いちおうは次の【*4*】からが本番……いつもこんなことを言ってる気がしますが、気のせいではないかも知れません。
『マイスのファーム IF』のほうでは、まだ各キャラの【*2*】の途中ですが、本編は特に気にせず進んで行こうと思います。
元々番外編は『トトリのアトリエ編』が終わってからの予定だったわけですし、多少本編より遅れてしまうのは仕方のないこと……そう思っていただければ幸いです。
そして今回、諸事情により最後のほうだけ視点が変わっています。ご了承ください。
【*3*】
***ロロナのアトリエ***
「ええっと……? これはどういうことですか?」
何かを複製調合しているのか、てこてこ歩き回ったりしながらも何やら作業をしているちむちゃんたちがいる『ロロナのアトリエ』。
そのアトリエ内で、
「あ、あはは……」
「じー……」
ロロナはと言えば、トトリちゃんをただただジッと見つめるばかり。
アトリエに来たばかりのトトリちゃんに状況説明をしていない僕が言うのもおかしいけど、これじゃあトトリちゃんが困るのも仕方がないだろう。
ずっとただ見つめてきているだけのロロナに少し気が引けたのか目をそらしたトトリちゃんは、僕のほうを向いて涙目で「なんなんですか、これ~!?」と
「えっと、いきなりで何が何だかわからないかもだけど……その
「それで、トトリちゃんの意見を聞きたいの!」
僕の言っている途中で、ロロナが大きな声で割って入ってきた。
ここまで聞いたトトリちゃんは、「わかったような、わからないような……?」と何とも言えない顔をして首をかしげてしまっている。
……僕はとりあえずここまでの経緯について話すことにした……。
――――――――――――
***一時間ほど前***
そもそもの始まりは、『塔の悪魔』を倒しに行く道中でロロナと『学校』のことについて話したことからだった。
学校で学べることの一つとして『錬金術』も検討していて、僕は学校の設立が許可されてからロロナには伝えて協力してもらえないかお願いをするつもりだったんだけど……なんと、ロロナはロロナで『錬金術』を教える学校のことを考えていたそうで、教科書とかも作ってみたりしているらしかった。
そんなわけで、最終的に「『塔の悪魔』を倒すのが終わってから、作った教科書見せるから!」って話になって……結局はさすがに疲れてしまったり、僕が『魔法』を使いそのことでバタバタしてしまったりしたことで、その日の内にロロナの教科書を見ることは出来なかった。
でも僕も忘れてたわけじゃなくて、「次にロロナのアトリエに行くときに、僕のほうで作ったのも持って行って見せ合えたらいいなぁ」って考えていたのだ。
そして後日、僕のほうで作った教科書を持ってアトリエにお邪魔したんだけど……
「マイス君の教科書、なんでこんなに分厚いのー!? こんなんじゃあ、読み始める前に頭がパンパンになっちゃうよ!!」
「ロロナの書いた教科書って何を書いてるか半分くらいわからないんだけど……。これ、ちゃんと伝わるかな?」
「ええっ!? そんなこと言われても……。それに、マイス君のは……!」
「いや、でも大切なことをちゃんと書いておくならこのくらいは……。というか、ロロナの教科書のここって手順が足りてないんじゃ……?」
「なら……」
「あと……」
――――――――――――
***現在・ロロナのアトリエ***
「……って、ことがあって、そこにちょうどトトリちゃんが来て……」
「学校とか、初めて聞いた
納得したように、自分の膝の上に置かれている教科書の一つを手に取って表紙を眺めるトトリちゃん。
「トトリちゃんなら、どっちの教科書がいいのかわかるよね! ねっ!」
「それはまあ、作った二人よりも
キラキラとした目で見つめながら顔を近づけてくるロロナに、トトリちゃんはちょっと引きつつ「というか、そもそも競う必要性は……?」と首をかしげていた。
「それじゃあ、トトリちゃんは教科書を読んでみてて! その間にお茶、用意してくるから!」
そう言ってソファーから立ち上がり鼻歌まじりに歩き出したロロナ。
そんなロロナの背中を目で追う、並んで座っているトトリちゃんと僕。……と、偶然か何か、僕がトトリちゃんのほうを見たのと同時に、ちょうどトトリちゃんも顔を僕のほうへと向けた。
