白き妖犬が翔る   作:クリカラ

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次回予告は無しの方向で……

今回の話は、最後の部分以外は原作をベースにしたもので真新しい部分はあんまりないです。
次回以降に力を入れたいと思います


一難去って、また一難

 

 

 

 

 

―――倉庫街、乱入

 

『──AAAALaLaLaLaLaie!!』

 

彼らが対峙する中間の位置にチャリオットから、

稲妻を放出しながらの派手な登場を決める存在が居た。

セイバーとランサー、両者(かれら)の決着に割って入るその存在は、騎乗兵(ライダー)のサーヴァント。

 

二人の攻防に刺激されたライダーは、勝敗が決しようとしている

その状況を見過ごせず邪魔に入った。

彼の登場に二騎のサーヴァントは警戒を露わにしながら、様子を伺った。

 

ライダーはそんな彼らの態度を気にせずに、まずは己が何者かを声高らかに宣言した。

 

「――双方、剣を収めよ! 王の前であるぞ!

 ――我が名は、征服王イスカンダル。

 此度の聖杯戦争においては、ライダーのクラスを得て現界した」

 

「「「「なっ!」」」」

 

彼の宣言に、四者が驚きを示した。

 

二人は先ほどまで死闘を繰り広げていた、セイバーとランサー。

セイバーの仮のマスターである、アイリスフィール。

最後にライダー自身のマスターである、ウェイバー。

 

前者とアイリが驚くのは未だしも、彼のマスターである

ウェイバーですら予想だにしていなかった暴挙。

クラス名を知られるのは兎も角、まさか自分から真名を明かすなど普通は思わない。

ウェイバーはライダーの事を未だ正しく認識出来ていなかった。

 

「なっ何を考えてやがりますか! この馬鹿ァは!」

 

彼がこの様に怒るのも無理はない。

だが、そんなウェイバーをライダーは鬱陶しいとばかりにデコピンで沈黙させた。

 

今の彼には先んじて遣るべき事があるのだ。

それは……

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが……まずは問うておくことがある。

 うぬら、ひとつ我が軍門に下り聖杯を余に譲る気はないか?

 さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する快悦を共に分かち合う所存である!」

 

サーヴァントの勧誘を行う事だ。

……改めて聴くとバカ丸出しである。

 

ライダーの破天荒ぶりにランサーは呆れを含ませながら言葉を告げた。

 

「その提案には承諾しかねる。

 俺が聖杯を捧げるのは、今生にて誓いをかわした新たなる君主ただ一人。

 それは断じて貴様ではないぞ、ライダー!」

 

最後は殺気を纏わせながらの返答であった。

其れと呼応する様にセイバーも言葉を述べる。

 

「抑々、そんな戯言を述べ立てる為に、貴様は私とランサーの勝負を邪魔立てしたと云うのか?

 騎士として、許しがたい侮辱だ!」

 

彼女もまた、ランサーと同じように怒りを感じていた。

そんな彼らの怒りを受けてもなお諦めが付かないライダーは今一度言葉にした。

 

「……待遇は応相談だが?」

 

「「くどいっ!」」

 

「……むぅ」

 

ライダーは残念そうに溜息を吐いた。

 

「重ねて言うなら、私も一人の王としてブリテン国を預かる身だ。

 如何な大王と云えども、臣下に下る訳にはいかぬ」

 

彼の名乗りに感化されたのか、セイバーも自身の出生を暴露し始めた。

まあ殺生丸(アイツ)の所為で、真名を隠したとしても直ぐにばれるのだが……

 

セイバーの名乗りには、ライダーも驚いたようだ。

 

「ほぉ! ブリテンの王とな!

 此れは驚いた、何しろ騎士王がこんな小娘だったとは!」

 

「――其の小娘の一太刀を浴びてみるか、征服王!」

 

「……はぁ、これは交渉決裂かなぁ。勿体無いなぁ~残念だなぁ~」

 

説得に失敗したライダーは残念そうにしながらも、何処か楽しげな様子である。

彼にしてみれば、この誘いも相手が乗ってくれれば儲け物程度の心算であったからだ。

マスターであるウェイバーにしてみれば、溜まったものではないが……

 

ライダーは一通り自身がしたい事を終えると、辺りに一帯に対して突然挑発をし始めた。

セイバーは疑問に感じて、彼に問いを投げ掛けた。

 

「セイバー、其れにランサーよ。

 うぬらの真向切っての競い合い、真に見事であった!

 あれほど清澄な剣戟を響かせては、惹かれて出てきた英霊がよもや余一人と云う事はあるまい」

 

ライダーは自信満々と云った感じで、彼らの戦いをそう評した。

実際にセイバーとランサーの白兵戦(・・・)は、次元の高い闘争であった。

 

「聖杯に招かれし英霊は、今此処に集うが良い!

