白き妖犬が翔る   作:クリカラ

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初戦の終幕

 

 

 

 

 

「おい、ライダー! 進展だぞ! 初のサーヴァント戦が始まりそうだ!」

 

そう興奮をみせる彼の名は、ウェイバー・ベルベット。

第4次聖杯戦争に参加している、マスターの一人だ。

 

現在、彼が行っているのは使い魔を介しての遠見魔術であり、

其処では今聖杯戦争における第1戦がいま幕を上げようとしていた。

 

いまの彼が話しかけているのは、自分のサーヴァントである征服王イスカンダル。

彼は自身のマスターから得た情報を聞き、獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「――ほう、もう開戦(おっぱじめる) 輩が現れたか。これは余も、うかうかしとられんな」

 

そう言って彼はその筋骨隆々の巨体を起こし上げた。

それを見たウェイバーは嫌な予感を感じていた。

 

「……お前、まさかとは思うけど其処に行こう何て考えてるんじゃないだろうな?」

 

「ん? 当然行くに決まっておろう」

 

「――このっ大バカ野郎! そんなの駄目に決まってるだろう!

 僕たちは此処で高みの見物を決め込むんだよ!」

 

そう言って退けた彼に、イスカンダル(ライダー)は軽い感じでデコピンをお見舞いした。

まぁ軽いと言っても、遣られた相手が数十センチ後ろに吹っ飛ぶ代物の話だが……

ウェイバーは遣られた箇所を抑えて、泣きながら抗議した。

 

「なっ何すんだよーお前は!」

 

「……はぁ坊主、余がそんなせせこましい真似をする輩にお前は視えるのか?」

 

「(……コイツなら絶対しないだろうな)――でも、それでも駄目だ!

 あの戦場には絶対、連れて行かないぞ!」

 

ウェイバーはライダーを召喚してまだ数日程度の関係だが、大方の性格を既に把握していた。

出鱈目な奴…彼が人生で出会って来た存在の中で、

この言葉が一番似合う輩など彼以外には居なかった。

 

こんな報告を彼にしたら薄々はこういった展開になるんじゃないかなーと考えてもいた。

だが、ウェイバーはこの戦いにライダーを参加させる気は無かった。

……というか、戦場を観察していてそれどころでは無くなったのだ。

 

壮絶なのだ、戦いの規模が……

彼はサーヴァント同士が戦いだす前に使い魔を離れた距離に置いて、

観察を続行していたがその行動は正しかった。

 

自分が召喚したサーヴァントが、毎日毎日テレビを見ながら煎餅を齧っている奴だとしても、

人間を超越した存在であることには変わりない。

現に、召喚当時はその存在感に圧倒されてまともに話しかける事すら出来なかった。

まぁ直ぐに、破天荒で厄介なデカブツ程度にしか感じなくなったのだが……

 

そして現在、彼の目に視えている戦いは自身のサーヴァントを越えるものだと感じた。

自分たちより上だと考えたからこそ、彼はライダーを止めようとしているのだ。

 

「――ライダー、僕と視界の共有をしろ。

 あの戦場を自分の目で見てもまだ行くって言うなら、僕はもう止めたりしない……」

 

「おいおい坊主、お前さん随分と意気消沈しとるでわないか?まだ戦ってもいないのに」

 

「――アレ(戦い)を見てないから、お前はそんなことが言えるんだよ……」

 

「――ふむ、なら坊主が言う様にまずは一つ戦場を拝ませてもらうとするかの」

 

ウェイバーはライダーに視界の共有を発動し、彼にその戦場を見せた。

 

「――コイツは……!」

 

其処でライダーが視たのは、懐かしき面影をした存在と黄金の輩が死闘を繰り広げる光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハッハッハッハッハッハッ!」

 

いま遠坂邸に於いて、通常では起こり得ない戦いが行われていた。

一人は最古の王、ギルガメッシュ。

一人は幻想の神、殺生丸。

 

ギルガメッシュの背後には、

剣刀、槍、矛、鎌、斧、メイス、棍棒……考えうる限りの多種多様な武器が宙を舞い、

敵対者に対して射出するという光景が繰り広げられていた。

 

十、二十、五十、百……数えるのも馬鹿らしいほどのそれらは全て、正真正銘の宝具であった。

より厳密に言えば宝具の原典。

伝説において、彼の英雄王は世界中の財をその手に収めたとされており、

宝具『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』はその宝を全て収める蔵であった。

 

彼はこの蔵を射出する形で主に運用する。

凡百の英霊であれば、これだけで即座に敗退する運命であろう。

 

だが、それに受けて立つのは彼と同じ超越者。

凡百の存在が倒れるものでも、殺生丸であればその攻撃を防ぐなど造作もない。

現にその場に居ながらもその身に傷らしきものは一つもなかった。

 

腰に差した刀は、彼が抜き放ったその時から片刃の大剣へと姿を変え、

宝具の弾雨からその身を守った。

一振りでその弾雨を退け、衝撃として放った風の暴威はギルガメッシュにも届く。

 

だが、王も自身の眼前に無数の盾を展開してその暴威を退ける。

その守りも宝具であり、簡単には突破できない。

 

故に殺生丸は、少しだけ力を込めてもう一度その大剣を振るう。

それだけでギルガメッシュの盾を消失させた。

 

在り得ない。

ただの刀の一振りで宝具が消えるなど普通では起こり得ない。

だが、それを可能とするのが殺生丸()だ。

 

