それもそのはず。明日は10月10日。
陽光の誕生日である。
なんとその日に勇気を振り絞り遊びに行くことを約束している。
そしてマツリはきめていた。
この日の最後に陽光に気持ちを伝えることを。
「今日は陽光さんの誕生日。昨日お誘いしたらオッケーももらえたしだいじょうぶ。頑張れ私!」
鏡の前で気合が入るマツリ。
それもそのはず、陽光の14回目の誕生日にデート(陽光が思っているかは定かではない)に漕ぎ着けたのだがら。
「マツリ?もうそろそろ行かないと待ち合わせ13時でしょ?あと20分もないよ」
母親からの声に時計を見ると時計の針はもう12時40分をさしていた。
私はカバンにプレゼントを入れ、今日のために買っておいたカーティガンを羽織り女の子らしさをアップさせる。
額当ては今日はつけずにカバンに入れる。
そして少し化粧をしており、普段よりも自分が女の子に感じてしまった。
「いってきまーす!晩御飯は陽光さんの家でご馳走になるから帰り遅くなるよー!」
玄関でいつもの忍靴と違う少しだけオシャレなブーツを履く。
そして砂の門に向かった。
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昼12時10分
陽光は我愛羅とともに昼ごはんを食べていた。
「陽光、誕生日おめでとう。プレゼントはまたあとで渡す。今日はマツリと2人で楽しんでこい」
我愛羅は食後コーヒーを啜りながら陽光目を向け話す。
「あ、あぁ。マツリがせっかく誘ってくれたし楽しんでくるってばよ」
陽光は我愛羅に返すと残っていたお茶を飲み干した。
「テマねぇ、ごちそうさま!」
「ちょっと待ちな」
食器を持って家事をするテマリに礼を言い部屋に戻ろうとした時テマリに呼び止められる。
「陽光、今日はマツリとデートなんでしょう?これ、あげるから2人で行ってらっしゃい。デートスポットにオススメって花屋のおばちゃんがくれたの」
陽光にポケットから出したカードを渡す。それはプラネタリウムのペア優待券だった。
「お、ありがとう。まぁデートってわけじゃないってばよ。マツリが遊ぼうって誘ってくれたんだぜ?おお!俺ってばプラネタリウムって初めてだってばよ!」
はしゃぐ陽光に釘をさす。
「いいかい、あんたが楽しむのも大事だけどマツリを楽しませてあげなさい!男の子なんだものデートのエスコートくらいできないとね」
陽光はこれがデートということを理解していなかったがテマリの言葉で少し意識せざるを得なくなった。
「わ、わかってるってばよ。今から準備してくる」
そういって自室にこもるナルト。
『あれ?これってデートなの?デートって好きあってる男女が一緒に遊ぶあれじゃん。しかもマツリから誘ってくれたってことはマツリが俺のこと好き?』
頭の中で考える。マツリが笑いかけてくれているところを。
マツリが自分に抱きついてきたときのことを。
マツリが自分のために泣いてくれたときのことを。
それを考えただけで顔が熱くなるのを感じた
そして同時にもしマツリが自分のことを好きだとしたら…それがすごくうれしいということも。
ナルトはベッドにうつぶせにダイブし顔を埋める。
自分の気持ちが頭の中でぐちゃぐちゃになってしまいどうしていいかわからず文字通り悶絶していた。
その様子を扉の外からのぞくテマリとカンクロウがいたことには気づかなかった。
・・・・・・・・・・・・・・
ナルトは家を出る。
この前イルカとヒルゼンが贈ってくれた靴とジャケットを着用し、待ち合わせ場所に向かう。
相変わらず頭の中はこんがらがっている。
マツリにあったときどういう顔をしていいのか。
どういう話をすればいいのかなどまったく考えられていなかった。
だがマツリを待たせてはいけないので20分前に門にたどり着きマツリを待った。
ナルトは考えれば考えるほど考えがまとまらなくなってきた。
