マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 原作にいない人物がいるのだから、原作改変は当然のようにおきます。ご了承ください。






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、細かい描写の追加、特殊タグ追加、句読点、行間……


リオネラ「街はずれのお家の」

昼下がりの街。大通りからは外れた路地に少女はいた。

 

 

 

―――――――――

 

***中央通り・脇道***

 

 

 

 

「うぅ……、どう、しよう……」

 

 

 私の泣き言に、そばにいる黒猫と虎猫のふたりの人形が言葉を返してくる。

 

「どうしようも何も、探すしかないだろ」

 

「そうだけど、広場から歩いて行ったところ全部見て回ったけど 何処にもなかったじゃない。それに昨日の朝から何も食べれてないからリオネラが少しフラフラしてきちゃってるわよ、何とかしないと」

 

「とは言ってもよ、宿で休んだりメシ食ったりもできねぇじゃんか。……堂々巡りだな、こりゃ」

 

 そう私は今、空腹で、その上 宿から追い出されている。

 理由は昨日サイフを落としてしまったから。

 

 私は大道芸人をしているのだけど、昨日広場で人形劇を披露していた時、大勢の観客とその歓声に驚いてしまい おひねりも貰い忘れて逃げ出してしまった。

 それに、どのタイミングでかはわからないけどサイフを落としてしまって無一文になって……。

 

 

「ごめんね……ホロホロ、アラーニャ、私のせいで」

 

「リオネラの失敗に振り回されんのは初めてじゃねぇからな、そんなに気にすんなよ」

 

「その言い方はどうかと思うけど……とにかく今は現状の打開を――」

 

 人形劇で一からお金を集める……というのはとても無理。万全の状態じゃない今では間違いなく劇中に失敗をしてしまう。

 

 

 とにかく、ここでじっとしていても何も始まらない。そう思って歩きだしたのだけど――

 

「きゃっ!」

 

「あっ!?」 

 

 ――曲がり角で誰かとぶつかってしまって尻餅をついてしまった。

 

 

「ごっごめんなさ あっ……!」

 

 突然のことに驚きながら、反射的に謝りながら立ち上がろうとしたけど空腹からか思うように力が入らず、後ろ向きに倒れかかった。

 すると、倒れそうになっている私の手を誰かが掴み、引き止めてくれた。

 

「大丈夫ですか?」

 

 その人は私よりも少し背の低い金髪の少年だった。

 

 見たことの無い様式の服装が印象的なその子は、私の手を掴んでいた手とは逆の手……その手にはカゴを持っていたけどそれを地面に置いて、私のもう一方の手を持った。

 最初はなんなのかと思ってけど、その子の「立てますか?」という問いかけで、この子は私が立ち上がるのを手伝おうとしているのだとわかった。

 

 

「あっ……ありがとう」

 

「いえ。……ぶつかってごめんなさい。ちょっとボケッとしちゃってて」

 

「そ、それはっ私もだから」

 

 頭を下げて謝ってくる少年に私は困ってしまう。

 どうしよう……!? ぶつかったのは私も悪いのだからお互いさまなのだけど、そう伝えようにも上手く言葉が出ないよ……っ。

 

 人と面と向かって話すのは極珍しく、その緊張などといったプレッシャーがより口の動きを鈍らせる。

 

 こんなときはホロホロかアラーニャに助け船を出してほしいのだけど……

 

 

ぐゅうぅぅ~……

 

 

 助け船でも何でもない腹の虫の鳴き声が響いた……もちろん恥ずかしいことに私のお腹から。

 

「もしかして……?」

 

「え……あっ、うぅー……」

 

 恥ずかしさで先程以上に言葉が詰まってしまう。

 そして、見なくてもわかる。顔はとんでもなく赤くなっていて 湯気も出ているかもしれない。

 

 

「そうだ!よかったら来てください!!」

 

「ええっ!?」

 

 そう言ってその子は私の手を取り走り出した。

 「よかったら」と言ったはずなのに握る手は緩みそうもなくって、こけないように頑張ってついていくしかなかった。

 

 

 そして、その子と私(その二人)を追う影がふたり

 人前では喋らないようにしているふたり、浮いて喋るネコの人形ホロホロとアラーニャ。

 

「急がねぇとマズイだろ! オレたちはともかくとしても、リオネラがさすがにまだ駄目だろ」

 

