マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 更新、遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。
 前回の半分くらいの長さなのにこんなことになってしまいました。内容云々じゃなく、単純に時間が中々取れなかった結果です。 そう言いながら、休憩時間を使って書き上げました。


5年目:マイス「お説教と……あの噂」

 

***マイスの家***

 

 

 雲一つ無く晴れ渡る青空。

 

 今はすでにお日様は昇りきって青空になっているけど、早朝は、昇り始めた朝日によって生み出された夜から朝へ変わる色のコントラストがとても綺麗な空だった。そんな空の下でやる畑仕事は爽やかで、普段よりもとても作業がはかどった。

 空だけじゃなく、いろんな要素が今朝は良かった気がする。作物を揺らす風は強すぎず心地よくて、気温も寒くなく暑くもなく……井戸水はちょっと冷たかったけど。

 これからは日が出てきたらすぐ暑くなってくるだろうから、今日みたいな日は十分無いと思うと少しだけ憂鬱な気もする。まぁ、夏は夏で色々いいことはあるんだけど……。

 

 

「―――だというのに……聞いているのか?」

 

 

 ピクピク動いているステルクさんのコメカミ……って、これは今朝のことじゃなくて、今、目の前で起きてることだっ!?

 

 僕は慌てて姿勢を正して首を振る。

 

「えっと、途中から聞いてませんでした! だいたい、「そもそもキミは、先に一人で行った目的をわかっていたのか」あたりから……」

 

「……素直に言ってくれるのはありがたい。しかし、ちゃんと聞いてもらいたいかったのだが?」

 

「そうは言っても、そこから先はそれまでの繰り返しの愚痴だったし……」

 

「……確かに、愚痴っぽかったというのは否定できないが……しかしだな、そもそもの原因はキミなんだぞ?」

 

 ひたいに片手を当ててため息をつくステルクさん。

 ……でも、そう言われてしまうと、僕としては素直に聞くことしかできない。だって、ステルクさんの言う通り、僕に非があるのだから。

 

 

「いちおう、私が注意しておきたかったことまでは聞いていたようだが……確認までに、自分が何故怒られたのか、言ってみてくれ」

 

「『アランヤ村』に着いてすぐに一人で村を飛び出して行ったことと、その時と帰って来た時に誰かにちゃんと言って連絡してなかったから……ですよね?」

 

 今、僕がステルクさんに怒られているのは、昨日のスカーレットの群れの一件の事だ。

 

 そもそも僕は、いち早く村に行って村の人たちに少しでも安心してもらい、なおかつ最悪の事態に備えて村の防衛の準備をしておくために、一人で先に『アランヤ村』に行っていた。なのに、僕はそれらの事を放り投げてスカーレットの群れがいる外へと飛び出してしまったのだ。

 さらに、出ていく時はパメラさんとピアニャちゃんに会っただけで、外に行くとも言っておらず……外にいたトトリちゃんたちの所に駆けつけ『スカーレット』たちを倒した後は、ちょっとした事情からそのまま一人で村に帰って、それから出発の時にピアニャちゃんたちとしていた約束の通り『パメラ屋さん』に行って買い物をして、店を出るとちょうどトトリちゃんたちが帰って来てて、そこでちょっと話してから『青の農村』に帰った……。

 

 うん、冷静に考えれば問題だらけだ。ステルクさんが怒って当然だと思う。

 だから、こうして怒られて……

 

「……後半だけだ」

 

「えっ」

 

「前半の村を飛び出して行ったことは、状況が状況なだけにキミを(とが)めるつもりはあまり無い。聞いたところによると、結局は外にいたトトリ(彼女)たちとは合流は出来なかったらしいが、それでもキミが他の場所で『スカーレット』を殲滅したおかげで彼女たちのもとへ向かう『スカーレット』は減っただろう」

 

 「だから、そちらは強くは非難はしない」と言って小さく頷くステルクさん。

 そう。村を飛び出した後、トトリちゃんを追いかけるために金のモコモコの姿に変身した僕は、「飛び出したはいいが何処(どこ)にいるかがわからず、とりあえず『スカーレット』たちを倒しまくった」……という扱いになった。「マイス()=金モコ」という事実を隠している以上、そういうことにでもしていないとマズイのだ。

