それは三年目で何も描写されなていない時期にもしかしたらあったのかもしれない話《前》と、その話があった際にきっとあるであろう後日談ED的な《後》 で構成された短編…
原作『ロロナのアトリエ』でいうところの キャラ別の個別エンドの雰囲気を意識したものとなっています
※諸事情により、「フィリー編《後》」は来週2/24更新予定です
なので、中途半端な終わり方に感じてしまうかもしれません。ご了承ください
「リオネラ編」は構想の練り直しのため後に回されました
今回はフィリー視点となっています。普段は書かないので慣れませんね……
「ねぇ、フィリー?」
「は、はいぃ……」
わたしの前にいるのはお姉ちゃん。ものすっごく怒ってる……けど、それと同じくらい呆れているみたい
「今回はいきなりではあったけど、そう難しい事じゃなかったはずよ」
お姉ちゃんが言っているのは、私に時々言ってくる「おつかい」の事
何を考えているのかはわからないけど、お姉ちゃんは時折、「~してこい」「~うを~まで買って来い」とか、そういった命令をしてくることがある。それらはだいたい知らない人たちと話したりしないといけない無理難題で、私には難しい事ばかりだった
そんな「おつかい」のおかげでマイス君と知り合えたわけだから、大っ嫌いってほどでもなかったりはするけど……
それに、マイス君が手伝ってくれることもあったし……
「聞いてる?」
「はいぃ!?」
お姉ちゃんの凄みのある声に、飛び上がってしまう
「今回は『
そう、今回の「おつかい」は至って単純。お姉ちゃんが
わざと……というのは……朝、お姉ちゃんが仕事に行くのを見送った後のこと
マイス君の家に行ってみようか、リオネラちゃんが人形劇をしそうな『広場』のほうへと行ってみようか考えながら、身支度を整えようと自分の部屋に戻ろうとしたところ、テーブルの上に見覚えのある包みがあった
それは、お姉ちゃんが職場に持っていくために用意していたお弁当。私はついさっき家を出たお姉ちゃんをすぐに追いかけるべきかと悩んだ……
……けど、そんな私の目に、包みのそばに置かれていた紙が写った。その紙には……
『お昼頃に持って来て! エスティ』
……それを見た瞬間、「おつかい」なんだと気がついた。お姉ちゃんの名前のそばに小さく書かれている『がんばれ!』という文字が、むしろ私のやる気を削いでいた
でもそれ以上に、これを無視して何もしなかったら大変なことになることぐらい、私もわかってた。……どうなるかは、これまでに何回も体験してるから
そんなわけで、身なりを整えて昼前に家を出て『王宮受付』へと向かったんだけど……たどり着くその寸前で私の「おつかい」は失敗に終わってしまった
「だ、だって……あの人が、私が前にぶつかったのをまだ怒ってて、凄い目つきで睨んできてたから……」
そう、前にマイス君に手伝って貰った「おつかい」の時に『王宮受付』の近くでぶつかってしまった騎士の人……その人とまた、今日『王宮受付』の手前で会ってしまった。それも怖い顔で私をジーッと見てた
「だからって、その場で倒れることはないでしょ……。おかげで大騒ぎになるわ、お弁当の中身は中でグチャグチャになるわ、ステルク君は落ち込むわで大変だったんだからね」
そう言ったお姉ちゃんは、今日の内で一番大きなため息を吐いた
「大体あんたはねぇ……」
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***マイスの家***
「……っていうことがあったの」
「へぇ、そんなことが……」
お姉ちゃんの説教をなんとか耐えた私は、逃げ込むようにマイス君の家へと行ってた
そして、
「いくら家からそう遠くないとは言っても、知らない人もたくさんいる『
「エスティさんは、怒り続けちゃうくらいフィリーさんに期待してたんだよ。それだけ、フィリーさんの変化を感じてたんじゃないかな? だから、その分、強く言っちゃったんだと思うよ」
「だからって~……うぅ、全部、あの怖い騎士さんのせいなんだ……」
「……ステルクさんも大変だっただろうなぁ」
マイス君は小声で、私じゃなくてその騎士さんのことを気にかけた呟きをこぼした
それにちょっとだけムッっとしてしまった私は、無意識のうちにマイスくんを抱きしめている腕にちょっとだけ力を込めてしまっていた。……けど、腕がフワフワの毛に埋まっただけで、マイス君自身にはそこまで影響は無かったみたい
……というのも、今、マイスくんはモコちゃんの姿になって、ソファーに座っている私の膝の上に座っている。そして、そんなマイス君を抱きしめるようにして私が手を回しているのだ
