そして、その上今回は山無し谷無し落ちも無しの、グダグダの話になっています。
***青の農村・マイスの家前***
「よっと」
ピアニャちゃんのことで忙しそうなトトリちゃんや、なんだか近寄れない雰囲気でゲラルドさんと話していたグイードさん以外の人たちに、帰る事を伝えてまわった僕は、『青の農村』へ帰ることにした。
『魔法』を使って『アランヤ村』から一瞬で帰ってきた僕は、久しぶりの『青の農村』をグルッと見渡す。僕の家の前から村全体が見えるわけじゃないけど、見える限りでは特に変わったところは無さそうに思える。
「ふーん、やっぱり似てるわね。けど、『魔法』も『錬金術』も便利なことは違いないけど、ちょっと慣れないわ」
僕の隣でそう言っているのはミミちゃん。『アランヤ村』の入り口付近で合流して、一緒に帰ってきたのだ。
ミミちゃんが比べているのは、トトリちゃんが使っていた『トラベルゲート』のことだろう。確かに似たようなものだけど、厳密には色々と違う……と思う。『トラベルゲート』の原理を知らないから、なんとも言えないんだよねぇ……以前、トトリちゃんに聞いてみようかと思ったこともあったけど、結局その機会が無くてそのままだ。
「そういえば、今の以外にも『魔法』ってあるのよね? 他のやつを使ってるところ、見たこと無い気がするんだけど……」
そう少し眉をひそめて僕に問いかけてくるミミちゃん。
ミミちゃんには昔、いろんな事を物語風の話にしたりして話したことがある。『ルーン』のことや『はじまりの森』のこと、世界を創ったという『四幻竜』のことなんかも話した。その中で『魔法』についての話もしているから、いろんな種類があることは知っているのだ。
「確かに他にもあるし、僕は使えるけど……でも、一番「使い勝手がいい」というか「使う機会がある」のが『リターン』なんだ。他のも少し調節すれば普段の生活でも使えなくはないけど、基本的に戦闘向きのばっかりだし」
「へぇ……その割には戦う時にも使ってないんじゃない?」
「まあ、大抵の場合は剣で斬ったほうが早いからね……そんなこともあるから、『シアレンス』の僕以外の人も『リターン』が一番使ってたと思うよ」
別に魔法攻撃がダメージが低いとかそういうわけじゃない。ただ単純に使う必要性が無い場合がほとんどだというだけ。別に使ってもいいんだけど……そもそも僕は『魔法』が苦手でもないけど特別得意なわけでもない。だから、剣で戦ったり……モコモコ状態で殴る投げるしたほうが手っ取り早いのだ。
まあ、属性攻撃に弱い相手に関しては、適した属性の魔法を使って上手く立ち回るというのが有効的だったりする。……けど、『
後は、剣とかよりもリーチが圧倒的に長いというのもあるんだけど……そこまで必要になる機会は無い。
あっ『フラウシュトラウト』との戦いでは剣は届き
あと、『シアレンス』のみんなの魔法事情だけど……一緒にダンジョンに行った時なんかに使ってる人もいたけど、それ以上に別のところですれ違ったかと思えば僕が行った先にいたりする「瞬間移動」が何度もあったため、おそらくは『リターン』とかは頻繁に使われてたと思う。
ああっ『魔法』といえば、このあいだの冒険の間にも色々して、そろそろ実際に他の人に……
そんなふうに色々考えていたんだけど、ふとミミちゃんが少し細めた目で僕の事をジィーっと見つめてきている事に気がついた。
「どうかした? あっ、髪にゴミが付いてた?」
「そんなことじゃないわ」
……? なら何なんだろう?
そう思い、ミミちゃんのことを見たまま首をかしげてしまった。
すると、ミミちゃんは何故か僕から目をそらして口を開いた。
「ねぇ…………
「うん?」
「……ちょっと聞きたいことがあるんだけど、あなたが前にいた場「ん? おっ! マイス、帰ってきてたのか!?」
ミミちゃんが何か言おうとしたところで、冒険中は聞けなかった久しぶりの声が元気に……というか、勢い良く聞こえてきた。声のした方へと目を向けると、そこには冒険に出る前に色々と村の事を頼んでおいたコオルがいた。それも、何故か慌てたように僕のほうへと駆け寄ってきてる。
……っ! もしかして、僕がいない間に何かあった!?