「当然でしょ! ……それにしても、あの男の子、いきなりどうしたのかしら

 

 ふたりが、手を引っ張られている私の1mほど後ろをフワフワとついてきてるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

***マイスの家***

 

 

 

「…………」

 

「で、どうしてこうなったんだ?」

 

「さあ?」

 

 ソファーに座る私、そしてその両脇には黒猫・虎猫の人形ホロホロとアラーニャ。

 

 男の子に手を引かれるままについていったところ たどり着いたのは街の外の街道から少し外れたところにあった一軒の家だった。

 その家の中に招き入れられ「座って待っててね」と真新しいソファーを勧められ、現在に至る。

 

 そして、ことの原因である男の子はといえば、大きな部屋を仕切るようにある階段の向こう側に行ってしまって何をしているのかはわからない。

 

 

「それと……ちょっと小せぇけどアレって『()()()()』だよな?」

 

 この家で驚いたことはいくつかあるけど、一番驚いたのはホロホロも言ってる小さい『ウォルフ』。階段脇に置かれた毛布の塊の上で、まるくなって寝ている。

 『ウォルフ』は色々なところで見かけられる狼モンスターだけど、なぜか家の中でスヤスヤ寝てる。

 

「大丈夫よ、リオネラ。あれはヌイグルミだから……たぶん」

 

クゥ……クゥ……

 

「寝息が……」

 

「聞こえるよなぁ」

 

 それに、この部屋に入る時私たちを一度見てきたのをしっかりと覚えている。

 あれは本物。……でもなんで?

 

 

「お待たせしましたー!」

 

 そうこう考えているうちに あの男の子が戻ってきた。

 その手には何かが乗った大きめのお皿が2つ、それらをソファーの前に置かれたテーブルに置いた。

 片方には『サンドウィッチ』が、もう片方には見たことの無い()()()()()()()()()()()()()が積まれていた。

 

 男の子は新しいお皿とおしぼりを持ってきて、テーブルの私の目の前の部分に置いていった。

 

「どうぞ召し上がれ!飲み物もすぐに出しますから」

 

 と言って、また階段の向こう側へと行った。

 

 

「……ええっと、つまりあの子はリオネラにゴハンを食べさせてあげようと思ってココまで連れてきたってことかしら?」

 

「そうなんじゃねぇか? よくわかんねぇけどよ」

 

「えっと……どどどうしたら……!?」

 

「とりあえず、おしぼりで手を拭いてから……無難にいくなら『サンドウィッチ』、冒険するなら()()()()()()を食えばいいだろうな」

 

「んー、私もせっかくだし食べることをお勧めするわ。あの子が何か悪い事考えてるようにも見えなかったし」

 

 そう言われてもまだ迷ったけど、お腹が正直に声をあげてしまい我慢できなくて、食べることにした。

 もちろん、『サンドウィッチ』の方を。

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

「へぇ、この白いのは『ちゅうかまん』っていうのか」

 

「どう? リオネラ」

 

「柔らかくて……中があったかい」

 

「ここには無い料理だったんだ……。とりあえず、気に入ってもらえたみたいで嬉しいです!」

 

 大道芸人として旅をしているけれど、初めて聞く食べ物に驚きつつもその未知の味を堪能した。

 

 

「それにしても、アナタには驚かされてばかりね。そのウォルフは保護してるだなんて」

 

「だよなぁ、こんなとこに住んでるってだけで驚きなのにな」

 

 そう、部屋にいる小さな『ウォルフ』は保護しているのだという。

 なんでも、大怪我をしているところを見つけてしまい 子供のようだけど親が見当たらず、あやめるのも見捨てるのも気が引けたため 怪我が治るまで保護しているそうだ。

 確かによく見てみれば前脚などに包帯が巻かれている。

 

 

「あの……」

 

「はい! どうしましたか?」

 

「襲われたり、しないの……?」

 

「人と同じでモンスターにもいろんな子がいるんです。この子みたいに人とわざわざ争いたくない子とかも……とは言っても、そういう子は人が通る道とかには出てこないから、まず出会わないみたいだけどね」

 

 そう言う男の子は、少し悲しそうに微笑んだ。

 私はなんでそんな顔をするのかわからなかったけど、その理由を聞くことはできなかった。

 