「もういい、考えてても仕様がねぇ。今日はもう楽しむことだけ考えるってばよ!」
門の前でほえる陽光を見た里の人たちはいぶかしげな顔で見ていた。
10分後
「陽光さん、こんにちわ!」
「お、おうこんにちわマツリ!」
後ろから声を掛けられ振り返りながら挨拶を返す陽光。マツリの服装を見るといつもと雰囲気の違うカーディガンに少し長めのスカートにブーツを履き肩からかばんを提げている。
「えへへ、お待たせしてしまいましたか?」
マツリの言葉にさっき来たところだと返すと陽光は少し恥ずかしそうに呟いた。
「その服・・似合ってるってばよ」
そういって踵を返し歩き出す陽光。その言葉を頭の中で反芻し顔を赤くして立ち尽くすマツリ。気づけば陽光は振り返りこちらを見て待っていてくれている。
マツリはあわてて駆け出した。そして陽光の隣を歩き出した。
「陽光さんはどこか行きたい所とかありますか?私も少しは考えてきたんですけど」
マツリは陽光を見上げたずねる。確り目を合わせるタイプのマツリなので自然と上目遣いになっている。
テマリのせいで少し意識してしまっている陽光にはそのダメージは意外にも大きく、一瞬目をそらしてしまう純情さ。これまで自分がマツリに抱いていると気づかなかった気持ちに少しずつだが気づいてきていた。
「あ、あぁ~、俺ってば実はこんなのもらってきたんだけど一緒にいかねぇ?」
マツリに差し出されたカードをマツリが受け取り声に出し読み上げた。
「プラネタリウムペア招待券?これって隣町に去年くらいにできたところですよね!私も行ったことないんで行ってみましょう!」
マツリはうれしそうに笑いながら陽光に微笑み駆ける。屈託のない明るい笑顔で。
陽光はうなずきそのマツリの隣を歩く。陽光の顔もまたマツリに影響されたのか明るい笑顔だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
到着して受付でカードを渡す二人。
「いらっしゃいませ、それではそちら右の扉から入られまして5番の座席になります。開始まであと5分ほどですので少々お待ちください」
係員にブランケットを手渡され促されると陽光がそれを受け取りマツリが先導してドアを開けて部屋に入る。
「5番5番・・・あ、あったここです・・・ね?」
マツリは5番と書かれた座席を見つけると固まってしまう。そして座席の番号をもう一度確認するもやはりそこが5番だった。
「どうしたんだ、マツリ?早く座ろうぜ?」
陽光はマツリの後ろから覗き込む。そしてその席の形を見て言葉を失う
『テマねぇ、はめやがったなぁ!!』
いわゆるカップルシートのような1つの席が少し広く2人がくっついて座るとちょうどいいくらいのスペースだったのだ。
「マ、マツリ、とりあえず座るってばよ」
陽光はマツリの背中を押し無理やり座らせてみる。
「ちょ、ちょっと陽光さん!?」
されるがままに座らされたマツリは据わったまま陽光の顔を見上げると困惑の表情を浮かべる。
そして陽光はマツリの言葉に反応はするが答えずにマツリの隣のスペースを見る。確かに座れないことはない。だが完全にマツリとの距離はほとんど0に等しいのだった。
『よしっ、きめたってばよ』
マツリはその陽光を見ながらどきどきしていた。
『これって陽光さんとなりに座ったら絶対くっついちゃうよ?でも私は別にそれでもうれしいから、あれ?じゃぁ座ってもらったらいいんじゃない?』
「「あの」」
二人の声が重なる。その瞬間二人は見つめあい少しだけ笑った。
「隣、座ってください、陽光さん」
「おう、お邪魔するってばよ」
二人に先ほどまでの緊張はない。いや、なかったというのが正解だった。
いざとなりに座ってみるとお互いの方が触れ合っており、二人が座席の背にもたれかかるとその背はリクライニングになっており座るというよりは寝転がるといった表現の方が正しい状態になっていた。