 

 

「だが、誰かに言伝をしておいたりしてまともに連絡をしていなかったのは大問題だ。私たち討伐隊が村に行ても、村の人はキミを見ておらず、一緒にいたロロナ君(彼女)がたまたま様子を確認しに行った『パメラ屋』で、キミが来ていたことをやっと知れた」

 

 目をつむり腕を組んでいるステルクさんだけど、話しだすにつれて段々と口調が強くなっていき、喋るのも早くなっていく。

 

「……かと思えば、いざ討伐隊を動かしてみてもキミ以外とは会えてもキミは見つからず。スカーレットの群れの討伐を終えても見つからないからと、一度『アランヤ村』に戻って体勢を立て直してからキミを探すために再び討伐隊を動かそうとしたら、すでに一人で帰って来ていて、それどころかすでに『青の農村』に帰ってるときた……一体、何を考えてるんだ!?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 僕は、謝ることしか出来なかった。言い訳をしようにも、完全に僕が悪いから何も言えないからだ。

 『アランヤ村』の誰かにちゃんと言っておこうなんて考えは全く思い浮かんでいなくって、そのまま勝手に行動してしまったのも僕の失敗だ。さらに、村の外で討伐隊の誰にも会わなかったのは僕が金モコの姿のままで隠れて通り過ぎたからで、『青の農村』に勝手に帰ったのも「家のこと、フィリーさんとリオネラさんに任せたけど、日が暮れてからも任せておくのは悪いよね」と、傾きはじめた太陽を見て「早く帰らないと」と思った個人的な理由からだ。

 

 

 ……でも、これって振り出しに戻っただけで、またお説教&愚痴を言われる時間に戻るだけなんじゃ……?

 

 そう僕は思ったんだけど、それは杞憂に終わった。

 

「ハァ……。まあキミは、どこかズレていたり抜けていたりはするが、話を聞かない人間では無いと思っている。今後はこういった事が無いようにしてくれ」

 

「は、はい! 気をつけます」

 

 僕はステルクさんの言葉に返事をしっかりとして、頷いてみせる。

 それに満足したのか、ステルクさんも小さく頷いて、「では」と玄関のほうへと向かおうとする……。

 

「えっと、もう帰るんですか? もしよかったらお昼ゴハンでも……」

 

「気遣いはありがたいが、遠慮しておこう。もう一人、じっくりと話をせねばならない奴がいるからな」

 

「えっ?」

 

「うちの馬鹿弟子だ。どうやら、あの少女とは上手くいったようだったが……アイツにはキミ以上に言っておかなければならないことが沢山あるからな」

 

「馬鹿弟子って……」

 

 それに該当するのはジーノくんだけなんだけど……「馬鹿」ってヒドイ言われようだ。

 でも、トトリちゃんとは上手く仲直り出来たみたいで良かった……。

 

 

 ジーノくんといえば、ウチの『作業場』から剣を持って行ったのは、やっぱりジーノくんだったみたいだ。トトリちゃんたちを守るように戦っていた時に彼が手に持っていたのが僕の強化した『ウィンドゲイザー』だったから間違い無い。

 ジーノくんが集めてくれた素材で強化してみたらトンデモ性能になっちゃったから、色々と心配だったけど、とりあえずは無事に使いこなしてくれていたから一安心した。

 

 

 一回強化するたびに実際に使ってみて『ウィンドゲイザー』の性能の変化を確認していたから、「()を使ったから()()なった」といった素材ごとの強化に使った時発揮する効力は大体把握できてる。

 中でも突拍子のなかった物は、ジーノくんが持ってきた素材のうち僕も見たことの無い、「片手に収まるサイズの黒くて丸い塊」と「縦長な薄茶色の結晶」。

 

「片手に収まるサイズの黒くて丸い塊」は、一回前に強化に使った『樹氷石』によって付与された氷属性と魔法攻撃力……その十倍近いチカラが何故か付与された。おかげで、「斬った傷口周辺から冷えていき動きを鈍らせる」程度だった氷属性攻撃が、「斬った傷口から氷が生えるように発生し、こめた力によっては対象および周囲をカチコチに凍らせる」程度のものとなってしまった。

 ……一個しか無くて、一度の例しかないから断言はできないけど、おそらく前に強化に使った素材の何倍ものチカラが付与される素材だったんだと思う。

 

「縦長な薄茶色の結晶」は、ただ単純に剣で斬れる範囲が伸びただけだった。

 ……いや、それ自体おかしいんだけどね? いやだって、剣が長くなったわけじゃなく、振ったら斬撃が飛ぶとかじゃなくて、剣の切っ先の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ、おかしいと言わずに何と言えばいいんだろう?

