メリオダス・オルコック氏とは、アーランド王国の大臣である!
※2019年工事内容※
誤字脱字修正、細かい描写の追加、特殊タグ追加、句読点、行間……
全く……頭を悩まされてかなわない。大臣であるこのわしがなぜ……
原因はふたつほどある。
ひとつ目はあの忌々しいアトリエだ。
早急に取り潰すように言っておいたはずが、担当の騎士は「国からの依頼を問題無くこなせている」と言って取り潰さずにいるのだ。
秘密裏に 嫌がらせや妨害を行ったり、
ふたつ目は……正直、もうどれくらいこの問題に悩まされているかはわからない。このアーランドの国王のことだ。自らの王としての責務を果たさずに仕事を投げ出し 王宮から抜け出してウロウロする。
もはや今に始まったことではないのだが、王宮の騎士達を含め多くの人間に迷惑をかけていることは間違いない。無論、わしもその内のひとりだ。
「……執務室に戻るとするか」
運営に問題は無いか視察もかねて、担当に問いに工場へ行ってきた帰りなのだが、足が重い。どうも疲れが溜まってしまっているように感じる。これも、仕事を増やす国王のせいだ、そうに違いない。
王宮へと戻ってくると、出入り口から世辞にも王宮は似合わない少年が、重そうに両手でカゴを持って出てくるのが見えた
はて、見覚えの無い顔だな……あのくらいの歳の騎士などいないはずだから、騎士の誰かの子供か兄弟だろうか…?
まあ大したことではないと思い、すれ違える位置を歩き気にせず王宮に入ろうとしたが、ふいに少年が立ち止まったのだ。何事かと目を向けると……少年と目があった。そして、少年はにっこりと笑い――
「こんにちは!」
そう言いながらしっかりとお辞儀をしてきて、その後上げた顔には先程と同じく無邪気な笑顔があった。
別段、何か言うことも無いただの挨拶だ。
だが何故か その無邪気な笑顔がアイツと重なってしまった。
……おかしな話だ。この少年くらいの歳の頃にはもう家を出ていたというのに。
わしも少し歳をとりすぎたか、いや この疲れのせいか……?
おっと いかんいかん。返事もせんで黙っていたから 少年も不思議そうに小首をかしげてしまっているではないか。
「オホンッ! うむ、良い挨拶だ。最近の子にしては礼儀がよくて少しばかり驚かされたわ」
「……? えっと、ありがとうございます?」
また不思議そうな顔をしている……。つまり、あのくらいは普通のことだとおもっているのだろうな、この少年は。
……にしても、わしの顔をじっと見過ぎではないか?
「わしの顔に何かついているのか?」
「あっ、いえ、そうじゃなくて……とても疲れているような顔をしていたから……」
「ムッ……子供に心配されるとは、わしも焼きが回ったか」
わしを見て心配そうな顔をする少年は、何かを思いたったのか自分の持つカゴを漁りだして ひとつのビンを取り出してきた。そして、カゴを地面に置いたままビンをわしに渡してきた。
「これ、疲れてる時にいいドリンクです。よかったら使ってください!」
そう言って少年はお辞儀をして街へと歩き出そうとした。
「待て」
わしはそう言って少年を引き留める。
このご時世、ビンも大量に生産できるようにはなってきたが、一般的には洗って再利用することが基本だ。今のうちに返しておくほうがよかろう。
立ち止まって振り返る少年を確認し、わしはビンの蓋を開け中の液体を飲みほした。思っていたような薬品臭さは無く、飲みやすいものだったことに驚きつつも 再び蓋を閉め、少年に差し出す。
「……効果はどれほどかはわからんが、悪くないな。礼を言っておこう」
上手い言葉が考えつかず、投げっ放しになってしまったことを少し後悔しながらも礼は言えた。……少し偉そうにしすぎだろうか……?
