ウィンターカップ予選。
夏のインターハイ予選の上位8校で争い、勝ち抜いた4校が決勝リーグで総当りし、その上位2校が全国へ勝ち上がる。
特別枠で既に全国出場が決まっている、桐皇は予選には出場しない。
誠凛対丞成
木吉は会場入りする前からにやけていた。
「おい、いつまでにやけてんだ。」
日向が緊張感を持たせようと言葉をかける。
「そっすよ~、変なとこでポカしますよ~。(ニヘラ~)」
「いや英雄。お前も相当緩いぞ。」
「たっく!このアホ兄弟が~。」
「すまんなリコ。分かってはいるんだが、どうしてもな(ニヘラ~)」
「悪気はないんよ。でも、公式戦だと思うと、ね。」
言動がどこかしら似ている2人に悩まされるリコと、原因の木吉と英雄。
「とりあえず、スターターを確認するわよ。PG英雄。序盤はじっくり行きなさい。その後のゲームメイクはまかせるわ、楽しんできなさい。」
「うぃ。」
「次、SG日向君。外からの攻撃は任せるから、ガンガン決めちゃって。3Pはウチの生命線なんだからビビっちゃだめよ?」
「おう。」
「次、黒子君。特にないわ。練習通りに。」
「はい。」
「次、PF火神君。今日はマークが厳しいかも知れないから、キレんじゃないわよ。」
「うす。」
「んで、C鉄平。今日の試合で試合勘を取り戻せるようにしときなさい。」
「おお。」
「このメンバーは固定じゃないから、勘違いしないで。この先、調子が良ければドンドン起用していくからモチベーションを維持しなさい。」
スタメンのメンバーを読み上げたリコは全体に呼びかける。
「とにかく!今日を勝たなきゃ、決勝リーグにも行けないわ。きっちり締めて行きなさい!日向君!」
「勝つぞ!気合入れろ!!」
「「「おお!!」」」
「じゃあ、いくわよ!」
メンバーは控え室の外へと向かう。
「はい!質問!!」
そのタイミングで元気良く手を挙げる英雄。
「...何?もう時間ないんだけど。」
「オープニングシュートって誰が決めるの?どうせだったら俺が決めたいんだけど。」
「よーし、いくわよー。」
「「「おーう。」」」
「あ、待って~。」
無視された英雄は急いで後を追う。
試合前の整列も終わり、ティップオフ前
対戦校・丞成高校のメンバー1人がどんよりとした雰囲気を醸し出していた。
「どうした鳴海!?」
「なんですかアレ...。相手のカントク、女って言ってたのに...。」
「は?」
丞成・鳴海が勝手に沈んでおり、キャプテンの川瀬は困惑する。
「テンション上がんねーつうか...色気ゼロじゃん!!」
鳴海がリコを指差し叫ぶ。
その様子を見ていた誠凛メンバーは、顔色が青ざめながらリコの方を向く。
「「「(そ~~..。)」」」
笑顔のリコは親指で喉を掻っ切り、突き刺すように下に下ろす。
’ブチ殺せ ’
「「「ひぃ!!」」」
言葉もなく、しかし確実に意図が伝わり、メンバーは更に青ざめる。
「これで負けたら...死ぬな...。」
「「「おお..う」」」
日向の言葉が否定できない。
「やっぱ出だしで、ぶちかますか。英雄、さっきの言ってたのイケるか?」
「とーぜんです!火神、耳貸して。」
「あ、なんだよ。」
「ちょーと協力要請。」
ごにょごにょと火神に耳打ちしている英雄は明らかに何か企んでいる顔だった。
ビーーーー
開始の合図と同時に、ボールが高く放り投げられる。
互いのジャンパーは跳び、ボールに手を伸ばす。超ジャンプ力を誇る火神は、相手ジャンパーの鳴海よりも先に手が届き、相手のゴールに上から下へと向かって叩きつけた。
勢いの付いたボールは、もう1度バウンドして跳ね上がった。それを嬉しそうに追う、ただ1人反応していた英雄。丞成側は虚を突かれ反応できない。
ノーマークの英雄はボールを掴み、ジャンプ後にボールを掴んだまま風車のように回しながらのダンク、
「オープニングは貰った~!」
ウィンドミルを叩き込む。
『キター!ウィンドミル!!』
『すげー、いきなりだぜ!!』
『やっぱ、誠凛っておもしろくね?ファンになりそう!』
開始早々のダンクに会場は沸く。英雄は両手を広げてアピールし、更に煽る。
観客の関心を誠凛に向けさせて、味方につけた。
「こんな感じで行くんで、ヨロ!」
ビッシッ!と丞成に向かって指を刺す英雄。
「いつまでやってんだ!速く戻れ!!1-3-1行くぞ!」
日向の指示から、ゾーンを組む。
『あれ?何か前と違うくね?』
目の肥えた観客は気付く。
インハイ予選時とは違い、トップを英雄、右に黒子、左に日向、中心に火神、後ろを木吉という布陣。
