以後よろしくお願い致します。
【やっぱり、俺のバスケじゃ駄目かな?】
【ん?どうした。急に】
6年も前の記憶。
今よりも背は低く、技術も大した事もない頃。
【この間の最後のシュートが外れて負けちゃったじゃん?あれってギグ君のミスじゃなくて、俺のパスが悪かったと思うんだ。】
その頃の年下の少年は、理想と現実の狭間で悩み、どうするべきかを決めかねていた。
【なんじゃ、そんな今更な事悩んどんか。】
【今更?】
【そうじゃ。ギグスもお前のプレイが好きだから何も言わんし、だったらあん時に決めんかったアイツが悪い。】
【....でも。】
【それはわしもじゃし、ナベやシシもじゃろう。始めは慣れるのに大変じゃったが、今はそうでもない。無理に変えられたら、こっちが困る。英雄の良いところがなくなってしまうからの。】
【俺の良い所?でも、やっぱりチームが負けるのは嫌だよ。】
このチームに加入して3ヶ月にも満たないが、人望は既に高くコミュニケーションも取れていた。
付き合いは短いがあっさりと溶け込み、こうして頼られるのは悪くなかった。恐らく女子よりも男にモテるタイプなのだろう。
【だったらこうせんか?そのままでみんなを活かせる様になれ。みんなの為に体を張る事と犠牲になる事は違うと思うぞ?そのままを貫いた上で、チームの力になれ。】
【出来るかな...。】
【出来る!と思わんかったら何も出来んぞ。後はお前次第じゃろ?】
その年の大会でそのチームは、席巻し名を轟かした。
キセキの世代という名前が世間に知れ渡るよりも前の事である。
ゲーム再開し、両チーム交代は無かった。
「ふぅぅぅぅー....。」
岡村は、決意の表れのように深く息を吐き出しコート中央に足を踏み入れる。
フリースローは氷室が担当。結果に関わらず陽泉ボールの再開になるので、リバウンドポジションにはつかない。邪魔にならないように視界に入らず、少し離れた場所で見守っている。
誠凛の顔ぶれを見るが、士気に大した影響は無い様子。
「(ま、そうじゃろうの。こっちはほとんど機能しておらんのだ。)」
氷室も紫原も現状を突破するような活躍は望めない。氷室はともかく紫原の精神状態が未だ落ち着きを見せない。それどころか、試合に対する意欲が全く感じられない。
要の2枚が追い込まれ、劇的に変わる手立てもない。
「氷室、確実に頼むわ。」
「分かってる。絶対に外せない。」
福井が氷室に声を掛けて、TO明けで集中力が乱れてないかを確認した。
2本とも問題なく決め、陽泉の得点が加算される。
「(まぁ決めてくるよね。で、このOF決められると4点分か....)」
数字上4点分の大失態。それが英雄が行った事の結果である。
それに言い訳はしない。しないが、献上した4点分の働きをしなければならない。
「(これで負けるとか、ないよねぇ...。)この1本は止める!!」
英雄は、インサイドを守りパスを警戒する。
変わらずダブルチームを用いて陽泉OFを抑圧し、ターンオーバーを狙っている。
「(見れば見るほど感心するのぉ。ウチをよく研究しとるわい。一見、劉を仲介すれば楽なようにも見える。)」
岡村の前に立ち、ボールマンの福井との間に割って入っている英雄を見ながら感心を示していた。
この形からでは、陽泉OFのパターンは限られてしまう。分かっていればダメージは少なく、速攻にも移りやすい。失点しても直ぐに取り返せるというOFの自信の表れだろう。
更に氷室が先程ミラージュシュートを止められたことにより、氷室に躊躇いが生じる。英雄の位置を確認しながらでは、火神に集中出来ない。
そして紫原は未だに沈黙を守っている。
「劉!」
氷室から劉にパスが送られ、ハイポストでキープ。
すかさず英雄がチェックに向かう。
「(英雄が劉に、そして木吉は....流石に紫原を無視できんか...)劉よこせ!」
今までは直ぐに紫原へパスし確実な得点を狙っていたが、今の状況では岡村のシュートの方がより可能性が高い。
インサイドには、陽泉が数的有利になっている。岡村にパスを回すのはそう難しくない。
「(ワシがやるん...)なっ!?」
「らっぁぁぁぁ!!」
