マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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Q,『錬金術』による調合には、何日もかかるものではないのですか?

A,アレはゲームシステム上の制約だと勝手に解釈しています。でないと、原作中のいくつかのイベントでの描写が おかしいということになってしまいますので…






2年目:マイス「『錬金術』のお勉強」

 

***マイスの家・2階 寝室***

 

 

 窓から入り込む淡い朝日で 目を覚まし、上半身を起き上がらせ ベッドの上で伸びをする。そして、今日すべきことを思い浮かべながらベッドをおりる

 

「…んーと、昨日の『カブ合戦』のかたづけとかは 昨日のうちに終わってるから……畑仕事をした後は 調合だね」

 

 ちょっとした用で いくつか作らないといけないものがあるから、今日は『錬金術』を使わないといけないんだよなぁ…

 

 

 そんなことを考えながら身支度を済ませ、階段を降りていく……

 

 さて、朝一番の一仕事、がんばろうっと!

 

 

 

 

―――――――――――――――

***マイスの家・作業場***

 

 

 日課の収穫・耕す・種を蒔く・水をやる…という一連(いちれん)の畑仕事を終え、朝ごはんも食べ終わった後、 さっそく僕は『錬金術』による調合にとりかかっていた

 

「最後にこれを入れて…っと。後は混ぜておくだけ」

 

 錬金釜に突っ込んだ杖を離すことはせず、一定のペースで混ぜ続ける。……うん!見たところ 反応は上々、いまのところは 何の問題無く調合はできているみたいだ

 

「いけない いけないっ。ちょっとの油断が命取り…というか、爆発を(まね)くというべきかな?」

 

 いや、でも爆発は 命は取らないとはいえ かなり危ないものだろう。「命取り」と言っても過言では無い気もしなくはない

 

 

 

 そんなことを考えながら混ぜ続けていたら、不意に「ポンッ」という音が 錬金釜から聞こえてきた。どうやら 調合が完了したみたいだ

 

「さて、あとは 出来た物の質なんだけど……」

 

 調合して出来た 錬金釜の『虹の精油』と呼ばれるものを(びん)の中に入れながら、品質を確認する。問題無く 事前に予想していた通りの品質のものが出来ていたので、ひとまず安心する

 

 『虹の精油』を 事前に用意していた2つの瓶に入れ終えた時点で、錬金釜の中には もう2瓶分くらいの『虹の精油』が残っていた

 別に 瓶の用意のし忘れなどでは無い。ただ、錬金釜に残っている『虹の精油』は そのまま次の調合に使う予定なのだ

 

「次は『魔法の絵の具』だから、これに『タール液』と……あと『星のかけら』を入れて」

 

 そして再び杖で混ぜ始める

 単純作業な部分が多いけど、失敗しないよう 細心の注意をはらって調合していこう

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 再び錬金釜から「ポンッ」という音が響き、調合が完了する。過程でも 何の問題も無かったから、おそらくは予定通りのデキの『魔法の絵の具』が調合出来ているはずだ

 

 

 錬金釜の中から『魔法の絵の具』を取り出そうと思い、品質確認の為に錬金釜を覗きこみながら、事前に錬金釜のそばの机に用意しておいた 『魔法の絵の具』を入れる容器を取ろうと手を伸ばし 手探りで探して…

 

「もしかして コレですか?」

 

 手探りをしていた僕の手に 何かが触れたので、それを握って形を確かめる。…うん、この形は探していた絵の具の入れ物に間違いない

 

「うん、ありがとう!」

 

 それじゃあ、これに『魔法の絵の具』を入れて……って、あれ?

 

 

 僕は錬金釜から視線を外し、机のおいてある方向へと顔を向けた。すると、そこにいたのは…

 

「トトリちゃん?」

 

「あっ はい。お、お邪魔…しちゃってます」

 

 いつの間に……って、まあ 僕が『魔法の絵の具』の調合に集中している時なんだろうけど…

 

「えっと、ちょっと前に玄関をノックしたんですけど 返事が無くて…。でも、煙突(えんとつ)から薄く煙が出てたから なんだろうなーって思って……それで入って ケムリが出てた煙突のある部屋に入ってみたら、マイスさんが調合してて。集中してたみたいだから 声をかけずに見学してました」

 

「ああ…やっぱり そういうことだったんだ」

 

 いや まあ、うちに来る人の中には ノックもせずに入って好きにくつろいでいく人も(いく)らかいるから、その人たちと比べると 随分マシなわけだし…。そもそも、勝手に入られて困ることも無いんだけね

 

 

 

 

 

