マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 投稿、遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。
 遅くなった理由は色々とありますが、主に、新年度になってからの生活リズムの変化が大きく関わっています。同じ理由で、最近は感想への返信時間にも変化が有ったりするんですが……。


 そして、内容はグダグダだという……がんばらなければ。


4年目:マイス「出発! ……その前に」

 

 

***アランヤ村・埠頭***

 

 

 空も、海も青く澄み渡り、正に出港日和(びより)と言える今日。僕はトトリちゃんに連れられて、『アランヤ村』の港まで来ていた。

 

 トトリちゃんに連れられて……というのはその言葉の通りで、今朝(ついさっき)『青の農村』から『アランヤ村』まで連れてきてもらった。そうした理由は、主に準備と移動時間の点から『トラベルゲート』が便利だったということだ。

 僕が『魔法』の中に似たようなものはあるにはあるんだけど……アレは微妙に調整できるとはいえ、基本は自分の家へとしか移動できないから『トラベルゲート』ほどは使い勝手が良いわけじゃないんだよね……。まあ、その気になれば「言った事の有る所であればどこでも移動できる」っていう『トラベルゲート』が凄すぎるってだけだろうけどね。

 

 

 さて、それはともかく……。

 

 

「グイードさーん!」

 

「ん? ああ、来たか」

 

 埠頭の先のほうで海に浮かんだ大型の船を眺めていたグイードさんに、歩きながら手を振って声をかけてみる。すると、グイードさんはこっちに気付いてくれたようで、こっちに顔を向けた後、軽く手をあげて返事をしてくれた。

 

「『青の農村(ウチのむら)』で色々あって……出港予定日ギリギリまで遅くなってすみません」

 

「いやいや、謝る必要なんてないさ。こっちもこっちで準備があったし……そもそも、その準備がスムーズにいったのは、キミの協力があったからだよ」

 

 

「あはははっ、そう言ってもらえると助かります」

 

 

 そんなふうに話しているうちに、僕と一緒に来たはずなのに()()()遅れて歩いてきていたトトリちゃんが僕の隣まできた。

 トトリちゃんは一つ息をついたかと思うと、グイードさんのほうを見て口を開いた。

 

「お父さん。出発の準備できた?」

 

「大方な。あとは最終確認なんだが……船の持ち主のお前が把握できてないとマズイだろ? 今から一緒にやるぞ」

 

「うん、わかったー」

 

 グイードさんの言葉に頷き応えるトトリちゃん。

 

 それにしても最終確認か……。きっと確認するべきことが沢山あるだろうから、僕も手伝ったほうがいいんじゃないかな?

 

 そう思ったんだけど……そんなことを考えていたのを察したのか、ただの偶然か、トトリちゃんがこっちを向いた。

 

「マイスさんは、ゲラルドさんのお店に行っててください。他の人たちもみんな集まってるはずですから」

 

「えっ? うん。わかったよ」

 

 僕は言われるがまま頷き、グイードさんに一礼してから港を村の中心のほうへと戻っていった。

 

 

 

 

 

「……で、なんで少し元気が無くなってるんだ?」

 

「あっ……わかる? ……って言っても、もう慣れてきたっていうか、あきらめたんだけど……『青の農村(あっち)』でちょっとその、村の人が何人かマイスさんをお見送りしてくれた時に色々あって」

 

「彼をみんなが引き留めたとかか?」

 

「ううん。問題だったのはマイスさんのほうで……開いた口が塞がらなかったっていうか……」

 

「……彼も彼で、あいかわらずってことか」

 

 

 

――――――――――――

 

***バー・ゲラルド***

 

 

 そういえば、僕以外は誰が一緒に行くんだろう?

 

 先日、ロロナに頼んでおいた伝言を聞いたというトトリちゃんがウチに来て、必要な物資の準備の協力をお願いされた後、「一緒に来てくれませんか……?」と冒険のお誘いを受けた。

 もちろん僕はそのお誘いに乗ったんだけど、その後は自分の家や畑のこと、村の運営のこと、ウチの離れに泊まっているリオネラさんのこと等々、いろんなことをなんとかしないといけなかった。そのため、他に誰がくるのかとかそんなことを聞いているヒマが無かった。だから、今回の冒険のメンバーは知らないのだ。

 

 ……まぁ、トトリちゃんの知り合いの誰かのはずだから、僕が全く知らない人ってことはたぶん無いはずだから……うん、きっと問題は無いはずだ。

 

 

 

 そんなことを考えながら、僕は扉を開け『バー・ゲラルド』へと入った。すると、そこには…………

 

 

「おっ、やっと来た! 遅いぞ、マイスー! オレ、待ちくたびれたぜー」

 

 酒場の中心あたりに置かれているテーブルのそばのイスで、僕を見て飛び上がるようにして立ち上がったのは、これからの冒険への期待に胸を(おど)らせて、待ちきれない様子のジーノくん。

 

 

