早く殺伐とした戦闘シーンが書きたい。
一部おかしなところがありましたので、再投稿します。
咎人たる魔術師の場合
ロアナプラに着いてから何度目かの夜が明ける。
そして、そろそろ路銀が付き始める頃であった。
しかし、どこからかルーミアが大量に拾ってきた札束のおかげで、今しばらく金に困ることはなさそうであった。
どこから拾ってきたのか問いかけてみると、あの出会うべき運命の夜と同じように、地面に転がっていたらしい。
この町の人間は、不用心な住人が多いようだ。
しかし、この町中で落とした本人を探すのは不可能に近い。
結果として、有効に使わせてもらうとしよう。
せっかくなの巡り合わせなのだ、今日もこの悪徳の街を彷徨うとしよう。
「ロットンッ、早く行きましょうッ」
ドアの外からは、金色の光を浴びた黄金の戦乙女が笑顔で手招きしている。
これ以上ルーミアを待たせるわけにいかないと、椅子にかぶせていたコートを翻しながら羽織り、テーブルの上に置いてあった二丁の相棒を腰のホルスターに収め、足早にドアの外へ駆けだした。
ここ数日、ルーミアはバオからもらった飴が気に入ったようで、大量に購入していたから、今日もそのつもりなのだろう。
先日は、札束丸ごとで購入したために、バオのお使いと思われたのか、ダース単位でイエローフラッグへ運び込まれて、バオが驚愕していたものだ。
口いっぱいに飴玉を頬張るルーミアは、まさしく光の天使と呼ばれるほど、微笑ましい姿であった。
さて、それでは今日も地上に降り立った女神の御供を務めるとしよう。
日の光を浴びた少女の笑顔へ向けて、改めてサングラスを掛け直し、笑みを返すのであった。
「お~いロットン、出かけるなら。ついでに買い物して来てくれ」
裏口を出ようとすると、何やら出かけようとしていたバオに呼び止められた。
手近にあった紙にいくつかの商品を書き込み、それを差し出して来る。
押し付けられるように、渡されたそれを受け取ると、
「夕方までには頼んだぜ」
バオは嬉々して部屋の中へ戻って行った。
まあ、バオには、少なくない借りがあるため、彼の頼みを聞くのは吝かではない。
コートの裏にメモをしまい込み、急いでルーミアの後を追いかけるのであった。
ラグーンの新米水夫ロックの場合
逃げ足は重く、追いかけるのは、空を縦横無尽に翔ける凶悪な殺戮者であった。
激しく打ち付ける鼓動に呼吸が乱れ、息苦しさが募る。
逃げられない。
どんなに気をせかしても、足の動きは遅い。
敵は強大であり、地上を這う人間ごときが立ち向かうことも愚かしい。
その姿に、戦意は萎えかける。
死を覚悟するには、その姿は十分であった。
抗うことさえ許されないのだろうか?
そんなはずはないと、必死に策を巡らせる。
しかし、限られた時間は少ない。
敵との距離は今も近づいてくる。
ただ指先一つ動かすだけで、敵は自分の命を奪うことができるのだ―――。
その距離は一息の所まで迫る。
そして俺は………、頭をぶつけて気絶した――――。
「ッ! クッ!? おいッ! ロックッ!! とっとと起きろッ!!」
つい先日、戦闘ヘリを魚雷で撃ち落とすなどという、馬鹿みたいな博打を打ったせいだろうか。
いまだに悪夢に悩まされたりする。
しかし、まさか成功するとは、運がよかった。
命の危機を脱した俺を呼び起こしたのは、俺をこの状況に放り込んだ当事者の一人であった。
怒声に呼び覚まされた視界が、最初に目にしたのは、最近見慣れてきた、凶悪な拳銃使いの悪役染みた笑顔であった。
「レヴィ!? どうしてここに?」
起き上がり、いまだ靄がかかったような視界をぬぐう為、洗面所の生ぬるい水で顔を洗う。
鮮明になった視線の先では、たばこを吹かしたレヴィが外を親指で指しながら言った。
「さあてロック、今日は麗しきクソ溜まり、ロアナプラをじっくり教えてやるよ」
あっけにとられながらも、見ず知らずの町を案内してくれるのはありがたいと、急いで着慣れたスーツを纏うのだった。