これはモコちゃんがマイス君だと知らない頃からやっていた体勢なんだけど、特にモフモフするのに向いている。……でも、最近はお話する時もこうしていることが多い
私が、抱きしめた腕でモフモフを感じていたところ、マイス君が少しだけ顔を後ろにいる私のほうへと向けて問いかけてきた
「ねぇ、まだ人と話すのは苦手なの?」
「……うん。まだちょっと……。リオネラちゃんや、あと、このあいだの王国祭の時に会ったロロナさんくらいならまだ話せるんだけど……知らない人、特に男の人はやっぱり怖くて……」
「そっか…。でも、間違いなく僕と初めて会った時よりもお話しできるようになってるから、この調子でゆっくりと人見知りを克服していけばいいと思うよ」
マイス君はそう優しく私に言ってくれた
私だって、自分が人見知りだということはわかってる。人と話すのはだいのにがてなんだから……でも、少しだけでもなんとかしようって気持ちもあるにはある
けど、やっぱり、一番の問題はお姉ちゃんなんだよね……。人見知りの私に無茶を言ってくるのもお姉ちゃんだし、私にあれこれ言ってくるのもお姉ちゃんだけだし……ううっ、でも、無視とかしてしまうのはやっぱり怖いぃ……
「そういえば……マイス君って、前にもこんなことをしたことがあったりするの?」
「えっ、こんなことって?」
「私みたいな子の相談にのるっていう感じのこと。……なんだか、思い返してみると慣れてるというか、初めてモコちゃんと会った頃からここまでマイス君が全部計算してるんじゃないかなーって思えちゃって……」
これまでの付き合いで、マイス君が表裏がほとんど無い人だっていうことはなんとなくわかっている。裏……というか隠し事も、ハーフであることとこの世界とは別の世界の存在についてくらい
そんなマイス君だから、計算高く生きてるなんてことは無いとは思うけど……マイス君に出会ってから友達もできたし、私の周りの環境は一部を除いてどんどん良くなっていると思う。だから「もしかして……」って思ってしまった
そんな考えの中で私はマイス君に問いかけたんだけど、私の膝の上のマイス君は首をかしげていた。完全には振り返っていなかったため、どんな顔をしているかはわかりずらいけど、声からすると少し笑っているみたいだった
「計算だなんて、僕には出来ないよ。基本的に全部思い付き。……まあ、似たような経験があると言えばあるんだけどね」
「えっ、やっぱり?」
「うん。むこうでね。でも、状況も手段も違うけど」
マイス君の言った「むこう」っていうのは、マイス君が元々いた世界…『魔法』普通にあったり、色々とこことは違う世界、その『シアレンス』という町のことだろう。マイス君が『ハーフ』であることや『魔法』のことを詳しく教えて貰った時に少しだけ聞いたことがある
「えっと、その子って人見知りがなおったの?」
「うーん、たぶん。少なくとも、噛みついてこなくなったかな……」
「ふぇ!? か、かか噛みつく!?」
つい聞き返してしまった私に、膝の上のマイス君は「うん」と至って普通に答えた。……そんなに落ち着いて答えられることなの?
「その子は、何を話せばいいかわからなくなって、つい口が出ちゃう子だったみたいでさ」
「……口が出ちゃうって、普通、思ったままの言葉が出てくるとか、そういう意味じゃなかった?」
「あははははは……。とにかく、その子のことはその子のお姉さんと協力して人見知りをなおそうとしたんだ」
ここに来て、意外な情報が出てきた。その人見知りの子は私と同じでお姉ちゃんがいるらしい
……でも、きっと私のお姉ちゃんとは違って、きっと優しいお姉さん何だろうなぁ……
「そ、それで、そのお姉さんとどんなことをその子にしたの?」
「ええっとね、確か……」
膝の上のマイス君が、少しのあいだ小さく「うーん」と声をもらした。たぶん、その時のことを思い出しているんだろう
「100本のバラの花束を用意して、待ち合わせ場所に行って……そこから、その子の王子様になって、氷の花や滝を見に行ったり、お花畑にお散歩にしに行ったり、夜に星を見に行ったり……」
「…………」
「……? フィリーさん、どうしたの?」
「なにそれ!? すごく楽しそうなんだけど!!」
「え、ええっ!?」
だって、話を聞くだけでもロマンチックな感じだし、場所も色々あって充実しているみたいだし……
というか、それって人見知りをなおすとかそういう話じゃなくて、ただのデートなんじゃ!? しかも、バラの花束とか王子様とかどう考えても気合入り過ぎ!
