白き妖犬が翔る   作:クリカラ

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もう、10月内で終わらそう!

そうな気持ちで執筆している作者です


暗殺王ザイード

 

 

 

 

 

―――間桐邸

 

「……家…吹っ飛んだよな?」

 

「……えぇ、派手に吹っ飛びましたね」

 

「「……はぁ」」

 

そう言って互いにため息を吐いているのは、雁夜とジルの二人。

 

現在、殺生丸が遠坂邸に敵襲と云う名のトッキー苛めを終えて、間桐邸へと帰還した後である。

彼は桜とジルの契約が終わった後に、『……ダンサーが危ない』と言葉を残してその姿を消した。

 

桜を含めた三人は始め訳が解らずに困惑していたが、雁夜に彼からの念話が届き、

その内容がいまから遠坂邸に奇襲してくると云う出鱈目なものだった。

 

『はぁ!?』状態の雁夜を置いてきぼりに戦いは始まってしまい止めることが出来なかった。

状況をまずは確かめようとしたジルは、自身のマスターである桜を確認していた。

 

彼女は先ほどは所持していなかった水晶玉を膝に抱えて、その中を覗いている最中であった。

ジルはそれが直ぐに遠見の水晶玉と解り、何処に在ったのかと彼女に聞いた。

 

「……水晶玉(コレ)を視てろって殺生丸さんが言ってたの」

 

その言葉だけでジルは理解した。

彼の悪い癖がでたと……

 

 

 

 

 

ジルと彼は戦時中、様々な首都に訪れた。

其処には戦をまだ理解できない幼い子供の姿も在った。

街を散策する最中、子供に手を挙げる親の姿を見た。

 

不安だったのだろう。

戦況が如何転ぶかで、自分たちにも被害が及ぶかも知れない。

情緒不安定になる大人も居ただろう。

 

その不安を弱者である子にぶつける者が居ても可笑しくないのだ。

ジルはその場を直ぐ様止めようと駆け出そうとしたが、彼の横を白い光が通り過ぎた。

そして彼が気付いた時には、親が仰向けの状態で倒れており、子の傍には殺生丸の姿が在った。

 

彼は強者が弱者を甚振って悦に浸るのを心底嫌っている。

後、多分子ども好きだと思うのだ。

っていうか、絶対に好きだと思う。

 

ジルがその事を一度だけ彼に告げたことがあった。

まさか、ガチめの風の傷をお見舞いしてくるとは思ってもみなかったが……

あの時は彼に与えられた防具を装備していたから良かったものの、

防具が無かったらと思うとゾッとする。

 

ジャンヌが彼に告げた際は、『うるさい』と一言で済ませたのにこの差は何なのだろう?

 

まあ兎に角、彼が遠坂邸に居る桜の親を弄りに向かった理由が解りました。

なら私も少し見学すると致しますか……

 

 

 

 

 

―――そして冒頭へと戻る

 

彼が戦闘をしたら、被害がでるのは解っていたが……彼と同等の存在が現れるとは

思ってもいなかった。

彼一人であれば家の一角が吹っ飛ぶ程度で済んだのに、

まさか拮抗した戦闘が起こるなど想像もしていなかったのだ。

 

彼のマスターである雁夜は『葵さんと凛ちゃんの家が……』と嘆き、

桜は『……ふーん』と反応しただけで何とも感じていない様だった。

 

雁夜や殺生丸には心を開いた桜だが、遠坂家の人間にはまだ如何ともし難い感情があるようだ。

やはり、捨てられたと思っていた所為でまだ完全には許せていないらしい。

 

夜も遅い時間だったので既に桜は寝たが、雁夜とジルは殺生丸が帰宅するまで待っていた。

そして、戻ってきた彼に雁夜は直ぐに問い詰めた。

 

何で遠坂邸に往って来たのか…と、その答えに対して殺生丸は

唐突に腰から引き抜いた刀でまた虚空を裂き、大きな黒い物体を取り出した。

取り出したそれは、何と敗退したと考えられていたアサシンであったのだ。

それを見た雁夜は大層驚き、

 

「おま、お前は一体何を持って帰って来てるんだ!」

 

その問いに対し、彼はこう答えた。

 