2人は無言である。
お互いさっきまでよりもさらに意識してしまい顔を見合わせることもできない。
そしてプラネタリウムが開始するとあたりは暗くなる。そして満天の星空が上部のスクリーンに映し出されるとマツリもナルトもその美しさに目を奪われる。
「きれい」
マツリは静かに呟く。誰にも聞こえないかもしれないような大きさの声で。スクリーンに映し出された星空は今まで見たこともないような数の星がきらめいていた。
目を見開き感動するマツリの隣では陽光もその星に魅入っていた。
そして陽光とマツリの手が一瞬重なると2人は驚きその手をお互い引いてしまう。2人はどきどきを振り払うかのようにまた星を見る。ゆっくりと回る星空を余すことなく。
マツリは少し勇気を出して陽光の方に、先ほど手の触れ合った場所へ手を伸ばす。
そして再び陽光の手にゆっくりと触れる感触がわかったときその手を陽光は優しくでも力強く握り締める。
マツリが陽光の方を見ると陽光は逆方向を向き星を眺めているが少し顔が赤くなっていた。祭りは気づいていなかったが確かに赤くなっているのだ。
そして二人は手を放すことなく残りの時間プラネタリウムの公演が終わるまで手をつないでいた。
・・・・・・・・・・・・・・
プラネタリウムが終わり部屋に明るさが戻ってくる。
明るくなると周りで見ていた人たちも次々に部屋を出て行く。
それに気づき2人はどちらからともなく手を放すのであった。
そして立ち上がり人並みの最後尾から会場を出て行く。
そこを出るともう4時を過ぎていた。少し暖かさが揺らぎ少しずつ夜が近づいているのを感じ察せられる。
2人は先ほどまで手をつないでいた恥ずかしさもあり無言で町を歩いている。時折目が合うが2人ともすぐにそらしてしまうのであった。
「マツリ、ちょっと遠いんだけど木の葉の里までひとっ走りしていいか?」
突然の陽光の言葉にマツリは驚き頭にはてなを作る。
「木の葉ですか??今から行ってもかなり遅くなりますよ?」
マツリの提案はもっとも。隣国ではあっても最低6時間はかかる距離のところにいるのだから。
「だからさ、いつもみたいにつかまってもらっていいか?」
少し照れながら頬をぽりぽりとかく陽光。普段なら勝手に抱え上げ走り出してから了承を得ているのに意識してしまいきらわれまいと許可を取る。
「あ、えっと・・・はい」
マツリも陽光の問いに少し恥ずかしいながらも了承の意を示す。
その瞬間いつものようにナルトがマツリを抱えあげるとつかまっているよう指示を出す。そしていつものように腕を回しぎゅっとつかまると陽光はいつもよりも早く駆ける。
そして1時間もかからずに木の葉の里の門のところに到着した。
その間ナルトはいつもよりも丁寧にマツリを抱えて走っていたのだがマツリは抱えられている嬉恥の気持ちと、あまりの速さによる緊張感から陽光と行く先を見ているだけで一言も発しなかった。
門の前におりた陽光とマツリ。そして門の監視員の忍びに話しかけようとしたところ声を掛けられる。
「あれ?陽光とネジと善戦してたえーっと…マツリちゃんだっけ?」
後ろから声を掛けられ振り返るとそこにいたのははたけカカシだった。
「うちの里に何かようかい?今日は何も聞いてないけど」
カカシの問いに答える陽光。
「今日は俺の昔大好きだった場所にマツリを連れて行きたくて走ってきたんだってばよ。でも今日って確か慰霊祭でしょ?だからできるだけ里の人と会いたくないのね、俺ってば」
茶化したように言うが陽光は本当に里の人とあんまり会いたくないのである。それをカカシも瞬時に察知する。
「わかった、どこに行きたいのかだけ教えといてもらえる?その辺に人が寄らないようにしておくよ」
カカシの提案に陽光がうなずき頭を下げるとマツリも無言で頭をさげる。
「火影岩の上に行きたいんだけどさ。いける?」
