くーちゃんによる、マイス君の考察回。
でも、『IF』のほうの『クーデリア』ルートとかでもわかるように、くーちゃんの予測とか推測は結構外れます。
「原作マイス」と「マイス君」との違いが垣間見えるお話です。
終盤は、トトリちゃん視点でのお話です。
【*9-1*】
***マイスの家・作業場***
あたしが
それで、あたしは「朝一で仕事があるから」という
……で、よ。
今朝。『冒険者ギルド』で受付の仕事をしていたあたしのもとにロロナが一人で来た。「マイス君が顔をあせてくれなくなったのっ!」とか「嫌われちゃったんだー!!」とか涙目で言い、
だから、今日は特別仕事が忙しかったりしなかったあたしが、マイスの様子を
……まぁ、そんな役割を引き受けたのは「ロロナの頼みだったから」とか「元々、二人のことに首を突っ込んでたから」とかそういうのもあった。
あとは、一応はロロナたちの事を考えてであったとはいえ、自分は帰るっていう選択をしたが故にその後何かあってしまったとなったら、ちょっとは負い目を感じたりもしたってこと。客観的に見ればあたしの何が悪かったってわけでもないでしょうけど……でも、あたし自身が「
……と、とにかくっ! 色々思うところもあってこうして『青の農村』まで
んで、畑の様子を見ても、ちゃんと一通りの世話は終わらせている様子で、ロロナとは違って、マイスのほうは別に仕事が手につかなくなってるとかそういうことは無い「いつも通り」っぽい。やっぱり、何かあったとかロロナが何かしでかした……っていうより、またロロナの勘違いとかそこからくる認識の差で何かあった程度のことなのかしら?
そう思って、またマイスの捜索を再開し……マイスを見つけたのは『作業場』の『炉』のそばだった。
『炉』から漏れ出る煌々とした光に照らされながら、加工している金属へと目を向けているマイスの姿は、予想してたいつも通り……
カンッ! カンッ! カンッ!
いつも、通り……の…………
カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!
ドンドン作られていく様々な種類の武器。『鍛冶』の腕を磨いているにしては種類がバラつき過ぎ、どこからか
カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!
「……これは絶対何かあったわね」
あたしがそう確信を持つには十分過ぎる
金属を鍛えるにしても、叩き過ぎな気がするくらい……なんていうか、こう……一心不乱? 一見乱雑にも見える作業光景だけど、それでも作りだしてる
まあ、なにはともあれ、マイスには一旦作業をやめてもらわなきゃいけないんだけど……
カンッ! カンッ! カンッ!
「これ……どのタイミングで
―――――――――
「あはは……ごめん、ちょっと集中しすぎちゃったみたい」
「「ちょっと」って表現は適切じゃない気がするけど……まあいいわ」
「そうね……」
「?」
謝ってた最中もそうだけど、今のマイスもどうということのない
とりあえず、探りを……ってしてもいいけど、
「話っていうのは、昨日のことなんだけど……」
「昨日? もしかして例の「新種のモンスター」のことで何か新しい情報でも入ったの?」
「そうじゃなくて、ロロ――「うぇっ!?」――ナの……」
……待って。何、今の。
今、あたしとマイスは対面してるわけなんだけど……「ロロナ」の名前の名前を出した時点――というか「ろ」の音が連続であたしの口から出たあたり――で、変な声をあげた。その顔は、真っ赤とまではいかないけど朱色に染まってて、表情自体は照れ笑いに近い何か……かと思えば、急に涙目になったりとコロコロ変わっていた。
ロロナもデレデレし過ぎてる時もあったりするけど、「マイスが」ってだけでなんていうか、こう、一気に有り得ないものを見た気がしてくる。やっぱり普段の様子の差かしら。
というか、「何かあった」とは思ったけどマイスのこの反応、まさかとは思うけど……いやいやっ、あのマイスよ?
「ロロナからちょっと話を聞いて来てみたんだけど……何かあったの?」
「何かあったりはしてない……わけでもないような、そうでもないような……?」
「はぁ……誤魔化そうとしても誤魔化しきれてないあたり、
とりあえず何かあったことは間違い無いみたい。
それも――マイスの様子からして、
「とにかく何があったのか話してみなさいよ」
『冒険者ギルド』に来た時にロロナから「何をしたのか」はすでに聞いてある。その話から、どうしてマイスがこうなったのかは予想出来なくも無いけど正直決め手に欠けてた。もしかすると、ロロナが憶えてない何かがあったのかもしれないし、マイスのほうから何か聞ければ確信も持てる。
まぁ、マイスが「ロロナを異性として意識してること」を素直に話せばなんだけども。これだけ顔真っ赤にして恥ずかしそうにしてるなら、話してくれそうもない気がプンプン……
「えっと、その……実は――」
……話せるの?