「どうしたの!? なにか……」
「はい! これ返す!!」
目の前まで来たコオルは僕の右手首を掴みあげたかと思うと、指を無理矢理開かせた後、その手に
「オレは返したからな? あと、二度とこんなもん預けんな!」
「えっ!? ……って、
「はぁ……こっちの気も知らずに良く言ったもんだ」
コオルは呆れたように大きなため息を吐いてるけど、
そう思っていたのが、顔にでも出てしまってたのかな? コオルが「わかってないあたりも相変わらずだな」と苦笑いをしながら呟いていた。
そして、「まっ」と言葉に区切りをつけた後、さっきまでの「笑い」とは違ったニカリとした軽快な笑みを浮かべた。
「冒険の結果がどうだったとかは聞かないけどさ、マイスが元気そうで良かった。
「えっ」
「「えっ」じゃねえよ! なんだかんだ言っても『
そう言うとコオルは「ほら、行った行った」とシッシッといった感じに手で払うような仕草をした後、村の『集会場』のあるほうへと駆け足で走っていった。村のみんなに僕が帰ってきたことを伝えに行ったんだろう。
「良かったわね。ずいぶん
「うん、まあそうなんだけど……あっ、そういえばミミちゃん、何か言おうとしてなかった?」
「……出鼻をくじかれたし、またでいいわ。ほら、さっさと移動しましょ? そうじゃないと、あんた夜までにここに戻ってこれないわよ」
そう言ってミミちゃんは村の外へと続く道……その内、『アーランドの街』方面の道を歩き出した。
コオルに言われたのもあるけど、元々街の人たちにも挨拶をしに行くつもりだったので、僕もミミちゃんを追いかけるようにして街へと向かうことにした。
その、街までの道中……
「そういえば、さっき渡されてたカギって何だったの? なんだか、あの男の人の様子が変だったけど……?」
「村ができたころに『モンスター小屋』の近くに建てた『倉庫』のカギだよ。普段使う素材なんかは『作業場』のコンテナに入れてるんだけど、そこに入れられなかった素材とか「出荷し過ぎないように」って手元に残した栽培し過ぎた作物とか、普段触らないような大きな金額のお金とかを保管してある場所なんだけど……」
当然のように、その『倉庫』の中は『錬金術』のアイテムの効果により中のものが腐ったり痛んだりといった劣化が起きない状態に保たれている。そのため、入れた時と同じ状態で保管されている。そんな優れ物だ。
「そんなとこのカギを渡してたの!?」
「うん。僕がいない間、何かあった時にその助けになるかなーって思って」
「つまり、マイスの財産のほとんどを預かったようなものよね……そんなもの持ち歩きたくないし、すぐに本人に返したいに決まってるわよ」
――――――――――――
ミミちゃんと何気ない会話をしながらたどり着いた『アーランドの街』。
街に入った後、顔見知りの人とすれ違って挨拶をしたり馴染みのお店に顔を出したりもしたんだけど、途中立ち寄った『ロロナのアトリエ』は留守だったみたいで、ちむちゃんたちしかいなかった。ロロナは調合のための素材を採りにでもいっていたのだろうか?
そんなことがありながらも、僕は街中を歩き続けていた。
最終目的地は『冒険者ギルド』。ミミちゃんも今回の冒険のことで『冒険者』として報告することがあるらしく、僕について来ていた。
――――――――――――
***冒険者ギルド***
「ここもいつも通りだね」
「そんなにコロコロ変わられても困るでしょ」
ミミちゃんのツッコミに「それはそうだけど……」と返しつつ、僕は入り口付近からカウンターのほうへと目を向けた。
入り口から見て真正面にあるカウンター……そこは『冒険者免許』のあれこれを取り扱う受付なんだけど、そこにはいつもの受付嬢がいた。
間違い無い、クーデリアだ。
そう思って、その受付に真っ直ぐ歩いて行く。
途中、クーデリアも僕に気がついたようで、少しだけ目を見開いた後うっすらと笑みを浮かべ…………たかと思えば、ため息をつくような動作をし、組んでいた腕のうち左手で僕から見て左のほうを指差した。
クーデリアの意図がよくわからず、とりあえず釣られてそっちの方を見てみると……
クーデリアもその二人の事を僕に教えようとしたんだろう。僕はつられるようにして進行方向をそっちへと変える。
「元気そうなのは何よりだけど……お喋りばっかりしてクーデリアに怒られないようにね?」
「大丈夫だよー。そんなことで怒られることなんて……たまにしかないし、そんなに気にしなくても…………」
僕の声に、そう答えた受付嬢……フィリーさんは不意に動きをピタリと止め、後ろを向いていたリオネラさんは声に反応してこっちへ振り向き固まった。
「「ま、マイス君!!」」
「フィリーさん、リオネラさん、ひさしぶり!」
「ひさしぶりー……じゃなくて!? 怪我とか……無いよね、マイス君だもん」
「ひさしぶりだね、マイスくん」
なごんだり、驚いたり、一人で解決したりと忙しそうなフィリーさんに対し、リオネラさんは心なしか声がはずんでいるもののそれ以外はいつも通りの様子だった。
僕はリオネラさんの両脇でフワフワ浮いている二体のネコの人形に対しても声をかける。
「アラーニャとホロホロもひさしぶり。調子はどう?」
「いつも通りってところかしら」
「まっ、これで「マイスくん、大丈夫かな?」って延々と心配する呟きから解放されると思うと、むしろ今から絶好調って感じだな」
ホロホロがそう言うと、リオネラが「ちょ、ホロホロ!?」と焦ったように声をあげた。そんなことを気にした様子も無く、ホロホロは続けて言ってきた。
「ついでに言うと、フィリーもフィリーで面倒だったぜ?
