※2019年工事内容※
途中…………
カンッ! カンッ! カンッ!
金槌を振るい、金属の塊を 自分の望む形へと変えていく
僕が 家の作業場の『炉』のそばで時々している鍛冶だ
しかし、今日はいつもとは違うところがあった
「……………………(ジィー」
僕から少し離れたところで、イスにドカリと座りながらも 僕の作業を食い入るように見ている男性が一人。『男の武具屋』の店主のおやじさんだ
名前を聞いたんだけど、「えっと、まぁあれだ。とりあえず「おやじさん」とかそんな感じに呼んでくれっ」って、何故か教えてくれなかった
――――――
以前にフィリーさんのおつかいの手伝いをしたときに初めて会ったのだが、そのおやじさんがなんでここにいるのかというと……
話しを戻すと去年の終わりの『王国祭』。そのメインイベントだった『武闘大会』に僕が出場したことがきっかけだ。僕は優勝をしたわけではないのだけど 僕にもかなりの注目が集まったらしく、使っていた『アクトリマッセ』がやけに目立ったらしかった
薄くよわよわしく見えるのに 大剣と打ち合う『おたま』…
そうなると、やはり鍛冶をしている おやじさんは気になったわけだ。「あんなもんをどうやって作ったんだ」と
でも、おやじさんは僕のことは顔くらいしか知らなかったし、僕は武具屋には立ち寄らないから中々出会えなかった
そして『王国祭』が終わり 年を越したころに、ロロナが僕と知り合いだということを知ったおやじさんが ロロナから僕の家の場所を聞いて、今日訪ねてきたのだ
――――――
…それにしても、色々と心配だ
以前に鍛冶をしていた際にホムちゃんが質問してきたことで知ったのだけど、僕のする『鍛冶』と ここの『鍛冶』はずいぶんと違うらしい。本職の人が見たら どう思うのかが全く予想できない
と、頭の中ではそんなことを考えながらも、普段通りに鍛冶をこなしていく。そのうちに 金属の塊の形が整っていき剣の形になっていった
「よしっ、できた!」
最後の工程を終えて出来上がったのは『サラマンダー』。刀身が燃えるように赤く、見た目通り 火の属性がついている双剣だ
「ボウズ、ちょっとソレ 見せてくんねぇか?」
そう言ったのは いつの間にかイスから立ち上がって、僕のすぐそばまできていた おやじさんだった
「あっ、はい どうぞ」
「おう、あんがとよ」
『サラマンダー』を手渡すと、おやじさんはそれを手に取り まじまじと眺めはじめる
こうやって見られていると緊張しそうなのだが……双剣である『サラマンダー』を 大きく筋肉質なおやじさんが持っていると何ともアンバランスで、良くか悪くか緊張することは無かった
「うん……ほうほう…………はぁ~…なるほどなぁ」
『サラマンダー』を見ながら 何やら呟いているおやじさんだったけど、ひとつ大きく頷くと、『サラマンダー』を僕へと返してきた
「どう…でしたか?」
「ん?どうって、何がだ?」
不思議そうに首をかしげるおやじさん
「いえ、その…こうやって鍛冶屋さんに 鍛冶仕事や出来た物を見てもらったことが無かったから、本職の人から見たらどういうふうに見えるのかなぁて思って…」
「ああっ そういうやつか!……つってもな…」
おやじさんは 明るく頷いたかと思えば、すぐに困ったような顔をして 首をすぼめて耳の後ろのあたりをかいた
「鍛冶のほうに関しては、たいしてなんも言えねぇんだ」
「えっ?どうしてですか」
「嬢ちゃんから聞いてんだけど…ほら、ボウズは遠くの国から来たんだろう?」
「いちおうは そうですけど…」
「そんでだな、俺の知らねぇ方法でしっかりと物を作れてるんだから「俺の知らねぇ遠くでは こんな風に作ってるのか」って驚いたりはしても、アドバイスとかはできねえんだ。何もわかってねえ俺が 下手なこと言ってボウズの鍛冶をダメにしちまったらいけねえからよ」
なるほど、と僕は感心した。そんなことを考えて言ってくれていたとは。前に会った時にも思ったが、おやじさんは 大きな見た目からは想像しづらいけど、細やかな人みたいだ
「まぁ心配しなくても、出来上がったその剣を見りゃあ ボウズの鍛冶の腕が立派なもんだってわかるってもんよ!」
「…ありがとうございます!」
「いいっていいって。むしろ礼を言うのはこっちのほうだ。ボウズの仕事を見てたら 俺もまだまだ負けてらんねぇってヤル気が湧いてきたぜ!さっそく 帰ってデザインから武器を作りたくなってきたっ!!」
そう言っておやじさんは 軽快なニカリとした笑顔を見せた。そして肩を回すその姿はとても力強く見えた
―――――――――
***職人通り***
「わるいなボウズ、わざわざ送ってくれてよ」
「いえ、僕も街に用がありましたから ちょうど良かったです!」
「そうかっ。そんじゃあな!まぁ気が向いた時にでも 俺の仕事も見に来たらいい!」
「はい!その時はよろしくお願いします!」
僕がお辞儀をすると、おやじさんは軽く手を振って『男の武具屋』のほうへと歩いていった
「さて、っと。それじゃあ僕らも行こうか」
そう言って振り返った僕の後ろには…
「な~」
家から こなー…じゃなくて、なー が歩いてついて来ていた
