「ロロナのアトリエ」では登場しないキャラクターが出てきます!
気づいたら書いていた。なんというか、思いつくままに書いたのでいつもより少し長めになっています。
※2019年工事内容※
誤字脱字修正、細かい描写の追加、特殊タグ追加、句読点、行間……
***街道***
「あわわっ……どど、どうしよう!?」
ここは街道の途中、私、フィリー・エアハルトは今、大変な状況に置かれてます……!
ことの発端は今朝、いつもどおり私は家にこもって本を読みあさってた。そしたら突然お姉ちゃんが私の部屋に入ってきて、なんなのか聞く暇も無く無理矢理服を着替えさせられ、首根っこを捕まえられた状態で家の外まで連れ出されて――
「おつかいに行ってきなさい。おつかいの内容とか困った時のことは このメモに書いてあるから」
そう言って一枚のメモ用紙を強制的に握らされて……私が「無理」って言おうとしたら――
「あと、おつかいがちゃんとできるまでは家に入らせないからね♪」
というトドメ一言を言い放ってきて……。
泣く泣くおつかいをこなすために歩きだしたんだけど、指定されてる場所は街の外。メモには「誰かに護衛を頼んでね」なんて書いてたけど、頼める知り合いなんていないし、メモの続きに書いてた お姉ちゃん曰く「護衛を引き受けてくれそうな人」に書かれていた名前も知らない人ばかりで探しようもないし……。
そこで私は「護衛を付けずに外に出ようとすれば街の門番さんが止めてくるんじゃないだろうか」と思いつき、止められてそれを言い訳に家に一旦帰ろう、そして「顔も知らない人を探してその人に頼めるわけがない」ってお姉ちゃんに言おうと決めた。
結果が今の状況……。
門番さんは止めてくれず、むしろ「気をつけて行ってきてね」とでも言いたいのか良い笑顔で送り出してくれて、それを見た後じゃあすぐに引き返して街に戻るなんてことがし辛くて、街道をメモ書きどおりに一人で歩き続けてしまった。
幸い、モンスターに遭遇することも無くここまで来ることができたんだけど……
「この先……だよね?」
メモに書かれていた行先である目の前の道は、街道からずれた 草原のなかにある林の中へと伸びる小道。どう見ても今まで歩いてきた道よりもモンスターが出てきそうな雰囲気がある。というか、この道の先に何があるんだろう?
小道に一歩踏み出そうか、帰ってしまおうか、一人心の中で問答していたら――
「あのー……?」
突然後ろから声をかけられた。
飛び出しそうなくらい跳ね上がる心臓、足を中心に震え上がる身体、嫌な汗が滝のように流れ出してくる。
薄れる意識の中、勇気を振り絞り 振り向こうとしたけど、振り向き切る前に私の意識が途切れてしまった。最後に見えたのは、驚いた顔をした男の子だった。
――――――――――――
***?????***
「うっ……ん……。あれ? ここ……は?」
目を覚ますと、目の前に見えたのは私の知らない部屋だった。どうやら私はこのソファーに寝ていたようだ。それにしても……
「もしかして人さらいに捕まったりした……!? どどど、どうしよう!?」
ただでさえ他人と話すのが苦手で、普通に面と向かって話すだけでも逃げ出しちゃうのに、人さらいのような悪人だったら きっと顔を見ただけで失神してしまいかねない。
そもそも、そんな状況だと自分の身の危険だ。今は誰もいないみたいだけど、早くここから出て街に逃げないと!