 なお、何も無いのに切れる距離は、剣の切っ先から三十センチほど。さっきは違うと否定したけど、「遠距離攻撃」というよりも「剣が長くなった」ような感覚だった。

 

 他の強化に使った素材たちは、剣そのものの強度や攻撃力を強化したり、装備者の身体能力を強化するような効果があった。

 竜から取れた素材なんかは一回の強化でかなり強くなったんだけど……正直、「片手に収まるサイズの黒くて丸い塊」と「縦長な薄茶色の結晶」が異常過ぎてそこまで凄いとは思えなかった。……感覚がマヒしちゃってるかなぁ?

 

 

 なにはともあれ、ジーノくんの『ウィンドゲイザー』は上限十回の強化を終えて、「斬れる範囲が(みょう)に長く、斬ったものをカチコチに凍らせ、装備者の基礎能力を底上げする剣」となったわけだ。

 僕が強化したのでモンスターを『はじまりの森』にかえす『タミタヤの魔法』はかかっているから、モンスターが大変なことになることはまず無いんだけど、気をつけないと人は少なからず影響を受けるから、一歩間違ったら大惨事になりかねない。いちおう、気をつければ氷属性攻撃は(おさ)えることはできるけど、対人戦では使わないほうがいいと思う。……強くなるための武器強化がとんでもないことになってしまったものだ。

 

 

 

 そんなわけで、ジーノくんが『ウィンドゲイザー(あれ)』でトトリちゃんに再戦を挑もうとしてるなら、僕は責任を持って止めないといけない。

 まぁ今さっきのステルクさんによれば、幸い、トトリちゃんとジーノくんはスカーレットの群れ(この前)の一件で仲直りというか和解はできたみたいで、二人が再び戦うことは当分無いとは思う。

 

 だから、あえて気をつけるところといえば……

 

「ステルクさん、ジーノくんと試合をする時は気をつけてくださいね……?」

 

「ん? ……どういうことだ?」

 

 よくわからない、といった様子で首をかしげるステルクさん。

 

 とは言っても、特訓に付き合ったりするステルクさんは……たぶん大丈夫だろう。あの人は「剣の力だけで勝てると思うなっ!」なんて言いながら対処すると思う。むしろ、熱くなってこれまでよりも厳しくなり、熱くなりすぎて本気を出しちゃったりするかもしれない。

 僕は…………え、ええっと、『ウィンドゲイザー』尖った性能になっちゃったし、今度、何かもっと使いやすい普通の剣をジーノくんにプレゼント使用かな? あは、あははははっ……。

 

 

 

「ああ、私からもキミに言っておくことがあった。……私と一緒に『アランヤ村』に行った彼女も、キミの事を心配していた。一度顔を出しに行くといい」

 

 最後にそう言って、ステルクさんは僕の家から出ていった。

 

 彼女……ああっ、きっとロロナのことだろう。討伐隊を編成した後の『アーランドの街』から『アランヤ村』への移動は、ロロナの手を借りるって言ってたから間違い無いと思う。

 

 となると、ロロナも僕がいないっていう場にいたわけで……ああっ……絶対すごく心配させてしまってる気がする。

 すっごく昔の話だけど、僕が行ったはずの採取地に僕がいないってことですごく心配してたことがあったし……。そういえば、あの時も僕は金のモコモコの姿に変身してたんだっけ? それで隠れてたんだけどステルクさんに見つかって、一心不乱に逃げ出して……あれが金モコ状態で人前に出ちゃった初めての時だったっけ。

 

 

