SG-シューティングガード。
コート内では3Pなど長距離からのシュートを得意とし、得点を稼ぐ役割を担う。一般にこのポジションの選手はポイントガードの選手よりも身長が高く、ショット回数もポイントガードより多くなる。
また「オフガード」や「セカンドガード」と呼ばれることもあり、ポイントガードの補佐も行うため、ボールハンドリングやパス、高い位置での判断力に優れた選手が務めることが望ましい。現代の花形ポジションである。
スモールフォワードを兼任することができる選手もおり、こうした選手はスウィングマンと呼ばれ、試合中、状況に応じてポジションを変更する。
スウィングマンという概念は、1970年代終わりから1980年代始めにかけて誕生した。すぐれたスウィングマンは、高さや運動能力でディフェンスのミスマッチを生み出すことができる。(wikiから抜粋)
英雄が初めて緑間を見たとき、心が躍るようだった。黄瀬もそうだったが、ここまでのプレーヤーが日本に存在しているのかと。
しかし、観戦していた試合が進むにつれて歓喜から落胆へと移っていた。
3Pの距離、精度は驚愕に値するが、緑間はそれに囚われている様に見えた。
『本当に勿体無い。』最終的な感想がこれだった。
シューターとして高レベルなのは間違いない。しかし、SGとしては如何なものだろう。
SGにも選手によって色々あり、3Pも重要だ。1つの技を極めて、一流の選手になるのも、1つの正解だ。それでも、それのみでできているスタイルに疑問を感じて欲しかった。
そもそも、英雄の中でも緑間の基本的な評価はかなり高い。
シュート精度は勿論のこと、高さがあり、スピードもあり、バスケIQも高い。青峰や火神のような日本人離れした身体能力は無いが、補える程のポテンシャルを持っている。
上手く成長すれば、間違いなく世界に挑戦できるだろう。
でも、その事に気付かなければ、日の目を見ない『忘れられた天才』になってしまうだろう。
しかし、可能性に見向きもせず小さく纏まっては酷くつまらない。SGというポジションは、そんなつまらないものじゃない。
英雄が憧れた、コービーブライアント、アレン・アイバーソン、NBAを代表するスタープレーヤー達が愛したポジションなのだ。
第3クォーター残り2分弱。
またしても、緑間のスクリーンによって、高尾がインサイドに侵入する。
『ああ!またこのパターンだ!』
「(っち!くそっ!!)行かせるか!」
火神はマークをスイッチして、高尾の侵入を防ぎに行く。
「...っち。..なーんてな。外すなよ。」
高尾は、ノールックでリターンパスを背後にする。
「しまっ...!」
火神はパスの向かう方向へ急いで向かう。マークチェンジ後、緑間のマークは伊月である。
完全なミスマッチになり、緑間のシュートは止められない。緑間はしっかり3Pラインの外で待ち構えていた。
「誰に言っているのだよ。馬鹿め。」
火神がブロックに行こうとしても、高尾と伊月が直線状に位置していて、最短距離で近寄れない。
伊月が腕を伸ばしても、圧倒的に届かず、高い弾道を描きながらリングを通過した。
誠凛 82ー88 秀徳
火神のプレーが荒れ、精彩を欠いてしまい、逆転を許してしまった。
それに加えて、インサイドでの緑間のプレーは、凄まじいの一言だった。
3年の3人だけですら、全国レベルの実力を持つ。そこに、195の長身の緑間である。
1人抜いても、緑間がヘルプでやって来る。これだけで、OF側は堪ったものではない。
チームのシステムが緑間の為のシステムから、緑間が加わる前のシステムに変わり、それを緑間が上手く合わせているものだった。
ぶっつけでここまで合わせらる緑間は、やはり天才に間違いないだろう。
インサイドに集中しているので、外に位置していた日向のマークはいくらか甘くなっているのだが、全てのシュートを決める事は難しい。
リバウンド。特にOFリバウンドは、秀徳が高確率で奪取し、得点を重ねていた。