ガチャッ
そんなことを考えていると、ドアが開けられる音が聞こえた。
身を守るなら、窓を開けて飛び出し逃げるとか どこかに隠れるとかするべきだったのかもしれないけど、私は恐くて身体が震えて動けなくてソファーに座ったまま音のしたほう――ほんの少しだけ開いているドアのほう――を見つめることしかできなかった。
キィ……
ドアが段々と開いていく。私はどんな強面の悪人が入ってくるのかとビクビクしながら見ていた。
十分に開かれたドアから見えたのは……何のことは無い、日に照らさせた木々がわずかに揺れる外だった。
どういうことだろう? 風で自然に開いたにしては不自然だけど、誰もいないし……。
首をかしげて考えていると、今度はひとりでにドアが閉まりだした。幽霊かなにか見えないものが動かしているんじゃないかと思い、怖くなりソファーの上で膝を抱えて震えてしまう。
が――
「えっ……?」
気がついた。先程まで私が見ていた高さよりも低い位置、そこに
「モコッ?」
気が抜けて私がつい出してしまった声に気づいたようで、それはこちらを振りむいてきた。
その子は
「モコ!」
片手をシュッと挙げながら掛け声(?)をあげたかと思えばドアに向きなおり、最後までしっかりと閉めた。
私はここでふと気がつく。あの子、背伸びしないとドアノブに全然とどきそうにない……。つまり、先程ドアを開けたときには、見えてはいないけど一生懸命背伸びしてドアノブを回して開けてたんだと思う。
「ふふっ……」
その光景を想像してしまい、一人で
すると、あの子が私のいるソファーとは逆の方向、階段仕切られた方へと歩いていった。完全に向こう側に行くのではなく、その手前にある水瓶から水を汲み、その隣の流しで手を洗っているようだ。なお、床に置かれている台に立っているが、結構ギリギリの高さだ。
私は驚いた。モンスターであろうあの子が、人間と同じように手を洗っているなんて……。
「モココー!」
手を洗い終えたその子はトコトコとソファーのそばまで駆け寄ってきた。そして、私に何かを差し出してきた。
少し驚いたけど、「なんだろう?」とよく見てみると水でほどよく濡らした布、つまりは「おしぼり」だ。
「えっと、ありがとう…?」
「モコ!」
おしぼりを受け取ってみると、元気にお返事を返してきてくれた。そしてソファーにピョンと飛び乗り、少し間を空けて私の隣に浅く座ってきた。
足を交互にぷらぷら揺らしながら、まるでリズムをとるように体も左右に軽く揺れている。小さな手は、背もたれとどかない体が後ろに倒れないように腰を下ろしている場所の少し後ろで支えるようにソファーにおいてあった。
その様子が変に人間臭くて、かつ可愛らしく見えて、私の中に残っていた警戒心や恐怖心が全部無くなり、気づけば自然と笑顔になっていた。
「モコ?」
首をかしげながら隣の私の顔を見つめてきた。お互い座っているけど身長差から むこうが見上げているかたちで。
そのしぐさから考えると「どうしたの?」と言ってるのかな?
「えっとね、ここはキミのお家なの? って、通じないよね……」
私がこの子の言葉がわからないように、この子も私の言葉がわかるわけがないよね……。そう思ったが、突然ソファーから降り、壁際にある棚の中から一冊の本を持ってきて渡してくれた。
「『日記』? ……あっ、名前も書いてある……『マイス』かぁ。あれ? たしか、お姉ちゃんから頼まれたおつかいの相手もマイスって名前だったような……? もしかして、この家の持ち主がマイスさんで、私の目的地でもあったってことかな?」
今はいないみたいだけど、ここで待っていればおつかいを達成できそうで一安心した。このまま待ってみることにしよう。
んん? そういえば――
「もしかして、私の言ってること わかるの……?」
「モコッ!」
相変わらず私の方からはわからないけど、この子はわかるようで返事と一緒にしっかりとうなずいて応えてくれた。
「それじゃあ、ちょっと聞きたいんだけど……このマイスさんって人、怖くない?」
「モコモーコ」
今度は首を横に振り否定してくれた。どういう基準で怖いか否かを判断しているかわからないから安心はできないけど、とりあえずいいってことにしよう。
それからの会話ははずんだ。
とは言っても、私が言ったことをに対して「はい」か「いいえ」で答えてもらうか、お姉ちゃんへの愚痴を聞いてもらうかくらいだったけど、それでももう去年一年分と同じくらい私は話していた。
「それでねー、モコちゃん」
「モココー?」
「ふぇ? どうかした?」
どうかしたのかと思って目を向けてみると、自分を指差しながら首をひねっていた。あっ、もしかして……
「「モコちゃん」って言ったこと?」
「モコッ」
「ほら、ずぅっと「キミ」っていうのも変かなって思って……嫌だった?」
「モコー」
モコモコ鳴くからって理由で安直に着けちゃった名前だけど、気にいってくれたみたいでよかったー。
嬉しさを身振り手振りで伝えようとしてくれたり、私の話を楽しそうに聞いてくれるモコちゃんが可愛くなり、ついつい膝に乗せて後ろから抱きかかえるように持って頭をなでてしまう。
「ふふっ、モコちゃんって すっごく柔らかくて温かいよねー……」