背後からの火神のブロックにより、岡村のシュートが弾かれた。このパターンも誠凛は想定していた事で、対策も準備していた。
直接アウトサイドから岡村へパスをさせない事で、火神がブロックに行く時間を作る事が出来る。
対して岡村は、このシュートを大事に打ち過ぎた。それでは、死角からのブロックはかわせない。
「速攻くるぞ!戻れ!!」
激しくバックボードを跳ねて宙を舞うボールを木吉がチップアウトで日向まで弾いた。紫原より速かった1歩分のチャンスを活かして速攻に繋げる。
福井と氷室と劉が懸命に戻るが、速攻に追いつけるのは2人だけ。英雄にペイントエリアに侵入されたら失点を防げない。
「順平さん頼んます!!」
「おぉっし!」
2人を引き付けた状態で日向にパスアウト。
前半のプレイで消耗し、約5分の休息を取った日向の体は余計な力みなど無く、ここにきて動きは冴えていた。
万が一外しても、ゴール下には英雄と氷室しかいない。それならば、英雄はリバウンドを抑えてくれる。
リバウンドが取れない状況で打ち続けた日向には、その安心感が背中を後押ししてくれているような気がした。
ノーフェイクでのシュートは福井のブロックをものともせず、リングを通過した。
「(失点防いで、3P。5点分ってところか....ま、火神のお陰なんだけども...。)あざっす、順平さん。火神も。」
英雄はDFに戻りながら、尻拭いをしてくれた2人に頭を下げる。
「過ぎたことだ、気にすんな。」
「分かりました。気にしません。」
「即答かよ!」
再び顔を上げた英雄はケロリとしており、いつもの様に振舞った。切り替えが素早く褒めるべきだろうが、何かモヤっとする。
思わず火神がつっこみを入れる。
「っくそ...。日向の調子は依然上向きか。」
「すまん。ワシが油断したばっかりに。」
フリースローを入れたくらいでは、ペースを取り戻す事は出来ない。
なんとしてもフィールドゴールが必要だ。
「あ~、もういいや。俺を交代させてくんない?飽きたし。」
「あ?何言ってる!?今お前が抜けたら負けは確実じゃねーか!!」
「負けるに決まってるよ。俺までまともにパスこねーし。」
しかし、紫原はこの期に及んで試合を投げた。当然、福井は非難し、認める訳が無い。
「はぁっ!?イージーツー外したお前が言うのか!!?」
「....何か言った?お前如きが俺に意見するの?」
「止めろ!!試合中だぞ!?」
氷室が間に入って諍いを止める。
「室ちんも大概...何?」
紫原の言葉を岡村が肩を力強く掴む。
「別にお前がどういうつもりだろうが良い。」
「岡村!?」
「だまっとれ。それでもコートから出すわけにはいかん。居るだけでマークを引き付けられる。後は好きにしろ。」
告げ終わると岡村は、我先にOFに向かった。
紫原の言うとおり、ジリ貧なのかもしれない。それでも、諦めるという選択肢は存在していない。存在してはならないのだ。
紫原も特に反論せず、面倒に思いながらも足を前に動かした。
「(っつっても生半可なパスは、奪われる。....どうする?やっぱり、氷室に。)」
「福井!多少強引でも良い!打て!!」
岡村は、パスではなくシュートを要求した。
しかし、福井はダブルチームに捕まらない様に距離と取っていて、これを決められるのは緑間くらいだろう。
「(んな無茶な...。なんだよ...やる気マンマンじゃねーか。)っち、分かったよ。」
福井は、迷っていたが岡村の目を見て従った。
リバウンドに関しては陽泉に分がある。むしろ、勝機はそこにしなない。
「日向!チェック!!」
「分かってる!!」
木吉が声を出し、日向がブロックに向かったが、福井のシュートが早い。
弧を描いてリングに当る。ここからは、高さと力の領域。
「このっ!」
紫原ではなく、岡村が力ずくで英雄や木吉を押しのけて奪う。
奪った後にすぐさま、迫り来る火神のブロックに対して強引にバンクシュートを決めようと、前掛りに跳ぶ。
「っらあ!!」
しかし、勢いづいた火神のブロックを堪えきれず、横に弾かれてしまった。
「うぉっ!?」
「フリーじゃ!打てっ!!」
ボールは運よく劉の目の前に飛んで行った為、ターンオーバーからには逃れた。劉はそのままシュートを決めて得点を加える。
「っち、惜しいな。」