―――――――――
マイスから聞けた話は、ロロナの言ってたことと一部を除いてほぼ同じだった。
マイスが『離れ』から戻って来たら、ロロナがサイズの少し小さめのパジャマに着替えていたこと。
だた、マイスは「見てはいけないものを見てしまった気がする」と呟いていた。受け取り方によって印象がかなり変わる言葉だけど、顔を一層赤くして言ってたから……まあ、そういうことだったんだと思う。あたしもちょっと見てみ――――
あと、あたしが冗談半分に言た、『離れ』で一緒に寝るということ。
このあたりは二人の言ってたことにほぼ違いは無かった。ロロナはマイスの申し出に驚いたらしいけど、マイスのほうはといえば、あたしが言った時がそうだったように楽しそうだから程度の感覚だったらしい。
そして……二人の間で話が大きく違っていたのは寝た時・起きた時の話だった。
その要因は「どっちが早く寝付き、どっちが早く起きたか」ということっぽかった。今回の場合、寝るのも起きるのもマイスのほうが早かったみたい。
夜、マイスが先に寝てしまってからロロナがマイスの布団に潜り込んでから手を繋いで……朝、マイスが起きるとまだ寝ているロロナに手足でガッチリ
……と、まあまとめるとそんな感じの話だった。
納得できなくはない……けど、聞いている内に疑問を感じてしまったのもまた事実だったりする。
第一、マイスがロロナの事を意識するきっかけも薄い――常識的に見ればアレだけど――気がする。
そもそも、ロロナとマイスって、昔から何処かの誰かさんが心配したりするくらいには距離感が近い。出会った「
それに、
でも、そんなのだったら『アランヤ村』であった『水着コンテスト』の水着姿の時にもっと
そして、最後に……
「はぁ…………」
話していくにつれて
……って、何でよ!?
「どうしたのよ?」
「いや、ね。
「……は?」
顔を伏せ気味にして神妙な顔をしたかと思えば……
「まあ、色々と無茶苦茶で周りを振りまわしたりすることがあるのは否定しないわよ? でも、それであんたが最低な奴だって言いだしたら、世の中、どれだけの人が「最低」になると思ってるの」
「そんなこと無いと思うけど……? 僕はロロナのことを……ううん、ちょっとドジなところもあるけど、昔から良い娘だったって思ってるよ! でも、その……そ、
「……確かにそういうのは、あたしとしてはコメントし辛い部分ではあるわね。でも、そのくらい
面と向かっては言えないけど、今の今までそういうことが全く無かったことのほうがおかしいんじゃないかって気さえする。というか、あたしとしてはロロナを意識しだしてることに確かに驚きはしたけれど、逆に安心感もおぼえたくらいだし……。
けど、当のマイスはあたしの言葉を聞いてもなんだか納得できていない様子。一体、どうしてそこまで自分が持った好意を卑下するのかしら?
「でも……
「悪いって、何がよ?」
「だってさ――――
――――
ニッコリと、でもどこか悲しそうな様子で笑うマイス。
そんなマイスの表情を見て、言葉を聞いて、あたしは――――
「そんな相手に好意を向けられてもロロナも困るだけだよ。それに……僕は、お祭りとか学校とかみんなで色々して賑やかに騒いでいる今で、十分幸せなんだ。それを
――――「アホがいる」、そう思った。
いや、だって……ねぇ?
けど、そう思いながらも、実際はあたしの頭の中では「カチリッ!」と何かがしっかりと噛み合ったような音が鳴っていた。
冒険にも出かけたり、なりゆきとはいえ農業で一から村を起こしたり、毎月のように様々なお祭りを企画したり……世間一般のマイスへのイメージって、「活発」だったり「挑戦的」や「好奇心旺盛」などといったものを思い浮かべがちだと思う。
けど、あたしは「実は違うんじゃないか?」って
そして今のマイスの話で違うって……それだけじゃないんだ、って確信した。
マイスは結構「
思えば、『ハーフ』であることをロロナをはじめ、周りの親しい部類の友達にも中々明かそうとしないのも、そういうところからきているんじゃないだろうか。
「今のままでいい」、「関係を壊したくない」……いっつも柔和な笑みを浮かべていて頭の中がお花畑な印象さえあったりするくらいお気楽に見えさえするマイスだけど、案外、そんなネガティブなことを考えていたなんてこともありえなくはない。
あぁ……でも、どうだろう?