その偶然にお互い「あっ」とちょっと驚きつつも、僕のほうから話を振っってみた。
「あははは……ごめんね、いきなり巻き込んじゃって。それで、『
「いえ、別に何かあったわけじゃないですから、大丈夫です。それに、学校で教える『錬金術』……わたしも興味ありますから、協力させてください!」
そう言って、元気な笑顔を見せてくれるトトリちゃん。
けど、その笑顔はすぐに消え「あっ、でも……」となんだか不思議そうにして、少しだけ首をかたむけた。
「なんていうか、意外ですね」
「意外?」
「先生は子供っぽいところがあって意地になったりしますからまだわかるんですけど、マイスさんもっていうのは……。こういう時に真っ先に
そしてまた「意外でした」と言いながら、今度はイタズラをした子供のようにトトリちゃんは笑った。
僕としては、そんなふうにしているつもりはないんだけど……でも、トトリちゃんにそういうイメージを持たれているってことは、少なからずそう見える時があるんだろう。
でも、僕っていつも自分がしたいようにやってばかりだから、そんなことはないと思うんだけどなぁ……? 時々、お祭りでコオルに出場禁止を言い渡されてりはするけど、それはトトリちゃんが言ってることとちょっと違う気がするし……。
それに……。
「僕は意地を張ってるというか、いろんな人に教えるための大事なものなんだから出来る限り良い物にしたいってだけで、その為に意見交換を沢山するべきだろうなーって思って……」
「そういうことにしときますね♪」
「ええっ……」
何故かトトリちゃんにそう適当に話をぶった切られてしまった。別に「意地を張ってる」って勘違いされたままでもいいんだけど……でも、なんかやっぱり納得できないというか……。
けど、すでにロロナが作ったほうの教科書に目を落してしまっているトトリちゃんの邪魔をする気にもなれず、「仕方ないか」と諦めることにした。
手持ち無沙汰になった僕は、ロロナがお茶を用意していることを思い出して、実は家であらかじめ用意して持ってきていた『アップルパイ』をカゴから取り出した。かなり余分に作っておいたため、僕とロロナだけでなくトトリちゃんの分もちゃんとある。
残った分は……いつも通りちむちゃんたちにおすそわけすることにしよう。トトリちゃんはもちろん、お茶を用意しているロロナもまだ時間がかかりそうだから、先にちむちゃんたちを集めて『アップルパイ』をあげることにしよう。
――――――――――――
僕がちむちゃんたちを集めて『アップルパイ』をあげながら
そして、トトリちゃんが教科書を読んでいる間、僕とちむちゃんたちの戯れにロロナも参加して遊んでいたんだけど……
「ええっと……とりあえず、こっちはここまでってことで……」
不意にそんなトトリちゃんの声が聞こえたので、目の前で揃って並んで床をゴロゴロしているちむちゃんとロロナから目を離し、
「トトリちゃん、見終えたかな?」
「あっはい! どっちの教科書も大体読めました。けど、ちょっと……」
元気に返事をしたトトリちゃんだったけど、その声は何故か段々と
そのことは気になったけど、僕が問いかけるよりも早く、起き上がったロロナがトトリちゃんに詰め寄っていった。
「で、どうだった!? わたしのとマイス君の、どっちが良かった? わたしのだよね!?」
「えっと、それは、そのー……」
「ね?ね?」と問い詰められているトトリちゃんは、そんなロロナの顔を直視できていなくて、その視線は泳いでいる。
……ロロナの作った教科書をすでに見ている僕としては、トトリちゃんがなんでそんな反応をしているのかが、なんとなくわかってるんだけど……。
「ロロナ先生の教科書はですね……」
「うんうん!」
「「ぐ-るぐーる」とか「ぱらぱらー」とか
「うん! ……あれ? ちょっと待って、それって……?」
頷いた後に、数秒間ピタリッと固まったかと思うと、コテンッと首を傾げるロロナ。
どうやら、ロロナの教科書を呼んだトトリちゃんの感想は、僕が予想したのと同じようで……
「凄くわかり
「がーん!?」
「まぁ、そうだよね」
その場に崩れ落ち、両手をガックリと肩を落とすロロナ。