「あははは、待たせちゃったみたいでゴメンね。…で、今日はどうしたの?」

 

 『魔法の絵の具』を入れ物に入れ終え、トトリちゃんに向きなおって問いかける。すると、トトリちゃんは申し訳なさそうな顔をした

 

「えっとその……少し頼みたいことがあって…」

 

「ん?なにかな?」

 

「『錬金術』のことで 教えてもらいたいことがいくつかあって……お願いできますか?」

 

 トトリちゃんがオズオズと伝えてきた頼み事は、僕にとって決して出来ないわけじゃないけど すぐには頷きづらいものだった

 というか……

 

「僕に頼みに来るってことは、ロロナは音沙汰(おとさた)が無いんだね」

 

「はい…。私も最初は先生に聞けたらって思ってたんですけど、『アーランドの街』にも帰って来てないみたいで……いつ会えるかわからないのを待つわけにもいかないし。だから マイスさんに教えてもらえたら…って思って」

 

 トトリちゃんの言葉を聞いて「なるほど」と僕は頷く。だけど、それと同時に心の中では「どうしたものか…」と頭を悩ませていた

 

 

 たしかに僕は『錬金術』をある程度は扱うことは出来る。 自作の『錬金術』のレシピを書いてみたりもしている…だけど、あくまでも「()()()()」だ。本職の『錬金術士』2人(ロロナとアストリッドさん)には足元にも及ばないし、僕に『錬金術』の色々を教えてくれた ホムンクルスのホムちゃんも 当然僕よりも上手だ

 

 その3人を差し置いて 僕がトトリちゃんに『錬金術』のことを教えるだなんて……まぁ みんながいないのがいけないんだけど…

 

 それに、トトリちゃんが言ってた「教えてもらいたいこと」って、僕でも教えられることなのかが ちょっと心配だ

 でも、トトリちゃんもまだ新米なわけだから、そんなに難しい調合にまで手は伸びていないだろうから、たぶん大丈夫……

 

「『プラティーン』とか『賢者の石』だったら 完全にお手上げだけどね(ボソリ」

 

「…え?マイスさん、何か言いましたか?」

 

「ん、ちょっとひとりごとを…」

 

 軽く誤魔化した後 ひとつ(せき)(ばら)いをし、トトリちゃんへ言った

 

「うん、わかった!僕は『錬金術士』じゃないから そこまで難しいことまでは教えることは出来ないけど、僕が教えられることは何でも答えるよ!」

 

「本当ですか!?わぁ…ありがとうございます!」

 

 

 僕の言葉を聞いて 嬉しそうにするトトリちゃん

 …その笑顔を(くも)らせないように ちゃんと『錬金術』のことを教えることができるかが不安ではあるけど、最大限 できることをやろう。そう決めたのだった……

 

 

 

 

――――――――――――

***マイスの家***

 

 

 …そんなこんなで、座学で教えたり 実際に一緒に調合したりした。調合中に爆発することもなく、問題無くこなすことができた

 

 そして、トトリちゃんが言っていた「教えてもらいたいこと」を全部教え終わった(ころ)には もう日がほとんど沈んでしまっていた

 

 なので、僕は 今日はこのまま(うち)に泊まっていくことをトトリちゃんに勧めた。前に来た時も泊まっていったので トトリちゃんも勝手がわかるだろう

 

 

――――――

 

 

 というわけで、家の泊まることになったトトリちゃんと いつもの部屋でテーブルを挟んでソファーとイスに座り 晩ゴハンを食べている……んだけど…

 

「うーん……?」

 

 さっきから、トトリちゃんが何故か小さく(うな)っているのだ。…いったい、どうしたのだろう?

 

「トトリちゃん どうかした?もしかして、嫌いな物でも出しちゃった?それとも 何か失敗してるのがあった!?」

 

「あっ、いえ そんなことは無いです。どれもすごくおいしいですよ!」

 

 なら 何があったのだろう…と首を少しかしげると、僕が言いたいことがわかったように トトリちゃんがこたえてきた

 

「その…今日教えてもらったことを色々思い返していて、ふと思ったことがあって……」

 

「思ったこと?」

 

「はい。ロロナ先生とマイスさんでは全然違うなぁって……教え方が…」

 

 

 ロロナと違うと言われて ドキッとしたけど、違うのは教え方だとすぐにわかりホッとした。…一瞬「気づかないうちに『テキトー錬金術』(ホムちゃん命名)をやっちゃってた!?」と慌ててしまったけど 杞憂だったようだ

 

