白き妖犬が翔る   作:クリカラ

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本編
雁夜の救い


 

 

 

 

 

―――前世の記憶がある。

 

そんな書き込みを以前ネットで見たことがある。

面白半分で書き込んだのか、本当に記憶があったのかは自分には分からない。

真実なんて書き込んだ本人しか知りようがない。

 

当時の自分は嘘だろうと決めつけた。

何かの言葉に『人間は自身が理解できる範囲でしか物事を理解できない』というものを

見かけたことがあったが、まさに自分はそういった部類の人間なのだと実感する。

 

現に世間一般的な暮らしの中で幽霊や宇宙人に遭遇したことはない。

魔法や超能力者もテレビで報道されるインチキなモノしか知らない。

自分の中でそれらが常識となり、不可思議な現象や存在は空想のものだと考えるようになった。

 

それが当たり前だと思っていた(・・・・・)……そう、思っていた(・・・・・)…だ。

 

長々と前置きを喋ったが簡潔に述べると前世の記憶を持ったまま転生した、妖怪に……

それも只の転生ではなく、自身が知っているキャラに憑依しての転生だ。

 

……いや、別に人間に転生できなかったのが嫌だった訳じゃない。

寧ろ虫や魚などに転生してないだけマシだと考えた。

 

妖怪と云っても、自分はヒトに変化できるタイプで人間だった頃と然程変わらなかった。

……まあ、生まれた時からヒトの形を保っていたので其処は如何でもいいのだ。

 

問題は、転生したキャラ自身である。

 

長い銀髪に、額に月の形の紋…頬に二本の紋様がはいった面立ち、名がセッショウマル。

……これ犬夜叉に出てくる殺生丸様じゃね?

 

 

アイエエエエ! セッショウマル!? セッショウマルナンデ!?

 

 

 

 

 

―――殺生丸

 

犬の大将と呼ばれる西国を支配した大妖怪の嫡男、自身も強大な力を持っている純血種の大妖怪。

 

―――ある時は、犬夜叉(異母弟)鉄砕牙(形見)の奪い合いで腕を切り落とされ

―――ある時は、犬夜叉を狙う奈落(ラスボス)に利用されて始末しようとするも幾度となく逃げられ

―――ある時は、天生牙(形見)冥道残月破()が本来は犬夜叉に与える為のものだった

―――など、不憫な場面が多々ある。

 

だが同時に、彼は気まぐれで救った少女りんとの出会いを皮切りに情が芽生えていく。

奈落()の分身であった神楽(女性)との別れ、親から子へ託された真の想い、

様々なモノを物語の中で見出していき、父親(大妖怪)を超える存在へと成長を遂げる。

 

ついには殺し合う存在であった犬夜叉に手を貸し、奈落を倒すまでに至った。

 

 

 

 

 

―――話を纏めると、殺生丸(大妖怪)の身近は危険だと云うことだ。

 

作品には書かれていないが父が没した後、西国を収める存在が居ないため必然的に彼が後を継ぐ。

母が代わりに西国を収めたかもしれないが、本来は後継者の殺生丸が後を継いだと考えるべきだ。

 

妖怪の世界は弱肉強食、上に立つ者は絶対の支配者でなければならない。

もし弱者に成り下がってしまったら、即座に寝首を掻かれるだろう。

 

殺生丸は戦国最強の異名を持っており、物語的に犬夜叉や奈落に負けただけで弱い訳ではない。

寧ろその名の通り、妖怪の世に於いてもトップの実力者であろう。

 

ここで考えなければならないのは、飽くまで最強であったのは本人だと云う事。

大妖怪の血、そして数多くの経験が彼を強者に仕立て上げたのならば、自分もそれに倣う他ない。

弱者の時に他の妖怪に襲われていたのでは、些か遅すぎる。

 

本人より強くなれるかは努力次第だと考えたら、頑張れそうな気もしてくるし大丈夫な筈だ!

やればにんg……じゃなかった、やれば妖怪できるものさ!

 

 

―――よし! 俺は、妖怪最強を目指す!