活気に満ちた町。
誰もが騙し騙されを繰り返す町ではあるが、そこで生きていこうとする熱気だけは紛れもなく本物だ。
これまで俺が信じていた、義務、忍耐、規律。そんなすべてと、正反対の人間性出会った。
今この瞬間を楽しむように、あがき続ける命。
明日の保証もなく……、しかし、そんな中で勝ち取った今を生きる街だからこそ、俺は、この場所に惹かれたのかもしれない。
「住めば都って言うけど、此処は、どうなんだろうな?」
「あなたは、里の人間?」
聞きなれたはずの言葉。
自分が吐き出した言葉以外に、その言葉を話せる人間が居るとは信じられず、思わず立ち止まり、声のする方向を振り返る。
そこに立っているのは、明らかに日本人ではない少女であった。
短く切りそろえられた金色の髪と、赤いリボンを揺らしながら、少女はかわいらしく首をかしげながらこちらを見つめる。
不思議そうに問いかける瞳。
「……? あなたは、里の人間?」
再び聞こえたあの日本語に、俺は加えていたタバコを取り落としたのだった。
「ルーミア、何かあったのかい?」
口元から零れ落ちたタバコに気付き、靴で踏みつけて火を消していると、人込みの中から、ロングコートを身に付けた、銀髪の男と目が合った。
金髪の少女は、トコトコと軽快な足取りで、声をかけて来た男のそばへ近寄る。
「おいッ、ロックッ! 何ぼさっとしてやがるッ!」
そして今度は、いつの間にか、遠く離れていたレヴィが怒声を含んだ声で、こちらへ呼びかけながら、足早に戻ってくる。
レヴィは、そこで初めて、俺と対峙している二人の存在に気が付いた。
「ん? 誰だてめぇら? 見ない顔だな?」
睨み付けるように目を細め、身を乗り出すようにしてロングコートの男を見上げる。
「俺の名はウィザード、ロットン・ザ・ウィザード」
「私はルーミアよ」
どこか芝居がかった仕草で、右手の中指でサングラスを掛け直しながら、名乗る男。この場にそぐわない仕草に、呆れとも苦笑とも取れる表情を出しそうになる。
しかしそのような考えを顔に出すことはない。
数少ない、この町で使える俺のスキルとして、かつて営業回りで使用した、当たり障りのない笑顔を浮かべながら、無難に自身の名を述べようとしてする。しかし、
「こいつはロック。アタシはレヴィ。んで、あんたらはウチの水夫にな何の用だ?」
明らかに喧嘩を売っている口調で、レヴィはロットンと名乗った銀髪の男を睨み付けながら問いただす。
しかし、ロットンは、レヴィの問いに対しても、涼し気な表情で再び、サングラスをかけ直し沈黙を貫いた。
両者の間に、一触即発の不穏な空気が漂いだす。
最も、その空気の大半はレヴィが発したものであったが。
その空気を打開したのは、この場にそぐわない明るい声で、足元から発せられた問いかけであった。
「ねぇ? あなたは何処から来た人間?」
俺は、この場を乗り切る為に、あえてそのルーミアと名乗った少女の問いかけに乗ることにした。
「俺は、日本から来たんだよ。ルーミアちゃんは随分と日本語が上手なんだね?」
ルーミアちゃんの視線に合わせるようにして、屈みながら答えると、ルーミアは嬉しそうに、笑顔を浮かべながらさらに問いかける。
「じゃあ、博麗神社や、魔法の森の場所は知ってるかしら?」
【博麗神社】、【魔法の森】。聞いた事ないが、おそらくアニメか、漫画に登場する場所だろうと思う。
あいにく、アニメや漫画はほとんど見たことが無いので詳細は分からないが、このような外国でも知られているのならば、ドラえもん並に人気の作品なのだろう。
「ごめんね、ルーミアちゃん。俺はその場所は知らないなぁ。それは何処にあるんだい?」
「えっ―――…………」
これまで明るい笑顔を浮かべていたルーミアちゃんは、短く困惑を現した声をあげて、次に悲しみを混ぜ込んでかためた能面のような表情を浮かべた。
「ッ!? ルーミアちゃん?」
「ルーミア?」
