リリカル・デビル・サーガ   作:ロウルス

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――――――――――――

 今朝は不思議な夢を見た。暗い森の中で不気味な黒い影と戦う男の子。でも、その男の子は服が焼け焦げ、左腕は垂れ下がってぼろぼろだ。

(あ、危ない!)

 そう思う間もなく、男の子はその黒い影に弾き飛ばされた。

「っく、うぅ……。僕が、僕がやらないと……! クルスはぁ!」

(……? 泣いてる?)

 何か叫んで必死に立ち上がろうとする男の子。私は声をかけようと思ったけど、鳴り響いたアラームでその前に目が覚めてしまった。そして今、

(助けて……)

 夢で見たのと同じ声が聞こえてきた。

――――――――――――なのは/公園



第10話b 厄災の種《弐》

「えっ? いま、助けって聞こえた?」

 

「っ?!」

 

「えっ? 何も聞こえなかったわよ?」

 

 声をあげるなのはに、すずかは驚いたようにして固まり、アリサは戸惑ったように否定する。

 

「ううん、助けてって聞こえたよ?」

 

(お願い、助けて……)

 

「ほら、こっちから」

 

 しかし、なのははそんな2人を無視するように声が聞こえた方へ走り出した。

 

「えっ? あ、ちょっと、待ちなさいよ!」

 

 アリサの声を背に、公園の茂みの奥へ。そこには、傷付いたフェレットが倒れていた。本能的に抱き上げるなのは。周りを見回しても、他に誰もいない。声の主は何処に行ったのだろうかと周りを見回していると、アリサとすずかが追い付いてきた。

 

「それ、フェレット?」

 

「うん、怪我してるみたい」

 

「まさかそのフェレットが助けを呼んだなんて言うんじゃないでしょうね?」

 

 アリサの問いかけを曖昧な笑み誤魔化しながら、怪我をしたこの小動物をどうしようかと考える。そして、その答えはすぐに出た。

 

――怪我した犬の面倒を看てたらしいわ。動物病院にでも連れていけばいいのにね」

 

 思い出したのは、孔がまどかの花屋へなかなか来なかった時の記憶。その時、なのははまどかに言われて暗くなる前に帰ってしまったが、後日にほむらから理由を教えられている。迷わずなのはは2人に問いかけた。

 

「ねえ、この近くに動物病院ってないかな?」

 

 

 † † † †

 

 

 槙原動物病院。包帯を巻かれたフェレットを入れた保護用のケージを前に、白衣の女性、槙原愛がなのは達3人に怪我の具合を説明していた。

 

「ちょっと酷い怪我ね。念のため今日はうちで預かるわね」

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

「う~ん、命に別状はないと思うけど、酷い火傷もしてるみたいだし、今日一日は入院ってところね。心配なら、また看に来てもいいわよ?」

 

 そう言って愛は3人を見渡す。この病院では野良猫や野良犬の治療は基本的に無料で行っており、小学生が拾った動物を持ってくるというケースは結構多い。愛はこどもの扱いに慣れており、気さくな雰囲気をもって対応していた。なのは達も安心したのか、相談を始める。

 

「じゃあ、私が帰りにでもよるわ」

 

「いいの?」

 

「うん、車で送って貰ってるし。帰る途中だし」

 

 もともとアリサが塾帰りにと提案した病院だ。自然とアリサが様子を見るという結論に至った。ちなみに、なのはもアリサと同じ塾に通ってはいるが、成績の関係で2人は塾では違うクラスだ。今日はなのはに塾はない。

 

「じゃあ、受け付けに言ってくれれば分かるようにしておくわ」

 

「ありがとうございます」

 

「いいのよ、仕事なんだし。それより、塾はいいの?」

 

 笑って答える愛に時間を告げられ、アリサは慌てて塾へと走っていった。

 

 

 † † † †

 

 

 一方、孔はアリス、アリシアにフェイトを加えた4人で、本来の通学路とは外れた海鳴臨海公園へ来ていた。孔とフェイトにも「助けて」という声が聞こえていたからなのだが、

 

「誰もいないね?」

 

「……ああ、そうみたいだな」

 

 不思議そうな声とともに孔を見上げるアリス。孔はそれにうなずいたものの、首をかしげた。孔の感覚では聞こえてきた声は念話であり、空耳という事はあり得ない。

 

「でも、戦闘があった様子もないから、大丈夫だと思う」

 

 しかし、同じ魔導士のフェイトは既にそんな直感を捨てていた。帰ろう。そういうと先に立って歩き始める。

 

「で、でも、フェイトちゃんも助けてって聞こえたんだよね?」

 

 それを引き留めるアリシア。何度か助けを求める側に立ったアリシアは確証がないまま立ち去るのに抵抗があるようだ。念話が聞こえたと告げた時も、アリシアは真っ先に助けに行こうと主張している。

 

「……でも母さんに今日は早く帰ってきなさいって言われてるし」

 

 一方のフェイトは母親と何か約束があるのか、少し顔をしかめてアリシアを咎めた。かつて悪魔にプレシアが殺されたためか、フェイトは母親の事となると見境がつかなくなるところがある。