…………あれ?
そうなると、その子とマイス君ってもしかして……
「もしかして……その子って恋人なの!?」
「違うから落ち着いて! というか、どうしてそうなるの!?」
「だって、バラの花束とか王子様とか、どう考えてもそうとしか思えないよ」
「いやいや、それはいくらなんでも考え過ぎじゃないかな」
そう言ってマイス君は、困ったように笑いながら首を振る。そして「だいいち……」って続けて言った
「あの作戦自体、その子のお姉さんが考えたものだからね。バラも王子様もその子が好きだった絵本に出てくる「バラの王子様」をイメージした演出だったわけで……それに僕、その絵本の内容ほとんど知らなかったから、半分以上勢いでやったからなぁ」
「本をもとにした……って、むしろもっと楽しそうなんですけど!!」
「……なんだか、今日のフィリーさんは変に元気だね」
「変に」だなんて失礼なっ!
それにしても、本当に楽しそう! どこからどこまで本をもとにしているかとか、具体的な内容はわからないけど、それでも聞いているだけでも羨ましい
……そうだ!
私のひざの上に座り、私の顔を振り向き見上げているマイス君。その両脇に手を通し、途中持ち替えながら向かい合わせにし、私の目線の高さと同じ位置まで持ち上げる
「ね、ねぇ、マイス君」
「は……はい…………なんだか嫌な予感が(ボソリ」
「私にも、同じようなことやってくれない……かな?」
「…………さっきも言ったけど、あれは僕が考えたことじゃなくて……」
「大丈夫! そのあたりは私が読んだことのある本から考えてくるから。だてに家に引きこもっていたいた時期があるわけじゃないんだからっ!」
「それ、誇らしげにするところかな?」
よぉおし! そうと決まれば行動あるのみ!
さっそく家に帰って、よさそうな本を探して色々考えないと!
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「それじゃ!」といつも以上に元気に一言言い残してマイスの家を飛び出していったフィリー
フィリーの勢いに押されて少しポカンとしていたマイスだったが、その後ろ姿が見えなくなってからやっとハッと我にかえり、大きく息を吐いた
そして、『変身ベルト』で金のモコモコの姿から人の姿へと変身して、ひとりポツリと呟きをもらす
「……あれ? もしかして、もうフィリーさんの中じゃあ確定事項になってるのかな? それになんだかもの凄く勘違いされてる気がするような……」
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***エアハルト宅***
「これなんか……あっ、でもちょっとなぁ。こっちは……は、恥ずかしいかもっ!」
自分の部屋にある本棚からめぼしい本を取り出しては目を通し、また取り出しては目を通し……それを続けて良さそうなものかどうか選別し続ける
やっぱり憧れるシチュエーションはあるんだけど……今の私がやろうとすると、恥ずかしすぎて死んじゃいそうなものもたくさんあるから、ちょっと困っちゃうなぁ~
そう考えると、人が沢山いるような場所……例えば町なあkなんかが舞台になっているのは、私は無理かも……。そうなると、もっと本をしぼれるからその中から私とマイス君と私に合いそうなのを選んでみればいいんじゃないかな
「あっ、そういえば前にマイス君に、おっきいぷにから守ってもらったこともあったっけ? あの時は腰が抜けちゃって……お、お姫様抱っこをっ!」
あの時、一緒にいたリオネラちゃんやホロホロ君、アラーニャちゃんは……
「なんていうか、その……すごかったよね」
「見てたコッチのほうが恥ずかしかったぜ」
「ワタシとしては、巨大ぷにをアッパーで打ち上げた後に受け止めたことの方に驚いたけどねぇ」
っていう感想をもらしてた。もし逆の立場だったら、私も同じようなことを言ってたと思う
うんっ! ああいった「ピンチから一転!」っていう王道展開も悪くない気がする
……あれ? 最初に考えてたことと、少しずれてきちゃったような……?
「まあ、いっかー」
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「ふーん……?」
一人で突っ走ってしまうフィリー
よくわからないまま、なんとなくで流されてしまうマイス君
そして……