例の
そう言われてすぐには思い出せなかったが、いつからだったか、フィリーちゃんにお願いされて作ってあげた
つまり、昔から
そう思ったのとほぼ同時に、僕は背中がゾクッと寒くなったように感じた。
「だから、その……ね? 今度、いや今からでもモフモフさせて……ね? ねっ!」
「……いや、そう言われても」
フィリーさんが金モコをモフモフするのは昔からなんだけど、激しくなればなるほど精神的にキツくなっていくんだよね。体は疲れて無いはずなのに、気力が根こそぎなくなるというか……。
だから、今回みたいなパターンはマズイ気がするから、できれば断りたいんだけど……断ったところで、後回しになるだけだったりするのが辛いところだ。
「ちょっと」
不意に、僕の後ろの方から声をかけられた。
……とはいっても、僕はさっきまで一緒にいたから……ってあれ? そういえば途中からいなくなった気もするけど……僕が勝手に動いてたとはいえ、一体どこにいってたんだろう?
「「モフモフ」って何よ?」
「それはもう、その言葉通りモフモフーっとすることで……」
その人の問いに答えたフィリーさんだったけど、今日何度目かの硬直……でも今日一番の固まりっぷりで硬直した。
「げぇっ!? み、みみみミミちゃっ! ミミ様!?」
「さっきの言い方だと、まるでマイスをモフモフするかのような……って、毎回毎回ビクビクしないでって言ってるじゃない! いつ治るのよ、それは!」
そういえば、いつだったかフィリーさんはミミちゃんが苦手だという話を聞いたことがある。まあ、今のミミちゃんは気が強い感じがあるし、昔からフィリーさんが苦手意識を持っているタイプに当てはまりそうだから、苦手になってもおかしくないのかもしれない。
「いえ、そのっ! モフモフするのはモコちゃんをであって、べ、別にマイス君をってわけじゃ……!」
「……そうなの?」
そうミミちゃんが問いかけたのは僕……じゃなくて、リオネラさんだった。
リオネラさんは性格的にはフィリーさんに似ている部分があるけど、フィリーさんと違いミミちゃんを怖がったりはしていないようだ。以前に、僕の家で一緒にいた期間があったからかもしれない。
「えっとね、ただ『青の農村』にいるモンスターを
「その中でもフィリーのお気に入りの子がいるってだけのことよ」
「ウソじゃねーぞ?」
そうアラーニャとホロホロが補足するように言うけど…………まあ、確かに
けど、ミミちゃんが言っていたように「僕をモフモフする」っていうのも間違っていないんだけどね。
そう、リオネラさんたちに言われたミミちゃんだったけど、やっぱりどこかふに落ちないようで、難しい顔をしている。
「……でも、それにしてはなんか動揺し過ぎな気もするんだけど?」
「そっそそんなこと、ないよっ?」
「んや。今の返答じゃあ「何かありますよ」って言ってるようなもんじゃねえか」
「シーッ! こらっ、そんなこと言ったらダメじゃない!」
ホロホロとアラーニャが余計なことを呟いているようにも思えるけど……そのせいかどうかはわからないけど、どうやらミミちゃんはフィリーさんを問い詰め続ける気のようだった。
「あははっ……どうしよう、これ?」
「どうしようもこうしようも無いわよ。たっく、予想以上にうるさくしてくれちゃって」
困って一人で笑ってしまっていた僕のすぐ隣に、いつの間にかクーデリアが来ていた。カウンターも越えて来てるんだけど……仕事は大丈夫なんだろうか?
そんな僕の心配をよそに、クーデリアは一番近くにいる僕くらいにしか聞き取れそうにもないような小さな声で言ってきた。
「冒険の結果。大まかなことはあのミミって子から聞いたわ。言いたいことも、聞きたいことも色々あるけど……まぁ、それは今度飲みに行った時にでもゆっくりと聞かせてもらうわ」
そこまで言ったところで……初めてクーデリアは僕の顔を見た。
「なにはともあれ、冒険お疲れ様。あと…………おかえりなさい」