 

「まあ、もうちょっと待ってくれ」

 

 孔はそんなフェイトを制し、ポケットにいれているデバイスに念話で呼び掛けた。

 

(I4U……)

 

(Yes, My Dear. ANSを使った公園のサーチね)

 

 I4Uは孔の具体的な指示を待たずして意を汲み、プログラムを起動させた。本来は悪魔の反応を調べるANSも、今では改良を重ねて魔力反応も捉えることが出来るようになっている。余談だが、I4Uは日本語もこなすようになっている。こちらは改良ではなく、I4U自身が主との円滑なコミュニケーションを求めて自動設定したらしい。調整をしたリニスは首をかしげていたが、孔としては話しやすいので特に問題とはせず放置している。

 

(終わったわ。魔力反応はないわね。念話を送ってきた魔導師は逃げたか、殺されたかのどちらかでしょう)

 

(……分かった、ありがとう)「帰ろう、アリシア」

 

「えっ? いいの?」

 

「ああ、この公園にはいないみたいだ。きっと、誰かが先に助けたんだろう」

 

「そうなの?」

 

 う~っと、どこか納得出来なさそうに唸るアリシア。そこへ、アリスの声が響いた。

 

「ねー、せっかくこっち来たんだし、遊ぼうよ。遊んでるうちに見つかるかもしれないよ?」

 

 そういえば、こっちの公園に来たのは久しぶりだったなと思う孔。出来れば遊ばしてやりたかったが、フェイトは少しきつめの声でそれを遮った。

 

「ダメだよ。母さんが待ってるって言ってるでしょ?」

 

 どうもアリスとフェイトは相性が悪いようだ。以前、アリシアがフェイトにあまり遊んでくれないと愚痴を言っていたことがあったが、悪戯好きで我儘という共通点を持つアリスも避けているきらいがある。といっても、積極的に嫌っているという様子ではなく、仲良くしようと努力しているがどうしても硬い態度が出てしまうという感じだ。自然、アリスの方もストレスがたまることとなる。

 

「むー、フェイトお姉ちゃん、どうしてそんな意地悪言うの?」

 

「まあ、アリス、荷物もあるから、遊ぶにしても一旦帰った方がいいだろう?」

 

「じゃあ、早く帰って、早く遊ぼ?」

 

「あ、アリスちゃん、ちょっと待って!」

 

 孔の言葉をきっかけに、気まずい雰囲気から逃げるように走り出すアリス。追いかけるアリシア、少し遅れてフェイト。孔もそれに続こうとして、

 

「■■■■■■よ」

 

「っ?!」

 

 視界の角に此方を見つめている老人に気付いた。よく聞き取れなかったが、自分の名を呼ばれた気がして立ち止まる。

 

「今、秩序と混沌のバランスが崩れようとしておる。どちらに傾いても人には幸せな結果とならん……異世界の法を運ぶ者よ。よく心にとどめておけ」

 

 それだけ言うと、孔が何か言う前に老人は立ち去ってしまった。

 

「孔お兄ちゃん、早く!」

 

 遠くからアリスの呼ぶ声がする。孔はもう見えなくなった老人の声を気にしつつも、児童保護施設に向かって歩き始めた。

 

 

 † † † †

 

 

「もうすぐ孔とアリスが帰ってくる時間ですね」

 

「そうね……お菓子でも用意しておこうかしら?」

 

 その頃、施設ではリニスが先生といっしょに孔達を待っていた。といって、遊びに来たわけではない。職員として働き始めていたためだ。

 

 きっかけはあのゲーム事件の後。

 

「では、今度は私が貴方を送っていきますね?」

 

 アリサとすずかを家まで送った後、リニスは孔にそう切り出していた。

 

「いや、アリスを移転した俺が、時の庭園へ迎えに行く方が筋な気もするが……」

 

「実は、もうプレシアがアリシアと一緒にアリスちゃんを連れて、近くの公園まで来ているんですよ。合流して、一緒に帰りましょう」

 

「いや、しかし……」

 

「ダメですよ、コウ。たまには大人の役目もさせてください」

 

 迷惑をかけまいとしているのか渋る孔に、リニスは頼み込んだ。少し強引な気もしたが、アリサとすずかとの言葉で傷ついたであろう孔を独りで返したくなかったのはもちろん、もう自分に遠慮してほしくなかったからだ。しかし、

 

「いや、その……実は、俺もアリスも孤児なんだ」

 

 その言葉に、リニスは表情を凍り付かせた。

 

「なら、なおさら送っていきますよ」

 

 そう言うしかなかった。

 孔は「ありがとう」と言ってくれたが、リニスとしては自分を責めてほしかった。

 手を伸ばそうとして、傷を抉ってしまった自分を。

 

(何をやってるんでしょうね、私は……)

 

