黒子のバスケ~ヒーロー~   作:k-son

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ベスト8

WC第3回戦。

誠凛は、いつも通りに1-3-1ゾーンでペースを奪っていた。

2回戦の反省により、日向をスタメンに選びバランスの良いOFを展開。

インサイドは水戸部、土田、英雄の3人でリバウンドを高確率で奪取していた。

相手Cの慎重は3人よりも高かったが、誠凛の1-3-1はパスコースを制限し、まともなプレーをさせなかった。

途中で日向を小金井と交代、戦術をカウンター速攻型に切り替えた。

そして、これも上手く嵌り、点差をつけていく。セットオフェンスの場合でも、英雄のミドルシュートを中心にOFを組み立て、それぞれが平均的に得点。

最後に木吉を投入し、疲労している相手のインサイドからリバウンドやシュートの本数を稼いだ。

 

 

 

「イェーイ!ベスト16突破ぁ!!」

 

文句なしの勝利に英雄ははしゃいでいる。

今のところ出場時間が1番長いのだが、疲労の色は無い。

 

「順調順調!」

 

リコもスコアボードを眺めてニンマリしている。

これで、次ぎに迫った大勝負をベストな状態で迎えられるのだから。

 

「次は....。」

 

改めて火神は次ぎの対戦校を確認する。

キセキの世代・紫原敦、そして氷室辰也を擁する陽泉高校。2,3回戦はコートに入らず、自分は特訓に専念させてもらった。

仮にもエースと呼ばれているのだ、ここでチームを勝利に導かれなくて何がエースか。

彼のテンションは既に爆発寸前であった。

 

 

「馬鹿やろう!!」

 

そのままのテンションでアレックスとの特訓に臨んだ火神は、アレックスに叱られていた。

 

「熱くなるのはいいが、怪我すんだろ!!」

 

「けど!!」

 

「ぅっせぇっ!!

 

不完全燃焼な火神はつい反発し拳骨を貰い蹲る。英雄は横でストレッチを行いながら、その光景を笑って見ていた。

 

「それにしても...規格外の技だね。これがワールドクラスって奴?」

 

英雄はふとこの数日の特訓の内容を思い返す。徐々に形になっていくそれに流石の英雄も驚かされた。

なにせ完成すれば、ブロック不可の必殺技となるのだから。

 

「うーん、俺ならどうやって止めるかね?」

 

対抗心を燃やすのはいいのだが、そのせいで練習相手という役割を忘れてしまい。本気のDFをしてしまった。

完成度がまだまだな火神は使用すら出来ない。

しかし、アレックスはそれはそれでいいと考え、続行させた。次の試合に間に合わせるには多少の無茶は覚悟するしかない。

それに、叱ったが、その熱意を上手く活かしきれれば成功も近い。

 

「...それにしても、良いコンビじゃねーか。身近なライバルの存在ってもの程、成長に繋がるものはねえ。」

 

アレックスは見守りながら、昔の事を思い出していた。

小さな弟子達が楽しそうにバスケをする姿を。

 

「(タツヤ...)」

 

 

 

 

そして遂に試合当日がやって来た。

陽泉高校対誠凛高校。

試合開始前から、陽泉の3人のでかさが際立つ。

 

『でけぇ...ホントに高校生?』

『やっぱあれくらいパワフルじゃないと盛り上がんないでしょ!』

『それに2試合連続無失点つーのがヤバイ!!』

 

いつものことながら、周りの予想は誠凛の不利である。

誠凛としても今日の試合が厳しくなる事は事前のスカウティングで分かっている。今更、驚いたりする事もない。

 

「はい!注目!!」

 

リコが手を叩きながら試合前の確認事項を行った。

 

「今日の重要事項はインサイドよ!不利なのは始めからわかってるんだから、一々不安にならないで。」

 

「あーい。順平さんどうですか?」

 

「絶好調とまでは行かないが、悪くねぇな。つか、2試合共ここまでお膳立てされといて、出来ませんなんて言えるか!だろ?」

 

英雄は適当な相槌を打ちながら、もう1つのキーマンである日向に話しかけた。

しばらくの間、温存且つ実践での調整をしてきた甲斐もあり、万全だったようだ。

 

「ああ、火神と黒子はどうだ?」

 

木吉も同様であり、気持ち的にも余裕があった。

 

「問題ねーです!」

 

「どーでもいいけど、俺に対する感謝が感じられないんだけど?」

 

「別に...いなくても良かったし。」

 

「何それ。器ちっちゃ」

 

「んだと!?」

 

実際のところ、火神はそれなりに恩を感じていた。何と無く伝えるタイミングが無かっただけなのもあるが。英雄のドヤ顔を見ると思うと体が拒否したのだ。

流石に試合前に怪我というのも問題だらけなので、立ち上がる火神を黒子が止めた。

 

「まあまあ。」

 

「そーいやテツ君も青峰とシュートの特訓してたんだよね?」

 

「はい。結局のところ目的には至りませんでした。それでも、無駄だったということもありません。」

 

「お?自信ありって顔だねぇ。」

 

「英雄!いい加減、試合前にはしゃぐ癖直しなさい!」

 

