※2019年工事内容※
誤字脱字修正、細かい描写の追加、特殊タグ追加、句読点、行間……
***街道***
「それにしても、『近くの森』に採取に行くなんて久しぶりじゃない」
『近くの森』への街道を歩いている途中、くーちゃんがそんなことを言った。
「えっ、そうかな?」
必要な素材を採りに行くって事しか考えてなかったから、特に気にしたことはなかったけど……そういえば久しぶりかも。
「今日はね、王国依頼で使おうと思ってる『森キャベツ』とか『甘露の枝』を採取しにきたの」
「……ちょっと待って。それって普通に店とかに売ってなかった?」
「売ってるけど、自分で採ってきたほうが品質が良いものが手に入るから。それに、せっかく料理を納品するなら美味しいほうがいいかなって」
今回の『王国依頼』は「王国祭用の料理の準備」で、できるだけ多くの料理を納品する依頼なんだけど、王国祭に出される料理になるんだからマズイものを出すわけにはいかないよね。
「それでね、『近くの森』に行く前にマイス君のところに探索に誘おうと思うの」
「……二人っきりじゃないのね」
「くーちゃん、どうかした?」
「べ別に! ただ、二人でも十分余裕だけど、あいつの住んでるところを見たことなかったからついでに寄るのもいいかもって思っただけよ!」
「あっそっかー! くーちゃん、マイス君の家 初めてだっけ。って、私もまだ二回目なんだけどね」
マイス君が住むためにステルクさんと安全確認に行った後は、マイス君が街によく来てたからわざわざ行かなくてもよかったりもして中々行く機会が無かったもんね。
そういえば、道をはずれた林の先にあったけど「行き方がわかりやすくなった」って言ってたような気がする。
「たしか、このあたり……って、新しく道ができてる」
「道」って言っても今歩いてきた街道みたいにしっかりとしてなくて、ただ草を刈っただけの小道なんだけど……それでもこれまでなかったし、確かにわかりやすくなってはいる。
その小道が林へとのびていっている。
「この先だよ、くーちゃん」
「話には聞いてたけど、本当にこんなところで暮らしてるのね」
小道を通り、林の中に入っていく。その途中に「マイスの家」と書かれた立札があったりして、道以外にも前回とは変わったところがわかった。
そして、林の中の小道を――すでに見えてきているマイス君のお家を目指して――少しだけ歩いていくと、そうかからずに林を抜けて 林に囲まれるような場所にある家と庭が見渡せた。
前来たときには無かった お花や何かの植物が植わっている畑もあって、なんだかこれまでには無かった「人の生活感」っていうのかな? それが出てる気がする。
「あ、いたいた! おーい、マイスくーん」
家のそばにある井戸の近くにしゃがんで何かしているマイス君を見つけたから、声をかけながら手を振る。
気づいてくれたマイス君は立ち上がってこちらを向き手を振り返してくれた……んだけど、マイス君の足元にいる
「小さな『ウォルフ』……?」
「……あたしの見間違いじゃないのね」
くーちゃんにも、そう見えるみたい。
でも、のんびり座ってて、マイス君はもちろん私たちにも威嚇してこない。 襲ってきそうにも感じられないから、様子を見ながらわたしたちは恐る恐るマイス君の方へと近づく。
「こんにちは! ふたりとも、どうかした?」
いつも通りのマイス君の元気でさわやかな挨拶と笑顔。
「ええっとね……」
「「どうかした?」じゃなくて! なによ、そのモンスターは」
「この子は、この前大怪我して倒れてるところを ここのすぐそばで見つけて、見て見ぬふりは出来なかったから怪我が治るまで面倒を見てるんだ」
そう言って、井戸水が入った桶とブラシをこっちに見せてきた。
「それで、今はちょっと体を洗ってあげてたんだ」
そんなマイス君の言葉に相槌を打つかのように、『ウォルフ』がここで初めて短く「わふっ」と
「それにしてもこの『ウォルフ』、すごくおとなしいね」
私がこれまで見てきたウォルフは、こちらに気づくと有無を言わさずに襲い掛かろうとしてくるんだけど……。
「モンスターも人と同じで、いろんな性格の子がいるからね。人と争いたくない平和主義な子もいるよ。まあ、この子が子供だから警戒心が薄いっていうのも大きいけど」
「へえ、ずいぶんと詳しいみたいね」
「詳しいっていうより、こうやって一緒にいてると段々とわかってくるというか…」
そう言いながらマイス君は『ウォルフ』の頭をなでた。すると、ウォルフはマイス君の足にスリスリと身体を寄せていた。
こうやって見ると、ただの可愛い動物にも見えなくは無い――かな?