でも仕方ないと思う。調合に必要な素材などといった『レシピ』の他に、その手順とかも書かれているんだけど、それがトトリちゃんが言ったように擬音とアバウトな表現が多くて、どう考えても字で読んだだけじゃ理解でそうにもない内容だったのだ。
「じゃあじゃあ! わたしのよりも、マイス君の教科書のほうが良かったのー!?」
僕は本職の『錬金術士』じゃないわけで、経験こそあるけれど、そこまで『錬金術』そのものや教えることに関して自信があるわけじゃない。
だけど、ロロナの作った教科書の事を考えると……たぶん、消去法というか「どちらかを選ぶなら」と選択を
「えっと…………
「……ええっ!?」
「あのー、トトリちゃん? そう思ったのはどうしてなのかな?」
「どうしてって……丁寧で図解とかもあってわかりやすく書いてますけど、これ、
「そうなの!?」
「そうなのって、ロロナ先生、読んだんじゃないんですか?」
「ええっとね、厚さを見てちょっと嫌になって、目次の項目の多さでめまいがして……そこから全然頭に入ってこなくって」
「「「…………」」」
「あっ、そういえば『実習編』と『応用編』を出すの忘れてた!」
僕としたことがウッカリしてた。まさか『基礎編』だけ出して、他を忘れてしまってただなんて! そういうことならロロナやトトリちゃんがあんまりいい評価をくれなかったのも、当然のことで納得できる。
というわけで、僕はさっそく残りの『実習編』と『応用編』の二冊をカゴから取り出した。
「「うわぁ……」」
「? 二人ともどうかした?」
『実習編』と『応用編』の教科書を取り出したところで、ロロナとトトリちゃんが変な声を出した。どうしたのかと思い二人の顔を見てみると、僕の手元……教科書を持っている手を、目を細めて見ていることに気付いた。
「マイス君。一冊だけで厚さ十五センチくらいあるのに、それが全部で三冊って……。『錬金術』を勉強しに来た人がそれをいきなり渡されたんじゃあ、やる気
「先生の言う通りです。それに、勉強しに来てくれる子にそれを持ち運ばせるのは、さすがにかわいそうですよ? 一回、内容を整理して必要性の低い部分は
「ええっ、そうかな? 一つの教室でみんな一緒にするんだし、ちょっとした失敗が周りの人を巻き込みかねないから、危なく無いように
そう一応は反論してみるものの、ロロナにもトトリちゃんにも首を振られた。目を細められた時点で「もしかしたら……」って予感がしてたからそこまで驚かないけど、そんなにダメだったかなぁ?
「うーん、『錬金術士』の二人が揃って言うなら間違いんだろうし……とりあえず、まずは『基礎編』からチェックしていくってことでいいのかな?」
「はい、それでいいと思いますよ。まずは目次の項目を見て、そこで必要無さそうな項目にチェックを入れてから、内容を詳しく見ていって……もし書き込んでもいいなら、斜線を引いたり、書き加えてりしていけたらいいんじゃないですか?」
トトリちゃんの提案に、僕は「大丈夫だから、そうしてみよっか」と頷く。
教科書は
僕とトトリちゃんが顔を見合わせて頷き、そして、二人そろってロロナの方を見る。すると、ロロナも頷きニッコリと笑った。
「よーし! それじゃあ、三人でやってみよー!!」
こうして、僕の作った教科書を元に、新たな教科書を作る作業が始まる事と…………
「……って、あれ? わたしの教科書は? わたしの教科書は使えないの!? 使っちゃダメなの!?」
……始まる前に、僕とトトリちゃんには涙目になって今にも泣き出しそうになっているロロナを
――――――――――――
「お邪魔するよ。ロロナはいるかな? ……って、おや?」
ノックをし『ロロナのアトリエ』入ってきたのは、この『アーランド共和国』で大臣を務めているトリスタン・オルコック。彼がアトリエに入ってみた光景は……
「じゃあ、『基礎編』の「調合を始める前に」
「そうですね。そうすれば今の三分の一くらいまで減らせると思います」
「うん。あとは、さっきチェックを入れた削れる部分を削って……「道具の名称と用途」を「錬金釜等、用具・器具の基礎配置」の中に入れ込んだら『基礎編』は大体いいんじゃないかな?」
ソファーにロロナ、トトリ、マイスの順に並んで座っている三人。トトリが膝の上で教科書を広げペンを持ち、その両サイドからロロナとマイスがその教科書の覗きこむような形になっいた。時に指差しし、時にペンを走らせながらも、教科書の内容について意見交換をしているようだった。
