白き妖犬が翔る   作:クリカラ

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長い……今ほど文章力の無さに涙した事はありません……


聖杯問答の終わり

 

 

 

 

 

セイバーの言葉に、その場に静けさが舞い降りる。

ライダーは彼女の願いを聴き、表情に困惑を魅せながら呟く。

 

「……なぁ、騎士王。貴様、いま『運命を変える』と言ったか?

 ――それは、過去の歴史を覆すと云う事か?」

 

「そうだ。例え奇跡を以てしても叶わぬ願いであろうと、

 聖杯が真に万能であるならば、必ずや……」

 

セイバーが言葉を続けられたのは其処までだった。

場に流れる雰囲気が先程とは違う事に気付いたのだ。

 

「えぇと、セイバー?

 確かめて於くが……ブリテンが滅んだのは、貴様の時代の話であろう?

 貴様の治世であったのだろう?」

 

「そうだ。だからこそ、私は許せない。だからこそ悔やむのだ。

 あの結末を変えたいのだ。他でもない、私の責であるが故に……」

 

その時、アーチャーが嗤った。

人の尊厳など毛ほども考えない、侮辱の笑み。

セイバーは彼の反応に、怒りを以てして応える。

 

「――アーチャー、何が可笑しい?」

 

「自ら王を名乗り、皆から王と讃えられて、そんな輩が『悔やむ』だと?

 アハハハハッ! これが笑わずにいられるか!?」

 

尚も嗤い続けるアーチャーにセイバーは怒りを吐き出そうとするが、

彼女より先にライダーが言葉を告げる。

 

「――セイバー。貴様よりにもよって、自らが歴史に刻んだ行いを否定すると云うのか?」

 

「そうとも! 何故訝る! 何故笑う!

 剣を預かり、身命を捧げた故国が滅んだのだ。

 其れを悼むのが如何して可笑しい!」

 

「おいおい、聞いたかライダー!

 この騎士王とか名乗る小娘はよりにもよって、故国に身命を捧げたのだと…さぁ!」

 

「笑われる筋合いが何処にある!

 王たるものならば、身を挺して、治める国の繁栄を願う筈だ!」

 

「――いいや違う。王が捧げるのではない。

 国が、民草が、その身命を王に捧げるのだ。断じてその逆では無い」

 

征服の覇者は、騎士の王に対して断言する。

其れに否を唱えるは、騎士王アーサー。

 

「何を……其れは暴君の治世ではないか!」

 

「然り。我等は暴君であるが故に英雄だ。

 だが自らの治世を、其の結末を悔やむ王が居るとしたら、それはただの暗君だ。

 暴君よりも尚始末が悪い」

 

「――征服王、貴様とて世継ぎを葬られ、築き上げた帝国は三つに引き裂かれて終わった筈だ。

 その結末に……貴様は何の悔いも無いと言うのか?」

 

「――無い。

 余の決断、余に付き従った臣下たちの生き様の果てに辿り着いた結末であるのならば、

 その滅びは必定だ。痛みもしよう、涙も流そう、だが決して悔やみはしない」

 

「そんな……」

 

ライダーの言葉に、セイバーは圧された。

彼の決断を彼女は受け入れられないのだ。

 

「まして其れを覆すなどっ!

 そんな愚行は、余と共に時代を築いた全ての人間に対する侮辱であるっ!」

 

「滅びの華を誉れとするのは武人だけだっ!

 力無き者を守らずして如何する。

 正しき統制、正しき治世、其れこそが王の本懐だろうっ!」

 

騎士王と征服王、時代を築いた二君は互いの主義を言い合う。

そんな彼らの語り合いに、我慢の限界であった獣が呟く。

 

「――下らん」

 

「「……なに?」」

 

会話を止められた両者は、其の者を見遣る。

酒を飲み飽きたのか、杯を手で弄ぶ殺生丸の姿が其処に在った。

 

「――私は、何時まで見当違いの問答を聴かなければならないのだ」

 

「……其れは如何云う事だ、殺生丸?」

 

ライダーの問いに殺生丸は侮辱を混ぜた言葉で返す。

 

「――愚か者が。抑々、貴様たちは互いの王道を語り合うだけで良かったのだ。

 それを話の論点を変えながら問答を繰り広げるなど、愚か者以外の何ものでも無かろう」

 

「……余は別に、他の話などをした覚えは無いが?」

 

殺生丸はライダーの発言に、綺麗な貌を歪める。

度し難いモノを視たと云う様に言葉を続ける。

 

「――愚かを通り越して呆れを覚えるぞ、征服王。

 貴様たちは過ごした時代、国も異なるのに如何して否定し合う?