そして本人より強くて優しい兄上となり、産まれてくる犬夜叉(味方)と一緒に日ノ本を駆け巡るぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その時は、まだ何も知らなかった。

 

殺生丸(自身)が存在するならば、この世界にも犬夜叉は産まれると考えていた自分は、

後になってその想像は見当違いだと理解する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ここは犬夜叉(主人公)が誕生する世界ではない、全くの別世界なのだと―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――西暦1994年、場所はとある地方都市『冬木市』

 

周囲を山と海に囲まれた場所であり、近代的に発展した新都、

昔ながらの町並みを残す深山町の主に二つのエリアに区切られた自然豊かな地方都市。

 

此処は日本でも有数の霊地であり、ある戦争の舞台となる場所だ。

 

 

その名は―――

 

 

 

 

 

―――聖杯戦争

 

万能の願望機である『聖杯』を巡り、七人の魔術師(マスター)が霊長の守護者たる英霊(サーヴァント)を召喚し、

争い合う小さな"戦争"。

他の六組を排し、最後に残った一組に願いを叶える権利が与えられる。

 

数十年に一度の周期で行われる聖杯戦争の狼煙がもう間も無く、冬木に上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――間桐邸

 

『間桐』とは数百年前に冬木に根を張った魔術師の家系であり、

冬木の高い霊脈を使い『遠坂』『アインツベルン』と協力し、

聖杯降臨の術式を完成させ、これまで聖杯戦争に携わってきた御三家の一つである。

 

その間桐邸で、もだえ苦しむ男が一人居た。

 

 

―――間桐雁夜

 

いま、彼の有様を見たら普通の人は目を見張るだろう。

髪の毛は色素が抜け落ちたかの様に真っ白で、

左半身は魔術回路を補う刻印虫の影響で殆ど動かない状態だ。

……だが、彼はこんな姿に成り果てても、叶えなければならない願いがあった。

 

 

 

―――桜を救う

 

雁夜は『間桐』の非人道的な魔術を嫌い、11年前に家を出奔した。

そのため本来その身は冬木に留まらず、フリーのルポライターとして生計を立て、

様々な場所へ赴いていた。

 

そんな彼だがここ冬木には定期的に帰って来ていた。

その理由が彼の初恋である『遠坂葵』の存在であった。

 

彼は幼馴染である葵に好意を寄せていたが、

魔道と称し非道の数々を行う間桐に彼女を近づけたくないという思いから、

只の幼馴染として振る舞っていた。

また、遠坂時臣のプロポーズに対して笑顔を浮かべる彼女を見て、

自身の幸せより葵の幸せを優先しその身を引いた。

彼女の夫である時臣は気に入らない存在だったが、葵を幸せにしてくれるとそう信じ、

雁夜は普通の幼馴染として、彼女の人生を見守ることに決めたのだ。

 

彼女の第一子である凛が生まれ、翌年には桜が誕生し、

新しい家族に囲まれた彼女の嬉しそうな姿は、

自分の選択が間違っていなかったと思わせてくれた。

 

だがそれは……桜が間桐の養子にされると聞くまでだった。

 

『遠坂』と『間桐』は聖杯関係で古い盟約を結んでいる。

時臣は凛と桜のどちらも優秀すぎる才能を惜しみ、

そして身の安全を考えて桜を間桐に養子に出したのだ。

 

桜の魔術属性、『架空元素』は現代において封印指定に属すもの。

封印指定とは、希少能力を持つ魔術師に魔術協会が発令する事例で、

希少能力を永遠に保存するために「保護」する制度である。

しかしそれは名目にすぎず、やることはホルマリン漬けの標本にして飾るのと変わらない。

 

この危険性を考えた時臣は桜を魔術師としても、

最愛の娘としても救いたい思いで間桐家へ養子に出した。

桜を救うためには魔術家の加護を必要とする為、

そして自身の後を継いだ凛か桜のどちらかが遠坂の悲願を達成すると願って……

 

ここで遠坂時臣は二つの間違いを犯した。

一つは間桐が今も真っ当な魔術を行っているのかどうかの確認。

そしてもう一つは桜に自身の状況を理解させなかった事。

 