 考えれば分かることだ。普通のこどもでは考えられない大人びた態度は、幼いころからひとりで過ごさざるを得なかったせいと考えれば辻褄は合う。だがその結果として他者を重視し自己を抑圧しているのなら、そしてそれがアリスやアリシアを守ろうという理由になっているのなら、それは理不尽という他ない。家族が得られなかったことから来る優しさ。それは、歪んでしまったテスタロッサ家にいるリニスにとって、受け入れがたいものだったのだ。

 

「すみません、コウは――施設での生活は、どうなっていますか?」

 

 だから、リニスは孔とアリスを送った先で、施設の先生にそう訊ねた。孔の事をもっとよく知りたい。そんな一心からだったが、

 

「リニスさん、施設に興味があるのかしら?」

 

「ええ、将来は福祉関係の仕事を――保育士もいいかなと思っています」

 

 結果として、それは思わぬ成果をもたらした。元々福祉関係の仕事に好んで就いた先生と話が弾み、いつの間にか保育士の資格要件にある研修も兼ね、この施設で助手をやるようになったのだ。

 

「朝倉さんから貰ったお菓子が確かあったはずね。飲み物はアリスがジュースで、孔はコーヒー……あら? コーヒーが切れてるわね」

 

「昨日、市役所の方が見えた時、来客用のコーヒーを使ってしまいましたから。よければ、買ってきますが?」

 

「そうね……お願いできるかしら?」

 

 今日も帰ってくる孔を迎えるための準備が始まる。キッチンに向かった先生。それを受けて立ち上がるリニス。玄関に向かったリニスは、しかし開いた扉に笑顔を浮かべた。

 

「ただいま。リニス」「リニスさん、ただいま~」

 

「おかえりなさい。コウ、アリス。先生がお菓子を用意していますから、手を洗っ」「リニスさん、公園にアリシアちゃんと遊びにいくの! ついてきて!」

 

 だが、迎えの言葉は遮られる。リニスは苦笑しながらそれに答えた。

 

「今からですか? 困りましたね……」

 

「ダメ?」

 

「実は来客用のコーヒーがきれてしまって、買いにいかないといけないんですよ」

 

 途端、残念そうにするアリス。リニスも少し心が痛んだ。それを見かねたのか、孔が横から口を出す。

 

「俺が買って来ようか?」

 

「いいんですか?」

 

「ああ、構わない(それに、帰りに念話が聞こえたんだ。公園には魔力反応はなかった。一応この近くに魔導師なり悪魔なりがいないか確認しておきたい)」

 

「そうですか(……あの念話はコウにも聞こえたんですね)」

 

 後半は念話を使って話す2人。アリスは孔とリニスを交互に見ながら言う。

 

「でも、それじゃ孔お兄ちゃんと遊べないよ?」

 

「ああ、コーヒーを買ったら、俺も後から公園に行くから」

 

「うん、じゃあ、我慢する」

 

 どうやらアリスは納得したらしい。悪魔の位置を確認できるCOMPを持っているのは孔だ。様子を見に行くなら孔である必要があった。それが分かっているだけに、リニスも孔に強く反対はできない。

 

「じゃあ、コーヒーはこの店で買ってきてください。気を付けてくださいね?(悪魔がいるかもしれないんです。何かあったら念話で知らせてください)」

 

「ああ、分かってる。(リニスの方も気を付けてくれ。I4Uのサーチで引っかからなかったから公園は大丈夫だと思うが)」

 

「早く来てね?」

 

 リニスは孔にいつもコーヒーを買っている喫茶店『翠屋』への道筋が描かれた地図を渡しながら考える。出来れば、新しい主には魔法で身を滅ぼすようなことにはなってほしくないと。そう思えば思うほど、何故かあの強い力を持ったはずの孔がどこか儚いもののように思えた。

 

「ねー。リニスさん、早く行こ?」

 

 気が付くと背中を長く見つめていたようだ。リニスはその嫌な予感を振りほどくように軽く笑ってみせると、アリスと手をつないで公園への道を歩き始めた。

 

 

 † † † †

 

 

「いらっしゃい……ませ」

 

 翠屋のパティシエ、高町桃子はやって来た少年を見て一瞬言葉に詰まった。翠屋はこの辺では割りとよく知れた喫茶店で、こどもが来ること自体はそんなに珍しい事ではない。今来た少年もお使いか何かだろう。戸惑うことなく普段通り接客出来る筈だった。

 

(……? なにかしら?)

 

 だが、目があった瞬間、言い様のない嫌悪感に襲われた。原因を探るべく、それを抑えて少年を観察する。年齢は娘であるなのはと同じくらいだろうか、なのはの通う聖祥の制服を身に着けている。当然ながら男子生徒用のものであるという違いはあるが、変に着崩すことなくきっちりと着込んだ制服は、年齢の割に整った顔立ちも手伝ってなかなかに似合っていた。

 

(うん、何処をどう見ても普通の小学生ね)

 

 しかし、滲み出る嫌な感じは消えない。自分はどちらかというとこども好きの筈だったのだが。そんな桃子の疑問にお構い無く、その少年は近付いて紙を差し出してきた。

 

「すいません。このコーヒーを、この量だけください」

 

