何回かコールをした後、由比ヶ浜が電話に出る。
「もしもし、ヒッキー?」
「ああ、ちょっと小町に電話してくれないか?話題は何でもいいんだ、明るければ」
俺は思ったことをすればいいのだ。ただ、人に嫌な思いをさせなければ。
「あ、うん。分かったよ...」
由比ヶ浜の口調が暗くなるが、今を逃してしまえば、もうどうしてもこの関係を修復出来ない様な気持ちがしていて、その気持ちが俺を急かす。
「じゃあ、三十分くらいしたらかけてくれ、ごめんな」
「うん、大丈夫だよ...頑張る」
俺は電話を切ると、由比ヶ浜からの電話の前に小町との関係を最大限良くする為にリビングへ向かった。
タイムリミットは三十分である。それで全てが決まるかも知れないのだ。
リビングへ入ると小町がヘッドホンをしながらスマホをしている。ここまでは最近お馴染みの風景。
違うのはひとつだけ。なんか怖いくらい機嫌が良さそうなこと。一人でニヤニヤ笑ってるのを見ると、まるでラノベ読んでる俺みたいだなと思いました、まる。
「小町、どうした?」
小町がビクッと動いて恥ずかしそうな顔をする。そりゃあ、一人で笑ってたんだもんな。自覚はあるらしい。だが、小町はあまり気にせずに嬉しそうに言う。
「去年、ドームに来た、あのアーティストが来日するんだよ!」
小町が言いたいことは分かるが、なんかCMが入る直前の番組みたいになってるので正確にはわからない。興奮しすぎだろ、お前。
「ああ、知ってる。B席でいいよな?」
小町は「黙れ小僧!」って感じでこっちを見てる。お兄ちゃん、怖いよう。
「いや、最低でもSS席でしょ」
その席、前回10万円してました。最低でもそれってどこの富豪だよ。最高とか聞いたらゲスト出演とか言うんじゃねぇの?
「小町ちゃん、お金には限度ってのがあるんだよ?」
お兄ちゃん、そんなにお金無いんだぁ。
今年も東京公演全部に行くとか言われたらお兄ちゃんが借金する羽目になる。
小町に先に話をされたが、これからは俺の番だ。
さっきの一人っ子の話を持ちだそう。
そして「人との繋がりの大切さが分かったよ!」みたいないい感じになったところで、由比ヶ浜からの電話が入って俺と小町の兄妹うるうる仲直りの感動エンディングである。少なくともその予定。
大体の予定を考えてから、俺は行動に移る。
「さっきの一人っ子の話を聞いて少し聞きたいんだけどな」
言ってから思い出したけど、小町とうるうるエンディングって死亡フラグじゃん。既に一回失敗したしな。
俺がそう言うと、小町は姿勢を少し直したが、相変わらずソファーに座りながらスマホをいじっている。
「あ、うん...」
小町は俺を急かす訳でも拒否する訳でもなく、ただ返事をするが、小町の指の動きは既に止まっていた。
どちらにしろ、俺は話を続けなければいけない。
「お前、俺が居て良かったか?」
読んで頂きありがとうございます。
お時間があればでいいので、評価や感想等を頂けたら、と思います。
そして、土曜日の06:45に新シリーズとして小町視点の話を投稿しますので、それについてもご質問やご意見、希望等ありましたらメッセージにて受け付けます。
なので、申し訳ありませんが、次回の新しい話は金曜日の18:45です。
どうぞよろしくお願いします。