里を捨てた少年   作:落ち葉崩し

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第29話 暴走

更衣室から出るとまだ陽光はいなかった。

 

ベンチに座り、今日のことを思い出していた。

 

『楽しかったなぁ、またどこか一緒にお出かけできるかなぁ』

 

脚をぶらぶらさせながらまだかまだかと待っていた。

 

 

どごーん

 

男子更衣室の方から爆音が聞こえた。マツリは陽光がまだ出てきていないことが引っかかり、更衣室へと急いだ。

 

砂煙が舞い前がしっかり見えないが、逃げてくる人波を書き分けて前へ進んでいく。

 

人波を越えると横たわる数人の人と、2人の男の首をつかみ持ち上げている陽光の姿が目に入る。

 

「お前らに俺の何がわかる、お前らはいつも被害者ぶりやがって、俺がお前らに何したってんだよ、言ってみろよ!!!」

 

そういうと陽光は左手につかんでいたほうの人を放すと思い切り蹴り飛ばした。

 

マツリはその光景に一瞬何が起こっているのかわからなかった。

 

「俺をあのころの俺だと高をくくったのが間違いだったな、2年前とはわけが違う。あのころの俺は泣いてばかりのただのガキだったかもしれねぇ。自業自得ってやつだ。死ね」

 

陽光のその言葉を聞いて我に返るマツリ、振りかぶった左の腕が振り下ろされる直前、その腕に抱きつく。

 

「陽光さんダメです!この人たちが何をしたのかは知りません。でも!こんなことで陽光さんの手を汚しちゃダメです。お願いですから!」

 

両の瞳から大粒の涙を見せるマツリ。マツリにつかまれた腕から力が抜けていく。右手につかまれていた男葉そのまま力なく地面に落ちる。恐怖からか地面には水溜りができていた。

 

そして騒ぎをパーク側から連絡を受けた砂の暗部と木の葉の暗部がほぼ同じタイミングで到着し、問題の収拾に当たった。

 

被害者は木の葉の里の忍の仲間連中であった。

加害者は砂の里の忍である陽光。

 

この二つに何の結びつきも無いはずなのに、こういった事態になっている。

 

このことが、火影、風影に伝えられるとすぐに木の葉の里で会談が開かれることとなった。

 

陽光は暗部にマツリを任せ一人木の葉の暗部に連行されていった。

 

そしてマツリが砂の里に帰ってまず陽光の家を訪ねることとなった。

 

 

テマリが呼び鈴に反応してドアを開けると、陽光と一緒にプールに行ったはずのマツリが一人で立っていた。そして心なしか泣きそうな顔をしており、手には陽光の荷物があった。

 

 

「何があったんだい?詳しく話してもらえるかい?」

 

家に招き入れられ、3人が囲む机のいつも陽光が座る席に座らされて話し始める。

 

「変える直前のことです。私は更衣室の外で陽光さんが出てくるのを待っていたんです。そしたら中で爆音がしたんで心配になって駆けつけたら陽光さんが暴れてて・・・何とか最後はとめたんですが多分7人くらいは大怪我をしてました。それで木の葉の暗部につれられて木の葉の里に」

 

 

マツリが話し終えたところにまた呼び鈴が鳴る。テマリが出るとそこには風影がいた。

 

 

「お前達、私は木の葉の里に向かう。お前達はどうする?」

 

 

三人に尋ねると3人はすぐに準備を整える。

 

「マツリ、あんたは家にかえってな。陽光を連れ戻したら一番にあんたのとこに向かわせるから」

 

 

マツリはこくんとうなずくと家に帰っていった。

 

「急ぐぞ」

 

4人は夜の森を駆け抜けていく。

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

ナルトは木の葉の里に連れてこられ、火影直属の暗部がいるという刑務質につれてこられる。

 

そこにはお面をかぶった男が何人かおり、事情を聞かれたが俺は何も話さない、話せない。なぜなら自分が九尾の人柱力だからだ。

 

 

何も言わずうつむいていると誰かが入ってくる。

 

「みなのもの、席をはずしてくれ」

 

 

火影である猿飛ヒルゼンが入ってくる。

 

 

反対はあったものの火影の命令は絶対。みんなしぶしぶ出て行った。

 

 

「陽光・・・いや、ナルト、久しぶりじゃな」

 

優しい笑顔を見せるヒルゼン。

 

ナルトは顔を見ようとしない

 

「わしはお前が理由も無く人を傷つけるやつだとは思っておらん。話してくれんか、本当のことを。怪我が無かった一人のものは保身に逃げ自分は偶然居合わせてとばっちりを食らったといっておるのじゃがどうにも怪しい。お前の話も聞かせてほしいんじゃ」

 

 

その言葉に顔を上げるナルト。以前と同じ優しい口調。こんな自分を信じてくれる優しい心。そんなヒルゼンにナルトは少しずつだが話していった。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

