いきなりの急展開!どうなるマイス!?
※2019年工事内容※
誤字脱字修正、細かい描写の追加、特殊タグ追加、句読点、行間……
それは突然のことだった。
モンスター小屋と離れを建てるためにマイスが街で購入した『ふにでもわかる建築書(入門編)』を読み終え、家にある『木材』と『石材』の数を確認し終えたところだった。
「少し木材の数が心もとないかな」と思ったマイスが、木をいくらか切って木材にしようと『オノ』持ち出して家を出たところ、視界の端で何かがスゥッーと動いたような気がしたのだ。
何気なくそちらを見ると、一匹の『ルーニーグラス』だった。「なんだ、ルーニーか」と気にせずに木材にするのにちょうど良さそうな木を探し………
「って、『ルーニー』!?」
『ルーニー』といえば『ルーン』の具現化したものといわれる精霊だ。それが今ここに存在するということは、ここには『ルーン』が十二分に存在しているということだろう。
つまり、マイスが目標としていた「空間をルーンで満たす」が達成できたということ。だから、マイスの考えが正しければ――――――『魔法』が使えるようになっているはずだ、と。
それはもはや 後先を考えもしなかった、反射的な行動だった。
マイス自身、自分がどこにいて何をしようとしていたかもすっかり忘れての行動。
「『リターン』!!」
その呪文を唱えると同時に マイスの視界は光にあふれ、体に軽い浮遊感が感じられた。
そして光が消えて 着地したマイスの目の前に広がっていた光景は―――――――――
「あ……」
見覚えのある光景。
1分も経たない前に見た光景だった。アーランドの街からそうかからないほどの距離にある家の玄関前、マイスが自分で耕した畑の見える位置だ。
マイスはあれやこれや考える。
「『ファイアボール』!」
「『ウォーターレーザー』!」
試しに他の魔法を使ってみるが、問題無く記憶にある通りに発動した。
ならば、『リターン』だけが不具合をおこしているということだろうか。いや、違う。
「魂の休まる場所に帰る魔法」である『リターン』の魔法。
『リターン』も正常に発動している。そう―――――――――この家を「魂の休まる場所」だと認識してしまっていたのだ。
『シアレンス』に帰る手立てを失ったマイスは 大きな喪失感をおぼえた
確かに アーランドでの生活に慣れてきて、充実もしてきていた。
しかし、シアレンスの町に未練が無いわけではない。あの町で 様々なことを学び、様々なことを覚え、様々なものを得た。
もう一度あの大樹の家で過ごしたい。あの町の人たちと話がしたい。あの笑顔が見たい……一度だけでもいいから、しっかりとお礼を言いたかった。
これまで何度も懐かしむことはあったが、ここまで悲しく、涙があふれてくることはマイスにとって初めてだった。
『シアレンス』の存在を知りえるものは「ガジさんから貰った『ショートダガー』」と「マイス自身」のみ。
その日、アーランドの街と『近くの森』との街道の途中にある
――――――――――――
***王宮受付***
ある日の『王宮受付』。そこには
「聞いてはいたけど、本当にどうしちゃったのかしら?」
妹のフィリーから「マイスくんが なんだか元気が無いみたい……」と聞いていたエスティだったが、思った以上だったというのが素直な感想だ。
一見 元気そうに話したりはしているが、それは取り繕ったものだということがすぐにわかった。その奥底にあったのは、エスティが初めて出会った目覚めてすぐのマイス…何か深く計り知れない悲しみに飲まれているような表情。
「むぅ……いったい何があったというのだ」
誰かの小さな呟きが聞こえたエスティがそちらを見ると、柱の影から顔を覗かせているメリオダス大臣がいた。
「何か街の整備に不備でもあって嫌な思いをしたのかもしれん! このわし自ら調べてみるとしよう」
そんなことを言いながら出入り口の方へと歩いて行くメリオダス大臣。
それと入れ替わるように入ってきたのは、エスティの飲み友達でもあるティファナ。
この時間帯に受付に来るのは珍しい。何故なら、彼女は雑貨屋を営んでいるため営業時間であるはずの今に出歩いていることは滅多にないことだ。
「あら、どうしたの?」
「少しエスティに聞きたいことがあって……」
依頼をしに来たわけではないのがわかったことで、エスティはティファナの用件がわかってしまった。
「マイス君のことなら、残念なことに私もわからないわよ」
「そうなのね。マイス君、私が聞いても何も教えてくれなくて……よく会うエスティなら何か知ってるんじゃないかって思ったんだけど」
ションボリするティファナ。エスティはひとつため息をついて少し前にマイスが出ていった王宮受付の出入り口に目を向けた。
「本当に、何があったのかしら……」
―――――――――
***サンライズ食堂***
「ん……?」
「……? どうかしたか?」
不意に窓の外を見て 何か悲しそうな顔をした料理人のイクセル。
そして、イクセルと話してしたステルケンブルクが何事かと問いかけた。彼はいつぞやの料理対決の審判をきっかけに度々この『サンライズ食堂』に訪れるようになり、常連客となってきていた。
「今、表の通りをマイスのやつが歩いてるのが見えたんですけど、前見た時と同じで 全然元気が無くって……あいつ、話し聞くって言っても何も話してくれねぇし」
「むぅ……確かに、今の彼は 彼らしくないな」
困ったものだ、と男2人 深くため息をついた。
―――――――――
***ロロナのアトリエ***
「……これはこれは」
アトリエに入ったタントリスは、自身が入ってきた事に気がつくことの無い、そのあわただしい状況に驚きを隠せずにいた。
「ちょっと!? ロロナ、釜からなんか煙が出てるわよ!?」
「えっ、くーちゃん? どうし……って、うぇえー!? た、大変!!」
「マスター、少し落ち着いてください。これで今日だけで6回目の失敗です」
「あんたもよ!!持ってるフラスコが変な色に光って……!」
「わぁ、ホントだ。何だか ほむちゃんの持ってるの、少し泡立ってきてる気も……」
「「「あっ」」」
ピカッー………ボフン!!