「――拾った」

 

「嘘付け!!」

 

キャラが若干崩壊してきたように感じてきた。

そんなこんなでアサシンを彼らは手に入れた。

 

彼らの騒ぎ声で意識を取り戻したのか、アサシンがその眼を覚ます。

 

「……此処は一体?」

 

「――間桐邸だ」

 

「――なっ!!」

 

彼は状況を瞬時に理解し、敵から距離を於こうとしたが殺生丸に先を越され、

その身を床に組み伏せられた。

何とか抜け出そうと試みたが、その前に刀が首筋に中てられ行動を制限された。

 

「――自身の状況を改めて認識したなら、落ち着け。

 今の処、貴様を害する気は無い。まあ其れは、貴様次第だがな?」

 

「………………」

 

彼は先ほどその身を黄金のサーヴァントに消滅させられようとしていた。

自身の暗殺に絶対の自信を持ち、館内に設置されている魔術結界を解くのに

後一歩の筈だったのだ。

 

……だが、それは敵サーヴァントの所為で直ぐに終わった。

アサシンは死ぬのだと確信したその時に、

殺生丸が彼の前に表れてどうやったか解らないがこの身を救ったのだ。

 

彼は一連の出来事を思い出し、一応の警戒は解いた。

だがそれは、一応のものである。

あの場で脱落するサーヴァントを助ける理由が、アサシンには見当が付かない。

 

故に、自身を助けた殺生丸の意図がまるで見えないのだ。

だから、最低限の警戒を解いて情報を得ることにまずは専念した。

 

「……何故、あの場で私を助けたのですか?

 聖杯戦争に参加する者にとってアサシンが敗退するのは、寧ろ歓迎することでは?」

 

「――貴様自身も気づいているだろうが、あれは唯のデモンストレーションだ。

 表向きは敗退した様に見せかけて、裏で間諜などを行う予定だったのだろう?

 ……まあ、貴様は生け贄としてその事は知らされていないであろうがな」

 

「………………」

 

アサシンは肯定こそしなかったが、全てを語っている様なものだった。

 

今回の聖杯戦争に参加している暗殺者(アサシン)は、第19代目『百の貌のハサン』と呼ばれる存在。

彼……いや、彼らの宝具である妄想幻像(ザバーニーヤ)は、簡単に言えば多重人格一人一人に体を与えるもの。

この場に居る彼も多重人格内に存在する一人に過ぎない。

 

今回の作戦は彼一人を犠牲とし、敵陣営に偽りの情報を与えて、

今後は影より敵陣営の情報を集めるのが目的であろう。

……そしてそれは殺生丸に改めて告げられるまでもなく、彼自身も解っていることだ。

 

同盟関係であった自身のマスターは、黄金のサーヴァントを視ている。

英雄王(アレ)を視て恐れる必要が無いなどと、口が裂けても言わないだろう。

 

故に、アサシンは自身が捨て駒扱いされたのを理解しているのだ。

……彼が大人しく話を聞こうとしたのも、それが理由に入っている筈だ。

そして、そんな彼に殺生丸はある提案を持ちかけた。

 

「――私たちの仲間になるか?」

 

「………………えっ?」

 

アサシンは自身の耳を疑った。

いま、この男は何と言ったのか?

敵である私を仲間に……だと?

 

それを聞いて驚いていたのは何もアサシンだけではない。

その場に留まり、今まで黙っていた聞いていた雁夜も殺生丸の提案に異議を申し立てた。

 

「お前はまた何を考えているんだよ!

 キャスターの次はアサシンを仲間に誘うなんて!」

 

その異論に彼は冷静に返事を返した。

 

「――コヤツ以外の暗殺者が、まだ健在している筈だ。

 なら、仲間に引き入れて暗殺対策に備えるのもまた一考だと私は思うが?」

 

「……でも、他人のサーヴァントなんだぞ?