回想

 

「ふう、楽しかったってばよ、マツリも喜んでくれてたしよかったよかった」

 

シャワーを浴びて体をタオルで拭く。ズボンをはいたところでマスクがぬれているから顔からはずし、水気を絞っておく。

 

そして新しいマスクを出そうと鞄に手を伸ばしたところ鞄が何者かに蹴飛ばされた。

 

『その顔にこの封印の紋。お前2年前に消えた九尾のガキじゃねぇか。今は砂隠れにいんのか?よくお前みたいな疫病神拾ってくれる里があったな』

 

「本当だぜ、こんな厄災を置いておくなんて砂の里は優しいねぇ」

 

「ばーか、砂の国もホントはこんなやつ置いておきたくないに決まってんじゃねぇか」

 

「でもなんかこいつ確か砂の忍と仲よさそうにしてたぜ、たしかよぉ」

 

「そんなもん演技に決まってんじゃねぇか。それで金もらってんだよきっと」

 

「ちげぇねぇや、俺ならお断りだがなぁ」

 

「そうだなぁ、こんなゴミみたいなやつの世話してたらこっちも同じゴミに見られちまうぜ」

 

「でもよう、こいつこの前の本選でむちゃくちゃしてたよな、あれって九尾の力が抑えられてねぇんじゃ無いの?」

 

「こんなゴミにそんなことができるわけ無いだろ!それができねぇからゴミなんじゃねぇか」

 

「そのとおり、人柱力が尾獣にあやつられてどうすんだよなぁ」

 

「てか今からこいつ潰しちまって砂の里に恩でも売っておくか」

 

ナルトはここまでは我慢した。まだ我慢ができたが次の言葉は我慢ならなかった。

 

「こいつ殺したら俺等も里の英雄かぁ?そりゃいいや」

 

「こいつに止めを刺したやつは次期火影だな」

 

「そりゃ間違いねぇ、あの化け物を殺したのとなんら大差はねぇからな」

 

「じゃぁはやいもん勝ちだな」

 

はっはっはぁあと男達の笑い声が聞こえた瞬間、ナルトは暴れだした。

 

両手両足にチャクラを溜め、とてつもない速さで致命傷になりかねない攻撃を繰り出す。

 

 

ひとり、また一人と血まみれになり倒していく。昔の自分の夢を軽くあざ笑う言動。自分の守りたいものをあざ笑う言動。自分を認めてくれた里を貶める言動。許せるはずが無かったのだ。

 

そして最後の1人になったころに止められたのであった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

事の顛末を聞いた火影。ナルトの悲しみ、苦悩は痛いほどよくわかる。だが事が大きすぎた。これに何の処罰も無くては里に対して示しがつかない。だがこれは処罰するにはあまりにも残酷すぎる。火影も苦悩していた。

 

「じっちゃん、いや火影様、今回の件は俺が悪いんだ。だから火影様が悩む必要は無いってばよ。罰なら受ける。だから火影様は何も気にしないでいい」

 

そう告げられるとヒルゼンは声を荒げる。

 

「そんなわけに行くか!わしはお前にだけ罪があるなぞ思っておらん!それに今回の件については情状酌量の余地が多々あるのだ。それにお前を守ってやるべきときに守れなかったワシの責任でもある」

 

ヒルゼンはいい終わると腰が浮いていたことに気づく。

 

「今回の件、木の葉の里の忍8名は被害者ではない。お前の心を切り裂きえぐった。間違いなく加害者じゃ。あやつらにはわしが勧告を言い渡す。それにともないナルト、お前は陽光として先日受けてもらった中忍試験の中忍昇格が確定しておったが保留とする。これは取り消しではなく今後3ヶ月、木の葉と砂の合同任務を行う予定にしておる。よってこの報告による評価にて決定させてもらう。よいな?」

 

ナルトは言葉を返そうとするもそれを視線で制される。そして黙ってうなずき深々と頭を下げた。

 

話を終え、ナルトとヒルゼンの間には沈黙が流れる。

 

「ナルトよ、今の生活は楽しいか?今のお前は幸せか?」

 

ヒルゼンの言葉にうなずき答える。

 

「うん、俺木の葉の里では2人、いや、3人しか理解者がいなかったけど、砂隠れに行ってからたくさんの仲間ができたし、家族ができた。だから今は幸せだってばよ」

 

その言葉に微笑むヒルゼン。

 

「わしはお前が元気に、幸せでいてくれればそれだけでいいんじゃ。そしてナルトよ、これからもわしのことはさっきのように火影様ではなく前のように呼んでくれんか?それがわしからの願いじゃ」

 

ナルトは涙を流しつぶやく。

 

「ありがとう、じっちゃん」

 

 

 

扉の外ではナルトの新しい家族4人が聞き耳を立てていた。

 

ナルトの処遇が決まったあたりからだ。

 

そして扉をノックした。


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