

 

 

 

 

「ああ! 貴方と共にこの聖杯戦争(聖戦)を戦えるとは、私にとって何と幸先が良いのか!」

 

ジル・ド・レェは殺生丸が自分の下に、聖女を救うこの戦いの為に

その姿を現してくれたのだと信じて疑わなかった。

だが、殺生丸は端からそんな事を考えて、この場に来たのではなかった。

彼は、ただ嘗ての友の姿を取り戻しに来ただけなのだ。

 

殺生丸は、今迄蚊帳の外であった、ジルのマスターである龍之介に近づくと、

彼が何かを言う前に令呪が浮かんでいるその右手を斬り落とした。

 

「…………?」

 

彼は自身に何をされたのか理解しきれなかった。

英霊の、それもこのクラスの達人となると相手に斬らせたことにも気づかずに

終わらせることが出来る。

 

次に気付いた時は変な切れ目が入った空間に飛ばされた後だった。

彼も、臓硯と同じように自身に何が起こったのか正確に理解しきれないまま、

その生に幕を下ろした。

 

これを目の前で見ていたキャスターも理解しきれなかった。

何故、彼は私のマスターを殺したのだろう?

そんな事を考えている間に、殺生丸は次の行動に出ていた。

 

 

 

 

 

話は変わるが、ここで殺生丸は魔術を使えるのかという質問については、イエスと答える。

先ほどの少年を魔術で眠らせたのも彼である。

 

彼が魔術を学んだ最初の経緯は、正直しょうもない理由であった。

……旅をするにあたって、言語の壁は厚かった……とここでは言わせて貰おう。

 

その後も、元気な宝石のゼル何とかさんに御節介にも色々教えて貰い、

結構なレベルをマスターしているとか。

……まあ、その所為で赤い月関係に巻き込まれて、

本気でアイツ殺そうかなと考えてみたりしたとかetc...

 

つまり、彼はこの令呪をマスターを介さずに、強引に使用する術を持っているのだ。

 

 

 

 

 

彼は龍之介の令呪を使い、キャスターにある命令(・・・・)を下した。

 

「令呪を持って命ずる。キャスター ジル・ド・レェよ、

 英雄ジル・ド・レェとしての誇りを取り戻せ」

 

それを聞いたキャスターは驚愕した。

 

「何故、そのような事をするのです! 殺生丸!!」

 

だが、殺生丸はその問いに答えない。

 

「次に第二、第三の令呪を持って、これを永遠のものとする」

 

令呪とは、サーヴァントを御する三回だけの絶対命令権。

それは魔法の域に分類する空間転移ですら可能にする、大魔術の結晶。

対魔力のスキルで多少はサーヴァント側でも対抗する事が出来るが、基本的には絶対服従である。

 

そして、令呪は方向性が定められた命令に対しては絶大な効力を発揮する。

三つも重ね掛けしたともなれば、それは絶対の掟となる。

 

「何故っ! 何故っ! 何故っ! 何故なのですっ!

 セェェショョウマァルゥゥーーーーーーッッッッ!!!」

 

青髭ジル・ド・レェは何故友が裏切ったのか、最後まで理解しきれなかった。

 

 

 

 

 

殺生丸が彼らと最後に顔を合わせたのは、聖女も健在していた時期である。

その為、厳密に彼は青髭ジル・ド・レェと顔を合わせたことは無いのだ。

 

……だがたとえ、姿形が友に近しくてもそれは彼にとって、もはや別人でしか無かった。

もし、救国の英雄と呼ばれた彼が、あの姿(キャスター)を見たなら必ず止めてくれと私に言った筈だ。

それが分かっていたからこそ、彼は令呪をあのような形で使い果たしたのだ。

 

自分(青髭ジル・ド・レェ)のことは、自分(英雄ジル・ド・レェ)で何とかしろ。

それが、共に戦場を駆けた友に対する、彼なりのやり方であった。

 

 

そして、令呪の効力が全てキャスターに行き届き、

殺生丸の目の前には正しく戦場を一緒に駆け抜けた時の、友の姿が其処には在った。

 

英雄ジル・ド・レェは、こちらを乾いた笑みを浮かべて見つめていた。

 

「――久しぶりですね、わが友 殺生丸」

 

「――些か以上に寝覚めが遅いぞ、ジル」

 

本来、人と妖では時の流れが違う為、奇跡でも起きない限り再会など在り得ない。

だが聖杯戦争(此処)は奇跡の場、その程度のことは造作もない。

 

故に、この再会は寧ろ必然であったかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――500年以上の時を超えて再会した、人間()物の怪()の姿が此処には存在した――――

 

 

 

 

 

……このフレーズ的に、普通は男女の再会だよね……聖女とかさぁ……作者()って、ほんとばか……

 

 




ホントに書き終わってから、この場面的におにゃの子だろーと思ってしまった作者です

またしても、話が進まない……
金ぴかや青セイバーはいつになったら会えるのか

もう出会えたらゴールしても良くね?
……え?やっぱりダメ?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。