 立派な一人前の『錬金術士』を目指すトトリちゃんに、自分で言うのもなんだけど『テキトー錬金術(あんなの)』を見せるべきではないと思う。アストリッドさん曰く「錬金術っぽい 別の何か」らしいし…

 

 

 

 話を戻そうか。トトリちゃんが言うには、ロロナと僕とでは『錬金術』の教え方が違っているそうだ

 ということは、やっぱり本職の人が教えるとなると ちゃんとした形式の教え方があったりしたんじゃないだろうか…?でもなぁ…ロロナが誰かに『錬金術』を教えているところを見たことが無いから、どういうものかがわからない

 

「トトリちゃん、参考までに聞きたいんだけど……ロロナにはどんな風に教わってたの?」

 

「ええっと、初めて会った…私の家の近くで先生がお腹を空かせて倒れてた時なんですけど、色々あって 『錬金術』による調合の失敗で家が爆発して……そこから私が『錬金術』に興味が湧いて 先生に教えてもらったんですけど……」

 

 ……いや ちょっと待って。色々とツッコミどころがあるんだけど!?

 『錬金術』で色んなアイテムを作れてたはずなのに なんで空腹で倒れてたのか…とか。なんで いきなり家が爆破されて そこで興味を持っちゃったのか…とか

 

 そんな疑問は ひとまず僕の中で(おさ)えておいて、とりあえずは トトリちゃんが語る「ロロナ先生に教えてもらった時のこと」に耳をかたむけることにした…

 

 

 

=========

 

 

「うんしょ、うんしょ…こ、こんな感じ、ですか?」

 

「うん、ばっちり!あとはそのまま ぐーるぐーる かき混ぜ続けて!」

 

「ぐ、ぐーるぐーる…」

 

「あああ、ちがうよ!それじゃ ぐるぐるぐるー だよ!もっとこう ぐーるぐーる って」

 

「は、はい!えっと……ぐーるぐーる…」

 

「そうそう、そんな感じ! 次はその…青っぽい草。それを ぱらぱらー って入れて!」

 

「青っぽい…これかな? ぱらぱらー…」

 

「上手上手!トトリちゃん、すごいよ!天才だよ!」

 

「そ、そうですか?えへへ…」

 

「あ、まだ油断しちゃダメだよ。もうすぐ ぼんっ! ってなるから、それまでとにかく ぐるぐるし続けて」

 

「は、はい!」

 

 

ボンッ

 

 

「きゃあっ!あ…でき、た…?」

 

「うん、成功だよ!おめでとう!やったー!」

 

 

=========

 

 

 

「…で、先生ったら 私が『錬金術』ができたことを 私以上に喜んで泣き出しちゃって……って、あれ?マイスさん どうかしたんですか?」

 

「あっ、いや ロロナらしいなーって思って。あはははは…」

 

 苦笑いが出てしまった僕に対し 不思議そうに問いかけてきたトトリちゃんへ返した言葉だけど、別にウソを言っているわけじゃない

 本当にロロナらしい…というか、僕が手伝いにアトリエに行ったりしてた頃の ロロナの調合風景と同じように感じられた。…よくもまあ トトリちゃんはアレを理解できたものだ。僕でも8割くらいしかわからないのに…

 

 

 

「…それで 今日のマイスさんの、準備や理論…一から確認する教え方が 新鮮に思えたんです」

 

「そっか。うん、まあ そうなるよね…」

 

 

 いや だけど、どう言ったらいいものか……

 ロロナの教え方でわかるなら 別に問題はないし、特に気にすることも無いんだけど……それに

 

「ロロナの 唯一のお手本になるのがアストリッドさんだもんなぁ…」

 

 別に「アストリッドさんの教え方が悪い!」とか言いたいわけじゃない。ギリギリ調合できそうなレシピを与えて、その後 自由にさせる(悪く言えば放置)。 あれはあれで「自分で考える力」や「自分から行動する力」を(やしな)わせるのには 中々だと思う

 

 でも、その教え方はロロナが()()には あまり合っていないと思う。……なんというか、ロロナは 弟子を後ろから見守ってることとかができそうな気がしないのだ

 

 

「基本 誰にも教わらなかった我流(がりゅう)『錬金術』に ロロナ自身のほんわか具合が混ざって……それで その教え方になったわけか…」

 

正直、ロロナ自身を矯正なんてできそうにないし、もう そういうものだと割り切るべきなのだろう……でも

 

 

さっきから ひとりごとを言いながら頭を悩ませる僕を 心配そうに見るトトリちゃん。そのトトリちゃんへ なんというべきか、さらに僕は頭を悩ませた…


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