※2019年工事内容※
誤字脱字修正、細かい描写の追加、句読点、行間……
✳︎✳︎✳︎王宮受付✳︎✳︎✳︎
「で、ホントにマイス君に全部任せっきりにしたりしなかったの?」
「し、してないよ、私だって ちゃんとできたもん! ……手伝って貰ったりはしたけど」
エスティさんの言葉に憤ったようにフィリーさんが言うが、その後にボソリともれた呟きで力強さは皆無になってしまっている。
察しはつくかもしれないが、今僕とフィリーさんはおつかいの買い物を全て終え『王宮受付』のエスティさんのもとに届けに来たところだ。
「まあ、一応はできてるわけだし、良しとするべきかしら」
ふぅ と一つ息をついたエスティさんは顔をこちらへと向けてきた。
「なにはともあれ、ウチの妹のおつかいに付き合ってくれてありがとね、マイス君」
「いえ、また何かあったら 遠慮なく言ってほしいです!」
特別時間が無いとき以外は自分の意志で好きなように時間をつくれるから、言ってくれれば 手伝いをすることはそう難しくは無い。
僕の言葉に、エスティさんは微笑みながら返事を返してきた。
「あらあら、頼もしいじゃない♪ どこかの誰かさんも このくらい素直でいい子なら良いんだけどねー?」
そんなことを言いながらフィリーさんの方をチラリと見るエスティさん。
フィリーさんも自分のことを言っているのだと理解しているようで、姉の嫌味な言い草に少しムスッとしてしまっている。
「……どうせ私はダメダメだもん!」
フィリーさんは そう言い捨てると外へと駆け出してしまった。
うーん、さすがにこのままフィリーさんを放っておくこともできないしなぁ。
「あっ、僕、フィリーさんを追いかけます!」
エスティさんの返事を確認せずに、外へ出たフィリーさんを探すために僕も駆け足をはじめた。
―――――――――
王宮受付から出てそうすぐにフィリーさんを見つけることができた。
……というか、フィリーさんは尻餅をついてしまっていて、その前に一人の男性が立っている。状況からして、飛び出したフィリーさんの不注意でぶつかってしまったんだと思う。
早く助けてあげたほうがいいよね、これは。
男性にぶつかってしまったからだろうけど、フィリーさんがガクガクブルブルといった様子で震えてるし、ぶつかられたであろう男性の方も何とも言えない困り顔をしている……って
「ステルクさん!?」
男性が少なからず見知った人物だったことに驚き、声をあげてしまった。
「むっ、キミは……」
「マいズぐーん!!」
僕に気がついたステルクさんがこちらに目を向けたと同時に、フィリーさんが僕に泣きながら飛びついてきた。
驚きながらも、なんとかフィリーさんを受け止める。すると、瞬時にフィリーさんは僕の背後へとまわっていった。顔を確認できないが、小さく鼻をすする音と嗚咽が聞こえるので、まだ泣いているようだ。
さて、フィリーさんをどうにかしたいところだけど……それより先にーー
「すみません、ステルクさん。フィリーさんがご迷惑をかけてしまったみたいで……」
「いや、キミが謝ることでは無いのだが……しかし、もしよければ何故彼女がこんなに怯えてしまうのか教えてくれないか?」
「先程から会話にならないうえに、立ち上がらせようと手を差し伸べても逃げて、どうしようも無かったのだ」と言いながら困ったように僅かに眉をひそめるステルクさん。
「フィリーさんは少し人見知りが激しくて……なおそうと色々努力してるんですけど、まだ男性を中心に苦手で……」
「はぁ、なるほど」
ステルクさんは僕に向けていた視線を僕の後ろのフィリーさんへと向けた。僕の肩を掴んでいるフィリーさんの手越しにビクッっと飛び上がり震えるフィリーさんを感じ取ることができた。
「何があったかは知らないが、少し落ち着きを持つといい。ぶつかった相手が私のような人間だったから良かったものの、小さな子供やご老人だったとすれば怪我を負わせかねなかったのだぞ」
「ヒィ!? す、しゅみまぜんん!?」
僕の背後でうずくまってしまったフィリーさん。
人見知りであるということを知ったはずのステルクさんだけど、特に変わったところも無く なんとなく威圧的な雰囲気をかもしだしている。もしかして、『周りの好意に甘えてばかりではいけない』って教えるために あえてそうしているのかな……?