突如、変貌した表情に困惑する俺をよそに、ロットンがルーミアちゃんの名前を呼ぶと、先ほどとは正反対の静かな足取りで、ロットンの足元まで近づき、袋を下げていた反対側のロットンの手を握りしめた。
「おいロックッ!? この餓鬼は一体なんて言ってんだ?」
どうやら、日本語が分からなかったらしいレヴィが、不機嫌な声を発する。
「えっと、ルーミアちゃんが、博麗神社や、魔法の森を知らないかって」
「神社? お前の国にある教会みたいなもんだろ。それより、魔法の森って、餓鬼は、まだまだ夢を見てる暇があっていいもんだな」
明らかに馬鹿にした声でルーミアちゃんを見下ろしながら、さっさと立ち去ろうとする。
「まあ、そんな空想に浸るのはほどほどに、早く現実ってもんを知るんだな。行くぞ、ロック」
「え……、そっ、そうだレヴィッ!? そろそろ昼だし、どこかで何か食べないかッ!? せっかくだしロットン、君たちも一緒にどうだッ?」
なぜ悲しそうな表情に変わったのかは分からなかったが、このまま去るには、なんとなく後ろめたさを感じて、これまで無言を貫いていたロットンに問いかける。
「俺は構わないが……、ルーミアはどうする?」
「行く…………」
短く答えた返事。
そして、レヴィは一人、不機嫌な表情で何か言おうとするが、その言葉を発するよりも早く、俺は、レヴィの背中を押して歩くのを促す。
「さあ行こうッ、レヴィ、君のとっておきを案内してくれよ」
「あッ!? ちょッ! ロック、てめぇ勝手に決めんなッ!?」
「せっかくだし、今日は俺のおごりだ、だからなレヴィ、いい所に連れてってくれ」
先ほど換金した、財布を取りだしながら、レヴィに再度頼み込むと、何とか折れてくれたようで、深いため息を吐き出しながら、レヴィはタバコを取りだした。
すかさず俺は、ライターを取り出して、そこに火を灯す。
「しゃあねぇな。そんかわり、今日はてめぇの奢りだからな」
「ああ、分かったよ」
こうして俺達は、レヴィに連れられて、近くの店へと移動するのであった。
見た目からして、イエローフラッグなどよりも高そうな店だった。
懐の心配をする俺には、まともに味が分からなかったが、食事を終える頃には、ルーミアちゃんの顔にも多少の笑みが戻りだしていた。
食事中に、二人の関係を聞いていると、どうやらロットンがルーミアちゃんを助けたらしい。
詳細はよくわからなかったが、結論をまとめるとそんな話であった。
そして、イエローフラッグの亭主であるバオに頼まれたものがあると言って、二人は先に店を出ていった。
店から出ていく二人の後ろで、レヴィは深く吸い込んだ煙を吐き出しながら口を開く。
「――ロック。てめぇに少し言っておくことがある。下手に他人に関わろうとするな、そして他人の言い分を鵜呑みにするな」
小さくなったタバコを灰皿に押し付け、新しいタバコを取りだしながらレヴィは続ける。
「身の丈を考えて、臆病に行動しろ、でなければ、てめぇの身体は安ものベットで明日の朝を目覚めることなく、冷たい床で永遠に眠ることになる。いくらアタシでも、てめぇから首を突っ込んだトラブルまで面倒は見きれねぇ」
「レヴィ、でも……」
何かを言おうとするよりも早くに、視線で黙らされる。
「あの餓鬼、どうしてこんな町に居ると思う。もしかして、ダークヒーロー気取りのあいつが、囚われの少女を助け出したとか、夢物語でも考えてるんじゃないだろうな?」
僅かに、それに近いことを考えていた俺は、気まずくなってレヴィから視線を逸らす。
レヴィは、それを見透かしたかのように、煙と共に、ため息を吐き出しながら、言葉を続けた。
「あれはな、何も知らないただの餓鬼だ―――。
そう、現実ってもんを何にも分かってない目だ。この町でそんな目をしてる奴がいるとすればな、商品なんだよ。
それもとびっきり変態御用達のなッ。
何も知らないまま、幸せそうに、大事そうにされてるが、それが大事なスパイスになるのさ。