OF・DFにも良いリズムというものがあり、リズムが良いと成功しやすく調子も出やすくなる。
緑間個人も、プレーにドライブを混ぜてくるので、火神はその対応に追われていた。
他の4人でカバーをするが、緑間の3Pが要所要所で決まり、手が付けられなくなってきた。
何とか、火神の調子を戻そうとチャンスメイクをするが、緑間のタイトなマークによりそれも叶わない。
速攻・遅攻、インサイド・アウトサイド、緑間は本当の意味で『人事を尽くす』様になっていった。
「...ふ。」
緑間は誰にも気付かれない程に小さく、笑った。
己の決断により、ここまで変わるとは正直思わなかった。
英雄を切欠にというのは、癪ではあるが本当に癪ではあるが、チームが、自分自身が成長していく実感は、
「(悪くない...な。)」
「カントク...。」
「え、何?」
秀徳に流れを奪われたままの試合が進み、リコが打開策を練っているところに黒子が声をかける。
「今ならイケルと思います。...新しいドライブを。」
丁度良くボールがラインを割り、ゲームが切れる。
リコは直ぐに交代の申請を出す。
ビーーーーー
メンバーチェンジのブザーが鳴り、注目が集まった。
「頼む、この流れを変えてくれ。」
誠凛ベンチの祈るような期待を背負いコートに立つ。
『誠凛、メンバーチェンジです。』
黒子 IN 伊月OUT
「やっと出てきたか...。」
黒子の姿を見た緑間からぼそりと零れる。
「今更?ミスなんたらは、もう切れ掛かってんだろ?ヤケクソか?」
宮地が黒子の起用に疑問を持つ。
「寧ろ逆だ。この状況において考え無しは有り得ない。何かある。」
黒子について、1番詳しい緑間がチームに警告する。
「...。つか、何フツーにタメ口なんだ?ひき殺すぞ。」
「...。後、補照やり合うなら気をつけてください。」
完全に素で言葉遣いを間違えて、宮地に睨まれる緑間。
「あぁ?何誤魔化してんだ。つか、後半からずっとやってんだろうが!今更何いってんだ。」
「今まではどちらかというと裏方に徹していました。ボールに触れるのは瞬間的で、シンプルなものでした。しかし、PGにチェンジする以上何かを仕出かします。」
「...っち、わかった。一応警戒しとく。」
「黒子!イケルのか?」
「はい。」
「とーぜんだな。それより、ちゃんとあいつらの度肝を抜けるのか?」
黒子の交代で日向が押されていた試合展開に希望を持ち、火神が黒子を後ろから軽く突き飛ばして煽る。
「...大丈夫です。と、いうか、火神君こそ大丈夫ですか?緑間君に良い様にされてたみたいですけど。」
黒子は皮肉で返す。
「っせえ!俺はこれからなんだよ!!」
黒子の投入により、誠凛の空気に変化が訪れる。
それを理解した秀徳は黒子の警戒を最大にした。
英雄もPGのポジションに戻り、誠凛ボールでゲームを再開する。
「まず1本じっくりいきましょん!」
このOFの重要さを理解しているが故に今までと違い、じっくりとOFを展開していく。
プレースピードを下げて確実に繋いでいき、クロックが10秒を切った直後。
ローからハイへとギアを上げるように一気に動き出す。
火神が高尾へスクリーンを掛けて、黒子をフリーにさせる。
高尾は黒子を警戒し過ぎた為、視野が狭まり対応が遅れた。
黒子は抜け出し、緑間の下へと走り出す。
そこにタイミングよく英雄からのパスが渡り、ボールを弾かずキャッチし構える。
「(馬鹿な!キャッチしたらミスディレクションは使えないはず...。何を...。)」
黒子自身のレベルは緑間も良く知っている。だからこそ、黒子の狙いが分からない。
しっかりとステイローして構えていると、そこにいたはずの黒子の姿を
「何かヤベーぞ!」
『バニシングドライブ』により見失った。
「なんだとー!!」
あのコート内で最弱だったはずの黒子が、緑間を抜いたことで秀徳は驚愕する。