 やはりお使いだったようだ。メモを見せながら注文する。

 

「え、ええ。コーヒーですね……」

 

「桃子さん、どうしたんだ……うん? ……君は?」

 

 いつも通りの対応を意識しながら、桃子は店の奥へ視線を向ける。コーヒーについてはマスターである夫の士郎が扱うことになっている。が、やはりいつもと何処か違うのが伝わってしまったらしい。警戒しつつ少年の方へ近付いて行く。少年の方は急に出てきた士郎に一瞬驚いたように目を見開いたものの、再度メモを取出し注文した。

 

「ええ、コーヒーを買いたいんですが」

 

「……そうかい。申し訳ないが、今日はコーヒーが売り切れなんだ。帰ってもらえるかな?」

 

 どこか冷たい返事で対応する士郎。普段とはまるで違うその接客態度を見て、しかし桃子は何も言えなかった。士郎はボディーガードとして長い経験を持っている。おそらく自分が感じた嫌悪を、己の直感から来る危険回避と結びつけて捉えているのだろう。嫌な予感がすれば、警戒する。その発信源が分かれば、排除する。護衛者として身に付けたある種の行動原理であり、それは桃子もよく理解していた。本来ならこども相手に発揮されるようなものではないのだが、にじみ出る孔への嫌悪感を考えると、士郎の行動がどこか説得力を持つように感じられる。

 

「売り切れ……? そうですか。すいません」

 

 対する少年の方は呆気なく引き下がる。去っていく危険に拍子抜けしながら見ていると、不意に動きを止めた。店の奥へと視線を向けている。

 

「どうしたんだい? 帰るなら、早く帰ってくれないか?」

 

「あ、ああ、すみません……」

 

「孔。今は孔だったわね」

 

 そんな少年――孔というらしい――は士郎に急かされ慌てて出ていこうとするが、奥にいた女性客に呼び止められた。彼女は常連客で、面識がある。以前夫へ色目を向けているのを見て不快な思いをした時、まるで心でも読んだかのように「私にはもうパートナーがいるから、安心して?」と言われ、気恥ずかしい思いをしたと同時に強く印象に残った相手だ。どこか妖艶な雰囲気を持つ大人の女性。それが桃子の抱くその常連客へのイメージだった。

 

「こうしてまた会えるなんて夢のようだわ」

 

「……百合子……さん?」

 

「あら。覚えていてくれたのね」

 

 嬉しそうにする百合子。どうやら2人は知り合いだったようだ。思わぬところで店内に居座ることになってしまった孔に心の中で眉をしかめる桃子。孔は百合子と少し距離を置きながらも話を始めた。

 

「どうして此処に?」

 

「ここのコーヒー、なかなか美味しいからよ。この店にはよく来ているわ」

 

「そうなんですか。でも、ちょっと遠いんじゃ?」

 

「あら。どっちかって言うと近いわよ? あなたの側なら、どこでも近いもの」

 

 どこか慎重に言葉を選んでいるように見える孔へ向けて、楽しむように、それでいてからかう様に言葉を綴る百合子。流石の孔もペースを握られているらしい。

 

「孔はどうしてここへ?」

 

「お使いです。このコーヒーを買いに来たんですけど、売り切れみたいで」

 

 そう言ってメモを見せる孔。百合子は目を細めて、一瞬だけ士郎に視線を送ってから口を開いた。

 

「あら、このコーヒーならそこにあるじゃない」

 

 確かに、百合子が指差した先には孔が買い求めたコーヒーの銘柄が書かれた袋がある。量も十分だ。値札もついている。

 

「あ、いや、これは……」

 

 焦る士郎。おそらく話に割り込む隙をうかがっていたのだろう。しかし、2人のやり取りの間には入り込める余地が全くなかった。一見すると普通の会話なのだが、そこに漂う雰囲気は尋常なものではない。どこか退院直後に行った士郎の軽い、しかし桃子にとっては重い運動が元でやった夫婦喧嘩と同質の、ある種の緊張感が漂っていた。そこへ、無いと言っていた在庫の存在を指摘されたのである。

 

「桃子さん、あれ、売ってくれないかしら?」

 

 そんな士郎を無視し、百合子は桃子に声をかける。親しげに、しかしどこか責めるような響きを持って。孔と百合子の間に流れる緊張感に巻き込まれ、今度は桃子の方が焦った様な声を出してしまう。

 

「えっ? ええっと……」

 

「あ~、無理に売っていただかなくてもいいですよ?」

 

 それを見た孔がやんわりと事を納めようとする。しかし、桃子はその好意に甘えることを良しとしなかった。

 

「……いえ、お売りします」

 

 客観的に見れば、誰が見ても落ち度があるのは自分達だろう。夫が警戒している以上、この嫌な気分は何か悪いことの前触れなのかも知れないが、少なくとも今は普通の客だ。差別的に扱うのは喫茶店を経営する者として、褒められた態度ではない。桃子は軽くお詫びの言葉を添えながら、コーヒーを用意した。

 

 

 † † † †

 

 

「すみません、助かりました」

 