 尚も顔見せを怖じる様な臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れる者としれぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倉庫街を分裂させたアサシンを介して戦況を見ていた綺礼、

そして綺礼より情報を得ていた時臣は、焦りを感じた。

 

絶対、アーチャーは戦場に姿を現す。

その考えが二人の脳裏に瞬時に過る。

 

アーチャー・アサシン陣営の状況は、比較的にまともな状態へと戻っていた。

遠坂時臣は屋敷を吹っ飛ばされたが予備の仮設にその身を隠し、

言峰綺礼は教会の保護下に入りながら地下に籠り、

アサシンより得た情報を時臣に伝達していた。

 

遠坂邸も幾人かの魔術師に手を借りて、何とか復興作業が行われていた。

そして何と、あのアーチャーが復興する為の軍資金を恵んでくれた。

 

罪悪感は微塵も感じていなかったが、殺生丸程の強者と戯れられた事は思いの外楽しめた様だ。

故に、ギルガメッシュはその褒美として数百億の現金を時臣に恵んだのだ。

 

屋敷の有様に嘆いていた時臣も此れには慶び上がり、ギルに対し改めて忠誠を誓った。

遠坂家の魔術は基本的に金食い虫のもので、

逆を云えば金さえあれば再起を幾らでも図れるのだ。

 

そうして、今の状況にまで戦況を戻す事に成功。

だが、ライダーの挑発にまた頭が痛む思いであった。

 

「これは……不味いな」

 

「はい……不味いですね」

 

二人が危惧する様に、プライドが高いアーチャーがこの挑発に乗らない筈がないのだ。

彼を止める為に時臣は令呪を使用するか悩んだが、その考えを破棄した。

 

英雄王に勝てる存在が居るのに、この様な事で切り札たる令呪を消費するなど馬鹿げている。

故に彼を止める術は今の処無い。

 

サーヴァント同士の戦闘が穏便に収まる事を願うしか無い。

時臣と綺礼はそう結論を出して終わった。

 

「っ! ――我が師よ、失礼ですが私は一端席を外されて貰います」

 

「……何か問題が発生したのかい?」

 

「ええ、アサシンの様子が変なので少し見てきます」

 

「……解った。出来るだけ手早く済ませてくれ」

 

「――承知しました」

 

時臣との通信を遮断した綺礼は、倉庫街に急いだ。

彼は時臣に嘘を付いてサーヴァント同士が争い合う戦場に急行していた。

 

正確には彼らの横で争い合う、魔術師二人の元に急いでいたのだ。

アサシンからの情報で、衛宮切嗣とケイネスの両者が争い合っているのが分かった。

 

そして、戦況が切嗣にとって悪いのも見て取れた。

綺礼は自身の悩みを解決できる存在として見定めている、

衛宮切嗣を死なせる訳にはいかなかった。

 

故に自分の身を渦中に飛び込ませても、あの場に赴かなければならない。

いまの彼には、聖杯戦争など如何でもよかった。

ただ、自分の答えを知る為に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライダーが告げた言葉に招かれて参上した存在は、黄金のサーヴァント。

 

この場で彼の存在を知らないのはセイバー陣営の二人。

対し彼の戦闘を覗いていたランサー、ライダーとマスターであるウェイバーは、

アーチャーの登場に警戒の色を示した。

 

アーチャーは不愉快げに口元を歪めながら、眼下に存在する英霊たちを一瞥した。

 

(オレ)を差し置いて、『王』を称する不埒者が一夜に二匹も湧くとはな」

 

彼は、自身以外がその『王』(称号)を拝するのは我慢ならなかったらしい。

 

「難癖つけられたところでなぁ……

 イスカンダルたる余は、世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが」

 

「戯け。真の王たる英雄は、天上天下に我ただ独り。後は有象無象の雑種に過ぎん」

 

ライダーはアーチャーが述べる言葉に、呆れた様子で溜息を吐いていた。

 

「そこまで言うんなら、先ずは名乗りを上げたらどうだ?

 貴様も王たる者ならば、まさか己の威名を憚りはすまい?」

 

「問いを投げるか? 雑種風情が? 王たるこの我に向けて?