気が付けば、構えていた緑間の後方にいてゴール下へと侵入していく。
「このっ!」
木村がヘルプに入ると、黒子が計っていたかのようにパスを出す。
パスは木吉が受け取り、DFの体勢が整う前にダンクを決める。
『ん、んな、なな、何だ今の!?』
『緑間をぶち抜いた!?』
秀徳は直ぐにリスタートし速攻を掛ける。この誠凛のOFに焦った木村が、シュートセレクションを間違えて、直ぐにシュートを打ってしまった。
「木村!まだ早い!!」
リズムもタイミングも崩してしまったシュートはリングに弾かれてしまい、またしても"たまたま"そこにいた英雄が拾う。
速攻をミスった秀徳はそのまま速攻を返される。
「テツ君!!」
英雄から黒子へ一直線にボールが渡る。
前には黒子要注意の為、速攻に参加せずマークを続けていた高尾のみ。
後ろからは、阻止しようと秀徳が、黒子のフォローの為にと誠凛が走ってきている。
「させっか!!(何がなんだかわからねえが、今度こそ!!)」
全身全霊で高尾が止めに行くが、
キュッ ダダム
あっさりと抜き去る黒子。
「(信じられねえ!マジで消えやがる!)」
そして、黒子のレイアップが決まる。
誠凛 86-88 秀徳
夏から続けたシュート練習により、ジャンプシュートと共に試合で使える精度まで高めることに成功していた。
「ナイス!つか、この大会の初得点じゃない?」
「ああ、確かに。何か自分のことじゃないのに、こう感慨深いものがあるよな。」
誠凛側のムードが変わり、誠凛ベンチから割とどうでも良い話をし出していた。
「大分、シュートが馴染んできてるみたいでなにより。」
「ナイス黒子。」
「良いシュートだったぞ。」
「だあほ!喜んでないでさっさと戻れ!黒子、次も頼むぞ。」
英雄、火神、木吉も黒子のシュートに喜び、日向も3人を叱りながらも黒子を称える。
皆、黒子が今まで積み上げてきた努力がどれ程か知っていたからだ。
「...はい!」
「黒子がシュートね。話には聞いていたけど、実際に見るまで信じられなかったぜ。」
目の前で見せ付けられた高尾は少しぼやく。
「別にシュート自体とめられない訳ではないのだよ。やはり、あのドライブが脅威なのだよ。」
「分かってるよ。まっとにかく、1本返さないとな。つか、何笑ってんだよ。」
「笑ってなどいないのだよ。何を見ている。」
緑間の口元が僅かに上がっていた。
緑間は直感であるが、感じた。黒子も英雄の影響を少なからず受けているのだろう、と。
そして、ただ単純に面白いと思った。この綱渡りのシーソーゲームを楽しくてしょうがない、と。
秀徳OFは再び流れを引き戻す為に、早々に緑間へとボールを預けた。
「そう何度も打たせるか!」
火神は黒子の活躍で、調子を取り戻しつつあった。復調までもう1歩というところまで来ており、誠凛としては何とか火神で点を取りたいところ。
そんな状況で緑間の3Pを決められる訳にはいかない。なんとしても阻止する為、火神は猛プレスを掛ける。
「良いDFだ。簡単には抜けそうにないな。だが!」
距離を詰められる前にモーションに入り跳ぶが、火神もしっかりタイミングを合わせてブロックでシュートコースを塞ぐ。
『ブロック、ドンピシャ!』
このままブロックされるかと思いきや、そこからボールを下げる。
火神を引き付けた状態で高尾にパスをした。
パン
「ワンパターンは頂けないねぇ。」
そこに英雄が割って入り、スティール。
「あ!てめっ!」
ワンマン速攻になり、高尾が急いで戻る。だが、高尾では高さが足りない為、宮路も急ぐ。
「俺もとっておきを見せてやる!」
英雄がステップインを始めたので、宮地は強引にブロックに行く。
ブロックに続いた高尾は目を見張る。
キュッ
ステップインから跳ぶはずだった英雄が勢いを完全に殺し、急停止したのだ。
英雄が止まれても、高尾は止められない。英雄の目の前を通り過ぎていく。
ゴール下でフリーになり、英雄のシュートはあっさり決まる。
