白き妖犬が翔る   作:クリカラ

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会話が思いつかない……

プロットは出来上がっているのに、そこにまでに続く会話が出てこない……


一時休戦

 

 

 

 

 

「殺生丸よ! 久しいではないか!」

 

アーチャーが立ち去った後、緊迫する雰囲気をぶち壊しながら

殺生丸に話し掛けるのは征服王イスカンダル。

彼もまた、永き時を過ごした殺生丸の生涯で巡り合った大英傑の一人。

 

「――貴様とは、其処まで親しく接した覚えは無いのだがな……?」

 

「何を言う! 共に戦場を駆け抜けた、友と呼ぶのにこれ以上の理由はなかろうて!」

 

「………………そうだな」

 

彼らを傍から見たら、明らかに温度差がある。

だがライダーはそんなのは知らんとばかり、旧友に会えた喜びを分かち合おうとしていた。

 

そんな二人の会話に、静観を決め込んでいたランサーも加わってきた。

 

「――殺生丸、こうしてお前とまた顔を合わせる事になろうとはな……」

 

「……フィオナ騎士団(貴様ら)との因縁は既に決着が着いた。

 今更、昔話を穿り返す事もあるまい。

 ――故に、その辛気臭い面を私の前に晒すのは止めろ」

 

殺生丸はランサーが何を言いたいのか瞬時に察し、自身が思っている事を簡潔に伝えた。

彼の物言いにはきつい部分もあるが、実際に告げている内容は

『イケメンの苦悩を抱えた表情はイラッとくるから止めろ』……こんな処であった。

 

「――ああ、お前がその様に受け止めるのなら……俺からはもう何も言わない

(……だが感謝する、白き聖者よ)」

 

「(……何かまた、変な勘違いをしてないかコイツ?)」

 

生前からの因縁を清算した二人は、それ以上の言葉を紡ぐ事は無かった。

そして、最後に残った知人であるセイバーが彼に言葉を述べた。

 

「――貴方が聖杯戦争に参加しているのには驚きでした、殺生丸。

 貴方程の人物が、聖杯に託す願望が有ると云うのですか?」

 

「――其れは此方の台詞と言わせて貰おうか、アーサー王。

 清廉潔白な貴様が、欲の塊とも呼べる聖杯戦争に参加するとは

 ……其れほどの願望が有るのだな?」

 

「………………」

 

「――その様子だと、私が言いたい事は大方理解しているのか……」

 

「――ええ、『人を視ろ』……貴方がブリテンより立ち去る前に、私に残した言葉です」

 

「………………」

 

「……私が貴方の言葉にもう少し耳を傾けていれば、

 カムランの戦い(あの結末)には至らなかったんでしょうね。

 ギネヴィアの事、騎士たちの事……私は何も理解していなかった」

 

セイバーは自責の念を抱きながら、殺生丸と対話していた。

彼女は未だに後悔している、過去の過ちを……

そんな彼女がこの聖杯戦争に願う願望など知れている。

 

「――殺生丸、私は貴方が敵だとしても加減はしない。

 我が願いは、決して誰にも止められはしない!」

 

彼女の願いは、歴史の改ざん。

故郷であるブリテンを滅びの運命から解き放つ、唯その一点に限る。

 

殺生丸はセイバーの願いが手に取る様に分かる、己が身を少し悔やんだ。

円卓の騎士たちと行動を共にした彼からしてみれば、彼女の願いはその全てを無に還すもの。

 

だが、殺生丸はその願いをある程度肯定していた。

征服王や英雄王が聴けば彼女の王道を否定するだろうが、

殺生丸にとってそんなのは如何でもいい事だ。

 

彼はその人生で多くの人々を救ったとされるが、

その行為も彼にしてみれば自身の欲を貫いた結果だ。

故に、彼女が国を救いたいと云う願いも彼にしてみれば納得は出来ていた。

 

殺生丸はサーヴァント同士の会話を一通り済ませた後、

セイバーの背後に佇むアイリスフィールに顔を向けていた。

彼に見詰められた彼女は、体をビクッと震わせて一歩後ずさった。

 

その態度に内心ため息を吐きながら、殺生丸はアイリに話しかけた。

 

「――そう怯えるな、アインツベルンの女よ。

 私は、貴様に……いや貴様たち(・・・・)に話があってこの場に姿を現したのだ」

 

「……貴方が、私たちに話がある?」

 

