るーちゃん無双   作:るーちゃんLv255

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巡ヶ丘に残された生き物たちはどんな生活を送っていたのでしょうか。なお犬しかいないとは言ってない模様


休み時間5 巡ヶ丘のお犬事情

早朝、モールでは一つの脱出劇が繰り広げられていた。ドアが開かないようにと積み上げられていた段ボールを足場に、ドア上部の小窓から部屋を出ようとするものがいたのである。名を太郎丸という。要するに犬である。

脱出する際に気をつけなければならないのは二点。外に面倒な相手がいないかどうかと、部屋の中にいる同居人が起き出さないかという点である。外にあの面倒な連中(最後に見たのはもう随分と前のことだが、家の老婆を殺害した瞬間はいまでも記憶に残っている)がいれば当然脱出後即座に命がけの鬼ごっこをする羽目になることは明白であるし、背後で寝ているやつを起こしてしまえば出て行くのを妨害されるのは間違いないだろう(現に、以前ここを出て行ったやつは十数回も争った後にようやく出て行った)。外の物音にも、中の物音にも、自分自身がたてる物音にも注意し、そろりそろりと段ボールを登っていく。

「・・・・・・んぅ・・・けい・・・」

背後から聞こえた声に驚かされたが、どうやら寝言のようである。起きているときは静かなくせに(たまに怒鳴るが)、寝ているときに煩いのはどういうわけだと聞いてみたいが、そんなことを聞く機会はないだろうとも思う。こいつはここから出てこないだろうし。

まぁ、片割れの捜索くらいはしてやろう。そう決めると二三度外を見て、小窓から外へと飛び出した。着地には、特に困らなかった。

 

あいつらは鈍間だ。飛び出してからしばらくモールを徘徊した。当然あの動きのおかしな連中とも遭遇するし、案の定やつらはこちらを追ってきた。しかしその動きは緩慢極まりない上に、ちょっと潜んでいればすぐにこちらを見失う。こんなやつを恐れて立て篭もっていたのかと、若干拍子抜けしたことは間違いない。この様子では外に出ればもう何もかもいつも通りなんじゃないか、そう思えてならない。

そんなことを考えていたからだろうか、背後に迫る奴らへの反応が遅れ、気がついたときにはもうその手がこちらに伸び―

「ちょっと邪魔するにゃー」

ギリギリのところで阻まれていた。

 

「危ないとこだったにゃ、油断しすぎというもの・・・にゃ」

危ういところを救われた直後、息つく間もなく2階へと逃げてきた。他にもモールをうろついていた面々がいたようで、いつの間にやら5匹もの混成部隊と化していた。

さっき助けに入った猫は近所の玉野家で飼育されていた猫で、名を多摩という。ちょっと大柄なやつで、この辺の犬猫ならたいていが知っている有名人(?)だ。

残りの面々も大型雑種犬のギンやら、どこかの看板犬のココアやら、オールド・イングリッシュ・シープドッグのエリックだの、どこかで見たような犬ばかりが集まっていた。逆に言えば、あまり強くない個体や人間に手厚く保護されなかった個体はあらかたやられているとも考えられる。あんな連中に皆やられたのか、と言いかけたが、かくいう自分も先ほど死ぬところだった。皆油断して死んでいったのだろう。

「これだけ見て回って、成果は小型犬一匹か」

「ニンゲンはみんなああなってるからにゃあ・・・、サンケンもさぞ悲しむだろうよ」

話を聞いてみると、どうやら彼らは現在サンケンなる人間と共同戦線を張っており、近隣への呼びかけや調査を行っているのだという。当の本人は拠点で機械を弄繰り回しており、ギンを中心に外回りの最中だったとのこと。

人間を探しているなら丁度いい、上の階に立て篭もるあいつと合流してもらおう。そう提案しようとしたが、考えてみれば今あの部屋を動けば片割れが戻ってきたとき合流する手段はない。これは少々困ったことになったぞ。

とはいえ何も言わないで孤立させるわけにもいかない。最悪片割れは外を走り回って見つけるしかないかと結論づけ、上にいる人間のことを話すことにした。

「ええと、ニンゲンなら上に一人

「エリック、上だ!」

台詞を遮られたと思ったらすぐそこにいたエリック目掛けて上からあいつらが降ってきた。最悪のタイミングだ。というか飛び降りてまで襲い掛かりたいのかと戦慄。やはりこの鈍間共は思ってる以上に危険なようだ。

エリックの断末魔の叫びを背後に慌てて全員走って逃走を図る。どうにか上にいるやつのことを話そうと思ったのだが、ギンに「ここでお喋りしていてもエリックの二の舞だ。拠点まで戻るぞ」と言われてしまえばどうにもならない。困った。

しかし置いていかれるわけにもいかない、道中で片割れを見つけられることを祈るしかないか・・・。

 

「これでプラマイ0だにゃ・・・まったくもって困った話にゃ」

確認したわけではないが、間違いなくエリックは死んでいるだろう。というか、人間でなくともああなって襲ってくるのだろうか?

「なるぞ」「なるにゃ」

「思考を読むな」

となると我々が外回りに出ているのもあまりいい手とは言えないのかもしれない。早めにどこか安全なところまでいかなければどうなるかわかったものではない。部屋を脱出したのは賢い選択ではなかったようだ。

そんなことをあれこれ考えながらどうにか出口までたどり着くと、見慣れた老人の遺体が目に付いた。生前見たことも無いような歪んだ表情で固まった顔、全身の傷、赤黒い血や、埃や、僅かな鈍い銀色(金属か何かだろうか)に汚れ、生前の面影を探すのは少々難しい状態になっていたが、流石にこの人を見間違えることはない。もっと上のほうで殺されてしまった気がしたのだか、こんなところまで来ていたらしい。この老人にはこんなことになる前には随分と世話になったものだ。できれば生きていて欲しかった。・・・襲い掛かってこないだけマシな再会だったのだろうが。

老人との別れを済ませ、待っていた皆(老人との関係を察したのか、かつての散歩を多摩が見ていたのかはわからないが、彼らは急かしもせず待ってくれていた。ありがたいことだ)に出発しようと告げる。安全圏まで滑り込めば、それだけ残された人間を早く救い出せるかもしれない。あまり長い間老人のもとにいるわけにはいかないのだ。

まさに出て行こうとしたそのとき、ぞろぞろと人間がモールに入ってきた。まだ普通に生きている連中のようだ。

その中の一番小さい奴と目が合う。その瞬間になんとなく直感でわかった、こいつはやばいやつだ。




別にサンケンさんは沈んでないです。

そういえば、年末の大掃除で本棚の奥からハリー・ポッターが何冊か出てきたんですよ。危うくその場の勢いでロックハート無双を書き始めるところでした、危ない危ない。


そのちょっと前のるーちゃん
アンソロ極でえくすかりばーが出てきてご機嫌なるーちゃん。勢いに乗って街中を爆走していきます。
「もうこの車を止めろぉぉぉっ!ゆきー、笑ってる場合かっ!これは絶叫マシーンじゃねえええええっ!!」
きーさんがうるさいですが、だいたいめぐみのせいなのです。いや、くるみさんかな?

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