この二つの事について確認を怠った為に桜を地獄へ送ってしまった。

 

そして時臣が何を考えて桜を間桐に養子に出したのか分からなかった雁夜も彼を憎悪した。

 

 

『何故、奴は……娘を…桜をこんな間桐(地獄)へ追いやったッ!!』

 

 

葵さんはこの家がどんな地獄なのか知らないのだろう。

知っていたら彼女は止めてくれた筈だ。

『間桐』は数百年前から間桐臓硯が支配している魔境だった。

人の血肉を啜り、蟲そのものとして500年もの間、今生に留まる妖怪(害虫)

臓硯に捕まった女は蟲に体を凌辱され、間桐の跡継ぎを産む胎盤としてだけの肉塊になり、

子供を産んだら最後は蟲の餌だ。

人間の尊厳も女としての価値も文字通りここでは蟲以下だ。

だからここには葵を近づけまいとしたのに……娘の桜が来てしまうなんて……

 

雁夜は分かっていた。

この元凶は間桐臓硯で、その片棒を担いだのは遠坂時臣だとも……

その一人に自分も入っているのだと……

 

臓硯が桜を養子にした理由はまともな魔術回路を持っている者が居なかったからだ。

彼の兄である鶴野には少し回路があったが、

その子である慎二は魔術回路が全て閉じて使い物にならなかった。

もし雁夜が家を飛び出さずに留まっていれば、

少なくとも桜が間桐に引き取られることは無かっただろう。

 

雁夜が間桐に戻ってきたのもただ桜を葵の元に帰す為だ。

聖杯戦争に勝利し、聖杯を持ってくる事で桜を解放するという取引を臓硯と契約した。

 

そのためにはまず魔術を学ぶ必要があった。

聖杯戦争に参加するための最低条件として、魔術回路を持っている、

参加資格である令呪が宿る、この二つが叶い初めて参加資格を得る。

雁夜は魔術を学ぶ以前に出奔したため、手始めに魔術を扱える様にならなければいけない。

だが、魔術は一生を掛けて学んでいくものであり、直ぐに覚えられる代物じゃない。

故に雁夜は、魔術を学ぶ時間の代わりに己の命を代用した。

刻印虫を体に馴染ませ、急造の魔術師となり聖杯戦争の参加資格である令呪を得たが、

その代価として余命は一か月ほどになった。

それでも、雁夜に後悔は無い。

 

 

―――それで桜を救えるならばと……

 

 

―――そして……

 

 

「遠坂ァ……時臣ィ……!」

 

 

同時に雁夜は、遠坂時臣に憎悪の炎を燃やしていた。

そもそもアイツが桜を間桐に養子として送り出さなかったら、

こんな事にはならなかったのだと彼が考えた為だ。

 

ここで時臣の思惑を知らなかったことが、雁夜にとって感情の抑制を無くさせていた。

雁夜はこの聖杯戦争で時臣を殺そうとしていた。

奴さえ居なくなれば、葵も桜も幸せになれると今の彼は盲信染みた考えをしていた。

 

彼では気付けない。

 

桜を救うことと時臣を殺すことは直結していないのだと……

最愛の人の夫であり、救おうとしている少女の父親を殺そうとしている状況に雁夜は気付けない。

 

だが、今の彼にその矛盾を指摘してくれる存在も居なければ、気づける要素もない。

このまま往けば、彼も周りもいつか来る破滅の時が訪れるのも気付かずに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして時が来た

 

 

普段、夥しい数の蟲が蠢いている蟲蔵には、英霊召喚に必要な魔法陣と触媒が置いてあり、

その場には、雁夜と臓硯 二人の姿があった。

 

雁夜はサーヴァントを召喚するに当たって、臓硯より詠唱の呪文に一節加える様、

指示を受けていた。

それは『狂化』のスキルをサーヴァントに施すものである。

 

冬木の聖杯戦争は、七騎の英霊(サーヴァント)に七つの役割(クラス)を設けて、

英霊を完全な形で召喚するのではなく―――

 