自分自身がお花畑に居ることを信じている、そしてあるときふっと自分が立っているのが、お花畑じゃなく、血と腐臭にまみれてたクソだまりに居るんだって知るのさ。その時には、今まで持っていた物、尊厳も人格もすべて溝にぶちこまれて、踏みにじられる。
泣こうが喚こうが、助けは来ない。成長してもいない身体に、男のいきり立ったモノぶちこまれて、使い捨ての玩具のように、ぐちゃぐちゃにされるのさ。
泣いていられる間がまだましさ。そうして、泣くことすらできなくなったら、本当に、使い捨てとして、ばらばらにされ、どこかの金持ちの部品にされるのさ――。だからロック、アイツらには、これ以上関わるな。てめぇは、そんな相手とも笑顔で話せるようなタマか?」
その視線は、人間の目を見るような目ではなかった。道端で、踏みつぶされた、虫けらを一瞥するような濁った視線で、まっすぐにこっちを見据えている。
「でも、ロットンは……」
「あの男がどうかは知らねぇ。アイツがもしも知らなかったとしても、それは仕込みだ、あの餓鬼を真っ白なままで運ぶ運び屋かもしれない……。なぁロック、お前の考えが正しかったとして、あの優男はどうしてこの街に居る?」
そして、突如投げかけられた疑問に、自分自身でも良い答えが出てこなかった。
「本当に、あの餓鬼の事を考えてるなら、こんなクソだまりに来るはずないんだよ。てめぇの国ほど、平和ボケしてなくても、まともに暮らせる場所なんて他にもあるだろ。それをしないってことはな、そう言うことなんだよ。だからな、ロック。この町の他人を信じるな。最初から疑え。この町で笑顔で近づいてくる奴ほど、狂っていると思え。人の善意なんてもんはこの街にゃ、犬のクソほどにも役に立たない。いいな」
それは、おそらく正しいのだろう。
俺がこの町に来ることになった経緯を考えれば、この町に住む人間に善意を期待することは、間違っているのかもしれない。
レヴィの言っていることはきっと間違っていない。
でも……、それならば、レヴィが今俺に向けて言い放った言葉は、善意ではないのか?
その言葉は、この町になれない俺に対する最大限の気遣いとも取れる。
この言葉がなければ、俺はきっとこのまま、日本で居たときのように行動し、何かしらのトラブルを背負い込んだ挙句に、無残な死にざまをさらしていたかもしれない。
こんな街でであっても、何かしら信じられるものはあるんじゃないかと問いたかった。
しかし、その言葉が出てこない。
おそらく、今語った言葉は、レヴィが今まで生きていた道と遜色ないものなのだろう。彼女を救うものは現れず、ふとした幸運と偶然によって此処まで生き残ったのだろう。
そんな彼女に、一体なんと言えばいいんだろう。
「ロック……、お花畑なんて、この世界にゃ存在しないんだぜ――」
自虐気味に吐き出した言葉を最後に、レヴィは、席を立ちあがる。
「レヴィ……、もしかして君は―――」
本当はお花畑があると信じているんじゃないのか? と、口から出そうになり口を閉ざす。
怪訝な目を向けるレヴィに対して、俺は……。
「ああ、そうかもしれないな――――」
消極的にも彼女の言葉を肯定するしかなかった。
今の俺達の関係で、これ以上レヴィの心に踏み込むことはできなかった。
いま、飲み込んだ言葉をレヴィに話す機会がこの先あるのだろうか?
今の俺に、その答えを出すことは出来なかった。
「よしッ、ロックッ! 下がったテンションを上げるために、バオのトコにでも行こうかッ! この前の続きといこうぜッ」
「この前のって、まだ昼過ぎだぞ」
これまでの空気を捨て去るように、努めて明るい声でレヴィは話す。
「いいじゃねぇか、今日はお前の奢りだからなッ」
「ちょっ、本当に勘弁してくれ、此処の飯代も結構きつかったんだから」
「男だろ、細かい事気にすんな」
さっきまでの会話がまるでなかったかのように、笑うレヴィ。
そんな今の関係を俺は、心の底から楽しんでいたのだった。
此処まで読んでいただいてありがとうございます。
感想などいただければ幸いです。