点差は無くなり、同点。
「なんて奴だ!あそこからあのスピードで止まるのか...!」
「マジ..かよ。」
2人は呆然とする。他のメンバーも平然とはいかない。
英雄の成長を目の当たりにしたのだ。
いや、以前からその片鱗は火神同様あった。
先の先、後の先を取る英雄のDFの秘密は、無尽蔵のスタミナと柔軟性。
スタミナは、1試合丸々プレスを掛け続けられる。
柔軟性は、動きの幅が広がるので体の負担が減り、咄嗟でも体勢を崩さない。
そして、もう1つ....英雄が誰よりも走り、積み上げてきたもの。
例えるなら、青峰の能力の1部。
0から100に瞬時に移行できる加速力と100から0へと移行できる減速力。
その内、片方だけであるが同レベルで機能する。
つまり、『超ブレーキング能力』。
プレーの流れの途中で止められるから、抜かれることを恐れずボールマンへと向かい強気に前に出られる。
それを英雄の十八番のステップインのパターンとして組み込んだのだ。
夏まではブランクを解消する為にOFは基本を守り、DFのみでしか使えなかった。そこから夏の合宿を経てOF、というかドライブで使えるようになっていた。
「ナイス!英雄!」
「ナイスです。」
「良く決めた英雄。」
「その前のDFもな。」
チームメイトから荒い祝福を受ける英雄。背中や頭をバシバシ叩かれている。
「あざーす♪..って痛い。イテッ。...あのすいません、地味に痛くてイラっするんですけど。」
英雄も平常運転で返す。
秀徳は英雄の対応について頭を巡らせて、士気低下に陥りそうだった。
「今更、あの男が何を仕出かしても驚くことはありません。とにかく、点を取るしかありません。ボールを回してください。」
この場で、緑間に異論を出す者はいなかった。
秀徳というチームは緑間中心になっていることもあるが、何より夏の頃と違い、自分で点を取るだけの理由ではなく、純粋に勝つ為に言っているからだ。
試合の終盤に差し掛かる展開上、このまま逆転されるのはかなり不味い。
このOFをしくじる訳にはいかない。
だからこそ、ラストシュートを緑間に打たせる必要がある。
3年もどれだけ憎まれ口を叩いても理解している。必死に動き回り、パスをまわして隙を窺った。
『ラスト5秒』
ショットクロックが少なくなったとき、緑間は動いた。
木村が火神に対して、スクリーンを掛ける。外へと抜け出した緑間に向かってパス。
英雄がヘルプに向かいブロックを試みる。が、僅かに緑間のシュートの打点が予想から外れていることに気が付く。
「このシュートは決める!」
「おお?」
緑間の3Pはリングを通過したが、何時もより荒々しい入り方だった。
それもその筈、今まで試合でしたことの無いシュートを打ったからだ。
「(フェイダウェイ!?)」
「(この状況でまだ進化すんのかよ)」
この土壇場でフェイダウェイを決めた事にリコと日向は驚きを隠せない。
先程の英雄のプレーに動じていない。集中が増している。
緑間は、今まで打ったことのないフェイダウェイを決めた。
これも英雄同様、日々誰よりもシュートを打ち続けた緑間の土台があってこそのもの。
緑間は確実にプレースタイルを変更ではなく、進化させてきている。
「火神君!」
緑間のシュートが決まるなり、黒子が回転式長距離パスを繰り出す。
「おし!」
リスタートを行い、速攻で返す。パスは問題なく火神が受けた。
しかし、緑間は予想していたのか既に追ってきている。
「何!?(読んでいたのか?)
「そう来ることは予想済みなのだよ。」
「っへ!だからなんだ!だったら無理やりにでもぶち込んでやる!」
火神は力強く踏み切り、ダンクにいく。それを緑間は跳んだ直ぐ後に何とかファールで止めた。
『プッシング!黄色、6番。ツースロー。』
「はぁ...はぁ...だから、負けてなど、やらん!!」
肩で息をしながらも、気迫が全身から溢れる。
緑間真太郎が秀徳高校のSGとして立ちはだかる。