 

 

剣士の英霊(セイバー)

弓兵の英霊(アーチャー)

槍兵の英霊(ランサー)

騎兵の英霊(ライダー)

魔術師の英霊(キャスター)

狂戦士の英霊(バーサーカー)

暗殺者の英霊(アサシン)

 

 

―――と、それぞれの伝承に基づく『役割に即した英霊の一面』というものに限定して、

現世への召喚を可能としている。

 

英霊を呼び出す際に用いる触媒でどの英霊を呼び出せるのかある程度決まるが、

肝心のクラスを限定することは出来ない。

ギリシャの大英雄ヘラクレスを呼び出そうとした場合、

彼の伝承ではキャスター以外の全てにクラスが適性があり、

特定のクラスで呼べないという状況になることもある。

アサシンのクラスは例外を除いて全て山の老翁(ハサン・サッバーハ)となる為、

基本的にマスターたちはそれ以外のクラスを狙うが、一つだけ特定して呼び出せるクラスがある。

 

それがスキル『狂化』で理性を無くした、狂戦士(バーサーカー)である。

バーサーカーは伝承において狂気を得たエピソードを持つ英霊ならば、大抵の者を呼び出せる。

特定の英霊を特定のクラスで召喚するという条件ならばこれでクリアできる。

 

これだけだったら狂戦士(バーサーカー)のクラスが当たりだと思うかも知れないが、

当然それ相応のリスクが発生する。

 

バーサーカーはステータスを上昇させる『狂化』の対価に、

魔力消費量が膨大になるというデメリットがあり、元から強力なサーヴァントには使えないのだ。

それに加えて、一部の能力が使用不能になったり、

理性が失われている為に制御が効かなくなる場合もある。

 

今までの聖杯戦争では、バーサーカーのマスターたちは魔力切れによる自滅で全て敗退している。

故に雁夜などの急造魔術師が一番に召喚してはならないクラスなのだ。

 

そんな事は無論、臓硯も気付いている。

コイツにとって雁夜は只の余興。

少しの間、退屈を紛らわす為の玩具としてしか、価値を見出していないのだ。

聖杯も勝ち取れたら儲け物、その程度の考えだ。

 

つまり、この聖杯戦争で雁夜が勝てる可能性(未来)など無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――だが、未来とは常に変動する―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――些細な切欠で、異なる未来()を導き出す―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――此処(別世界)は、そういった世界(可能性)物語(Zero)である―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。

 

 

雁夜は呪文を詠唱しながら、むかし好きだった御伽話の事を思い出していた。

その物語の主人公は人間じゃなかったが、圧倒的な強さで敵を倒す姿は子供ながらに憧れた。

 

 

―――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

 

特に好感が持てたのは、偶然で人間の少女を救った時の話だ。

主人公は人間じゃない為、始めは人の気持ちが理解できなかったが、

その少女と心を通わすことによって感情が芽生え初め、

最後は物の怪の身ながら人間たちの為に悪に立ち向かったお話だ。

これを読んで昔は、正義の味方に憧れたものだ。

 

 

―――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

 

 

何故いまになってそんな事を思い出したのかというと、

此処に来る前にその絵本を偶然にも自室で発見したからだ。

雁夜は懐かしさのあまり、絵本をこの場に持って(・・・)来ていた。

 

そして絵本を読み直し、自分も桜にとっての救いになろうと改めて決意を固めた。

 

 

―――されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者。

 

 

こんな救いの主人公(ヒーロー)に自分はなりたい。

でも、それを成し遂げる為の力が足りない……

この時、雁夜は力を求めた。

彼は普段、桜を救い出すことと時臣に復讐する気持ちが混合しているが、

この一瞬、純粋に桜を助ける為だけの救いの力を求めた。

 

本来の物語(Zero)で召喚されるサーヴァントは、湖の騎士(ランスロット)であったかも知れないが此処は別世界。

 

ランスロット以外にもこの呼びかけに応える、物好きなサーヴァント(英霊)が居てもおかしくない。

召喚される、絵本(キッカケ)もある。

なら、この哀れで救いようのない雁夜(弱者)に手を差し伸べてやろう。

 

 

―――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!