 その辺りは如何するんだよ?」

 

「安心しろ、マスターとの契約関係は既に切ってある。

 故にその問題は支障にはならない」

 

「……ホントにそういうのは用意周到だな。

 お前を観ていると本物の救世主かどうか怪しく感じるなぁ」

 

雁夜の言葉に彼は不機嫌になっていた。

如何やら『救世主』の言葉が癇に障ったらしい。

 

「――ふん、その名称は好かん。

 それは私が遣りたい様にやった結果、周りが勝手に付けたものだ。

 私からその名乗りを上げたことは、一度たりとて在りはしない。

 以後、私をその呼び名で呼ぶな」

 

「――はいはい」

 

雁夜は何か色々と如何でもよくなってきていた。

殺生丸がやる事は最終的には、自分たちにとってプラスに働くと考えて

意見するだけ無駄だと感じたのだ。

 

故に、もう全部彼に託すことにした。

世間一般ではこれを、投げやりと呼ぶ。

 

そしてジルも殺生丸を信頼していたので特に異論などはなかった。

アサシンである彼が承諾すれば、今からもう仲間状態なのだ。

 

だが、彼は迷いかねていた。

 

この手を取っても良いのかと……

また、自分は裏切られるのではないのかと……

 

いまの彼は思考の渦に囚われていた。

そんな彼を見かねた殺生丸は更に言葉を尽くした。

 

「――貴様が迷うのも無理はない。

 マスターが居ない貴様が此処に留まっているのも、私が手を加えているからだ。

 私がその気になれば、お前を強制的に操る事も可能だ。

 ……だが、それでは意味が無い。

 私は背中を預けられる真の友を欲している。

 故に、私は問う。貴様自身の意志で、想いで応えろ。

 ――――――――私たちの仲間になるか?」

 

「――――――」

 

彼はこんなにも必要とされたことが、今までにあっただろうかと考えていた。

先ほどまで、自分は使い捨てにされていたと云うのに……

 

泣きたかった。

泣いて、泣いて、みっともなく泣き喚きたかった。

 

歓喜した。

喜んだ、嬉しかった、そんな陳腐な言葉しか出てこない位に喜んでいた。

 

必要とされる。

自身を仲間と呼んでくれる。

 

それだけで彼は救われていた。

聖杯に願わなくとも彼自身の願望は叶っているのではないか?

 

彼自身の願いは、歴史に己の名を残すこと。

でも彼は考えた。

 

この者たちに自身の名を呼ばれた方がそれは素敵なことなんじゃないのかと……

例え、世界にその名を轟かせられなくても、確りと自分のことを解ってくれる存在が

一人でも居てくれた方が幸せなんじゃないのかと……

 

そして、彼は決意を固めた。

 

この者たちと共に運命(Fate)を歩もうと……

ここから自身の歴史(Zero)を始めよう!

 

彼は、自身の真名をこれからの仲間に奉げた。

こんな愚かな私に力を貸してくれと願う為に……

 

「――我が名は、暗殺教団の教主『山の翁(百の貌のハサン)』の一人であるザイードと申します。

 ――どうか、どうか私を貴方たちの戦列に加えて頂きたい!」

 

彼の応えに、各々は言葉を告げる。

 

「……また増えると思うと一寸気が滅入るけど、それでも俺はアンタを歓迎するよ。

 俺の名前は間桐雁夜、其処の破天荒様のマスターだ。

 これから宜しく、ザイード」

 

マスターである雁夜が信頼し、

 

「私も彼に救われた身、貴方の気持ち誠に理解しています。

 私のクラスはキャスター、真名はジル・ド・レェと申し上げます。

 ――此れよりは、我ら共にマスターを守り抜きましょうぞ!」

 

キャスターであるジルが新たな同士を歓迎し、

 

「――アサシン、ザイードよ……此れよりは共に往こう。

 我が真名――殺生丸。私にとってクラスなど不要。

 故に、貴様も私を呼ぶ際はその名で呼べ」

 

殺生丸が彼の存在を肯定する。

 

ザイードは自身が暗殺者だと知っているのに、心が温かくなる思いだった。

だが、それは悪い事ではない。

 

彼が暗殺者だと云っても元は人間。

その様に感じるのも……決して間違いなんかじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――此処に、また新たな仲間が参戦する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――彼の者の名は、ザイード

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――彼もまた本来、消える筈の存在

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――だが、殺生丸()は彼を見捨てなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――神は言っている、ここで死ぬ運命(さだめ)ではないと

 

 


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