「いいのよ。悪いのは店員なんだし」

 

 コーヒーが入った袋を片手に、孔は夢で見たままの容姿と名前を持つ女性、百合子と歩いていた。いつか病院で魔石を使った士郎に加え、夢に出てきた女性とも出会った時は流石に驚いたが、おかげで孔の印象ではいわゆる一見さんお断りという表現がしっくりくる店で無事に買い物を済ませることが出来た。今の2人の間には、先ほどより打ち解けた空気が流れている。もっとも、完全に気を許した訳ではなく、孔は物理的にも心理的にも意識的に距離を置いていた。夢で見たのがアマラ宇宙だとすれば、そこに棲むのは死者の魂か悪魔だ。

 

「ところで、この辺で助けてという声が聞こえたんですが、心当たりは?」

 

「私にはないわ。でも、今の貴方なら助けに行っても大丈夫よ」

 

 しかし、百合子は、孔が具体的な疑問を口にする前に、

 

「それじゃあ、今日は会えて嬉しかったわ」

 

 そう耳元で囁いて消えてしまった。

 

「……悪魔……だったのか?」

 

 思わず戸惑いをこぼす孔。敵意がない分余計に厄介だ。わざわざ夢に出てきたのも気になる。今度スティーヴン博士に意見を聞いてみるかと思いながら、学校帰りに聞いた念話の主を探すべく、デバイスを起動させた。

 

 

 

「それで、結局念話の主は見つからなかったんですね?」

 

「ああ、I4Uのサーチも使ったんだが、俺が行った所には見つからなかったな」

 

 公園。パスカル(の姿のケルベロス)と遊ぶアリスとアリシアを見ながら、孔はこれまでの事をリニスと話していた。

 

「もしかしたら、時空管理局が保護しているかもしれませんね」

 

「そうだといいがな」

 

 少しでも気休めになればと希望的要素を挙げるリニス。孔はおそらく起こり得ないであろう事を知りながら、それにうなずいた。時空管理局はあくまで魔法文明が発達した世界での紛争処理を行っているのであって、魔法文明がない世界は次元世界をまたぐような事故がない限り基本的に不干渉だ。

 

「それより、私はその女性の格好をした悪魔が気になります」

 

「そうだな。心当たりはないと言っていたから、念話を使った魔導師とは関係ないとは思うが……」

 

「相手は悪魔でしょう? 嘘をついているのではないですか?」

 

「……まあ、その可能性もあるな」

 

 そうは言ったものの、孔にはあの言葉が嘘だとは思えなかった。悪魔のなかには契約しないと虚言を吐き続けるのもいるとは知っていたが、向けられた暗い感情を伴った好意が警戒心をかき消していた。

 

(あれはなんだったんだ? 好意のような、悪意のような……)

 

 あの女性のねっとりした視線を思いだし考え込む孔。しかし、答えが出る前に施設の門限を報せる携帯のアラームがなった。

 

「……時間みたいですね。私の方はプレシアに気を付けて貰うようにいってみます」

 

「分かった。俺の方も何かあったら知らせる」

 

 そう言って立ち上がる2人。孔はアリスとパスカルを連れて施設へ、リニスはアリシアを連れてテスタロッサ邸へと帰っていった。

 

 

 † † † †

 

 

(……助けて……)

 

「っ!?」

 

 夕方。夕食を終えて自室で机に向かう孔は声を聞いて立ち上がった。開いていた参考書を閉じ、I4Uを手にする。窓から飛び下り、庭に着地。

 

「……」

 

 すると、無言のままパスカルが寄ってきた。

 

「来てくれるのか?」

 

「勿論ダ。ありすカラモ主ヲ見張ルヨウ言ワレテイル」

 

 パスカル、というかケルベロスの言葉に苦笑しながら、孔は念話の聞こえた方へと走り始めた。声が昼間聞こえたものと違うことに戸惑いながら。

 

 

 

「っ! 大丈夫か?」

 

「うぅ、あ……っ! よかった、来てくれたんだ……!? あ、あなたは!」

 

 人のにぎわいから少し離れた神社。そこの林の奥に、蹲るようにして倒れている女の子がいた。クルスだ。もっともバリアジャケットはぼろぼろで、ほとんど原形をとどめていない。右腕はひじの付け根から下が無くなっている。こちらを見るなり無理やり起き上がろうとする彼女を、孔は慌てて押しとどめた。

 

「リニス、すまないがまずは回復を……」

 

「ええ、分かっています」

 

 リニスの回復魔法であっという間に塞がっていく傷口。クルスはその力量に声を上げた。

 

「もう楽になった……。す、すごいですね」

 

「いえ、魔力量に任せて表面上の傷を治しただけです。中身や疲労まではまだ回復していませんから、無理しないでくださいね?」

 

 気遣うように言うリニス。少し顔色は良くなっているのを見て、孔は質問を始めた。

 

「ところで、俺のことを知っているようだったが?」

 

「……ああ、すみません。人違いでした。よく知っている人と似ていたもので。なにぶん魔法世界以外で魔力を持った人と出会えると思っていませんでしたから」

 