 何故、他国の王が求める願いを間違いだと断言できる?」

 

「……歴史を塗り替えると云うのは、其れまで積み重ねたモノを無にする行為なのだぞ?」

 

「――其れは、貴様の願いと如何違う?

 征服王イスカンダルの歩みは、とうの昔に終わったモノ。

 歴史に於いて、其れは変わらぬ事実。

 終わった歴史を掘り返そうとしている貴様も……騎士王と同じだ。

 ――貴様たちの願いは、自身の生を諦めきれずに(未来)に進もうとしているか、

 後ろ(過去)に進もうとしているかの違いでしか無い。

 自身の願いを小奇麗な言葉で飾り合う問答を愚かと言わず何と言う?

 ――願いに正否など存在しない。

 在るのは願いを最後まで貫き通せる、自己の強さだけだ」

 

殺生丸の言葉は正論だ。

騎士王の時代も征服王の時代もこの場(現代)に於いては、既に過去の事。

 

征服王の道は過去で既に完了しているモノだ。

新たな続き(未来)など、本来は無い。

 

だが、其れを可能とするのが聖杯だ。

 

騎士王の道は過去で既に終わっているモノだ。

救いの続き(過去)など、本来は無い。

 

だが、其れを可能とするのが聖杯だ。

 

彼らの王道は、決して間違いではない。

 

理想に殉じる騎士道の誉れたる王道(カタチ)

制覇して尚辱めぬ武人の誉れたる王道(カタチ)

 

時代が、彼の王たちを欲したのだ。

 

セイバーは殺生丸の言葉を聴き、漸く心を落ち着かせた。考えれば、簡単な事だったのだ。

コレは聖杯問答。他の王を否定するのでは無い、自身の願い(カタチ)を見せ合う戦い(聖戦)

 

気圧される必要など何処にも無い。

自身が願うモノをただ貫けば良いのだ。

 

「――征服王」

 

「――何だ、騎士王(・・・)

 

先程まで、憂いの面持ちをしていたライダーはその表情を変えた。

対面に座るセイバーの気配が、澄んだモノに変化したのを理解した為に。

 

「――私は、故国の救済を願う。

 民草や騎士、国に否定されても……其れでも私は願う。

 私が想うこの願いは、決して間違いなどでは無い。

 民たちが求めた『理想に殉じる』王として、私はブリテンに在り続ける」

 

「『理想に殉じる』王だと?

 殉教などという茨の道に、一体誰が憧れる……焦がれる程の夢を観る。

 王とはな、誰よりも強欲に、誰よりも豪笑し、誰よりも激怒する。

 清濁を含めて、人の臨界を極めたる者。

 そう在るからこそ臣下は王を羨望し、王に魅せられる。

 一人一人の民草の心に、『我もまた王たらん』と憧憬の火が灯る!」

 

「――其れは征服王、貴様の王道(カタチ)であろう?

 生憎、私が掲げる王道(カタチ)にその様なモノは不要だ。

 魅せなくとも良い、民草一人一人の心には既に灯が芽生えていた。

 私はそれらを守る一振りの剣で……唯の理想で在れば良かった」

 

彼らの問答は続いていく。

 

「――では何故、理想に殉じた貴様は聖杯を欲する?」

 

「――語るまでも無いであろう、征服王。

 私は、理想に殉じてこその騎士王なのだぞ?

 祖国の滅びを阻止するのもまた、我が理想(王道)なのだ」

 

セイバーが告げる決意にライダーは瞳を閉じて聴き入った。

そして、豪快な笑い声を上げる。

 

「がっはっはっはっはっは! 良い! 良いぞ、騎士道の誉れたる王よ!

 其れでこそ、王として『格』を競え合えると云うものだ!」

 

自身の王道()とは違ったモノを示す者、騎士王アーサー。

 

征服王は彼女の願いを受け入れられない。

彼が、臣下との絆を永遠のモノと想っている為に……

 

だが其れでも、一つの時代を築いた王として彼はセイバーを認めた。

其れは、彼女に王としての『格』を視たが故に。

 

彼らに言葉など、最早不要であろう。

互いになすべき事は決まった。

 

「さて、王の『格』を競うのは此処までとしよう。

 互いの『王道』は相容れぬ事が理解出来た。故に、後は剣を交えるのみだ」

 

ライダーは其処で述べ、視線を殺生丸に移す。

 

「――殺生丸。お主の御蔭で余は間違いを犯さずに済んだ、礼を言うぞ」

 

「――勘違いするな、征服王。私は手早く、自身の用を済ませたかっただけだ」

 

「おおっ、そうであった! 元々はお主の話を聞くためにこの場に集まったのであったな!」

 

「……貴様、まさか忘れていたのか?」

 

「いやー、酒盛りの事ばかり思考しておった故に記憶が飛んでおったわ!」

 

「………………」

 

セイバーは、殺生丸から哀愁が漂っている様な気がした。

彼女とライダーの遣り取りをいままで眺めていたアーチャーは、殺生丸の内容に口を挿む。

 

「――殺生丸よ。その話とは一体何だ?」

 

「ん? 貴様には告げていなかったな?