「甘いね。俺がはしゃぐのは試合後もだ!」

 

「うるさい!」

 

「うぇぇぇぇ。」

 

前のめりになって黒子の話を聞く英雄のユニフォームを掴み、強制的に座らせた。

試合前の選手にすることではないが、これがいつも通りの誠凛だったりする。

 

「他人の事はともかく、アンタはどうなの!?ここで調子悪いなんて言ったら...張り倒す!」

 

「ダイジョブ、負ける気がしないよ、アレもあるしね♪」

 

リコの恐喝にもあっさり応える英雄は本当に調子が良いのだろう。

 

「よし、それじゃあスタートは桐皇と同じね。いい?絶対にビビっちゃ駄目。とことんしつこくいきなさい。」

 

「「「おう!」」」

 

先ずは整列。

両チームが中央に集まる。

 

「おい英雄。この間言った事忘れちゃおらんじゃろうの。」

 

先日に英雄からはっきりとチームを否定された岡村は睨みつけていた。

 

「えっと...?ああ、あれっすね。当然ですよ。つかオカケンさんは何も感じないんですか?」

 

「あぁ?」

 

当然副キャプテンの福井も反感を受けなかった訳ではない。

 

「...分かったわい。こっからは言葉じゃなく、プレーで語ろうか。」

 

「そゆ事。」

 

完全に形式だけの握手を行う。岡村から強い力で握られていた。

それと同様に、火神と氷室、木吉と紫原が火花を散らす。

 

陽泉高校

C紫原敦 208cm

PF岡村建一 200cm

SF劉偉 203cm

SG氷室辰也 183cm

PG福井健介 176cm

 

 

誠凛高校

C木吉鉄平 193cm

PF火神大我 190cm

 黒子テツヤ 168cm

SG日向順平 178cm

PG補照英雄 192cm

 

両雄入り乱れ、試合開始。

木吉はベストなタイミングでジャンプボールを跳ぶが、圧倒的高さをもつ紫原が当然の様に先に触れて福井に送る。

 

「もーらい!」

 

それも織り込み済みだった英雄は、福井からボールを奪い

 

『ジャンパーヴァイオレーション。白9番。』

 

先取点と思いきや、主審の笛で止められてしまった。

紫原がジャンプボールをボールが最高点に向かうまでに触れてしまっていた。

主審は充分な高さに放り投げていたのだが、紫原の驚異的な高さが窺える。

 

「...やっちった。」

 

「次は気をつけような?」

 

「お前、いい加減にしろアル。」

 

紫原はチームメイトから非難を受けているが、割と普段から行われているように見受けられる。

監督の荒巻もそこまで厳重注意をしていないのだろう。

 

「分かってた事だけど...。」

 

「ああ、この試合。マジでキツイぞ...!」

 

だが、試合全てでこの高さに挑まねばならないのだと、誠凛メンバーに思い知らせた。

 

 

対して、陽泉にも不安要素が無かった訳ではない。

 

「でも、アツシのミスは結果として助かった部分はあるぜ?」

 

スティールを食らった福井である。紫原が制したボールを大事に行こうとしたときに奪われた。

ルールに助けられなければそのまま先取点を与えていたかもしれない。

 

「ま、口だけって事はないじゃろ。」

 

補照英雄。最大の選手が紫原である事は間違いないが、PG限定なら英雄が最大なのだ。

警戒しない方がおかしい。昔を知って尚且つ、桐皇戦を見た岡村なら尚更である。

 

「内が駄目なら外ってのは定石アル。別に目新しいこともないアル。」

 

劉も他と同じ戦法で来ると思い、若干舐めている節があった。

それは今までのゴール下の支配してきた結果から来ている。インサイドは俺達のものだと。

いつも通りに2-3ゾーンで、強固な盾を作った。

この2-3ゾーンこそが、2回連続で無失点の記録を作ったのだ。それは重厚で強烈なプレッシャーを放つ。

 

 

 

「てな感じで舐められてる?」

 

「てな、ってなんだよ?」

 

今日までの研究や英雄の『だから?』というリアクションで、誠凛はそれほど不安を感じていない。

 

「まあいい。行くぞ!」

 

日向のスローインで英雄がボールを運んだ。

陽泉のゾーンは他のチームと比べて外に開いており、未だ3Pラインであってもチェックが厳しい。

 

「でも、関係ないけどね。」

 

「な!?」

 

福井の正面でいきなりジャンプシュートを打った。

陽泉高校 0-2 誠凛高校

英雄が3Pラインを踏んでおり2Pであったが、それ故に福井のチェックは若干甘くなっていたのだ。

約20cmのミスマッチ、英雄に跳ばれると福井には届かない。

 

「えっと...ゾーンでいいんすか?」

 

おまけに挑発もプレゼントし、誠凛の先制。

 

「ん~。やっぱアイツも面倒だねぇ。」

 

紫原はそれをだるそうに見ていた。

 

次順。陽泉OF。

しかし、紫原は自陣でぼんやりしており、OFに参加する気配はない。

 

「ふぁ~...頑張ってねぇ~。」

 

