マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 基本的に 人を名前で呼ばないステルクさんが、とても面倒でした

 原作『トトリのアトリエ』でも、トトリだけでなく 何年もつきあいがあるロロナでさえ名前で呼ばない(というか呼べない?)ステルクさんでしたから…






1年目:ステルク「アランヤ村での出来事」

 

 

 

 …マイス(かれ)から ロロナ(かのじょ)の弟子の話を聞いて数ヶ月()った ある時、アーランド南部のほうで()()()の目撃情報があったため、少しのあいだ 私は目撃情報があった地域の周辺を中心に活動することにしたのだ

 

 

 そして、偶然にも目撃情報があった地域の近くに ロロナ(かのじょ)の弟子がいるという『アランヤ村』があったため 立ち寄ったのだが……

 

 

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「あ、はい。一応『錬金術』のアトリエで…きゃわああああ!?」

 

「え、あ、わ、その…ごめんなさい!急に 顔が怖い人が来たから、その…」

 

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…と、ロロナ(かのじょ)の弟子である『新米冒険者』(けん)『新米錬金術』の少女 トトリに驚き叫ばれた

 

 そして、少女の叫び声を聞きつけて 少女の姉らしい人物が現れ……

 

 

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「きゃあ!?だ、誰?この顔の怖い人!?」

 

「さては 人さらいね!?トトリちゃんがあんまりかわいいものだから……そ、そうはさせないわよ!」

 

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 ……まあ、散々な目にあってしまったわけだ

 

 

 

 

 そんなこともあったのだが、周辺地域での活動もあったため 私はここ最近『アランヤ村』を拠点にして活動を続けている

 

 その中で、周辺地域の探索の際に 保険として必要となる『薬』類を 個人的な依頼としてトトリ(かのじょ)に頼んだりもしている

 これは、トトリ(かのじょ)の『錬金術』のうでを確認する意味もあるのだが……まあ それはオマケのようなものだ。仮に 彼女のうでが伸び悩んでいたとしても、私は『錬金術士』ではないため、何もしてやれない……あくまで 私の自己満足のようなものだ

 

 

 

――――――――――――

 

***アランヤ村***

 

 

 

 それは、周辺地域の探索をいったん終え、物資の補給を()ねた 束の間の休息のために『アランヤ村』に立ち寄った時のことだった

 

 

「なぁ、頼むよ!おっさんってば!」

 

「くどい!それと、おっさん呼ばわりはやめろ! 俺の名前はステルクだ。ス・テ・ル・ク!いい加減(おぼ)えろ!」

 

「呼び方なんてどうでもいいだろ。なー、頼むってばー」

 

 指摘し 訂正させようとするが、当の本人(少年)は 少しも悪びれた様子も無しに 自身の要求ばかりを押し付けてくる

 

 私が その場を離れようと歩き出そうとするが、少年は背後から 私の着ているコートに(つか)みかかって離そうとせずに()()り、靴底からズリズリと音を立てながら引きずられはじめた

 さすがに このまま引きずり続ける気にもなれず、少年をふりほどこうと身体を捻る

 

「ええい、離せ!私は弟子は取らん!」

 

 そう、この少年は 前に『トトリのアトリエ』で出会った時からずっと私に「オレを弟子にしてくれ!」と言ってつきまとってくるのだ

 それからというもの、私を見かける(たび)に「弟子にしてくれ!」「弟子にしてくれ!」と……。今日のようなやりとりも もう何度目か…

 

「やだ!いいって言うまで絶対離さない!オレは、おっさんみたいな強い冒険者になりたいんだ!」

 

「私は冒険者ではない!騎士だ!」

 

 「『騎士制度』は共和国になった時に無くなったての……ねぇ『自称』騎士様?」という呟きと(とも)に 冒険者ギルドの受付嬢の呆れ顔がうかんだ気がしたが気のせいだろう

 そもそも、勝手に『騎士制度』を廃止した()()()が 悪いのだ。だというのに、「自称騎士」「元騎士」などと……

 

 …いや、今は目の前の問題を何とかすることを優先すべきだろう。だが、やはり 少年は掴むその手を離そうとはしなかった

 

 

「冒険者でも騎士でも、強けりゃなんでもいい!」

 

「ああもう……なんでそんなに強さにこだわるんだ」

 

「世界一の冒険者になるからに決まっているだろ!」

 

 その理論は合っているようで噛み合っていない。第一、目標が「世界一の冒険者」などという漠然としたものである時点で、色々と心配だ。目標は大きいにこしたことはないと思うが、霧のように掴み取れないものであれば 無意味なものになってしまう

 

「さっきから言ってることが支離滅裂だぞ。大体、強くなりたいだけなら、私より()相応(ふさわ)しい人間がいくらでもいるだろう」

 

「だっておっさん、オレ達のこと助けてくれたじゃんか!」

 

 ムッ……そういえば、トトリ(かのじょ)もそんなことを言っていたな…。なんでも、トトリ(かのじょ)と少年が『冒険者免許』を(もら)いに『アーランドの街』に行っている最中、乗っていた馬車がモンスターに襲われて…そこに私が(あらわ)れ モンスターを一蹴(いっしゅう)した、とか……だが

 

「知らん、覚えてない。助けてたとしても、それは偶然たまたま通りかかったというだけだ」

 

 そう、私にとっては「モンスターに襲われている人を助けた」という出来事は、日常茶飯事とまではいかなくとも、それこそ数えきれないほど経験しているのだ。そのうちの一組をしっかりと憶えているかと聞かれても 困ってしまう

 

 