「仲が良さそう……いや、あえて「
あごに手を当てて呟くトリスタン。その呟きに、議論がようやく一段落した様子の三人のうちトトリが気がつき「あっ」と声をあげた。
「トリスタンさん? えっと、いつの間に……?」
「あっ、ほんとだ! いらっしゃーい」
トトリに続きロロナが気付き、ニッコリとした笑顔でトリスタンを迎え入れた。
また、マイスもほぼ同時に気付いており、「こんにちは!」といつもの調子で挨拶をしていた。
「何やら忙しそうにしているみたいだけど、お邪魔だったかな?」
そんな事を言いながらも、申し訳なさそうにするわけでもなく、さわやかな笑みを浮かべるトリスタン。「タントリス」という偽名を名乗ってアトリエに来ていたころから変わらない通常営業の彼である。
「大丈夫ですよタントさん、今日中に終わらせないといけない仕事もないですから……あっ、『香茶』用意してきますね!」
そう言って立ち上がり『香茶』を淹れる用意をし始めたロロナ。それとほぼ同時にマイスも立ち上がり、何かをし始めた。
……と、ロロナがふいにそのお茶を用意している手を止めないまま、振り返ったりせずに口を開いた。
「マイス
「今日はちむちゃんたちにあげるにしても多く作り過ぎてたから、まだあるよ。だから、ロロナの分
「あれ? そうなの? えへへっ、ありがとー! あっ、トトリちゃんもさっき食べたけど『
「わたしはさすがにもういいです。……これ以上はゴハンが食べられなくなりますし」
トトリが断ったことに「そっかー」と少し残念そうにしながらも、ロロナは『香茶』を淹れながら「ぱい、ぱい、アップルパーイ♪」とよくわからない歌を鼻歌交じりに歌い始めた。
……と、ここまでの流れをアトリエの出入り口近くでずっと見ていたトリスタンだったが、ゆっくりと歩いて今座っているのはトトリだけとなったソファーのそばまで来た。
それに気づいたトトリは、トリスタンに気を遣って中央からソファーの左端に寄り、右半分をあけ渡した。そんな気遣いに「ああっ、ゴメンね」とトリスタンは珍しく申し訳なさそうに軽く頭を下げ、ゆっくりと腰を降ろした。
「ねぇ、ちょっといいかい?」
「はい? なんですか?」
色々と書き加えたりした教科書に再び目を落そうとしたトトリだったが、トリスタンに声をかけられたことでそれを止め、その目をトリスタンのほうへと向けた。
トトリが見たのは、
「最近、忙しくてあんまりアトリエに
「あんな感じ?」
タントリスの言う「あの二人」というのがロロナとマイスであることはトトリにもすぐに理解できたが、「あんな感じ」のほうはいまいち理解出来ず聞き返してしまうこととなった。
「ほら、間にキミがいるにはいたけどヤケに距離が近かったり……あと、ついさっきみたいに何も言ってないのに一緒になって準備したり、先読みしたみたいに何かしたり……」
「距離が近いって言っても、わたしが会ったころからそうでしたよ? おやつの準備もマイスさんが「おすそわけ」を持ってきた時はいつも先生が『香茶』を用意してますから……。あっ、でも「前はほむちゃんがやってくれてたんだよねー」とか言ってたっけ?」
途中疑問を挟みながらも「前からだ」とするトトリ。
その言葉に苦笑いをしながら、首をすくめるトリスタンは短くため息をついた。
「まぁ、確かに「昔から」っていうのも間違っていないとは思うけど……だけどねぇ? なんていうか、前とは違う気がするっていうか…………
後半は呟くように小さな声になったトリスタンの言葉に、ちゃんと最後まで聞き取れなかったトトリは一人首をかしげてしまう。
「弟みたいに、ねぇ……」
ロロナと、そのロロナに『アップルパイ』の乗った二枚の皿を持って近づくマイス。トリスタンは、その二人の姿を目を細めて見ながらそう呟いた……。
極端なことを言えば、最後のあたりが書ければよかった回。
でも、そこに至るまでの流れとして必要な要素を書いていっていると、「この話出したなら、こっちにも触れておきたい」とかなってしまって膨れ上がってしまい、少々無駄っぽい部分が出来てしまった疑惑があります。
……書いてて楽しかったですけども。