欠伸をしながら4人を見送っていた。

陽泉は2IN2OUTのフォーメーションで福井がボールを運んでくる。

その福井には日向がマークし、岡村に木吉、劉に英雄、そして氷室に火神となっている。

 

「初っ端からぶっ倒しにいくぜ。タツヤ!」

 

「この時を待っていたよ、タイガ!!」

 

開始早々に1ON1でぶつかる。

福井からのパスを受けて、即シュート。

 

「フェイク!?」

 

氷室の鋭いフェイクに火神はブロックに跳んでしまった。

その隙に氷室は一気に侵入。

 

「いかせません!」

 

そこに黒子がヘルプ。黒子はとくにマッチアップせず、自由に動いていた

氷室はそこでジャンプシュート。

 

「はっ!!」

 

黒子は氷室のシュートに一切反応出来なかった。

 

「うわぁ...綺麗なフォーム。」

 

ドリブル、ストップ、ジャンプ各基本の動きがあまりにもスムーズで美しいともいえるシュート。

そこに練習から来る重厚なバックボーンが見える。

 

「やっぱ、いやそれ以上に...巧い。」

 

昔を知る火神も、遥かに力を増した氷室に単純に感心を示していた。

 

「もっとガンガン来いよ、タイガ。そんなもんじゃないだろ?」

 

氷室は自陣に戻りながら、すれ違う火神に問いかける。

 

「っく...タツヤ。」

 

この試合は派手にダンクの応酬かと思いきや、両チームのファーストシュートがジャンプシューであった。

しかしその影で、インサイドでの競り合いは行われている。

 

「鉄平さん、練習してた奴いけますか?」

 

「ああ、大丈夫だ。だから、どんどん打って来い。」

 

序盤、誠凛は外からOFを組み立てる。

しかし、乱発しても全てが入る訳ではない。その幾つかは外れることもある。

リバウンドがとれるかどうかが問題なのだ。

 

それでも、誠凛にアドバンテージはある。

高校バスケのPGは大体が大きくて180くらいで、英雄の190越えのPGなどどこにもいない。

PGの適正があっても、他ではFかCをやらされるのだろう。事実木吉はそうである。

そして、英雄のシュートは緑間のものと同様の効果が現れる。

その長身からのジャンプシュートをブロックしてくても、届かないのである。

陽泉であれば岡村や劉などだが、アウトサイドにポジションを取る英雄がうっとうしくて仕方が無い。福井と氷室に出来る事はまず打たせない事。

 

『ダブルチーム!!』

『でも2-3ゾーンだったらああするしかねぇ!』

 

観客は大分目が肥えている。

そのデメリットも若干でも理解しているのだろう。

英雄は、捕まるギリギリのタイミングで日向にパス。

徹底的なアウトサイドに、岡村はゾーンを崩して日向を詰めた。

 

「火神!」

 

「よし!」

 

生まれたスペースで火神がパスを受けて、シュート。

インサイド堅守のゾーンを崩し、ノーマークだった。本来ならこのプレーは得点に繋がる。はずだった

 

「(なんで...もうそんなところに?)」

 

バゴッ

 

紫原のたった1歩で詰められ、打点で言えば英雄より高いシュートを叩き落した。

キセキの世代、紫原敦。出場選手最大の体格をもち、尚且つその長身にして軽やかな動きをする。

そして、紫原の守備可能範囲は3Pラインより内側全てである。

 

「やっぱり避けては通れない...」

 

リコは改めて最大の脅威を確認し、診る。

その膨大なエネルギー量は火神を遥かに超える。

この先、どの展開でも3P以外の得点を得ようとすれば、紫原をどうにかしなければならないのだ。

 

「ルーズ!」

 

英雄がそれなりに長いリーチでボールを確保し黒子にパス。

黒子がダイレクトで木吉にパスし、あっという間にペイントエリアに異動していた英雄に折り返した。

すかさず、英雄のジャンプシュート。が、その前を大きな影が覆う。

再度、紫原のブロックが弾き飛ばし、それを福井が速攻に繋げた。

 

「うわっはー...デカ。」

 

英雄の記憶にもあそこまで豪快に防がれた事はなく、改めて紫原の凄まじさを体験した。

 

「...思ったより、大した事ないじゃん。」

 

紫原は一応程度に警戒していたが、火神と英雄をあまりにもあっさりと止められた事で、杞憂だったかと感じた。

 

「....言われちゃった。どうする?火神」

 

「ああ!?うるせぇよ、俺はこっからだ」

 

「2人共、止めて下さい。DFですよ?」

 

誠凛は想像以上の迫力に多少驚いたが、特段取り乱すほどでもなかった。

試合開始直後は、お互いの引き出しを軽く見せ合う程度で、本番はここから。

ベスト8の壁というものがある。壁というからには、分厚く高いなにかが阻んでいるイメージなのだろう。

2、3回戦とは違い、勢いだけでは壁を乗り越えられない。ここからは本当の地力を試されているのかもしれない。




青峰や火神が使うゾーン
ゾーンDFのゾーン
この2つが分かりにくいかも知れませんが、どうかお付き合い下さい。

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