丞成はインサイド重視のチーム。2人以上がポストアップしパスを受ける。そして、残りがカットインやスクリーンを多用して攻め、リバウンドを支配して主導権を奪う。
今回も同様に、大型ルーキー鳴海がローポスト、3年PF津布久がミドルポストに入る。
序盤は鳴海を木吉、津布久を火神がケアする。そして、丞成PG遠山に英雄が迫る。
「うおっっ!!」
遠山は焦って鳴海にパスを送る。
身長差は15cm以上、中途半端に高い軌道のボールなど逃がさない。ボールを弾かず獲る。
「ゲッツ!!」
誠凛の速攻。1-3-1は通常のゾーンと比べて速攻が出し辛いとされているが、伊達に半年以上鍛え上げてきたわけじゃない。
遠山はすぐに追う。しかし、キセキの世代並の体捌きをする英雄を捕らえられない。
オープニングの再生かと思わせるような状況で、英雄のワンハンドダンクが決まる。
英雄は観客に向けて拳を突き出し、更に煽る。ダメ押しといわんばかりに主導権を引き寄せた。
「誠凛と丞成、どっちが勝ってますかね?」
「さあのー、実力自体はほとんど一緒や。誠凛にとって丞成は相性悪いしな。誠凛のインサイドはそこまで大したことないからな。ただなぁ...。」
「ただ?」
第1クォーター途中から、桐皇の今吉と桜井が観戦着ていた。
今吉は桜井の質問に答えず、観客席に入り得点版に目を向ける。
誠凛 16-13 丞成
「おっ、やっとるやっとる。って微妙やん...。」
丞成は火神に対して2人で厳しくマークしていた。ラフな当たりも多く、火神はイライラを募らせる。
序盤はじっくりという指示が出ていたので、英雄は満遍なくボールを回して試合に慣らさせていた。火神のマークが厳しいのは見て分かったが、火神が要求するのでパスをした。その結果が今の状況なので、合わせて火神はプレーが乱れていった。
「くっそー!!」
「火神君、落ち着いてください」
アウトバウンズで一旦ゲームが切れたので、何とか落ち着かせようと火神に声をかける黒子。
「うるせー落ち着いてるよ!!」
「火神~、パス要求するならちゃんとしろよ~。つか、顔に出過ぎ。」
「るせっ。」
英雄も声をかけるが収まる気配もない。
「火神!もっと楽に行こうぜ!」
「おっさすが、分かってるっすね。」
火神の頭をバシバシと叩きながら木吉が笑いかけ、英雄も便乗する。
「鉄平さん。流れが切れかけてるんで、そろそろいいっすか?」
「そうだな、そろそろ大丈夫だからボール回してくれ。」
誠凛ボールで再開。
英雄がボールを運びながらマークを1人引き付ける。火神に2人ついているのでゴール下には鳴海と木吉だけ。
身長差を活かし遠山の上からパスを出し、問題無く受けた木吉はフックの構えで跳ぶ。英雄はそのままパスアンドゴーで走り出し、マークの目を引く。
マッチアップの鳴海はしっかりフックシュートのタイミングに合わせてブロックに跳ぶ。
木吉は後出しの権利を行使し、シュートリリースのタイミングでボールを放さず、パスに切り替える。ノーマークでパスを受けた日向のミドルレンジからのジャンプシュートはリングを通過した。
そこからは、木吉を中心に得点を重ねた。火神は相変わらずのダブルチームにより、得点に関わることもできずに不満を溜めていった。
丞成のパスを日向がインターセプトしてターンオーバー。黒子が中継し、ロングパスを火神に向けて出す。
「やっとかよ!こうなりゃゴールぶっ壊すくらい、叩き込んでやる!!」
一段と強く踏み切り高く跳ぶ。
ゴッツ
感情を前に出し過ぎ、高く跳び過ぎ、リングに頭を打ち付けてしまった。
「「「(高過ぎー!!)」」」
「あはっはっはっは!さすが火神!美味しすぎる!!」
ベンチの面々はつっこみ、英雄は腹を抱えて笑う。
ビーーーーーー
皆が呆気にとられている内に第1クォーター終了のブザーが鳴る。
『なんだ今の...。』
『リングに頭ぶつけるって人間技か!?』
『ワンマンて感じだったのに...』
『インハイ予選で決勝リーグにいったのはフロックじゃねぇ!!』
観客は騒然とし、誠凛の評価を改めざる得ない。
誠凛は第2クォーターでメンバーチェンジを行った。
黒子 OUT 伊月 IN
伊月がPGに入り、英雄がSFに変わる。
丞成は作戦の変更せず、ひたすら火神をダブルチームで抑えようとした。そして、木吉に鳴海をつけて失点を減少を狙った。
つまり、他のチェックが甘くなるということ。伊月、日向、英雄が動く。
伊月がボールを運び、遠山がチェックする。遠山の後ろから英雄がスクリーンに入り、伊月をフリーにする。