「……アナタって、優しいわね」

 

 アラーニャは何か察したかのように言い、ホロホロも「すぎるぐらいだろ」と呟いていた。

 なんだろう、ふたりの言葉に同意できるんだけど……でも、「どうして」という疑問が湧き上がってくるばかりで少しモヤモヤした……。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、オレたちは街に戻るぜ」

 

 食べ終わりひと息ついた私たちは、玄関先で男の子に見送られる

 

 

「あ、ぁりがとう……」

 

「どういたしまして! よかったらこれも持っていってください」

 

 そう言って手渡してきたのは小型のカゴ、その中にはいくつかのパンが入っていた。そのパンからはわずかながら甘い匂いが漂ってきていた。

 

「いいのかしら? もらっちゃって」

 

 アラーニャの問いかけに対し頷く男の子。

 

「はい、こんなところまで連れて来ちゃった迷惑料みたいなものですから」

 

「リオネラにメシ食わせてくれただけで十分な気もするけどなぁ……」

 

 

 そんな中、私は最初のほうから気になっていたことを尋ねた。

 

「あの……どうしてこんなに親切にしてくれるの?」

 

「えっ?」

 

 なぜか男の子は予想外そうに驚き、そしてなんだか申し訳なさそうに視線をそらした。

 

「実は、この庭先の畑で育ててる作物がうまくできて嬉しくて……、ぜひ誰かに食べてもらいたいなって思ってたら」

 

「そこで偶然にも腹を空かせたリオネラに会っちまったってことか。なんつうか、思いつきで動いてるんだな、オマエは」

 

「あはははは……」

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 街道を歩いている最中……。

 あともう少しで街に帰り着くそんな時、ふとアラーニャが呟いてきた。

 

「変わった子だったわね。変にまっすぐで、私たちにも驚かないで、モンスターにも優しくて…」

 

「……良い子、だと思うよ?」

 

 数時間のつきあいだけど、あの子からは裏表が感じられなかった。気が付かないうちに警戒や緊張が解けてしまうほどに……。

 

 

「そういや貰ったパンだけどよ。ぜってえオレたちも入れた人数分だぜ、これ」

 

 確かに、改めて見るとパンの量は私の一食分以上にある。おそらくそれなりに日持ちはするのだろうが、アラーニャとホロホロはゴハンを食べられないし どうしよう……。

 

「あら? カゴの端っこに何か入ってるわよ?」

 

「ほんとだ……」

 

 言われて 折りたたまれた紙が入っていることに気づき、取り出してみると――

 

 

チャリン

 

 

 折りたたまれた紙の中から わずかにだか金属同士がぶつかり合った音がした。

 

「これって、もしかして……お金?」

 

「もしかしてじゃないな。わざわざ紙を折りたたんでお金を入れたのを間違えて入れたりするバカはいねぇから、わざとだろうな」

 

「か、返さないとっ!」

 

 私は振り返って、走り出そうとするけれどホロホロに呼び止められる。

 

「オイオイ。今からもう一回あそこに言ってたら日が暮れちまって 逆にアイツに迷惑かけちまうぜ」

 

「そうね、とりあえず今は素直に受け取っておいて、また後で返しにいけばいいわ。お金が無くて困ってたのは事実だからね」

 

 

 少し考えたけど、やっぱりホロホロとアラーニャの言うとおり今は受け取っておいて、後日人形劇で稼いだお金で返すべきなのだろうと思い直し 再び街に向けて歩き出した。

 

 あの家ではなくても 街にもよく来ているようだったので返せる機会はいくらでもあるだろう。

 

 

 そう思ったけど、ここであることを思い出した。

 

「名前……」

 

「そういえば聞いてなかったわね」

 

「まあ、また会うんだし、そん時に聞けばいいだろ」

 

 

 

 外と街を区切る大きな門をくぐり街へと入り、宿に戻り、男の子からのお金をありがたく使わせてもらった。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 次の日、街の中でピンク色の服を着た女の子に声をかけられた

 その女の子は私のサイフを拾いそれを届けに来てくれた。

 

 錬金術士のロロナちゃん、その子を通じてまた男の子と会うこととなるのだけど、それは少し後のお話……




 甘い匂いのするパンは ジャムパン。何ジャムなのか……

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