 一瞬戸惑ったものの、孔を見つめた後に目をそらしてそう言う。

 

「……そうか。念話の主はあなたでいいのか?」

 

「はい……聞こえる人がいてくれて助かりました。私はクルス。普段は時空管理局の局員をやっています」

 

 時空管理局と聞いて、孔は内心あまりいい気がしなかった。もしかしたらプレシアを追ってきたのかもしれない。プレシアの過去を知っている孔としては、心情的には管理局の法よりもプレシアの想いに味方したいところだった。

 

「なぜ、管理局の人が魔力文明のないここへ?」

 

 しかし、リニスは恐れることなく自然に問いかける。変に取り繕ってそこからばれる可能性を恐れたのだろう。

 

「実は――」

 

 が、クルスの説明を聞いて二人はそんな自分達の思考に後悔した。少女は危険なロストロギアを狙う悪魔を追ってきたのだという。

 

「それは……大変でしたね」

 

「ええ、早くユーノと合流して、ジュエルシード集めないと……」

 

「実は昼すぎに別の念話を聞いてるんだ。もしかしたらその……」

 

 しかし、孔が最後まで言い終わる前に、念話が響き渡った。

 

(……うわぁ!? だ、誰かっ! 助け……!)

 

 かなり切羽詰った声だ。しかも途中で切れてしまった。

 

「!? ユーノの声……間違いありません!」

 

《My Dear. 念話の出所をつかんだわ。かなり遠いけど、場所は槙原動物病院ね》

 

 次いで、I4Uの声が響く。

 孔達は動物病院の方へと走り始めた。

 

 

 † † † †

 

 

 時はわずかに遡る。進学塾のエントランス。授業が終り、帰宅する生徒で溢れかえるそこで、修達3人はアリサと鉢合わせていた。

 

「あ、アリサちゃんだ」

「なんだ、この塾だったのか」

「……っ! バニングス……」

 

 萌生はいつも通りの挨拶と共に声をかけ、修は面倒くさそうに感想を言い、園子はそっぽを向く。

 

「萌生に折井……と大瀬さん」

 

「アリサちゃん、今帰り? 珍しいね?」

 

「えっ、うん。今日は社会の先生が休みだから……」

 

 アリサは無邪気に話しかける萌生にそわそわしながら相槌を打つ。どうもアリサも園子のことは苦手としているようだ。ちなみに、アリサの言葉にある通り社会科は選択制で、修達3人は受講していない。アリサと帰りが一緒になることは今回が始めてだ。

 

「萌生、後ろがつかえてるから、早く出て」

 

 そんな2人を急かす園子。険悪になり始めた雰囲気に、修はため息をついた。

 

(何でこの年で人間関係に悩まなきゃいけねえんだ? 喧嘩すんなよ、こどもじゃ……あ、いや、こどもだったな)

 

 こどもとはこうも面倒なものか。「みんななかよくおともだち」に真っ向から喧嘩を売るアリサと園子に、嫌なら無視しろよと心の中で突っ込む。平然と同年代のこども達にも交ざることが出来る孔を、修は少し羨ましくなった。

 

「……それじゃね」

 

 そんな修の思いが伝わったのか、アリサは短く萌生に別れを告げると、気まずい雰囲気から逃げるように外へ出て行った。

 

「あ、アリサちゃ~ん……もう、園子ちゃん、喧嘩しちゃダメだよ?」

 

「分かってるけど、卯月くんのこと考えると、仲良くなんてできないわよ」

 

 窘める萌生に園子が反論する。誰だって、自分の大切な人が攻撃されたら怒るだろう。

 

(やっぱ園子もバニングスもこどもだな)

 

 そんな園子を見て修は思う。おとなになれば嫌な奴ともメリットがあれば付き合わなければならないし、ある程度割り切った関係も必要になる。嫌だから攻撃したり、態度に出したりするのはこどものやることだ。社会に出たら苦労するぞ? 等とおよそ外見年齢に似つかわしくない事を考えながら外へ出ると、目の前に黒いリムジンが見えた。

 

「申し訳ありません。遅くなりまして」

 

「いいわよ。時間を間違えたの私なんだし」

 

 リムジンの前でアリサが初老の男性と話している。どうやら社会の授業がないため勝手が分からず、お迎えの時間を伝え間違えたらしい。

 

「あれ? アリサちゃん、まだいたの?」

 

 そんな事には気づかず、リムジンの方へ歩くアリサに声をかける萌生。

 

(迎えにリムジンってよく考えたらシュールだな)

 

 一方の修は日本では殆どお目にかかれないリムジンにそんな事を考えていた。が、そんな修の感性を加速させるように初老の男性が声をあげる。

 

「おお、お友だちとお帰りとは、嬉しゅうございます。お嬢様」

 

「さ、鮫島……」

 

「はぁぁああ? お嬢様ぁ?」

 

 それに反応する園子。アリサとそこまで仲良くない園子は、アリサがお嬢様だとは知らなかった。いや、仮に知っていても、絵で描いたような執事服の男性に迎えに来てもらうというのは相当違和感を覚えただろう。漫画ではあるまいし。