殺生丸の暴威は盾を退け、ギルガメッシュの鎧にも傷を与えていた。

 

「アレを退けこの身に傷を付けるか……これだけでは遊戯にも劣るか『救世主』?」

 

「……いや、流石と云おう『英雄王』。これだけの財を投げ捨てながらもまるで底が視えぬ」

 

「我の財は無限にして圧制の究極だ、底など存在する筈がなかろう」

 

愉快そうに自身たちの遣り取りを嗤うギルガメッシュ。

 

「――だが、貴様は何時まで慢心を決め込むつもりだ」

 

「――ハッ、慢心せずして何が王か!」

 

正面から射出していた方針を変え、四方八方…視界に収まりきらない範囲を宝具で囲み、

それらを一斉に殺生丸へと発射した。

 

それを確認した彼は、弾幕の一部にその身を寄せ薙ぎ払い、見事に回避してみせた。

彼らの戦いは、その一つ一つのレベルが超越したものである。

この戦いを覗き見ていたウェイバーが、ライダーを戦場に行かせんとした理由は簡単だ。

 

次元が違う。

文字通り、戦う者のステージが違ったのだ。

 

人と人の戦いは拮抗するものだろう。

通常の英霊と英霊の戦いもレベル差はあれど、拮抗するだろう。

だが、それすらも越えた超越者が相手であった場合はその限りではない。

 

それほどの差が、自分のサーヴァントと比べた場合では存在すると想ったのだ。

彼の認識は全てが正しい。

世に名高い征服王でも、この2騎と並べた場合では大きく劣るだろう。

 

仮に戦ったとしても英雄王には一太刀すら及ばず、

救世主には彼自慢の戦車で挑んだとしてもその身ごと消滅させるであろう。

 

それほどの差なのだ。

彼らと他の英霊を見比べた場合では……

 

そして彼らの戦いは終幕へと向かう。

 

「――貴様を屠るのは最終と見定めた。故にこの余興は、次の一撃で仕舞としよう」

 

「――その考えに同意を示そう。私のマスターに帰還しろと急かされているのでな」

 

その言葉を最後、二人は互いの必殺を披露する。

 

英雄の王は蔵底から取り出した、乖離の剣により放たれる究極の一撃。

幻想の祖は背中から取り出した、地獄の剣による放たれる最凶の一撃。

 

 

 

 

 

―――此処に、最高ランクの宝具同士が衝突する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!」

 

 

 

 

 

「―――地界を創造する破壊の暴威(獄龍破)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

その光景を最後に、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの視界は閉じられた。

恐らく、宝具同士の余波による使い魔の消滅だろう。

 

だが、今の彼にはそんな事はどうでも良かった。

そんな事より、

 

「(―――あれが……サーヴァント同士の戦いだと?)」

 

初めて英霊同士の戦いと云うのを視た彼は、驚愕を露わにしていた。

自分が召喚したサーヴァントである、フィオナ騎士団の騎士『輝く貌』ディルムッド・オディナ。

 

彼はケイネスにとってただ忌々しいの一言で表せる存在であったが、

それでも人間である自分を確かに超えた存在なのだと認識していた。

だが、アレに比べたら可愛いものなんじゃないのかと……とち狂った思考をしてしまった。

 

彼がそんな考えをしてしまうのも仕方がない。

それだけ、比べる相手が悪すぎた。

超越者(彼ら)とディルムッドでは次元が違うのだ。

 

そんな事を考えをしていた彼に、ディルムッド(ランサー)が報告があると話しかけてきた。

ランサーもケイネスと視界共有を施し、今迄の戦いを観察していたのだ。

当初、ケイネスは視界共有するのを物凄く嫌がっていたが……

 

「――我が主よ、私は先ほど戦闘を行っていた白銀の正体を知っています」

 

その言葉を聞き、彼は声を荒げた。

 

「なっ! 何故それを先に言わないのだ馬鹿者が!」

 

「……申し訳ありません、お考えのご様子でしたので報告は後ほどと愚行した所存です」

 

ケイネスはランサーの言葉に頭を抱えそうになったが、

彼が有力な情報を持っているは確かな様なので、その怒りは一端流すことにした。

 

「――それで? 敵の真名は何なのだ? 貴様が知り得ているならケルトの者か?」

 

その言葉に否とランサーは返答した。

そして、自身のマスターに相手の正体を告げた。

 

「――いえ、あの者は例外です。彼奴に時間の概念は存在しません」

 

「――其れは、まさか……」

 

ケイネスは薄々気が付いた。

敵の正体を……

 

 

 

 

 

そして同時刻、マッケンジー夫妻の家を仮宿にしているウェイバーも、

自身のサーヴァント(ライダー)に相手の真名を告げられている最中であった。

 

「彼奴の真名は、この国(日本)に住む者なら誰でも知っていよう」

 

異なる国、時代を過ごした二人の英傑がその者を語る。

 

 

 

 

 

「我が主、あの者は数千の時を駆けた化生であり、世界にその名を轟かせた大英雄です」

 

 

 

 

「坊主、彼奴は世界を救った救世主とも呼ばれたりした豪快な奴だぞ」

 

 

 

 

そして同時に、その名をマスターたちに告げた。

 

 

 

 

 

「「彼奴(アイツ)の真名は―――」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―――『大妖怪』殺生丸!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――此処に5組の参加者が彼を認識する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――最後の1組である彼女は、彼の姿を見て一体何を思うのか?

 

 


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