そのまま伊月が一気に侵入し、ヘルプが来たところでパス。完全フリーの日向に渡り、3Pを決めた。
誠凛3人に対して、丞成は実質2人で守らねばならない。しかも、1人は外に張っている。
丞成は追い込まれていることに気が付き、苦い顔をする。このままでは、後手になり点差が開いていく。
かといって、火神のマークを1人外して良いものか。鳴海は木吉の相手だけで一杯一杯になっている。
丞成はとにかく攻めようと、パスを回す。
誠凛のDFは1-3-1のまま、黒子の位置にそのまま伊月が入っている。
「火神~、不満なのは分かるけどちゃんとDFしてよ?」
ハイポストでボールを持った丞成・津布久を火神と英雄が囲む。
「うるせー、黙ってバスケができねーのか!!」
無理な体勢でのシュートを火神がブロック。ボールは弾かれて日向がキープ。
「速攻!!」
既に走り出している伊月にボールが渡る。それに英雄と火神が追従する。
丞成もこれ以上はマズイと伊月を追う。
「へいへ~い!英雄空いてますよ~。」
英雄が片手を上げてパスを要求する。伊月はすぐに高めのパスを出す。
英雄に注目が集まり、DFが迫る。英雄は急停止して、ボールは通り過ぎる。
そして、その先で火神が掴みアリウープ。
「俊さ~ん!ちょっと冷たくないですか?囮につかうなんてぇ。」
「悪い悪い。いい感じに火神がフリーだったからな。」
「悪いって...。こんなに尽くす後輩はそういないですよ。」
「おい!!さっさと戻れ!!だぁほ!!」
英雄は戻りながらちらりとコートの外を見る。
桐皇・今吉と目が合い、指をさす。
「わはは!魅せてくれるわ。」
今吉は楽しそうに笑う。
「これは、決まりですかね?」
傍にいる桜井が得点板を見る。
誠凛 43-21 丞成
「そやな。しかし、見にきといてよかったわ。木吉の復帰によって誠凛のインサイドは弱点どころか脅威や。」
今吉の目が薄く開く。
「そして、火神と黒子。この2人もなんや上手くなっとる。まあ、そこは青峰がなんとかするやろ。んで、問題が...。」
「補照...ですね。」
「そや。この前は本調子じゃなかったからな。ほんで今日分かった。青峰が気にするのも納得や。桜井、お前も覚悟しとけよ。マッチアップは青峰以外でせなあかんからな。」
試合は誠凛の優勢で進んでいった。
丞成は火神のマークを減らしたが、それにより火神が活発化し、火神中心で得点を重ねた。
日向も調子を上げて何本も3Pを決めた。外をケアすると木吉と英雄で点を取った。
5人が上手く連携し、流れるように点が取れていく。この光景に伊月は自身を持ち、積極的なプレーをしていった。
後半は、英雄と黒子が交代し、黒子の中継パスを多用したゲームになった。
黒子を捕らえることは難しく、気をとられると他のメンバーがどんどんシュートを打ってくる。
丞成は常に後手になり、対応で手一杯になりOFどころではなかった。
誠凛はそのまま押し切り、大差で勝利を手にした。
誠凛 124-51 丞成
氏名: 補照英雄(ホテル ヒデオ)
身長: 192.7cm
体重: 85.3Kg
利き手: 右
最高到達点: 338cm
●ポジション適正:(最高S、A、B、C、D、F最低)
PG:A SG:A SF:A PF:A C:B
●身体能力
持久力と柔軟性が非常に高く、キセキの世代にすら勝る。特に、下半身は10年近く鍛え続けている。(相田スポーツジム監修)
それ以外は、バランスよく鍛えてあり欠点は少ない。強いて言えば、無駄な筋肉を避けた為、上半身のパワーはそこそこどまりであること。
●プレースタイル
OFは多くの引き出しを持ち、自由な発想でDFに的を絞らせない。サッカーで培ったボールへの嗅覚を持ち、ルーズボールの奪取率が高い。
独特のリズムのドライブやペネレイトを得意とし、3Pも高い精度で打てる。ポストプレーはハイポスト、ミドルポストを好んでいて、パワー勝負は好まず駆け引きを多用する。
DFは、持久力と柔軟性を生かした平面のDFを行い、ブロックよりもシュートを打たさないDFを行う。並の選手であれば、体力の消耗を強いられて後半にはパフォーマンスが低下する。
●特技
スピンボール:柔らかい手首により通常よりも幅広い変化を作り出すことができる
軟体リバウンド:しなやかな体捌きで他のリバウンダーをすり抜けるようにボールを奪う。
ジノビリステップ:柔軟な下半身により可能な方向転換でDFを惑わせる。
時間差レイアップ:通常よりも速いタイミングでリリースする。通常のレイアップと組み合わせてブロックをかわす。