 殺生丸の話と云うのは、聖杯の事についてよ」

 

ライダーの言葉に興味を惹かれたのか、アーチャーに興が乗る。

 

「ほお? 我の宝についてか……では許そう。

 光栄に想え、この我も貴様の話を聞いてやろう」

 

「私は会合を提案された陣営の者です。

 ですので話は聞かせて貰いますよ、殺生丸?」

 

アーチャーに続き、セイバーも話を聞く姿勢に入った。

彼女にとって勝利者に与えられる聖杯の情報は欠かせないのだ。

 

殺生丸は元よりこの場に集まる全員に聞かせるつもりであった故、別段問題は無かった。

そして彼が漸く話が出来ると思った矢先、其れを遮る様に襲撃者が現れる。

 

初めに気付いたのはサーヴァント達。

彼らに遅れて、アイリとウェイバーの二人も敵襲に気付き、相方(サーヴァント)の傍に避難する。

 

そして、警戒した彼らの先に白い髑髏の仮面が宙に浮かんだ。

中庭に浮かぶその数、総勢80近くに及んでいた。

彼らを襲撃した者の正体は、序盤で脱落したと思われていたアサシンのサーヴァントであった。

 

アサシンの登場に疑念の声を上げるライダー。

 

「……コレは貴様の計らいか、アーチャー?」

 

「――時臣め、下種な真似を……」

 

アーチャーは彼の質問に答えるのではなく、己が召喚者を貶した。

 

「無茶苦茶だぁ! 何でアサシンがこんなに居るんだよぉ!」

 

アサシンの登場にセイバーとアイリは警戒し、ウェイバーはライダーの傍で叫んだ。

ウェイバーの叫びに答えるかのように、アサシンが述べる。

 

「――我らは分断された個。群にして個のサーヴァント。されど個にして群の……影」

 

アサシンの言葉にウェイバーは答えを見出す。

 

「……多重人格の英霊が、自我の数だけ実体化しているのか?」

 

アレだけの情報でその答えに辿り着いた彼は優秀であろう。

 

「……なぁおい……ライダー……」

 

「こら坊主、そう狼狽えるでない。宴の客を遇する度量でも、王の器は問われるのだぞ?」

 

「あんな奴等までも宴に迎え入れるのか、征服王?」

 

「当然だ。王の言葉は万民に向けて発するもの。

 わざわざ傾聴しに来た者ならば、敵も味方もありはせぬ」

 

ライダーは自身が用意した酒樽のワインを柄杓に汲み、アサシン達に向けて掲げる。

 

「さあ、遠慮はいらぬ!

 共に語ろうという者はここに来て杯を取れ、この酒は貴様らの血と共にある!」

 

ライダーが捧げる柄杓に対し、アサシンは返答として短刀(ダーク)を投げつけた。

短刀(ダーク)は柄杓を引き裂こうとライダーの手元に向かったが、

着弾する寸前で殺生丸の指に挟まれて阻止される。

 

「――済まないな、征服王。

 いま(・・)貴様に彼奴等(アサシン)を倒される訳にはいかんのだ」

 

「……其れは先ほど話そうとしていた、聖杯に何か関係があるのか?」

 

「――ああ。それ故に、後の事は私に任せて貰おう」

 

そう告げた殺生丸はその場を静かに立ち上がり、天生牙を抜き放った。

彼は天生牙で冥界に続く穴を開くと其処から歪な剣を取り出す。

 

アサシン達はその行動に警戒し、けん制の意味を込めて短刀(ダーク)を投擲。

だが殺生丸は、指先から淡い光を発する鞭の様なモノで難なくそれらを打ち落とす。

 

「――アサシン、貴様たちの纏め役は誰だ?」

 

殺生丸は静かに問う。

彼の言葉にアサシン達は嘲る様に笑う。

 

その反応に対して、殺生丸は瞳を閉じて沈黙する。

そして、閉じていた其の眼を見開く―――

 