 

 

 

 

 

―――この殺生丸(強者)が!

 

 

 

 

 

雁夜の目の前には、見惚れるほどの美男子がいた。

 

膝裏まである長い銀髪、額に月の模様、頬に二本の紋様が入り、白を基調とした着物の上に鎧姿。

目を惹くのは右肩から長い髪と一緒になって靡いている大きな毛皮。

腰には二振りの日本刀を差し、背中に野太刀程度の長さを持つ剣を所持しているのが判別できた。

 

そして、すべてを見通す様な切れ長の金眼には何者をも寄せ付けない、絶対者としての存在感。

肌で、五感で、感じ取れた……文字通り並の英霊とは格が違う存在だと……

 

雁夜は自身が呼び出したサーヴァントの存在に、只々圧倒され、

臓硯は計算違いの結果に大いに焦っていた。

 

一体何だ! この化物は!

臓硯は自分(化物)と比べても、途方もない化物(サーヴァント)の存在に驚愕した。

 

500年もの時を過ごした臓硯は、並大抵のことでは動揺しない自負があったがこれには驚いた。

用意した触媒で呼び出せるのは、湖の騎士ランスロットか精々円卓関係の騎士しか

呼べないと踏んでいたが、まさか全く関係ない英霊を召喚し、

しかもそのサーヴァントが超一級の英霊だったことに臓硯は驚きを隠せなかった。

だが、それと同時に歓喜していた。

これはもしかすると本当に聖杯に手が届くかもしれない。

そんな事を考えた臓硯は、まずサーヴァントを操るために(マスター)である雁夜に命令を下そうとした。

 

そして、ここまでが臓硯の記憶している最後だった。

彼は、その生がいつ終わったのかも気付かなかっただろう。

 

その場に居た雁夜は全てを見ていた。

自分のサーヴァントが臓硯に向かって、腰に差している二振りの内の一本で臓硯を斬ったのを……

そして斬った空間が裂け、臓硯を呑みこんだ所を……

 

雁夜は理解できなかった。

一体、臓硯はどうなったのか?死んだのか?あの刀は何だ?

それにあの空間が裂けたのは?何故?どうして?

こんな考えばかりが、頭の中を堂々巡りしていた。

 

理解できないなら、教えてもらえば良い。

雁夜はそんな単純な思考に思い至り、純粋な気持ちでサーヴァントに聞いていた。

その時は不思議と恐怖を感じなかった。

 

「今のは……一体どうなったんだ……?」

 

それに対して、透き通った声でサーヴァントは丁寧に答えてくれた。

 

「――彼奴から、邪気を感じた。故に、冥界へ魂を送った」

 

 

それはつまり……臓硯は死んだということか?

500年もの間、間桐を支配していた妖怪が居なくなったのか?

 

その結果を徐々に理解していった雁夜は、体から意識が抜け落ちていくのを感じた。

今まで臓硯に対して常に気を張っていた為、その反動でこの身が安全になったと知ると、

体が休息を取る様にと急かして来たらしい。

それに、つい先ほど行った英霊召喚も体に随分と負担を掛けた様だ。

召喚の言葉で自分が呼び出したサーヴァントのことを思い出し、

どうしようかと消える意識の中 考えていたが『……後のことは、任せろ』と聞こえてきた。

それなら大丈夫かなと彼は考えるのを止めた。

少しの間だが、この使い魔(サーヴァント)なら信用できる。

雁夜には不思議とそんな感情が芽生えていた。

このサーヴァントは自分が望んだ通りの存在なのではないかと想ったからだ。

そんな事を考えながら、雁夜はその意識を落とした。

意識を失う一瞬、自分のサーヴァントがこちらに向かって、

何かを言っている様な感じがしたが、雁夜には分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……言えない、臓硯()の視線が気持ち悪かったから、反射的に切り捨てたなんて言えない……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………色々と台無しであった………………

 

 


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