※2019年工事内容※
途中…………
「ふぅ、もうこんな時間になっちゃったか……」
陽は沈んで 辺りは随分と暗くなってきていた。生い茂る木々の隙間からこぼれ落ちてくる月明かりが 夜の森の街道をまばらに照らし、僕はそこをモコモコの姿でテッテク駆け足で 家へと向かって帰っている
僕が今いるのは『近くの森』と呼ばれる場所。ここに来たのには理由があった
先日、モコモコの姿で家から出て すぐそばの林の中で人の姿に変身しようとしていたときのこと
フィリーさんたちが後を着けてきている事に気がつき、彼女たちを振り払ってから変身しようと逃げ回っていた。そして 振り払えたと思い変身したちょうどその時に『ぷに』の甲高い鳴き声が聞こえて、急いで声が聞こえた方へと駆けつけたら……
と、まあ色々とあったのだけど、その時にアッパーを当ててしまった ぷに がいた
フィリーさんを助けるためとはいっても、このままなのも気が引けたので、お詫びもかねて傷に効く薬と食べ物を ぷにたちのもとへと持って行ったのだ
結果だけでいえば、ぷにたちは喜んでくれて 一応は許してもらえた。けど、やっぱり僕の認識は甘いのだと思った
『シアレンス』でも『人の町』と『モンスターの集落』とで敵対意識があったりしていたが、それでもモンスターと仲良くする人も多くいたし、僕が町でモンスターを連れ歩いても何の問題も無く、なでたりする人もいたぐらいだ
でも、『アーランド』では 人からモンスターへの意識も、モンスターから人への意識も、ずいぶん違うものだと実感した
「でも、どっちにもやりたいことがあって、譲れないからぶつかっちゃうんだよな……」
モンスターたちの縄張りに入る人は、街への移動中であったり 物を作るのに必要な素材を手に入れるため といった理由があって、それらは生活に必要なことであって やめるわけにもいかない
……僕が 両方の立場に立ってしまっているから、割り切れない部分もある。完全にどちらか一方に付いてしまえば楽なのかもしれない
ガサッ
「あっ」
それは ごく小さな音と声だったけど、僕の耳にはしっかりと聞こえた。反射的に そちらへと目を向ける
そこにいたのはホムちゃんだった
僕はすぐさま逃げ出す用意をする
理由は簡単。この世界ではモンスターをサーチ&デストロイするということと、ホムちゃんが強いということからだ
実際にホムちゃんが戦っているところを見たことはないけど、曰く ロロナよりも頭脳面・身体能力面が勝っているというのを ホムちゃんに初めて会った時にアストリッドさんから聞いていた
それに、ロロナに頼まれて 一人で採取地へ行き、錬金術の材料を採ってきたりもするらしい。なら それなり以上に戦えるに違いない
「待ってください」
走りだした僕を止めたのは ホムちゃんの声だった。走るのをやめて立ち止まったが距離を保ち、ホムちゃんの方へと振り返る
「おにいちゃんの所にいるウォルフと同じく青い布を巻いたモンスター……人との争いを好まないモンスターだと ホムは判別します。違いますか?」
「モコ」
ホムちゃんが その話を知っていることに少し驚きながらも、僕は返事をしながら頷いた。……ついでにいうと、僕のことを他の人の前でも「おにいちゃん」と呼んでいるということにも驚いた
「よかったです。……あの、申し訳ないのですが」
「モコモコー?」
「『アーランド』はどちらの方向にありますか?」
……え?
「ホムは今、『アーランド』がどの方角にあるのかわからなくなり、アトリエに帰ることが出来なくなっています」
「モ、モココー…」
それは つまり『迷子』ってことかな?意外というか、想像したこともなかったんだけど、ホムちゃんも迷子になったりするんだね……
さすがにこれは おいていく理由なんて全くないわけで、帰り道を案内することにした
「モコー!」
僕は歩きながら片手をクルンクルンと回し、大きく手招きをした。多少オーバーアクションな気もしたけど、モコモコの小さな身体だったら ちょうど見やすいくらいじゃないだろうか
「「コッチに来い」と言っているのでしょうか?とりあえず ついていくしかないですね」
ホムちゃんは ちゃんと僕の後をついてきてくれているみたいで、僕はときどき振り返り 確認をしながら先導して歩いた
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「モコッ!」
「あっ、あれは……」
森を抜けて なだらかな丘を越えたあたりで、アーランドを街を囲むようにそびえる城壁が遠くに見えた
「モコーコ モッコ?」
「恐らく「もう大丈夫だよね?」と言っているのだと、ホムはフィーリングでなんとなく判断します」
「モコッ!」
「残念ですが、ホムはおにいちゃんのように完璧に意思疎通はできないみたいです。 今度、どうやるのか聞いてみましょうか……」
聞き取れてしまうのだから「どうして」と聞かれても 上手く答えることはできないんだよね……
「モココッ」
僕は片手をシュッと挙げながら声を出す。すると、ホムちゃんはこちらを見て、少し間を置いて軽く頷いた
「行かれるのですね」
「モコ」
「そうですか……今日は助かりました。ホムはこのご恩をお忘れしません」
ペコリと頭を下げるホムちゃん。なんとなく僕もそれに合わせて頭を下げてみた
「それではホムも帰ろうと思います。では…」
アーランドの街の方へと歩いていくホムちゃんの後ろ姿を ある程度見た後、僕も家へと帰るために 駆け足で走り出した
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***ロロナのアトリエ***
「ほむちゃん!大丈夫だった!?」
アトリエに帰りついたホムを出迎えたのは、中々帰ってこないホムを心配していたロロナだった
「ただいま帰りました……マスター、く、苦しいで…す……」
「ゴメンね!私が採取地に呼び出したのに ほむちゃんが迷子になっちゃったのに気がつかなくて……!今度からは 一緒に帰ろうね!!」
強く抱きしめてくるロロナの腕の中から抜け出そうと もがくホムの努力も虚しく、どうにも抜け出せそうにない。そのうちホムは諦めた
「そういえば、以前にマスターが言っていたモンスターに会いました」
「ふぇ?なんのこと?」
「青い布を首に巻いた、金色の毛の「モコモコ」と鳴くモンスターです。迷っていたホムに道を親切に教えてくれました」
「へぇー!ジオさんから聞いてたけど、ほんとうに旅の人なんかを助けてたりするんだぁ、あの子……また会いたいなぁ」