長いお休みをいただいてしまい、大変申し訳ありませんでした!
段々とではありますが、書く時間が作れて筆ものってきています
……でも、全体的に見て予定よりも話の進みが遅いのが現状だったりします
***冒険者ギルド***
「はぁー……」
「……なにここに来て早々、ため息なんか吐いてるのよ」
僕にそう言ったのはクーデリア。少し不機嫌そうな気もするけど、それ以上に「呆れ」が顔に出ているように思える
「そのー……、こっちのカウンターに来る前に依頼のカウンターに行ってたんだけどさ……」
「ギルドに入ってからソッチに行くのはあんたのいつもの流れだから、あたしも知ってるけど、それが…………ああ、なんとなくだけど察したわ」
そう言うクーデリアは、軽いため息を吐いて苦笑いをした
……たぶん、最近の
「……フィリーさんが目を合わせてくれないんです」
「でしょうね。あんたが来た時と出て行った後のあの子の反応があからさまだもの」
「え……やっぱり、フィリーさんに嫌われちゃったのかな……あいてっ!?」
『アーランド』で暮らすようになってから、そう短くない付き合いの友達であるフィリーさんに嫌われたことに肩を落とす……すると、そんな僕の頭に何かが当たった
反射的に、下がっていた視線を上げると、そこにはカウンターからコッチへ半分くらい身を乗り出すような体勢でいるクーデリアが。その右手はピッチリと開かれていて、まるでチョップをくり出すかのような……
「……って、なんでチョップしたの!?」
「なんとなくよ!……どうせ、マイスに言ってもわかんないだろうし」
「ええ……?」
カウンター向こうへと戻り体勢を元通りにしたクーデリアは、両手を打ち合わせるような、こすり合わせるような動作をした後、その手をそれぞれ左右の腰のあたりにあてて、僕をジトーッっと睨みつけてきた
「ともかく。あたしとしては、あんたが出て行った後に一人でもだえて騒がしいあの子を何とかしてほしいところだけど……そもそも、どうして今みたいな状況になってるのよ」
クーデリアにそう言われて、僕は少しだけ考える
…………うん。やっぱり、原因はあの時の事しか無いと思うんだけど……
「前にイクセルさんのお店に立ち寄った時に、たまたまティファナさんが酔払ってて……」
「……あたしは直接見たことは無いけど、凄い酔い方するらしいわね。……で、それで?」
「その時、酔払ったティファナさんにフィリーさんとトトリちゃんが絡まれてて……」
そこまで言って、僕は言葉に詰まってしまった
理由は、フィリーさんとは別の問題の事を思い出してしまったから。……とても泣きたい気持ちだ……
「……?どうしたのよ?それでどうなったの?」
「あっ、うん。ええっと、それで僕がティファナさんを眠らせてとりあえず騒ぎ自体は解決したんだけど……その時、絡まれてた二人の服が少し
「で、こうなった、と。正直、色々と飛び抜けてそうだけど……まあ、それはあの子の妄想が変に働いたのかしらね」
相変わらずの呆れ顔だけど、一応は納得したみたいでクーデリアは小さく頷いた
……けど、まだクーデリアの疑問は尽きていなかったようだった
「それで?何でさっきより落ち込んでるのよ」
「それは、そのー……実は、フィリーさん以上にトトリちゃんから避けられてて……」
「あー……、まあトトリももう16くらいだし、そういうこと気にする年頃なんじゃないかしら?……でも、フィリー以上ってのは少し気になるわね。具体的にはどんな感じなの?」
「お店なんかでバッタリ会った時には「失礼しましたー!」って深々と頭下げたままどっかに走っていって、アトリエにおじゃました時は玄関とは別にある裏口から出ていって……」
そう。トトリちゃんとは、最近は会話どころかまともに顔も見れていない。本当に泣けてくるくらいな状況なのだ
僕の言葉を聞いたクーデリアもさすがに想像以上だったみたいで、意識してかどうかはわからないけど小声で「うわー…」ともらしていた
「難しいお年頃とは言っても、ものすごい避けられ方ね。……ロロナからは何か言われたりしなかったの?」
「それが、トトリちゃんがアトリエの裏口から出ていったのがわかったのは、ロロナが「トトリちゃん!?待って~!」って裏口から出ていったからで……。ロロナもトトリちゃんに掛かりっきりみたいで、話せてないんだ」
「……本当に『サンライズ食堂』であった事だけなの?」
「他に何かやらかしたんじゃないの?」と疑惑の目を向けてくるクーデリア。でも、僕は首を振ることしかできない
……もしかしたら、自分でも知らないうちに何かトトリちゃんを困らせるようなことをしちゃったかもしれないけど…………うーん、やっぱり見当がつかない
「まぁ、あたしのほうから聞いてみたりはしてみるわ」
「うん、お願い……」
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マイスが去っていった後の『冒険者ギルド』にて……
「にしても、あのトトリがそんなにマイスを避けてるなんて……」
クーデリアが一人で首をかしげていた
「最近『
そう考えていたクーデリアだったが、ふいにその表情と小さい身体をガチリッと固めた
「あ゛っ……。もしかして、あの時言ったギゼラとマイスの貸し借りのことで……?」
しかし、その考えを振り払うかのように、クーデリアは首をブンブン横に振った
「いやいや!トトリの性格なら、逃げたりしないで真っ先にマイスに謝りに行くなり、「わたしが代わりに払います!」とか言うだろうし……それに、マイス自身、取り立てたりはしないだろうし………」
しかし、クーデリアの独り言の口調は段々と勢いが無くなっていく
「……うん、今度あの子に会った時に、一応その辺りのことも聞いておこう」
クーデリアは失念していた。ギゼラがいろんなところで迷惑をかける人間だという事を……
クーデリアは知らなかった。ギゼラによる『バー・ゲラルド』でのタダメシの一件で、トトリが金銭問題に過敏になっていたことを……
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***職人通り***
「うーん……」
クーデリアにはああお願いはしたものの、やっぱりいち早く原因を知って、悪い事しちゃったのならちゃんと謝りたい
……となると、自分で調べるのが一番だと思うんだけど……でも、これまでの感じからすると直接聞きに行っても逃げられるだけだろう
でも、他の人からの情報収集も、クーデリアが何にも知らない様子からするとあんまり意味が無いかもしれない
「……やっぱり、
辺りをキョロキョロと見渡し、周りに人がいないことを確認して路地裏に入る。裏路地でまた周りに人がいないことを確認して、そこにあった積まれた『タル』の陰に隠れる
そして、『変身ベルト』へと意識を向けて……
「とうっ!」
クルリッと回転しながら決めポーズをする!