 

「ぅ……。そ、それより、今日は病院に寄りたいから、早く出して……」

 

 アリサの方は恥ずかしいのかさっさと逃げようとする。しかし、病院という単語に忠実なる鮫島執事は反応した。

 

「おお、なんと、どこかお怪我でもされたのですか、お嬢様!」

 

「ち、違うわよ、わたくしは……」

 

「なにぃっ!? ワタクシィイ?」

 

 思わずお嬢様言葉を使ってしまったアリサに、再び園子が声を上げる。なお、アリサは普段からこんなしゃべり方をしているわけではない。いたたまれなさのあまり混乱し、目の前のリムジンから連想した、かつて父親に連れて行かれた社交界のパーティでの他所向きの言葉づかいが出てしまったのだ。が、そんなことは3人が知る由もない。修は耐え切れなくなって噴出した。

 

「ぶっ……はははははは!」

 

「ああ、もう、いいから早く出しなさいよ!」

 

 顔を真っ赤にして逆切れ気味に叫び、車に乗り込むアリサ。

 

「おお、お嬢様。お待ち下さい、お嬢様。皆様、お嬢様をよろしくお願いいたします」

 

 鮫島はお嬢様を連呼しながら、唖然とリムジンを見送る3人を横目に車を発進させた。

 

 

 † † † †

 

 

「もう、人前でお嬢様お嬢様言わないで!」

 

「それは失礼いたしました。ついお嬢様がお友達とお帰りになることが嬉しかったもので」

 

 車に乗ってから、アリサは鮫島に文句を言っていた。むくれているアリサに苦笑しながらも、鮫島はアリサがそう機嫌が悪いわけではないと雰囲気から判断していた。

 

「ですが、お嬢様のお友達ならば、きっと気にされませんよ?」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

 むくれながら返すアリサに笑みを深くする鮫島。そんな鮫島に、アリサが「もうっ!」と声を上げる。しかし、そこに苛立ちは含まれていない。鮫島がずっと自分が独りだったのを心配してくれているのを知っていたからだ。

 

 鮫島執事はアリサにとって、父親のような存在だった。物心ついた時から実業家である父は仕事に忙殺され、こどもに構うどころではなかったためだ。アリサがまだ産まれて間もない頃、父デビットの会社経営はうまくいっていなかった。困窮のあまりまだ幼いアリサの姉を施設へ預けなければならない程だ。もっとも、当時の事をアリサはよく覚えていない。姉のこともよく知らないし、幼いうちは貧富の差を実感する機会に恵まれなかったのも大きい。結果、背後でデビットが姉を取り戻すべく仕事に打ち込んでいることは知らず、ただ孤独な時間を過ごしていたという記憶だけが残っている。しかし、それはデビットの会社が成功してからも変わらなかった。会社が発展するにつれて加速度的にデビットの負担は増え、そしてそれは皮肉にもそれは家族の時間を犠牲にする事となった。そんな矛盾を否定するように、デビットはアリサに金銭面で不自由をさせなかった。欲しいと言うものは買ってくれるし、学校も名門と呼ばれるところへ通わせてくれた。それは姉にしてやれなかった事は全てしてやろうという親心だったのかもしれないし、金銭的なものでしか愛情を示せない自分への誤魔化しだったかもしれない。だが、いずれにせよアリサの孤独を埋める役には立たなかった。両親はアリサに不自由はさせなかったけれど、アリサが愛情を感じられるものは与えてはくれなかったのだ。

 

 豪華なクリスマスプレゼントや誕生日プレゼントを前に、誰に羨ましがられるでもなく、アリサはいつも独りで遊んでいた。プレゼントのお絵かきセットで絵を描いたり、楽器で演奏したりしても、誉めてくれる両親はいつも不在だった。中にはペットの犬なんかもいたが、幼いアリサに世話をするのは不可能であり、あまり懐いてくれなかった。しかし、両親の温もりが感じられるものは他にない。一緒に遊ぶ友達らしい友達がいないアリサに「誰もが羨むプレゼント」の価値は分からなかったが、他に孤独を紛らわす術がなかった。

 

 そんなアリサを支えたのが鮫島だった。アリサが描いた絵を見て、

 

「おや、これはお上手ですな。旦那様もお喜びですよ」

 

 と言ってくれたのだ。はじめて褒められた。まだ幼いアリサにとって、それはどんなプレゼントよりもずっと嬉しいものだ。だから、率先して褒められるようなことをやった。ペットの世話も手伝うようになった。両親からもらったその犬も自然と懐いてくれるようになり、それは孤独を埋める一助となった。

 

 それからも鮫島はよくアリサの面倒を見ていた。それは日本に移ってからも変わらず、金髪をからかわれても、

 

「その様な陰口など弱いものがすることです。笑い飛ばすぐらい強くなくては」

 

 と笑って慰めてくれた。その笑みを見ていると、自分の悩みは本当に小さなものに思えてくるのだ。その精神的な安らぎから、アリサは鮫島に全幅の信頼を寄せていた。

 