わしの不安をよそにビンを受け取った少年は嬉しそうに笑い、もう一度お辞儀をしてきた。
「ありがとうございます! お仕事、頑張ってください!」
街のほうへと遠ざかる小さな背中が人混みに紛れてしまうのを見届けてから、わしは王宮の中へと足を向けた。ドリンクのおかげか、それとも少年のおかげか、不思議と足は軽くなっていた。
……執務室に戻る前に、少し調べてみるか。
―――――――――
***王宮受付***
「受付嬢」
「あっ大臣、どうかしました?」
出入り口すぐの広間に設けられた王宮受付。ここにいる受付嬢ならば出入りする人を必然的に見るわけで、他の者よりもそれらについて知っているはずだろう。
「さっき礼儀の良い子供を見かけたのだが、あれはどこの子だ?」
「礼儀の良い……もしかして、このくらいの身長の金髪の子ですか?」
「そうだ、そいつだ」
「前に『身包みはがされた異国の少年を保護した』っていう報告書を一応提出したことがあるんですが……」
そういえばそんな書類が一度きたことがあったような気も……特に金を必要としてるわけじゃなかったから、流し読みして判を押したのだったか。言われてみれば、服装はあまり見かけない様式のものだったな。
「その時の少年がそうだと?」
「マイス君っていって、今は街の外の空き家を整備して畑を作って生活してて、ほぼ自給自足で暮らしてるといった感じですね」
それにしても街の外で1人暮らし、そのうえ 自給自足ときたか……なんとたくましい少年なのだろか。
すると受付嬢が何やら嬉しそうに笑い、話しだした。
「ここの依頼も色々こなしてくれていまして、ここ最近で達成した依頼の数は錬金術のアトリエに次いで二番目なんですよ」
「アトリエだと……?」
「とは言っても、彼を助けてアーランドまで連れてきたのはアトリエ関係者で、その縁からか交流があるそうで、だから仕事上はライバル関係に近いですけど結構仲が良いそうですよ」
なるほど、さっきは依頼の報告か何かのために王宮に来ていたというわけか。
しかし 聞いた話からすると、今しがた思いついたあの少年を1位に押し上げてアトリエの人気を下げさせる計画は使えそうにはないか……。
「彼、最近それなりに有名になってきて「食材や花の依頼は彼に任せれば まず問題無い」って言われるくらいなんですよ。それに関しては、大臣もご存知かと」
「なに? ……覚えがないが」
「ついこのあいだ王宮内で新しい茶葉が使われるようになりましたよね?」
「ああ、あの茶は仕事の休憩に飲むと、うまくて程良リラックスできる」
「あれ、彼が作ったものですよ」
「何!?」
「言葉の通り彼が葉を育て、お茶を入れられる状態まで加工して、定期的に王宮に卸してくれてるんです」
なんということだ! あの歳で そこまでの知識と技術があるとは!! それに、王宮にはそれなりの人数がいるわけで茶葉の量もかなりのものになるはず、それをひとりでするとなれば 根気も半端ではない。
もしかすると、あのドリンクも少年が作ったものなのだろうか?
ドリンクに関して何か知らないか聞こうと ふと顔を受付嬢に向けると、受付嬢の顔が暗くなっていることに気がついた
「でも彼、かなり苦労してるんですよ。この前なんて「美味しいものをみんなに食べてもらいたい」って言って、そこらへんに転がっているような『森キャベツ』を畑で育てて改良して凄く美味しい『キャベツ』に育て上げたのに『キャベツ税』の影響で中々買ってもらえなくて……」
「なっ……!?」
なんとういことだ!? まさか 忌々しいアトリエの連中を陥れるための『キャベツ税』が、アトリエには影響が無く、あの健気な少年を苦しめてしまっていただけだというのか……!?
くそっ! なんだこの罪悪感は……!?
「すまん、わしは執務室に戻る……」
そう受付嬢に告げ、わしは執務室の方へと歩き出す。
―――――――――
「あれ? なんというか、ものすごく変な反応だったんだけど……」
受付嬢ことエスティ・エアハルトは驚きを隠せなかった。何故なら、彼女の知るメリオダス大臣からは到底予想のできない反応だったからだ。
「大臣に何かあったのかしら……?」
気にはなったが 考えてもしかたないと思い、いつものように受付で暇つぶしを探す作業に戻った。