 我が拝謁の栄に俗して尚この面貌を見知らぬと申すなら、

 そんな蒙昧は生かしておく価値すらない!」

 

アーチャー(英雄王)にとっては自身の存在こそ世界の全て。

姿を観る・声を聴く・問いに応える事さえも彼の許可が必要であり、

其れが彼にとっての当たり前。

 

簡潔に述べるなら、ジャイアニズム。

所謂、独占主義者。

 

ライダーが彼に対して問いを投げ掛けた事についてもそうだが、

一番の怒りを感じている部分は自分の面を知らないと云うその一点に集約される。

 

アーチャーが立つ背後の空間に陽炎の様な波紋が広がり、

其処から剣と槍の二つの武器が露わになる。

間近で観るそれらは、膨大な魔力を内包した物……つまりは宝具の類であると理解できた。

 

だが、其れ故に襲撃を視察していた者たちは驚愕した。

昨夜の戦闘でアーチャーは背後の歪みより数十、或いは数百の武器を取り出した。

彼が出す武器の全てが別種の物だとしたら、

それは宝具を数十、数百持ち合わせると云う事になるのだ。

 

宝具はサーヴァント一体、原則的に一つ。

多くても三つから四つ程度だ。

だが、此の黄金のサーヴァントには其れが通じていない。

 

その光景を見たセイバーとアイリスフィールは警戒レベルを最大に上げ、

ランサーも何時でも行動できるように備えた。

 

そんな中、ライダーは今迄得た情報を組み合わせてアーチャーの真名にほぼ辿り着いていた。

故に、戦う前にその答え合わせをしようとしたが又しても戦場に乱入者が現れる。

 

 

「――其処までだ『英雄王』」

 

この戦場に、現在に至るまでに存在してなかった人物の声が上がった。

それに反応して、戦場に集った全ての人が夜空を見上げた。

 

辺りを一帯を照らす、月の光を背にしながら白き者が参上した。

彼の者は闇夜の空から舞い降りてアーチャーが佇立する、

街灯のポールと対峙する位置にあるコンテナの上に降り立った。

 

「「っ!」」

 

「貴様は……!」

 

「ほぉ!懐かしいの!」

 

「――ふん、やっと現れたか……」

 

「――――――貴方は……!」

 

アイリスフィールとウェイバーは新たな侵入者に警戒し、

ランサーはその場に表れた者の厄介さを感じ、ライダーは懐かしい顔を拝み観て喜び、

アーチャーは不機嫌な面を愉悦に変え、セイバーは驚愕した面持ちを見せた。

 

新たな乱入者の名は、殺生丸。

眼下に存在するサーヴァントを一通り眺めた後、彼は確認する様に言葉を告げる。

 

「『騎士王』アーサー・ペンドラゴン。

 『フィオナ騎士団』ディルムッド・オディナ。

 ………………そして貴様は誰だ?」

 

二人の騎士を認識した後、彼は巨漢の男を眼下に収めながらそう呟いた。

そしてこの言葉にはライダーも驚いた。

まさか自分の事を忘れられているなど、思いもしなかったのだ。

 

「おいおい! 余を忘れるとは何事か殺生丸よ!

 この面を見て名が出てこないなど有り得ぬであろう!」

 

彼は殺生丸に必死にアピールした。

そんな彼の顔を見詰めていた殺生丸は思い出したかの様に言葉にした。

 

「――貴様はアレキサンダー……アレクサンドロス3世なのか?」

 

殺生丸は呆然としながら、ライダーの真名を語った。

その結果に満足したのか、彼は胸を張りながら応えた。

 

「応ともよ! 余が世界にその名を轟かせた、征服王イスカンダルである!」

 

「(………………詐欺レベルで姿が違いすぎだろ)」

 

他の参加者に聞こえない様に、殺生丸は小さな声でそう呟いた。

 

彼らが出会ったのは、まだ征服王が幼き姿であった時だ。

殺生丸から言わせて貰うなら、匂いが一緒の赤の他人レベルの変わり様であった。

 

殺生丸は寧ろ、アレキサンダーの偽者と言われた方がまだ信じられた。

現実は非常である……

 

彼らの姿を視界に収めながら、殺生丸は改めて黄金の王と対峙する。

 

「――『英雄王』、此処は一端手を引け」

 

「――我に対して引けだと? 随分と大きく出たな、獣風情が」

 

殺生丸の言葉にギルガメッシュは憤怒の表情を浮かべた。

そんな彼に臆する事もなく、殺生丸は言葉を続けた。

 

「――勘違いするな。貴様が手を下すまでも無いと言っている。

 この様な些事にまで手を出すのが、貴様の王としての在り方なのか?」

 

「………………」

 

彼の言葉を聴いたギルは思案した後、背後に展開していた宝具を収めた。

如何やら殺生丸の思惑に賛同したらしい。

 

「――何の策を巡らせているのかは知らんが、此度は貴様の提案に乗ってやろう。

 雑種共を間引く庭師の仕事は、貴様に預けて遣る。精々励めよ」

 

その言葉を残して、黄金の王はその姿を消した。

最強と最強、二度目となる彼らの遭遇は穏便に事が済んだ。

 

最強が姿を消したが、別の最強が戦場に留まる。

一体、彼の目的は何なのか? この混沌とした戦場に表れたその理由は?

 

 

 

 

 


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