るーちゃんが通行人たちとモヒカンを蹴散らしたりコンビニに入ったりしてた頃の屋上組のお話。当分出番がないであろう人たちに無理矢理出番を与えたとも言う。
とてもるーちゃん側と同じ世界のお話とは思えませんが、それがそのままこの二人の性能差ということです。
二日目朝・巡ヶ丘学院高校屋上
どうにか屋上に立てこもって一夜を明かしたが、依然として救助が来る様子はない。一時その数を減らしていた奴らもまた増えてきているようだ。
・・・・・・少し、手持ち無沙汰になってしまった。時間潰しに朝から菜園の世話をしていたけど、あらかたすることは終わってしまったし、育てていたプチトマトはみんなの朝食になってしまったし。
この状況ですることがない、というのは何か嫌なものだ。嫌でもこの異常事態に目を向けてしまう。見たくもないものばかりだ。バリケードとして置かれたロッカーや洗濯機。見たくない。あのときの血の跡。見たくない。動く死体と動かない死体。見たくない。
少し頭が痛い。・・・駄目だ、一人で思考に閉じこもっていてはいけない。周りを見る。無事な人。まだ生きてる人。
「・・・・・・めぐねえ、お腹すいた」
「朝ごはん、プチトマトしかなかったものね」
めぐねえにべったりとくっついて離れない子、丈槍由紀ちゃん。昨日こうなる直前に見た、明るくて人懐っこそうな印象は影を潜め、随分と萎れてしまっている。
無理もない話だとは思う。きっと彼女がいなければああなっていたのは私だろうから。
めぐねえにしがみつき、怯えて泣く私。・・・・・・容易に想像できた。弱い私。容易く折れる脆い私。かぶりを振って塗りつぶす。私は、まだ折れてない。
「やっぱり、一回購買まで行かないとダメだなこりゃ」
「あたしもそれには賛成。けど、たぶん校舎の中にもいるぞ、あいつら?」
何やら不穏な会話も聞こえてくる。くるみと、・・・確か柚村さん。この状況で校舎の中に戻ろうなんて、正直言ってどうかしている。そうしなければ食料が尽きるというのも誤魔化し様の無い事実ではあるのだが。
「何か武器が欲しいが・・・・・・」
「このシャベルでいけるさ、やれるってのは昨日わかった」
ああ、もう準備を始めている。止めさせる? でも、その後どうするの?
答えを求めてめぐねえに視線を向けたが、彼女は由紀ちゃんの相手で手一杯だ。きっと二人が校舎に突入しようとしていることすら気付いていないだろう。
溜息。ああ、幸せが逃げちゃう。
「・・・・・・二人とも、何やってるの?」
どうするべきかはわからないし、理解していてもきっと私は判断を下せない。でも、何か言わずにはいられなかった。それだけ。
「「何って、ちょっと中の様子を見てこようと思ってさ」」
「あれ?」「あん?」
完全なハモり。意図したものではないのだろうけど。
クスリと笑ってしまう、こんな時なのに。出鼻、挫かれちゃったわ。
「とりあえず中の様子を見てきて、いけそうなら購買で何か食べ物取って来る」
「でも・・・・・・危険よ?無理にここを出なくたって」
「なんか、こう・・・何かしてないと駄目になりそうでさ」
くるみの笑顔がどこか寂しい。・・・・・・当然か、昨日の今日だ。
やけっぱちになっていないのであれば、したいことをさせてあげるべきかもしれない。
「そんないかにも心配ですって顔するなよ。大丈夫、やばくなったらすぐに逃げてくるって。ロッカーと洗濯機、すぐ動かせるようにしといてくれよな」
そういって、中の様子を窺いながらバリケードをどかしたくるみは、校舎の中へと入っていく。柚村さんも、くるみと軽口を叩きあいながらそれを追った。
二人は勇気がある。あれが自暴自棄でないのなら、だが。 二人は強い。私は?
・・・・・・私は、二人の後を追えなかった。怖かった。私は弱い。
バリケードを見ていなければ、くるみに頼まれたんだから。言い訳だ。私は、現状の安全圏から一歩たりとも出たくないだけだ。いや、違う。何も見たくないだけだ。安全圏すら。
現実なんて見たくない。いいえ、現実ってこういうものじゃないわ。私の心はそう言う。現実って、もっとこう、ありきたりで、日常的なものであるべきだと思う。今にも園芸部員が屋上にやってきて、作業があらかた終わっていることにぶーたれて、そのまま教室に戻って授業。あるべき姿。
狂ってしまえば楽なのかもしれない。きっと、そうあるべき日常に浸っているのって幸福なのかもしれない。見えるものなんて見えない。見えないものの中に入り込んで・・・・・・
だめだ。
現実は非情だ。最善を尽くしたってどうにかなるとは限らない。でも、最善を尽くさなければ助かるとは思えない。めぐねえ一人に負担をかけるわけにもいかない。くるみと柚村さんの二人だけ危ない目に遭わせているわけにもいかない。なにより、
どうにかそう自分に言い聞かせる。私がここを守るんだ。できることをやらなくっちゃ。
適材適所だ。私はくるみ達のように危険な場所には飛び込めない。だから、みんなが帰ってくる場所を守ろう。この場を守る。みんなの無事を祈る。それが私にできることで、今の私がやらなくちゃいけないことだ。
めぐねえと丈槍さんを一瞥してから、モップを手にドアの前に陣取る。怖い。けどもっと怖い目に遭っている友達がいる。今はまだ余裕を保っていないと駄目だ。
だからあえて目を細めて不敵に笑う。伊達に良い子でいたわけじゃない。こんな状況にだって適応してみせるわ。
「どうか、くるみ達を守ってあげてください・・・先輩さん」
呟く。くるみの大切な彼なら、今度こそ彼女を守ってくれる気がしたから・・・。
風のせいか、微かに彼が頷いた気がした。
本人はまだ正気の側で踏みとどまってるつもりなんです。前提が崩れてるってすごく怖いことですよね。
ちなみにりーさん、るーちゃんがせっかく仕込んだ水と食料のことはすっかり忘れています。
おまけ
現状の登場人物のだいたいの戦力差。ただしるーちゃん指数ゆえ割といい加減。
るーちゃん Lv255
ゆき Lv8
くるみ Lv45
りーさん Lv15
めぐねえ Lv18
貴依 Lv14
先輩 Lv20