「モコ~」
「あっ! そうそう、それでね…………――――――――」
――――――――――――
「ん……あ、れ………?」
少し重たいまぶたを頑張って開き、あたりを見渡す。
記憶にあるとおりの部屋の中、私もソファーに座っている。ただ違うのは、日が少し傾きだしていたことと――
「あれ、モコちゃん……?」
――私の膝の上にいたはずのモコちゃんがいなくなっていて、代わりの私の体にはタオルケットがかけられていた。
どこに行ってしまったんだろう? 必死に探してみるけど見当たらない。
すると、誰かが階段を降りてくる音が聞こえてきた。だけど、それはモコちゃんのような小さな足ではたたない音で、別の存在だとわかる。
降りてきたのは、なんだか少し見覚えのある私よりも少し小さいくらいの男の子だった。
「よかった、起きたんだね! ……ごめんなさい、あなたがいきなり倒れたからとりあえずウチに運んだんだけど、ちょっと用があって一度外に出ちゃってて……」
「あっ……街道でっ」
思い出した。街道で気絶した時に見た男の子だ。
でも、それ以上に気になることがあったから、そっちを優先する。
「あ、あの! モコちゃん 知らない!?」
「モコちゃん……?」
「えっと……その……」
「もしかして、金色の毛の小さな子のこと?」
「……! うん、その子!」
「時々来る子でね……その子なら、ちょっと前にここから出たよ」
「そ、そうなんだ……」
モコちゃんがもうどこかへ行ってしまったのは残念だった。本人さえ良ければお家に連れて帰りたいくらいだったのだもの。
……でも、モコちゃんは 私みたいに部屋の中でゆっくりしているよりも、外を走り回ったりするほうが好きなのかもしれない。一応はモンスターなんだし……。
「えっと、それでなんだけど……あっ、僕はマイスっていうんだけど、君がエスティさんの妹の……?」
「う、うん。フィリーっていうの。あっ、『マイス』君ってことは……」
お姉ちゃんから私が来ることを聞いていたのかな?…そうだ、今日ここまで来たのは お姉ちゃんからのおつかいのためだ。ここで、ちゃんと用件を言わないと……。
あれ……?
口が問題無く動く。全然 平常心なんかじゃないけど逃げたくなるほどではない……。いや、昨日までの私だったら 今までのやりとりさえ出来ずにいたと思う。
目の前にいる人が自分よりも小さな子だから?それとも、最初にモコちゃんのことで必死になってたからそのままの流れで喋れてるのか? ……もしかしたら、モコちゃんとの会話がいい練習になった、とか?
理由はわからないけど、ここで立ち止まったらダメな気がしてならない。勢いに任せてメモを突き出し……
「あの……!ここ、このメモに書いてある野菜を!わけてくだしゃいっ!!」
最後の最後で噛んでしまった……。
恥ずかしくて、怖くなって、逃げてしまいたくなって、でも足が震えてしまって動けなくて、でも……!
「まかせて! 一番良いのを用意するよ!」
その元気な声に 私はうつむいてしまっていた顔をあげた。
笑われるんじゃないかと思っていた。実際、マイス君は笑っていた。でも私が思想像していた「笑い」とは違った。ひとを馬鹿にしたようなものじゃなくて、ただ嬉しそうな「笑顔」。
ただそれだけだったけど、私はなんでか安心することができた。
マイス君は 泣き出しちゃった私に少し慌ててたけどね……。
―――――――――
***街道***
結局、「護衛無しで帰るのは危ないから」とマイス君がついてきてくれることになった。
それだけじゃなくて、思ったよりも重かったおつかいの野菜まで持ってもらってしまっている。
この帰り道も色々とあった。
マイス君の家の外に青い布を巻いたウォルフがいて驚いたことから始まり、途中で襲いかかってきた『ぷに』をマイス君が攻撃を当てずに追い払ったりもした。
だけど、私は「喋った」といえるほど話せずにいた。でも、マイス君が 家にいたウォルフのことや道端に咲いていた花のことを教えてくれたりして、楽しい時間だった。
そして、街に入る門の少し手前でマイス君が立ち止まった。
どうしたのかと思って私も隣に立ってみてマイス君が見ている方向を見てみたけど、そこには大きな門とその上の方に見える遠くにあるお城の上部だけだった。
「僕は変わったのかな……」
「……どうしたの?」
「ううん! こんな時期だけど、ちょっと一年を振り返ったみたんだ。さ、行こう!」
そう言ってマイス君はこっちを振り返りながら街へと向かって歩き出した。
それから私の住んでる家までの道を、「このお店知ってる?」なんて話をしながら帰った。
そして、家の手前で持ってもらってた野菜を受け取った。
「それじゃあ、お疲れ様!つかれただろうし、ゆっくり休んでね」
「うん、わかったよ…………あ、あとね……」
今度こそ、最後の頑張りだ。自分を落ち着かせて、口をしっかりと動かす。
「また、お邪魔しても、いい……?」
「いいよ! でも街道も時々危ないから、もし都合が合えば僕が迎えにくるよ!」
「……! うん、それじゃあ……またね!」
この後、お姉ちゃんからは護衛を付けずに行ってしまったことをもの凄く怒られたりしたんだけど…………これで私の長い一日が終わった。