「ドンマイです。切り替えていきましょう。」
悔しがる火神に黒子が近寄り、声を掛けていた。今のシーンは本当に偶々陽泉側に転がったものであり、火神のミスではなかった。
そして、この時点で1つ小さな変化が起きていた事に、ほとんどの人間は気が付いていなかった。
「よっしゃ!ラッキーでも2点は2点じゃ。劉もよくつめとった!」
この程度で流れは変わらない事は、岡村自身が重々承知している。それでも、声を張り出さずにはいられない。
チーム内にいまだ蔓延る良くない雰囲気を打ち払う為である。
「(あっちの火神も充分バケモノか...。こっちの自信もメンツもへったくれもないの。)」
内心で密かに愚痴りながら、再び前を見る。怒涛の攻撃力に立ち向かう為に。
厄介なのは、速いパスをポジションチェンジ。黒子も加わり、容易にノーマークを作り出す。マーカーの劉は振り回されっぱなしで、空元気も空回りしている。
トライアングルOFに黒子が加わると本当に手が付けられない。
「(あ~もう、面倒だなぁ。さっさと終わらないかなぁ。)」
そんな中、ゲームの中心であるべき紫原は完全に上の空状態で、岡村の言葉どおりただ突っ立っているだけだった。
正直、誠凛のシュートシーンを見るとイラっとするが、それでも火神の様にがっついたり、黒子の様にしつこくするのが嫌でしょうがない。
自己中、ここに極まれり。それに薄々気が付き始めた黒子の表情が曇っていく。
「何?打ちたいならどーぞ。もう俺関係ないし。良かったね勝てて。」
「紫原君...。」
「紫原ぁ...てめぇ!」
「放っておけ!」
この結末は黒子も含めて誰も望んでいなかった。追い詰めすぎた弊害か。しかし、少なくとも黒子はそれを乗り越えてくるものだと信じていた。バスケットに対して本当の想いがあるならば。
いくら試合中でも、我慢にも限界がある。福井がDFを止めて詰め寄ろうとした時、岡村がまたもや静止させ、意識をゲームに引き戻す。
今、確実にチームが、ゲームが崩壊した。ベンチの荒木も頭に手を当てて俯き、敗北を覚悟した。観客も同様に、好ゲームと期待しただけにショックは隠しきれない。ざわつきが止まらず、辺り騒然と化す。
「(くっそ...こんな終わりがあるかよ...。)」
「(ふざけるな!こんなの...あんまりアル!)」
福井はもう形だけのDFを継続するので一杯一杯になり、劉も苦い思いを噛み締めながら手を伸ばすが、黒子のファントムシュートを止める事はできなかった。
これまでに積み重なった点差もあって、勝ち方が、何をすれば良いかが、もう分からなくなっていく。
「アツシ!いい加減にしろ!!それで良いと言ったが、態々バラす必要などないじゃないか!?」
「はぁ?どうせ負けるんだから、さっさと諦めれば?」
「お、お前という奴は...。」
氷室も怒りが抑えきれず、失点後直ぐに詰め寄る。
「じゃっかっしぃわ!!」
そのまま乱闘かと思われたが、岡村の一喝で4人の動きが止まった。様子を窺いに来ていた主審も一緒になって身を捩じらせている。
「こんな大勢の前で...恥ずかしくないんか!!」
敗色濃厚になった陽泉内でただ1人、岡村の顔だけは違っていた。
「なんじゃなんじゃ、わしだけか?まだ勝てると思ってるのは。」
「え?」
点差と残り時間を考えてみても、ここからの逆転は紫原の言うように厳しいものがある。しかし、その根拠があるのかどうか分からない言葉には、ほんの少しだけ力強さがあった。
バスケットを知らない初心者が言うのならまだしも、まさか岡村からそんな言葉がでるとはと、少し呆然としてしまう。
「劉、インサイドはわしらの縄張りじゃ。たかだか新人の1人や2人、でかい顔させるな。」
「.....。」
「福井、もっとガンガン持って来い。わし、今調子ええけぇの。」
「お前...。」
「氷室、火神の相手はしんどいじゃろ。勝てなくてもいい。ただ、負けるな。」
「キャプテン....。」
「ほら、審判さんが心配そうにみちょる。...行くぞ。」
岡村は2人に告げると何事も無かったかのように、OFに向かった。冷静さを一時取り戻した氷室も岡村に続いてOFへ向かう。
紫原は4人とは距離を置き、OFに参加出来ない場所、自陣で見送った。対して岡村が文句の1つも言わなかった。