あっいや、怯えるフィリーさんを見て「むう…何故だ」って言ってる。もしかしたら、あれでも優しく接しているつもりだったのかもしれない。
「それにしても……」
先ほどまでの困った顔とは少し違う、何かを考えているように見えるステルクさん。どうしたんだろう? と気になったが、すぐに僕は思い当たることがあった。
「えっとですね、フィリーさんはエスティさんの妹なんです」
「ああ、どうりで見覚えのある顔だと思うわけか。内面はまるで違うようだがな」
納得したように頷くステルクさん。
確かに ステルクさんの言うように、性格などに違いはあるけど、顔立ちや髪なんかはよく似たエアハルト姉妹だ。まあ、普段の表情に違いがあるため 似た顔立ちでも間違えることは無いが。
と、そんなことを考えているとステルクさんが大きなため息をついた。
「どうしたんですか?」
「ああ、いや すまない。なんとなくだが、そこの彼女が飛び出してきた理由がわかってしまってな……」
なんとなくではあるがステルクさんは察してくれたみたいだ。
でも、それはそれでステルクさんにとってエスティさんがどういった認識なのか気になるところではある。先輩と後輩って間柄なのは知ってるけど……。
「いちおう、キミからも注意をしておいてくれないか?」
「はい、わかりました」
僕の返事を聞き頷いたステルクさんは「それでは失礼する」と言ってお城の中へと歩いていった。
「落ち着いた?」
「うー……大丈夫」
まだ少しプルプル震えている。正直なところ、あまり大丈夫そうには見えないのかけど……。
「色々と心配だから、家までおくるよ」
「う、うん……ごめんね」
フィリーさんの手を取り、その歩調に合わせて歩き出す。
―――――――――
フィリーさんを家まで送る途中 街の広場を通るのだが、その一角に人だかりができていた。
フィリーさんは やはりというか大勢の人はまだ怖いようで少しでも離れたところを歩こうとする。だけど、僕はあえて手を人だかりの方へと引いた。
そんな僕を非難するように涙目で見つめ首を振るフィリーさんだけど……
「大丈夫だよ。みんなアッチに夢中みたいだから」
そう僕が言って初めてフィリーさんは人だかりの中の人たちが何を見ているのか意識して探し出したみたい。
「あっ」
気づいたようだ。人と人との間から なんとか見えたのだろう、見知った大道芸人と2体の人形の姿がーー
「向こうからなら もう少しよく見えそうだから行ってみない?」
「……うん、そうしよっか」
そうして、人混みから少し離れたところから人形使いの大道芸人――リオネラさんの人形劇を2人で観た。
フィリーさんは人形劇を食い入るように見ていた
「ようだった」というのは、しっかり確認できていないからだ。なぜって……実は僕もリオネラさんの人形劇をちゃんと見るのは初めてで、そっちに集中してしまっていたから。
盛り上がった人形劇も終わりをむかえ、人も段々とまばらになってきて いつもの広場の様子に戻ってくる。
それを見計らって、リオネラさんたちのもとに フィリーさんと一緒に駆け寄った。
「お疲れ様、リオネラさん。それにホロホロとアラーニャも」
そう声をかけると、こちらに気がついたようで 3者とも顔を向けてくれた。
「あっ、マイスくん。それにフィリーちゃんも……」
「おうおう、オレの活躍 ちゃんと見てくれてたか?」
「楽しんでもらえたなら嬉しいわ」
「途中からしか観れてないんだけど、凄く面白かったよ!」
フィリーさんはよほど気に入ったのか 興奮気味だった
「それはよかった」と言うホロホロとアラーニャ。リオネラさんも少し恥ずかしそうにしながらも 嬉しそうに微笑んでいる。
「今度は、ちゃんと最初から見てみたいなぁ……」
「そ、それなら、次する時に 声をかけるね」
「本当!? わぁ……楽しみだなぁ」
楽しそうに話す2人を見ていると、やっぱりリオネラさんがフィリーさんの人見知りをなおすきっかけになりそうに感じる。
「ねぇ、マイス君」
っと、そんなことを考えていると、不意にフィリーさんから声をかけられてた。
「えっと、どうかした?」
「あのね、家におくってもらう前にみんなでどこかでお茶しないかなって思って……」
うーん……そこに僕はいなくても良さそうな気もするけど、特に断る理由も無いわけで……
「それじゃあ一緒に行こうかな?」
僕がそう言うと、フィリーさんとリオネラさんがニッコリと微笑み顔を見合わせた。
「なら、どこかお店を探さないと!」
「あっ……それなら、私たちがよく行くお店があるんだけどーー」
「ああ、あそこならちょうど良さそうだな」
「そうね、悪くないと思うわ」
「そこに行こう!」とフィリーさんは僕の手を取った。前とは違い、フィリーさんの方から……と思ったら、反対の手はリオネラさんに握られていた。
「お店はこっちだよ!」
そう言って案内してくれるリオネラさんについて歩く 僕とフィリーさんーーそして、浮いてついてくるホロホロとアラーニャ。
まあ偶にはこういうのもいいかも、なんて考えながら歩いていく。あっ、なんだかハチミツの甘い香りがしてきた……
ブツリっと切れて終わるお話。ただ、これ以上話しを膨らませられなかった というだけのこと