いつもではなかったのかも? 本人の自覚がどこまであったかは定かじゃないけど、今日がそうだったように他の事に没頭することで
それに、ロロナへの気持ちにだって、聞いてるだけでも感じた事はある。
「友達だから」、「弟分だから」って言ってるけど、それはあくまで「マイスの想像したロロナの都合」であって……マイスの本心は、いっこうに言えない『ハーフ』の件で負い目があったり、不安があるから……なんじゃないかってあたしは予想できた。
まぁ、そもそもロロナへの好意を「モヤモヤしたよくわからない気持ち」なんて言ってるあたり、
……つまりマイスは、ただの「活発・天然・鈍感・純粋青年」なだけではなく、「ネガティブ」だとか「実は演技派」といったものを足したくらいだったりするのかもしれない。
そう考えると、
「……結局、わかったようでわかんない所も結構増えた感じね」
「えっ?」
「気にしないで、コッチの話だから」
確かなのは、
今はそれをどうにかするかして、ロロナとの関係を修復させること、それが最優先事項よ。
とは言っても、正直なところマイスが変に意識し過ぎちゃってるだけっぽいし……いっそのこと、このまま二人をぶつけさせるくらいの勢いで再会させたら手っ取り早いんじゃないかしら?
きっと、この調子だと、本人同士が知ってないだけで互いに好意自体は抱いてるわけだから、マイスのほうに少し気をつけとけば結構スムーズに行くと思うんだけど……。
しかし、なんとなく一筋縄ではいかない気がして、あたしは気付かないうちにため息を吐いてしまっていた……。
――――――――――――
***職人通り***
「あれ? どうしたんだろ?」
ちょっと用があって出かけてたんだけど……先生のアトリエへと帰ってると、そのアトリエの前でちむちゃんたちが何やら集まって会議をしてた。
うーん……この距離で聞こえないってことは、結構小声で話してるみたい。
私もちむちゃんのそばまで寄って、しゃがんでから小声でちむちゃんたちに声をかけた。
「ただいま。どうしたの、こんなところで。なんで中に入ってないの?」
「ちむ?」
「ちむーむー」
「ちちむ~」
「ちむっち」
ふんふん、なるほどなるほど……。
「アトリエの中の空気がなんかいつもと違ったからいられなかった? なんだろ? またロロナ先生がボケーってしちゃって、調合に失敗したり変なモノでも作っちゃったのかな?」
よくわからないけど、とりあえず入ってみないとわからないよね……。
でも、毒とかガスとか危ないものが充満してる可能性もあるし、いちおう安全確認をしながら
「よしっ」
私は入り口の扉をゆっくり慎重に少しずつ開けていき、まずは隙間から少し覗く程度で見てみる。
…………。
正面方向にある釜は……使われてないみたいだし、爆発とかの痕跡も
じゃあ、いったい何があったんだろ?
とりあえず毒やガスといった危ない物の気配はなさそうで一安心し、本格的に調べようと思って、アトリエに一歩踏み込むためにいつも通り扉をしっかりと開けようとし――
――何かが倒れ込むような音を聞いて、その手を止めた。
聞こえてきた方向は入り口から見て左手のほう。いきなりのことに驚いちゃいながらも、私はゆっくりと隙間からソッチのほうを覗き…………見えた。
ソファー。
そこに
そして――――――
――――――
ヒュッ
私の心臓か何かが、どこかわかんない所へ
息をするのも忘れてしまいそうで……でも、視線を感じて、視線を斜め後ろやや下へと向ける。すると、私の事を見上げてきてるちむちゃんたちと目があった。
……タイミング的に、ちむちゃんたちが何を見たのかはわからない。でも、わたしは無言のまま、視線と
「…………」
(むり、あだるてぃ、わたし、わからない)
「「「「…………」」」」
ちむちゃんたちの返答は、無言のブンブン首振り。
どうしろっていうの……!?
男はみんな狼なのさ★