「(やっちゃる...やっちゃるぞ。見とけ英雄。わしはまだ枯れてない。そんなもん認めてたまるか。)パス!」
ローポストへポストアップし、パスを要求するが、そのパスを通すのが厳しい状況である。岡村の言葉でなんとかプレーを続けている福井では、迫り来るダブルチームに捕まってしまう。
「くっそ!どけよ!」
「させねぇ!」
日向や黒子にも思う事があるが、それでも試合に対して気を抜くと言う事はしない。岡村へパスを入れたい、入れてやりたいという気持ちと裏腹に、パスが成功する気がしない。
「無理なら構わん!打て!はよ!!」
タイトなマークにより、それも儘ならない福井は、内心での舌打ちが止まらない。シュートクロックもあとわずか。
「貸してくれ!」
「氷室か!頼む!!」
フォローに来た氷室に受け渡し、その氷室が今までに無いほどに、雑にリングに向かってボールを投げた。
そんなシュートとも言えないものが入る訳も無く、端からリバウンド勝負でしかない。それでも、これこそが一点の突破口。
「劉!行くぞ!!引くなよ!!」
「ぐ....!」
劉も懸命に体を張っているつもりだろうが、気持ちがプレーについていけていない。パワーで劣る英雄にポジションを奪われていた。
ボールは岡村と木吉の元へと零れ落ちる。
「(勝負!!これだけは...この1本だけは負けられん。)負けて...たまるか!!」
木吉の片手によるバイスクローで補給する前に、岡村が片手で強引に胸元まで引き寄せた。
「何!?」
「こなくそっ!」
木吉相手にリバウンドを制し、そのままシュートを狙うが、またしても火神がブロックに現れ、岡村が掴んでいるボールを叩く。
「ぬぅぅがぁぁ!!」
それでも、直ぐに弾かれる事なく押し返そうと粘る岡村。一瞬の均衡後、やはりボールは勢い良く弾かれて紫原の元へと向かった。
「拾え!紫原!!」
「あ~もう、はいはい。仕方ないなぁ。」
これまでになく、気迫に溢れている岡村の言葉に渋々ながら従い、目の前を転がるボールを拾って福井に返した。
「....(さっきまでなら...。)」
ここで初めて火神が異変に気が付いた。結果的に同じ様にブロックが決まり、得点を防いでいる。しかし、徐々に力強くなっているように思えるのだ。
手に残る感触を確かめるように眺めるが、どうにも答えが出ない。
「....火神。もうゲームは決まったと思ってるなら改めたほうが良い...かも。」
「英雄?」
そこに英雄が現れ、意味深な表情で告げた。
「福井!もう1度だ!!」
こんなスローペースで逆転など不可能だろうが、岡村が孤軍奮闘する姿を見て福井は最後まで付き合う事を決めた。
「わぁってるよ!ちょっと待ってろ!!」
福井は先程と同じ様にパスもしくは、リバウンドへ持ち込めるように投げ込みたかったが、誠凛DFは何度も同じ手段を許すはずも無い。尚且つ、紫原のいないインサイドに脅威を感じず、プレスを強めていった。
「(駄目だ...。一旦氷室へ...。)」
「(そう簡単に)行かせるか!」
一旦預けて体勢を整えようとパスを選択。しかし、日向の腕が僅かに触れて、ゴール下へと転がっていく。
「ナイス順平さん!」
英雄がすばやく反応し前へと出る。本当にゲームが壊れたとしても、容赦はしない。取れる点は取っておく。
ボールに手が届こうという時に、横から岡村が体を押し入れ手を伸ばしに来た。
「おおぉ!?」
「渡すかい!!」
英雄がルーズボールを奪取するのを防ぎ、力一杯弾くが勢いあまりラインの外まで出て行った。
「っち。やるのぉ、英雄。」
「...オカケンさんも。ちょっと見直しました。」
「はっはっは!そうかそうか。....今にその上から目線なんぞ、出来んようにしちゃるわい。」
笑い飛ばし、強い眼光で英雄を睨みつけた。
「(なんで....。もうこのゲームは終わりじゃん。そこまでする意味なんかあるのかよ...。)」
コートの隅で成り行きを見ていた紫原の心にも、なにか変化が起きていた。
失敗したOFからなんとか1本防ごうとしているが、5対4という圧倒的不利な場面が続き、結局失点している。