「――そうだ、貴様が抱えている(・・・・・)……聖杯の中身についての話だ」

 

「っ!?」

 

彼の指摘にアイリは焦りを感じた。

まさか、自分がどの様な存在なのかを一目で見破られるとは思っていなかった。

 

彼女はサーヴァント同士の会話に口を挟まず、戦況を見極めようとした。

切嗣からの連絡も途絶えたままであった為、自身から行動を起こすのは避けていたのだ。

 

故に、自身がこの場で出来る事を最優先していた。

だが、この超常の存在に目を付けられたのは予想だにしなかった。

 

 

―――殺生丸

 

アーサー王伝説にも登場した、特異な存在。

其の身は獣で在りながら、円卓の騎士たちと協力して蛮族共を退けた者。

彼が騎士たちに協力した理由は、蛮族たちが彼の探し求めていた

秘宝のかけらを持っていた為……と云うのが有力な説だ。

他には略奪されているブリテンの民に慈悲の心を痛めて立ち上がった等の説がある。

 

 

そんな諸説が残されている『救世主』に話がある等と言われたら普通は驚く。

其れに、その内容が聖杯についてだと言うのだから更に驚きだ。

 

アイリは切嗣に連絡が取れない状況でこの案件を進めるのを戸惑った。

もし、彼が話す内容が重大なモノだとしたら絶対に聞かなければならないからだ。

そんな事を思考していたアイリに、殺生丸は話の続きを語った。

 

「――衛宮切嗣の身を心配しているのなら安心しろ。

 奴の安全は確保されている」

 

「っ! キリツグの事を知っているの!?

 なら教えて、彼はいま如何しているの!」

 

「――そう喚かずとも聴こえている。奴は無事に戦場を離脱した。

 少し経てば、貴様にも連絡が入る筈だ」

 

「……はぁ、ホントに良かった」

 

アイリは心底安堵した。

殺生丸が嘘を付いている可能性もあったが、彼女はその可能性は無いと考えた。

 

殺生丸が本気になれば、対峙する相手が騎士王だとしても容易く打倒されるのは明白。

そんな彼が嘘を付いてまで、此方と交渉しようとは考え難かった故だ。

 

「――交渉の場は貴様らの陣地である、郊外の森に建つ城を会合に設けたい。

 その方が、其方としても何かと便利であろう」

 

「……ええ、了解したわ。アインツベルンは貴方の要求に応じます。

 会合の日時は、明日のsy「待てぇい!其れはつまり、酒盛りをすると云う事だな!」

 ………………は?」

 

「……貴様は何を言っている?」

 

殺生丸とアイリは突然訳の分からない事を言い出したライダーを疑惑の目で見詰めた。

だが彼はそんな視線を物ともせず、既に酒盛りを行う事だけを考えていた。

 

彼の頭の中では、話し合いをする=酒盛りをすると同じ様なモノ。

故に二人の話に興味を惹いて、自身もその会合に参加しようと目論んでいるのだ。

 

「良し! そうと決まれば、アーチャーの奴も誘って来なくては往けないな!」

 

「おい、私の話を聞いているのか征服王?」

 

「応とも! つまりはセイバーたちの城で酒を飲むのであろう?」

 

「違う、全く以て違う」

 

「まぁそう固い事を言うな。

 (メンバー)と酒は余が集めておく故に、会場の準備は任せたぞ!」

 

そう言い残し、ライダーは来た時と同じようにチャリオットを操り帰路につく。

ライダーのマスターであるウェイバーは、終始ライダーの隣で

怒鳴り散らしていたが強烈なデコピンで沈黙させられていた。

 

その場に集った者たちは、ライダーの後姿を呆然と眺めていた。

だが何時までもそうしている訳にはいかない為、話を続ける事にした。

 

「……アインツベルン、如何するつもりだ?

 彼奴があの様に告げた以上、必ず実行するだろう」

 

「如何するって言っても……」

 

殺生丸はアイリに対してそう告げたが、彼女からしてみればホントに勘弁してほしかった。

破天荒の塊であるライダーを野放しにしていては、話し合い処では無いからだ。

 

「……寧ろ、ライダーの提案は其方にとって都合が良いのかも知れないな」

 

「それはどういう事?