「トトリが「来る」とは言ってたけど、本当に()れたのね。……まあ、だから何ってわけじゃないけど」

 

 ジーノくんと同じテーブルのイスに腰かけていたのはミミちゃん。なんとも言えないことを言ってはいるけど、振り向くような形でこっちを向いているその顔は心なしか微笑んでいるようにも見える……気が一瞬だけした。

 

 

「今回はよろしくねー。……そういえば、手合せとかはしたけど、一緒に冒険に行くのは何気(なにげ)に初めてね」

 

 カウンターのそばにいて、こっちに向きなおってニカリと笑いながら手を振ってきたのはメルヴィア。カウンターそばにいた理由は、おそらくカウンターの向こうにいるトトリちゃんのお姉さん・ツェツィさんと話をしていたからだろう。

 

 

「いやぁ~、キミが一緒に来てくれるとは。こと戦闘に関しては心強い限りだから大歓迎だよ! うん、あのお嬢さんの人選は間違い無いね」

 

 ジーノくんやミミちゃんがいるテーブルのそばに立って、長めのモジャっとした髪を揺らしながら一人で(うなず)いているのは、「異能の天才科学者、マーク・マクブライン」ことマークさん。

 

 

 

 僕は他に誰かいないかもう一度だけ確認してみたけど……他に冒険者らしき人はいそうになかった。

 どうやら、この四人と僕が、今回のトトリちゃんのお(とも)というわけなようだ。とりあえず、ある程度は知っている人たちだったから一安心だ。

 

 ジーノくんは、一緒に冒険に行った回数は少ないものの、『青の農村(うち)』のお祭りに来てくれたりと、直接ではないものの度々会っている。

 

 ミミちゃんとは、色々あってつい最近まで会うことも話すことも無かったけど、先日のあの出来事以降は昔みたいに……ってほどじゃないけど、仲良くさせてもらってる。

 

 メルヴィアは、さっき本人が言った通り、今まであまり直接的な付き合いは無い。けど、この前僕が『アランヤ村(ここ)』に来た時なんかには沢山話したりしたし、別に嫌ったり嫌われてたりするわけじゃなくただ単に「機会が無い」って感じかな? ……でも、思い返してみると一度も『青の農村(うち)』に来てくれたことは無いかも……何か理由があったりするのかな?

 

 マークさんは……機械の部品を作るのを依頼されたり「農業用ロボット」なんてものを見せに来たりと、付き合い自体はそこそこ長いんだけど、特別仲が良かったりはしない。僕としては仲良くしたいんだけど……なんていうか、マークさんのほうが一歩引いているというか……こっちも、何か理由があるのかな?

 

 まぁとにかく、よほどのことが無い限り、気まずい空気になったりはしないだろう。

 ……とは言っても、他の人たち同士の仲の良さは知らないから、不安要素が無いとは言えないけど。

 

 

 

「それにしても……なんだか普段の冒険よりも人数が多い気がするけど、やっぱり冒険の難しさを考えてってことなのかな?」

 

 そう、普段は大体三人程度での冒険が基本だったはずだ。いちおうこれまでにも例外的に多い人数で冒険したことはあるけど……

 

 僕の疑問に答えたのはマークさんだった。

 

「そういった理由もあるだろうね。あとは、人数が少ないと戦闘中に船の安定とか進路をとったりできなくなって、色々面倒なことになりそうだからじゃないかな?」

 

 そう言われて「なるほど」と頷きかける……が、その前にマークさんが言葉を続けた。

 

「まっ、とは言っても、僕は飛び入り参加なんだけどね」

 

「えっ、そうなんですか!?」

 

 驚いた僕は、他の人たち……ジーノくんやミミちゃん、メルヴィアのほうを見た。

 

「え、そうだったのか?」

 

「そうだったのよ。トトリも驚いてたし、人数が増えて積荷の量を増やさないといけなくなって、準備の時間と手間が余計にかかったり……」

 

「まっ、積荷に関しては、()()()()()()()()が元々余分に用意してくれてたらしいから、買い足したりしなくても大丈夫だったんだけどね?」

 

 「どこかの誰かさん」って……あっ、僕のことか。

 余ったのはトトリちゃんが『調合』の素材にでも使ってくれればいいや、ってオマケってことで多めに用意してあげてたんだけど……まさか、そんなふうに役に立つとは思いもしなかったなぁ……。

 

 

「けど、なんでマークさんはいきなり参加しようって思ったんですか?」

 

「お嬢さんの手伝いをしたいっていうのが半分。あとは、自分のため……好奇心からかな? ほら、海の向こうってほとんど未踏の地じゃないか。もしかするとまだ手付かずの遺跡があって、そこに機械やら僕の研究意欲をくすぐるものもあるかもしれない! ……そう思ったってわけだよ」

 

 聞いてみれば、なるほど、確かにその通りかもしれない。それに、実にマークさんらしいというか……。

 

 