それでも、沈んでいたメンバーの顔が岡村の影響か、蘇ってきている。敗北へと1歩1歩近づいているのは間違いないが、それでもゲームがゲームとして成立している。
完全に崩壊したところから、ここまで持ち直している。それだけに、途中で投げ出しコートで立ち往生している自身が無様に思えてしまう。
「(だから、さっさと諦めろよ!なんで、負けてんのにそんな顔出来んだよ...。なんで....。)」
今も必死になって、点差を1つでも埋めようと4人が走り回っている。
「なんで...こんなにも...心が揺さぶられる...。」
「おおし!気合入れろよ!福井!さあ来い!!」
両手を叩きながら、自身を含めてチームを鼓舞する。
「(分かってる。でもな...お前のプレー見てると、ただ投げ込むだけの俺って)かっこ悪過ぎじゃねーか!!」
先ほどの様にリングに投げ打つだけなら簡単だが、そんな情けないプレーはしたくない。パスが無理ならせめてまともなシュートくらいを、とバックステップして普段なら打たないような距離で3Pを放った。
恐らく、始めからリバウンドの為のシュートだったのであろう。肩の力が抜けており、本日最高のシュートを放った。
「あ、入っちまった。」
まぐれでも、この3Pはチームの弾みになりうる値千金の価値がある。
「なんじゃ、やりゃ出来るもんじゃの。よっしゃ、1本止めるぞ!」
「うるせぇな、分かってるっつーの。」
確かな事は、少しずつではあるが、目の色が代わりつつある事。僅かなきらめきがゲームに変化を齎し始めている。
しかし、それでも流れは誠凛にある。速いパス回しから、再び劉の所で失点する。
「ナイス黒子!!」
ミスディレクションを使ってフリーになってからのレイアップが決まり、点差を戻す。
「(どうにも乗り切れないアル....。どうすれば..)」
「俯くな!顔を上げろ!!」
劉の大きな方を荒っぽく抱き寄せ、丸くなった背中を抱き起こす。
「去年までのお前はどうした?わしからポジション奪ってやろうと噛み付き続けたじゃろうが。あの牙をもう1度思い出せ!ファウルが怖くてビビっとんのか!?」
「俺の...牙...。」
「何度も言うが、ゴール下はわしらの....違うな、わしの縄張りじゃ。わしに勝ちたかったら、まずはあやつらを蹴散らせ。」
その言葉で劉は岡村の腕を振り払い。大きく深呼吸し、味方の岡村を睨みつけた。
「あんまり調子にのるな、アゴリラ。」
「ほう、調子が出始めたか?」
「どうでもいいけど、一々痛いアルよ。あと、気安く触るな。匂いが移る。モアイの肩でも抱いてろ。」
「言い過ぎ!それ、言い過ぎだから!!」
結局いつもの感じで、格好がつかないのは、良い事なのだろうか?
「でも、確かに。インサイドで好き勝手にやられるのは我慢なら無いアル。」
「おう!見せてやろうじゃないか!ツインタワーの復活じゃ!!」
「勝手に俺をおまけみたいに言うな、モミアゴリラ。」
その間に福井がボールを持って通過し、岡村を一瞥する。
「こういう時くらい、カッコつけさせて!」
調子が戻ったとたんに、一斉放火を浴びて、岡村がむごく見えてくる。
「俺も混ぜてほしいな。」
そこに氷室も加わり、4人で誠凛側のリングを見る。
「んじゃまぁ、いこっかい!」
誠凛は本当であれば、ここでゾーンプレスで行きたいところだったが、事情によりハーフコートのダブルチームを継続した。
理由は実に簡単。火神の体力である。陽泉におき始めた変化により、ゲーム展開も変わりつつあり、勝負に行くべきかを悩ませる。万が一、決め切れなかった場合、最悪の展開が予想される。
出来れば、大事なポイントでゾーンプレスを使いたい。しかし、ここでの無茶は次のゲームに大きく響く。使いたくても使えないのだ。
そんなリコの考えもあり、下手に無茶をせず、点差を有効に使っていく方針となっている。
「けど、胸騒ぎがするわ...。英雄、責任取ってくれるんでしょうね...。」
事の発端となってる英雄はその空気を感じ取り、少しだけ困ったように笑っていた。
昨年の勢力図・大会結果等を想像すると、2m2人の陽泉が早々負けるとは思えず、洛山はどうやって勝ったのだろう。ねぶやでも1人はしんどかろうに。
なんて事を考えてました。
まぁ、どうでもいいと思いますが。