 貴方は私たちと話し合いをしたかったのでは無いの?」

 

「……私が話す内容は、何も貴様らだけの問題では無いと云う事だ。

 ――そう言う訳で貴様も参加するか? ランサーの魔術師(マスター)

 

「「なっ!」」

 

セイバーとアイリは殺生丸が語り掛けた方角を見遣った。

其処には、彼女たちを出し抜いて衛宮切嗣に襲撃を仕掛けたケイネスの姿が在った。

 

「……何時から、私の存在に気づいていたのかね?」

 

「――衛宮切嗣を仕留めきれず、此方に撤退して来たのは始めから知っていた」

 

「……チッ!」

 

ケイネスは忌々しそうに殺生丸の顔を見ていた。

後一歩の処で撤退して来たのは事実なので、彼はその評価を素直に受け入れた。

 

彼はプライドが高いので本来この様な評価は受け付けないのだが、

殺生丸とアーチャーの影響で少ない変化が訪れていた。

『事実は在りのままに受け入れる』、人として当たり前の事を彼は漸く手に入れたのだ。

 

まあ、其れで気持ちの持ち様までは変わらないのだが……

表情を強張らせながら、ケイネスは殺生丸の提案を蹴った。

 

「私を愚か者(ウェイバー)と一緒にしないで貰おう。

 それ故に、その提案は断らせて貰う。

 ……まぁ私の参加を其方のご婦人が許可するとも思えないのでね」

 

「………………」

 

アイリはケイネスに対して鋭い視線を送っていた。

まあ、彼女の警戒は仕方ないだろう。

 

先ほどまで、ケイネスは衛宮切嗣を殺そうとしていたのだ。

必要以上の警戒をするのは寧ろ当たり前だ。

 

そんな彼女にケイネスは嗤笑しながら告げた。

 

「――アインツベルンの魔術師。

 私は、貴様たちに対して行った事を後悔はしていないぞ?

 聖杯戦争(コレ)は正真正銘の殺し合い。

 貴様たちが暗殺を企てた様に、如何な手段を用いても勝たなければならないのだ。

 故に私は、手心などを加えるつもりは無い。

 其れを肝に命じて於いてくれたまえ。

 ……魔術を競い合う要素など、初めから無かったのだ。

 過去の私は、何を考えてこの様な催しに参加しようと思ったのか……」

 

最初は普通に語っていたケイネスだが、最後の方は自身の愚かさを小さい声ながらも述べていた。

彼は天才の領域に属する人間だが、其れでも英霊などと比べられたらちっぽけな存在だ。

 

その事実を彼は冬木にて、認識する事が出来た。

故に、ケイネスは自身が持ち得る限りを尽くしてこの戦いに挑むのだ。

 

「ランサー、私たちも今宵は撤退するぞ」

 

「はっ、仰せのままに。

 ――聡明な騎士よ、次は相見える際は我が槍で貴殿の首級を挙げよう」

 

「……ランサー。

 ええ、貴方の槍は我が剣で受けよう」

 

「――ふっ、是非も無い」

 

ケイネスが去り、其れに続いてランサーもその場を後にした。

殺生丸も用が済んだのでその場を後にしようとしていた。

 

そんな彼にセイバーが言葉を投げ掛けてきた。

 

「――殺生丸、貴方は何故この戦いに参加しているのです?

 ……貴方は生前より、自身の願いを実現し続けてきた筈です?

 そんな貴方が……なぜ?」

 

セイバーは彼の事を知っているが故に、その問い掛けをした。

彼女が知る彼ならば、願望など無いと思った故だ。

 

殺生丸はセイバーを一瞥した後、その答えを簡潔に告げた。

 

「――哀れな男が、幼子の救いを求めた。

 この戦いに参加した理由は……其れだけだ」

 

「――――――」

 

そう言い残して殺生丸は今度こそ、その身を夜空に溶け込ませて消えた。

 

セイバーはそんな彼を暖かな眼で見詰めていた。

自分が過ごした時代でも、殺生丸は一貫して弱者を救済していた。

彼女は殺生丸が欲に駆られて、この聖杯戦争に参加したのではと危惧したのだ。

 

だが、彼は何も変わっていなかった。

自身が理想とする、気高き精神はそのままだった。

 

騎士王アルトリア・ペンドラゴンが憧れるその姿は、色褪せていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(アルの奴、相変わらずのアホ毛とまな板だったな。

  あと話を聞かない筋肉ダルマは俺の手でコロコロしよっと♪)』

 

 

 

 

 

………………初めから色褪せていたなら、そりゃあ変わらないだろうね!

 

 


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