カカシに確認するとカカシはにっこり笑ってうなずく。
「あそこにはあんまり人は近づかないからね、いけるでしょ」
そう言うと陽光はまたマツリを抱えると走り出し去り際に叫ぶ。
「ありがと!恩にきるってばよ」
そう言うと一気に駆けていき見えなくなる。
カカシは首をコキコキ鳴らしそこから離れていった。
・・・・・・・・・・・・・・
「マツリ、ここが俺が木の葉の里で一番好きだった場所だ」
陽光に下ろされ陽光の見つめる先に目を向けると沈みゆく美しい夕焼けが見える。
「ここはな、俺がつらいとき、悲しいとき、泣きたいとき。いっつもここに来てこの里の景色を眺めたんだ。それにこの夕焼けも」
夕焼けを見ながら陽光が昔の思い出を語る。マツリはそれを静かに聴く。隣にたって
「ここから夕焼けを眺めてるといやなこととかも全部忘れられて明日からも頑張ろうって思えてさ。でももうここに来るのは今日で最後にしようと思ってさ、最後だからマツリにも見せておきたくて」
そう言うとマツリのほうを見て微笑み駆ける陽光。
マツリも陽光に目を向ける。夕焼けの日差しに金色の髪がきれいに見えた。
「俺はここからまた始めるつもりだ。これからはもう後ろは向かない。前だけを見て生きていく。今そうきめた」
陽光は太陽に向かって右手をあげ拳を握る。それはまるで太陽を掴むかのようにも見える。
「この手で守りたいものがいっぱいある。でもその中で一番守りたいものができた」
その手を下ろしマツリに向き直る陽光。その瞳は真剣で熱い。その視線を受けマツリは少し潤んだ瞳で陽光を見上げる。
「だからこれからも守っていく。この手で。マツリが好きだから」
陽光の言葉に両の瞳から太陽の光を反射して輝く涙が流れ落ちる。
マツリから言葉が出てこない。その代わりに陽光を強く抱きしめる。自分の気持ちが少しでも伝わるように。自分の気持ちが陽光と同じだということを伝えるために。
陽光はマツリを抱きしめ返す。マツリが泣き止むまで陽光の両腕は優しく、それでいて力強くマツリを包み込んでいた。
「ようこうさん、、私も陽光さんが好き、好きです」
顔を胸にうずめたままマツリがつぶやくように声を出す。
その言葉に陽光も答えるように強く抱きしめささやく。
「俺もマツリが好きだ」
2人は日が沈むまで抱き合いお互いに好きだと言葉を伝え合う。いつの間にか涙は止まっていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「あの、陽光さん。申し上げにくいんですが・・・恥ずかしいです」
陽光の胸から顔を話せないマツリ。先ほどまで泣きながら陽光に気持ちを伝えていたマツリは急に恥ずかしくなっていた。
「お、俺も少し恥ずかしいけどうれしいってばよ。だからほら、顔見せるってばよ」
その声とともに胸から引き剥がされ顔を合わせる2人。
その顔は2人とも真っ赤になっていた。
「あ、あの、その」
カァっと音が鳴りそうなほどにさらに赤くなるマツリの顔に陽光が噴出す。
「ハハハ、マツリってば顔が真っ赤になってるってばよ」
その声にマツリは頬を膨らませる。
「よ、陽光さんも赤いです!からかわないでください」
陽光につめより上目遣いのまま陽光をにらみつける。
「まぁまぁ、怒んないでくれってばよ。ほら、そろそろ帰らないと皆待ってるってばよ」
そう言うと陽光は右手をマツリに差し出すと微笑みながら優しくささやく。
「マツリ、おいで」
その声に祭りはもう何も言い返せぬままその手をとると引き寄せられ抱えあげられる。もはやなすがままである。
「じゃぁ帰るってばよ。砂の里に」
またマツリは陽光の首に腕を回ししっかりと寄り添う。
腕の中で上気したまま陽光の顔を眺める。
その顔はやはりかっこよくて自分の大好きな陽光の顔を里につくまでじっと見ていた。
くっついたくっつきましたこの2人が。