 とりあえず、ステルクさんの言う通りロロナのアトリエに顔を出しに行こう。

 

「うーんと……『パイ』を作って持って行こうかな?」

 

 機嫌取りって言えば機嫌取りなんだけど、心配をかけちゃったお詫びの意味も込めて用意するのが良い気がする。……うん、そうしよう。

 

 

 

――――――――――――

 

***マイスの家・キッチン***

 

 

「よし……っと。あとは焼きあがるのを待つだけだね」

 

 オーブンを閉じ火を入れた僕は、ひと息ついた。あとは少し待てば『ロロナのアトリエ』に持って行く『アップルパイ』が完成する。

 ……一瞬、錬金釜をぐーるぐーるして『錬金術』で調合しよう(作ろう)かとも考えてしまったけど、普通に作ることにした。

 

 

 僕は、オーブンの中の生のパイを眺めながら、昨日のスカーレットの一件を思い出した。

 

 何処に行ったのかわからないトトリちゃんたちを追いかけるためにした金のモコモコの姿への変身だったけど、実のところ別の理由もあって変身していた。

 それは『スカーレット』たちへの説得だ。村を襲おうとしたわけじゃなく、ただ単に近くを通っていただけなのであれば、すぐに移動してもらって争わずに済めば……そういう思いが少なからずあったのだ。

 

 実際のところは、僕が駆けつけた時点でトトリちゃんか誰かが『スカーレット』を何体も倒してしまっていて、『スカーレット』たちの頭に血がのぼっていたのと、駆けつけた時にトトリちゃんたちの後ろから襲いかかっているのが見えてつい僕も攻撃してしまったりしたから、『スカーレット』たちが話しを聞いてくれる可能性は凄く低かった。

 けど、何も言わずに倒す気にはなれず、僕は『スカーレット』たちの説得をしてみよるとしたんだけど……怒りを(あら)わにしながらも二体の『スカーレット』が以外にもちゃんと言葉を返してした。

 

 

「グキャアァ!(うるせぇ!)」

 

「ガアァ! グガガガギャァ!!(言うこと聞かねぇよ! 住処(すみか)奪った奴らのぉ!!)」

 

 

 その『スカーレット』たちの返答に、僕は驚きを隠せなかった。詳しく聞こうとしたけど、それ以降彼らは殺気と敵意しか向けて来なくて話してくれそうにも無かった。

 

 

 住処を奪った!? でも、僕はそんな事をした憶えは無かったし、『スカーレット』の群れを追い出すような開発をアーランドがしているとは聞いたこともなかった。

 

 けど、すぐに僕自身の間違いに気がついた。その時、僕は人じゃなくて金のモコモコ(モンスター)だった。つまり、彼らを追い出したのは人間ではなくてモンスターだったということを。

 最初は、四足歩行だけど毛のモジャモジャ感とその色が似ているヤギ系モンスターの『黄金羊』との縄張り争いに負けたのかと思ったけど……こうして家に帰って来てから、ある事を思い出した。

 

 『サンライズ食堂』で、昔からのメンバーで食事をしたあの時。

 ジオさんが支援物資の協力をお願いしに来たあの時。

 それ以降にも度々(たびたび)話には聞いていた噂……

 

「新種のモンスターが現れて、縄張り争いが起きてモンスターたちの動きが活発化してる……だったっけ?」

 

 腕のいい冒険者が、これまで誰も言ったことの無い採取地の奥地へと行くことで、新種のモンスターが発見されるということは多くは無いとは言っても、これまでにも何度もあったことだった。

 そういったモンスターたちが奥地から出てきて縄張り争いが勃発しているのかと思い、これまで噂のことはそこまで気にしてはいなかったんだけど……

 

 

「……もしかして、()()()()()()なのかな?」

 

 

 ()()()()()を考えて、僕はそう呟いた。

 

 ……当然だけど、その呟きに答えてくれる声は無くて、僕の耳には『アップルパイ』が焼けてき始めた音だけが入ってきていた……。

 




 前回消化仕切れなかった部分が中心に、フラグを回収・立てたりして、繋ぎのような回になってしまいました。……でも、いろんな意味で大事な話です。

 何故って、それは……ね?

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