 と、不意(ふい)にマークさんが首をかしげ、眉をひそめた。

 

「というか、僕からすればキミが本当に来たことに驚きだよ。仮にもあの村の村長なんだし、農業なんてやってるから厳しいんじゃないかなって思ってたんだけど?」

 

 そんなマークさんの言葉に同意を示したのはメルヴィアだった。メルヴィアは「あー、たしかに」と頷いた後、僕に問いかけてきた。

 

「食べ物の出荷数も減りそうだし、毎月お祭りもやってるらしいじゃない? そういうのは大丈夫なの? 今回は普通の冒険よりも長くなると思うんだけど……?」

 

「大丈夫ですよ! もしものことも考えて、コオル……村の人に家の保管庫の鍵を預けてますから作物関係は心配いりません。お祭りとか、それ以外のことも前々(まえまえ)から準備だけはしてましたから!」

 

「前々から?」

 

「トトリちゃんからお誘いを受ける前からです。……実のところ、誘われなくても追いかけてでも付いて行くつもりだったので」

 

 僕がそう言うと、ジーノくんが「マイスも飛び入り参加する気だったんじゃん」と笑い、ミミちゃんが「なんだかんだ言って、ギゼラさんのことが心配なのね」とギリギリ聞き取れるくらいの小声で呟いていた。

 

 

 ……と、まぁ周りのみんなは大抵、僕の言ったことにそんな反応を示したんだけど……その中で一人、マークさんだけが眉をひそめ首をかしげて、僕の顔をジィーっと見つめていた。

 

「……? どうかしましたか?」

 

「どうかしたというかだね。ちょっと嫌な予感がするから、聞きたく無いような気もするけど…………。「追いかけてでも付いて行く」って、キミは自分の船でも持っているのかい?」

 

 マークさんが口にした疑問を聞いた僕は、素直に首を振る。船なんて、大きいのも小さいのも、持っているどころか記憶にある限りでは一度も乗ったことは無い。

 ……だからと言って、もしもトトリちゃんが出港していたとしても追いかける(すべ)が無いってわけでもない。

 

「船は持ってませんけど、似た用途(ようと)の一人乗りの『ハスライダー』っていう葉っぱがありますから、追いかけることはできますよ。あと、その気になれば海面を走れますから」

 

「「「「「「「「……はっ?」」」」」」」」

 

 間の抜けた声を出したのは、マークさんとジーノくん、それとメルヴィア。あと、話を聞いていたのだろう、カウンターの向こうにいるツェツィさんとゲラルドさん……ついでに、名前も知らないお客さん三人。……でも、一体どうしたというんだろうか?

 少し気になりはしたけど、話を途中でやめるのもどうかと思ったので、そのまま話を続けることにした。

 

「ただ、大型の船とは違って波に弱いことと、()といった動力は当然無いから移動自体は自力で自分の体力との勝負だから、一日で移動できる距離が短いっていう欠点があるんです。だから、それだけで旅するっていうのは無理があるので……本当に追いかけるくらいしか出来ないんですけどね」

 

 そう言って自嘲気味に笑ってみせる。…………が。

 

「いやいやいや!? 何言ってるのよ、マイス。冗談言うならもう少しちゃんと考えたのを言ったら……?」

 

 首と手を振って何故か否定してきたのはメルヴィアだった。 

 僕としては冗談なんて一言も言ってないんだけど……どうやらメルヴィア以外の人も大体同じ意見らしく、頷いている人もちらほらいた。

 

 

 

 ……でも、本当に本当なんだけどなぁ。

 どう言ったらいいものかと頭を悩ませてみる……けど、その答えが出るよりも先にミミちゃんの声が聞こえてきた。

 

「……気持ちはわかりますけど、マイスが言っている内容は事実ですよ、メルヴィアさん。私、前に『青の農村』で実際に見たことがあります」

 

「えっ、ウソ!? ホントだったの!?」

 

「んじゃあ、本当に海の上を走れるのかっ!? すっげー!」

 

 ……いや、冗談じゃないってことはわかってくれたみたいだったけど、何でメルヴィアもジーノくんも、僕が言った時には信じてくれなかったのかな……?

 

「そういう、感覚がズレてて常識が通じないところがあるから、好きになれないんだよねぇ……」

 

 他の声に埋もれた小声の呟きだったけど、マークさんの声がかろうじて僕の耳にはいってきていた。

 『アーランド(こっち)』で暮らすようになってから結構経って、自分では馴染んだつもりだったんだけど、まだどこか変なところがあったのかな? ……ああ。なんだか自覚ができていないだけに、かなり悲しくなってきた……。

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、お待たせしましたっ! 今から出発しようと思う、ん……です、けど…………ミミちゃん。何があったの、この空気?」

 

「ん、いやね。マイスがちょっとトンデモないこと言っただけよ」

 

 

 

「なんだ。いつものことか」

 

 





Q,パーティーの上限人数は三人では?

A,大人(?)の事情です。

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