 どうしたものか……と、ひとり考えていたその最中(さいちゅう)に ふと少年の顔を見たのだが、その顔が (くや)しそうに(ゆが)んでいることに気がついた。そして、その歪んだ口から(しぼ)り出されるように 少年の声が漏れ出してきた

 

「オレが強かったら、助けてもらわなくてもよかったんだ! でも、弱かったから……わかるだろ、そういうの!」

 

「それは……わからいでもない、な」

 

 どういう状況で襲われたのか、モンスターと少年との力量差、といった私の知らない部分があるものの 少年の言いたいことは伝わってきた

 「もしあの時、誰も助けがこなければ」……もしかしたら 馬車が破壊され、少年やトトリ(かのじょ)にも大きな被害が出て、最悪の場合「()」さえ関わってきたかもしれないわけだ。結果論だ、と言ってしまえばそこまでだが それでも重要なことだろう

 

 

 

「それじゃあ、弟子にしてくれるんだな!」

 

「何故そうなる……それに…」

 

 少年の思いに共感はできるとは思ったが、誰も弟子にするなどとは言っていないだろう…。それに…

 

 私は少年の腰のベルトから下がっている武器に目をやる

 

 

 その武器は『剣』……ただし、私の使っている『剣』とは ずいぶんと(こと)なっている。…別に 少年の『剣』が特別なものだというわけではない

 

 私の使っている『剣』は、剣先から()の末端までの長さは 私の身長と同じくらいだ。対して、少年の『剣』は 彼の片腕の長さとほぼ同じ程度の長さだ。 ふたつは 同じ『剣』というくくりではあるが、正確には『大剣』と『剣』というべきだろう

 そこまで大きさが違えば、当然 重さも違う。さらに言うなら、適切な間合いや むいている戦闘スタイルも異なっている。すると、基礎を教えることは可能だが 応用を教えるのは少し骨が折れるだろうことがわかる

 

 ……何が言いたいのかといえば、「せっかく師を得ようというならば 自身の武器・戦闘スタイルに近い人間が(てき)しているのではないか」ということだ

 

 

 この少年に適しているであろう 手数で攻める戦闘スタイルの 『剣』の使い手……

 

 真っ先に思い浮かんだのは、私の知る限り 最強の剣の使い手である 元・アーランド王国国王の「ルードヴィック・ジオバンニ・アーランド」……だったのだが、そもそも 私がこうして あちこちを旅している理由が、フラッと何処かへ行ってしまったジオ(おう)を探すためであり、そもそも会うことすらままならない

 

 次に思い浮かんだのは、マイス(かれ)だった。マイス(かれ)は 主に使っている武器は『双剣』ではあるが、他にも何種類もの武器に精通しているようだったので おそらく問題無いだろう

 私は早速(さっそく) 少年に提案することにした

 

 

「師にするのであれば、『青の農村』のマイスはどうだろうか?キミたちとは顔見知りなのだろう?彼なら キミを(こころよ)く受け入れ、強く鍛えてくれるはず…」

 

「やだ!絶対にやだー!!」

 

 予想とは異なり、少年はすぐさま私の提案を拒否した。しかも、「絶対」とは……かなり嫌なようだが…

 

「…何故だ? 確かに、一見 頼り無さそうに見えてしまうかもしれないが、彼は この国でも指折りの実力者なんだぞ」

 

「そのくらい、メル姉に勝ったのを見た時からわかってるよ……でも、あの後 マイスに「どうやったら アンタみたいに強くなれるんだ!?」って聞いたら……」

 

 少年は 一度口を閉じ、息を溜め……そして 再び口を開いた

 

 

 

 

 

「『クワ』をオレにつきだして「(たがや)そう!」って…!オレは野菜を育てたいんじゃなくって 強くなりたいんだよー!!」

 

「あぁ……そういうことか…」

 

 少年が嫌がるのも納得できた。…まあ、仮に「強くなりたい!」と言った人が10人いたとして その10人に「畑、耕そうよ!」なんて言ったとすれば、ほぼ確実に10人中10人が拒否するだろう

 …そして 一番頭を抱えたくなるのは、自分が、マイス(かれ)がイイ笑顔をして『クワ』を差し出しているその情景を、いとも簡単に思い浮かべることが出来てしまったということだ。…なんというか、いかにもマイス(かれ)らしいと思えてしまったのだ

 

「…なんというか、すまない」

 

「……?なんで おっさんが謝るんだよ?」

 

 「なんで」と聞かれたら、「なんとなく」としか答えられない。私自身がやったことではないのだが、何故か 少年に対して申し訳ない気持ちになってしまうのだ

 

 

 

「…仕方ない、という言い方もおかしいかもしれんが……。少しくらいなら手ほどきをしてやる。こちらにもこちらの都合があるので、あまり長い時間は付き合えないがな。ついてこい」

 

「本当か!?やったー!よろしくお願いします、師匠(ししょう)!」

 

「ぬ……その呼び方はやめろ。思い出したくもない顔を思い出す…」

 

 やっと 掴んでいた私のコートから手を離した少年が、嬉しそうに()ねながら 私の後ろをついてくる

 「師匠」という呼び方……というより、「師匠」と呼ばれていたある人物に対して あまり良い記憶が無いということなのだが…

 

 

「えー、じゃあどう呼べばいいんだよ。おっさんもダメ、師匠もダメって」

 

「普通に名前で呼べばいいだろう!」

 

 

 

 

 鍛練のできるような場所まで移動している最中、ふと とある「『青の農村』の噂」を思い出し 少年に伝えるか少し悩んだが……まあ、どちらにせよ この少年は嫌がるだろうと思い、何も言わないことにした






 実は、原作より少し早い ステルクさんのアランヤ村訪問だったりします。…おそらく、特に深い意味はありません

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