 

 

「それより、病院と言われましたが……」

 

「ええ、学校の帰りになのはが怪我したフェレットを拾ったのよ。いつも通ってる動物病院に預けたから、そのお見舞い」

 

「そうでしたか」

 

 なのはという名前に楽しそうにうなずく鮫島。どうやらアリサお嬢様に親しい友達が出来たらしい。最も必要としていた友達が。鮫島の方もアリサの成長を喜んだ。鮫島にとっても、アリサは恩のある雇い主の娘以上の存在だった。当初は孤独に震える憐れみからアリサの面倒を見ていたが、次第に年老いた自分を家族のように扱ってくれる少女を自分のこどもと重ねるようになり、いつしかアリサの執事を勤める事を誇りに思うようになっていた。そんな中で唯一の心配事は、アリサに友達が出来ないことだった。あの孤独に震える時間が本当に終わりを告げるには、家族以外にもアリサを受け入れる存在が必要だろうとかねてから思っていた。それが今日実現したのだ。嬉しくないはずがない。

 

「あ、あの病院よ。止まって」

 

「では、私もついて参ります」

 

「えっ? い、いいわよ別に」

 

「そうは参りません。通学中に万一の事があれば大変ですから」

 

 子ども扱いされるのが不満なのか、むう、とむくれるアリサを見て、鮫島はただ微笑身を返す。お嬢様の友達との友情の証を見てみたいし、動物関連の知識を獣医から聞いておけば、後々アドバイス出来ることもあるかもしれない。内心でそんなことを考えながら、鮫島は車から降りアリサの座る後部座席のドアを開けた。

 

 

 † † † †

 

 

「あれ? あれって、バニングスの車じゃない?」

 

「あ、ホントだ。そういえばアリサちゃん、犬飼ってるって言ってたかな?」

 

「病院ってのは動物病院だったのか。じゃあ、その犬の見舞いかなんかだな」

 

 槙原動物病院前。修達3人はついさっき見たリムジンを見て足を止めた。この病院には園子の母親がパートで勤務しており、帰り道であることも相まって、塾のある日は毎回立ち寄っていた。修の知っている物語ではここで事件が起きるはずで、できれば近づきたくない所なのだが、

 

(最近は俺の記憶も宛にならないからなぁ)

 

 修の記憶では、事件はもう少し後だ。だが、事件の始まりを告げる念話は聞こえてきた。確か物語では人的被害はなかったと思うが、こう変わっていると怪しい。ただ事件が起こるだけなら孔やなのはがなんとかするだろうと思って無視する所だが、それが結果的に園子の母親を見棄てる事になるのは後味が悪すぎる。

 

「やれやれ、嫌な予感しかしないな」

 

 思わず呟く修。それをアリサと会うのが嫌だと解釈した園子は同意し、萌生は抗議する。

 

「まあ、会ってもロクなことないしね」

 

「そうかなぁ。アリサちゃんの犬、可愛いかもしれないよ?」

 

「怪我した犬なんて見てどうすんだ? まあ、俺達が入るのは裏口からだから、たぶん会わないだろ」

 

 そういいながら、スタッフ用の出入口をくぐる3人。その出入り口は病院受付の職員側に繋がっており、母親を訪ねる園子はいつも使っていた。萌生が挨拶する。

 

「こんばんは~」

 

「あら、園子。修くんに萌生ちゃんも。いつもごめんなさいね。もうすぐ仕事終わるから待っててくれるかしら?」

 

 受付の席で会計帳簿に何か書き込みながら、園子の母親、大瀬伊沙子がそれに応える。3人とも慣れたもので、応接用のソファーに座った。診察から戻った獣医の先生や他の事務員も声をかけてくれる。動物とはいえ命を扱う病院において、終業時間間際に来るこども達は数少ない癒し系キャラクターとして定着していた。いつもの通り挨拶を返す3人。

 

 しかし、そのいつもの雰囲気を壊すように、悲鳴が響いた。

 




→To Be Continued!

――悪魔全書――――――

愚者 アリサ・バニングス
※本作独自設定
 世界的に展開する企業、バニングスグループ総裁の娘。今でこそバニングスグループは大企業となっているが、アリサが生まれた当時はデビットの先代が行った事業の失敗が元で経営危機に陥っていた。このため、経済的事情から両親や姉と引き離され、孤独な幼少期を過ごしており、その時期に家族同然に支えてくれた執事の鮫島を心の支えとしている。孤独を紛らわすために幼少期に犬を飼った経験から犬好きであり、今でも大量の犬を飼っている。

――元ネタ全書―――――

来客用のコーヒーが~
 真・女神転生Ⅰオープニングより。一見何の変哲もないお使いイベントですが、百合子をはじめとした重要なキャラとの出会いに。

もう、人前でお嬢様お嬢様言わないで!
 女神異見聞録ペルソナ。南条君の執事・山岡初登場時のやり取りから。同時に流れるBGMは必聴。ジワジワきたのは私だけじゃないハズ。

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