前は 僕が抱っこして連れてきていたのだけど、もう子ネコとは呼べなくなるほど立派に成長した なー は、僕の家とアーランドの街との間を自分の足で移動できるほどになったのだ
僕らの目的地も この『職人通り』にある。……というか、『男の武具屋』のすぐ隣の『ロロナのアトリエ』だ
コンコンッ
――――――
***ロロナのアトリエ***
「あーっ!マイス君、いらっしゃーい」
「いらっしゃいませ、おにいちゃん。それに なーも。ちゃんと歩いてこれましたか?」
ノックの後に 僕らを出迎えたのはアトリエの店主であるロロナとホムちゃん。ちょうど錬金術の途中ではなかったみたいだ
なー はピョンとホムちゃんのほうへと跳び、ホムちゃんは跳んできた なーを両腕と体でしっかりと受け止め、抱き締めた
そんな様子を見ながらも、僕は僕の用を済ませる
「はいっ、この前 お願いされてた『コバルトベリー』と『雲綿花』。ウチで大事に育てたものだから品質は保障するよ」
「わぁ、ありがとう!せっかくだから、ゆっくりしていってよ。お茶とお菓子 用意してくるから」
ロロナにそう促されたので、僕はアトリエへと入っていった
――――――
「あっ、そうだ」
みんなで香茶を飲んでゆっくりとしている時に、急に何かを思い出したのか ロロナがそんなことを言った
「どうしましたか マスター?何か忘れものですか?」
「うなー?」
膝の上に乗せた なーを撫でていたホムちゃんがロロナに問いかけた
するとロロナは、「ううん、今日はそういうのじゃなくてね…」と首を振った。…「今日は」ってことは、前にそういうことがあったのかな?
「マイス君。 マイス君って 錬金術は好き?」
「えっ うん、好きだけど?」
「すごい…即答だ」
いきなり何を聞いてくるかと思えば そんなことを……。そして僕のこたえに口を開けて驚いているロロナ
「どうしたの ロロナ? いきなりそんなこと聞いて」
「えっとね…この前ね、師匠から聞かれたの「お前は錬金術は好きかー」って」
ロロナは アストリッドさんの口調をマネて言うが あまり似ていなかった……いや、まあそれは置いといて、 つまり アストリッドさんからされた質問を 一応は錬金術をしている僕にもしてみたってことか
「それで ロロナはアストリッドさんに何て答えたの?」
「それがね、私、錬金術が好きか嫌いかなんて考えたこと無くって、それをそのまま師匠に言っちゃったんだ。……それで良かったのかなーって思って…」
「良かったも何も、ウソを言うわけにもいかないんだから ロロナが思った通りのことを言ってよかったんじゃないかな?」
というか、好きか嫌いかっていうのは 個人の考えなんだから、別にどうしないといけないって話じゃないから、そう難しく考えなくてもいい気がする
僕の言葉を聞いて少し悩むような素振を見せたロロナだったけど、ふいに顔を僕のほうへ向けなおして首をかしげた
「でも、何で マイス君は錬金術が好きなの?マイス君、お花とかを育てることとかのほうが好きそうなのに」
「別に 農業が好きだから他のものが好きだといけない とか、錬金術が好きだから農業は嫌い って話じゃなかったよね…?」
アストリッドさんが言ったというのも、他の何よりも好きだとか嫌いだとかという話ではなかったはずだろう
と、そんなことを思いながらも、錬金術が好きだという理由を口にすることにした
「錬金術って、本当にいろんなことができるよね。…薬の調合なんかは 前から僕も出来たけど、僕が知らないような物もたくさんあるんだ」
爆発物なんかは話には聞いたことはあっても見たことはなかったし、氷の爆弾『レヘルン』や 雷を落とす『ドナーストーン』なんて物は 見たことも聞いたこともなかった
「知らないことを知ったり 出来なかったことが出来るようになるのは 嬉しいし、それが生活の中で役にたったり 他の人に喜んでもらえたら もっと嬉しいな。…そういう点だけ見ると、農業が好きな理由と結構同じなのかもしれないなぁ」
自分で話しながら、気がついたことを付け足して言う。すると、話しを聞いていたホムちゃんが頷いた
「なるほど。おにいちゃんは「錬金術そのものが好き」というよりは、 錬金術によってもたらされる結果が重要であり、その結果を得るための手段の一つとして存在する錬金術は好きだということなのですね」
「えっと…うん、たぶん そういうことだね」
ホムちゃんが 僕の言った内容を噛み砕いてくれたんだけど、なんとなく 堅苦しくなったような気がして、恥ずかしながら 一瞬理解できなかった
そして、ロロナはといえば…
「な、なるほどー、そういう考え方もあるんだねー」
「……ロロナ、本当にわかってる?」
「なんとなく、雰囲気でわかって…ないかな?」
……色々と心配だけど、むしろ そのくらいのほうがいいかもしれない
こういうことは 他の人の意見を参考にするよりも、自分でいろいろして悩んだりして考えたほうが やっぱり良いと思う。きっと、ロロナも自分で……
「えっと、つまり……マイス君はやっぱりお花とかお野菜とかを育てるほうが好きってこと?」
……きっと、自分で見つけられる…かなぁ?