 

 

 

 

―――殺生丸(超越者)を中心に、一陣の風が吹いた様に感じた

 

ウェイバーは殺生丸が眼を見開いた際、その様に感じた。

現に彼はそれ以上のモノは感じなかった。

だが変化は、彼以外に訪れた。

 

総数80のアサシンの内、9割の者がその場に崩れ落ちたのだ。

この現状は、その場に居合わせた者たち全てを驚きに染める。

だがその中で、アーチャーだけは本当に愉快な演劇を観ていると云った貌を魅せていた。

 

「っ!? 如何したのだ、お前たちっ!!」

 

無事だったアサシンの一人、女性型のアサシンが声を荒げる。

そんな彼女に、殺生丸は再度問う。

 

「――もう一度、問う。貴様たちの纏め役は……誰だ?」

 

先程と同じ事を言っているのに、感じる印象は全く違う。

女のアサシンはその様に感じていた。

それ故、今度の問いは素直に白状した。

 

「……私が綺礼様に命じられて、纏め役を仰せつかっている」

 

「――この襲撃は、令呪で命じられたのか?」

 

「……そうだ」

 

彼女の答えを聞いた殺生丸は、その手に持つ剣を戸惑い無く彼女に突きたてた。

その瞬間、彼らを中心とした魔力の波が発生する。

 

女性アサシンは自身の死を想像し、その眼を閉じていたが痛みが来ず疑問に思った。

殺生丸はそんな彼女に声を掛ける。

 

「――何時まで放心しているつもりだ。脱落したくなければ、手早く再契約を果たすぞ」

 

「………………は?」

 

アサシンは殺生丸に掛けられた言葉を理解するのに多少時間が掛かった。

だが理解した後、彼の言葉通りの状況に陥っている自身の状態に驚愕した。

 

マスターである言峰綺礼との魔術契約が切られていた。

其れにより、令呪の効力も掻き消えている。

殺生丸が使用した剣は、契約や魔術などを掻き消す効果を持つのだ。

 

「――単独行動スキルを持ち合わせない貴様たちでは、消滅は時間の問題。

 故に、この場で決断しろ。何も果せずに消滅するか、私に協力して聖杯を狙うか?」

 

「………………」

 

考えるまでも無い、アサシン達は聖杯を欲しているのだ。

取る方針など既に決まっている。

 

女性アサシンは、残りのアサシン達に視線を向ける。

その視線を受けた彼らは頷きで肯定を表す。

 

其れを確認した彼女と残りのアサシンは、殺生丸に跪いて忠誠の構えを取る。

 

「――我らは暗殺者(アサシン)使い魔(サーヴァント)、此れより御身の影とならせて頂きます」

 

アサシンの言葉に、殺生丸は契約の詠唱を以て応える。

 

 

 

 

 

―――『告げる』

 

 

―――『汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に』

 

 

―――『聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら』

 

 

―――『我に従え。ならばこの命運、汝が剣に預けよう』

 

 

 

 

 

「――我らが新たな(マスター)、方針は如何様に?」

 

「――貴様たちには、令呪を以て我が陣営の者を傷付けない事を誓わせる。

 この命に、異論は無いな?」

 

「――御意」

 

アサシンの了解を得て、命を下す。

 

「――令呪を以て告げる。間桐雁夜、間桐桜の両名を害する行為は今後禁止とする」

 

殺生丸の命により、其れは無事に受理された。

彼はアサシンに次の命を下す。

 

「――貴様たちは、此れより間桐邸へ赴け。指示は、屋敷に居る者に仰げ」

 

殺生丸の命を受けた彼らは、気絶している者を叩き起こして慌ただしく城外に出て往く。

アサシン達の行動に、いままで静観を決め込んでいたライダーは騒ぎ出す。

 

「ああ! 何と勿体無い事をするのだ、お主はと云う奴は!」

 

「――其れは一体、如何云う事だ?」

 

ライダーの発言に殺生丸だけでは無く、他の者たちも興味を示す。

そして彼は残念そうに呟く。

 

「――アレだけの者たちが居れば、酒宴も賑やかになったであろうに……」

 

「「「「「………………」」」」」

 

セイバー、アイリ、アーチャー、ウェイバー、殺生丸の五名は言葉を失くす。

先程の光景を目の当たりにしてその考えがまず浮かぶ輩に、

その場に居る彼らは返す言葉を持ち合わせていなかった。

 

彼の発言で微妙な空気となった場を入れ替える為に、殺生丸は先ほどの話を切り出す事にした。

 

 

 

 

 


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