「そういえば、結局何の用だっけ?」
今日はただお話に来たわけじゃないってことを、マイス君に言われて思い出した。
「今から『近くの森』に探索にいくんだけど、一緒に行けないかなーって思って」
「へぇ、何か必要なものがあるのかな?」
「店でも売ってる『森キャベツ』と『甘露の枝』なんだけど、採りに行ったほうが良い品質のやつがありそうだからってロロナが言いだしたのよ」
マイス君の質問にくーちゃんがかわりに答えてくれたんだけど、それを聞いたマイス君は少し何かを考えるような仕草をしてた。
「うーん。もしかしたら、いらないお世話かもしれないけど……ちょっと待ってて!」
そう言って家の中に一人で入って行っちゃった。
「こんな感じの『森キャベツ』なんだけど、使えそうかな?」
少し待っていると、マイス君が数個の『森キャベツ』を持って出てきた。そして、その中のひとつを私に渡してきた。
「わぁ! お店で売ってるのより良い品質!! 他のも同じくらい良いんだけど……どこかから採ってきてたの?」
「採ってきたというか……ほら、そこの畑で育ててるんだ」
そう言って指で示した先は、ここに来た時にも見た花や色々な植物が植わっている畑があった。たぶん、あの中に成長途中のキャベツも混ざっているみたい。
「何回も育ててるから同じくらいの品質のが まだ何個もあるよ。『甘露の枝』も同じくらいあるからよかったら使って」
「いいの?」
「うん。一人じゃ使い切れなくて保存してた分だから、むしろ使ってくれるとありがたいんだ」
「そっか! それじゃあお言葉に甘えて」
お家にお邪魔して見せてもらったコンテナには、本当にたくさん良品質の『森キャベツ』と『甘露の枝』が――ついでに他のお野菜もいくらか――入っていて驚かされちゃった。
そして、必要になりそうな分貰ったんだけど、その時にくーちゃんが――
「あら? ってことは『近くの森』に行く必要がなくなったってこと?」
「あ、ほんとだ。どうしよっか?」
このまま街に帰るのもありだけど、ここまで来て何もしないのもどうかと思う。
だけど、特に用も無く『近くの森』に行くのも……。
「もしよかったら、お昼食べていかない? 今から作ろうと思ってるんだけど」
マイス君の突然の申し出に私もくーちゃんも驚いたけど、面白そうだし、ここまで来た理由に十分になりそう。
「あんた 料理できるの……って、できるわよね。ここで一人暮らししてるんだし」
「マイス君の作る料理かー。どんなのか気になる……」
「それじゃあ、作ってくるから適当にくつろいでて」
その後、くーちゃんと話しながらソファーでくつろいで待っていると、そのうちマイス君が作った料理と飲み物を運んできてくれた。
マイス君が作ってくれた料理は初めて見るもので、味も初めて食べる味ですごく美味しかった!
くーちゃんも最初は何かごにょごにょ言いながら恐る恐る食べてたけど、最後には笑顔で完食してた。でも、鼻先についてしまってたソースに気がつかないでマイス君に拭き取られて、顔を真っ赤にしてた。
『お好み焼き』って なんかかわった名前の料理だったけど、それにしても美味しかった。またいつか作ってもらおっかなー。