フラスコの中身が小爆発を起こし、アトリエ内は煙に包まれた。
とりあえずタントリスは手近なアトリエの玄関の扉を全開にして煙を外へと逃がすことにした。窓が開かれたところをみると、中にいたロロナやクーデリア、ホムが動いたのだろう。
改めてアトリエ内に入ったタントリスは、店主であるロロナに問いかける。
「それで、さっきから何やら騒がしいけど……何かあったのかい?」
「あっ、タントさん。 ええっと、それが……」
やけにションボリしているロロナに変わり、クーデリアが言った。
「マイスが最近元気が無いのが気になって気になって、仕事に集中できてないのよ。ついでにこっちも」
そう言ってクーデリアはアゴでホムを示す。
「ううっ! マイス君が私に相談してくれないのは、私がこんなダメダメだからなんだー!! うわーん!」
「…………」
ロロナは泣き、ホムは無表情だが心なしかうつむいて悲しそうにしているように見える。そんな2人を見て「たく、こんなに心配させて……何をやってるんだか、あいつは」とクーデリアがため息をつく。
「にしても、元気がない、か……」
実はタントリスもそのことには気づいてはいた。
アトリエに来る前にマイスとすれ違い、すれ違いざまに簡単な挨拶を交わしたのだが、その時に違和感を感じていたのだ。ただ、付き合いが短いので「ただの気のせいかな」と、特に気に留めていなかったのだ。
「親父に報告したら何て言うのか、正直予想もできないな……」
―――――――――
***広場***
「やっぱり、リオちゃんも?」
「うん……フィリーちゃんと一緒の考えだよ」
フィリーとリオネラが、広場の一角に設置されているベンチに並んで座って話していた。
お互いに、マイスと会った時のことを話し、話し合いの結果「やはりマイスに何かあった」という至極単純な結論に。
「にしたって、何があったんだか」
「それがわかったら苦労しないわよ」
ホロホロとアラーニャも2人のそばでフワフワ浮きながら話している。
「そ、それじゃあさ、今度マイス君のお家にお茶とお菓子を持って行ってみない?」
「そうだね。何か話してくれなくても、少しでも元気になってくれたら……」
フィリーとリオネラはふたりで計画をたてはじめた。
少しでも早く、マイスに元気になってほしい。そのためにも明日にでも実行できるように、と。
―――――――――
街と外との境界線に存在する大きな門。
その門をくぐり外へと行くマイス。そして、その後ろ姿を確認し 後をつけるように歩きだした影がひとつ。
だが、その影が境界線を越える前に
「彼を追って何をするつもりだ?」
「何を、と言われてもな……。いやなに、何度もお茶を頂いて話をする仲である彼のことが心配になっただけのことだ」
そう言う マイスの後をつけていた影――ジオを、止めた存在――アストリッドは機嫌が悪いことを隠そうともせずに鋭く睨みつけた。
「貴様が言ったところでアイツの問題は解決しないし、貴様が言葉をかけようとも、むしろアイツを不快にさせるだろうな。 いや、そもそも貴様は、思い詰めている理由すら聴き出せないだろうな」
「……その言い方だと、キミは知っているのか。彼に何があったのかを」
相対する2人の顔は、いつになく真剣なものとなっていた
もっとも まともに話す気があるのはジオだけで……アストリッドの方はといえば、のらりくらりとはぐらかすつもりで、核心を話す気はさらさらないのだがーー
「知ってるとも。どういう状況かも、解決策も」
「ならば――」
「知っているからこそ何もできんのだ」
そう言いながらアストリッドは、どこからか拳大ほど大きさの種を取り出して、それを手の中で弄ぶ。
「私の知っている解決策も完璧なものではなく、あくまで理論だけの絵空事、実現が難しい上に成功確率も0に等しい。もはや、狂気の沙汰にも等しい行為だ。故に残された道は……アイツ自身の中で折り合いをつけること、それだけだ」
マイスが行った先を見つめながらアストリッドは呟いた。
「同じ目線に立てる者がいない今、アイツに言葉をかけられるのは、貴様のような固まった頭の持ち主や私のような理論で突き詰めるようなやつではない。……少なくとも、な」
その言葉を聞いたジオは、納得できない顔をしながらも マイスを追う足を完全に止めた。
それを確認したアストリッドはアトリエの方へと歩き出した。
「まったく……ちゃんと貸しは返してほしいのだから、今を乗り越えて シャンとしてほしいものだ」