「モコッ!」
そうすることで僕は「金のモコモコ」の姿へと変身するのだった
『シアレンス』にいた頃、冒険中に金モコの姿に変身したまま町に帰ってしまった時に偶然気がついたことだけど、金モコ=僕ということが知られていないので、普段僕が見ていた街の人とは別の一面が金モコの時は見ることが出来たりするのだ
それはこの『アーランド』でも同じ……なんだけど、『シアレンス』よりもかなり人々のモンスターへの警戒心が強いため退治されてしまうんじゃないかとヒヤヒヤしたりもした。そのため、街中で金モコの姿でいるようになったりしたのは『青の農村』ができてモンスターへの理解がある程度得られるようになった、ごく最近のことだったりする
何はともあれ、金モコが僕であると知っているのは今現在はごく一部、数にして5人くらいだ
そして、その人数の中にはアトリエにいるロロナとトトリちゃんは入っていない。だから、
……とは言っても、普通に喋ってしまうと十中八九バレてしまうから「モコモコ~」としか言えないわけで……。そのため、原因を聞き出せるかはほとんど運任せになる
「まぁ、もしも聞き出せなかったり二人がいなかったりした時は、ちむちゃんたちに何か知らないか聞いてみればいいかな?」
そういえば、ちむちゃんたちには「金モコ=僕」であることは他の人には言わないように口止めは一応したけど……大丈夫だよね?
一抹の不安を感じながら、僕はアトリエへと向かった……
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***ロロナのアトリエ***
アトリエの玄関でノックをしたところ「ちむむ~」としか返事が無かったから、なんとなくそんな気はしてたけど……どうやら、ロロナとトトリちゃんはちょうど出かけているようだった
「今日はお土産の『パイ』は無いのー?」とワラワラ集まってきたちむちゃん、ちむおとこくん、ちみゅちゃん。そして「あー、このひと(?)がこの前言ってた?」と4人目のちむちゃんが遅れて近づいてきた。なんでもその子の名前は「ちむぐれーとくん」らしい。他の三人が教えてくれた
ちむぐれーとくんとの自己紹介と挨拶を終えた僕は、本題である「最近、ロロナとトトリちゃんが僕のこと何か言ってなかった?」と聞こうとしたんだけど…………その前に、アトリエの玄関のほうからノックの音が聞こえてきた
一瞬だけ「ロロナかトトリちゃんが帰ってきたかな?」と思ったんだけど、アトリエの住人である二人がノックするはずがないと気付いた
「じゃあ誰だろう?」……そう思ったのとほぼ同じくして、ちみゅちゃんが「ちむー!」と返事をして、玄関の扉が開いて誰かが入ってきた
「お邪魔するわ……なんとなくそんな気はしたけど、トトリはいないのね……って、あら?」
「も、モコ……!?(み、ミミちゃん……!?)」
そう、そこにいたのはミミちゃん……って、あれ?なんだか少し似たようなことがあったような……?
確かあの時は、僕(金モコ)がロロナに無理矢理連れて来られて……
「アナタ、確か前にトトリの先生の『パイ』を食べにきてた子だったわよね……?」
僕が考えている事と同じような事を考えていたんだろうミミちゃんが、僕にそう問いかけてきた。表現的に微妙なところではあるけど、ミミちゃんが思い出していること自体は間違いでは無いので、僕は素直に頷いた
「モコッ」
「ふぅん、やっぱり。でも、今日はそんな様子じゃなさそうだけど……その子たちと遊びに来たの?」
そう言ってミミちゃんが目を向けるのは、僕からそう遠くない位置にいるちむちゃんたち。ミミちゃんの、この指摘も「中らずと雖も遠からず」といったところなので、頷いてみせた
「モコッ」
「へぇ、それじゃあ
……実は金モコの姿ではまだ3回目くらいです、と訂正するわけにもいかないから、特に反応を示さずにスルーする。喋るわけにもいかないし……でも、ずっと長い間避けられている感じがあるミミちゃんとコミュニケーションは取ってみたい気持ちは少なからずあるんだけど……
僕がそんなことを考えていると、ミミちゃんもミミちゃんで何か一人で考えているようで、小さな声で独り言らしきものを呟いていた
「モンスターって普通に街に入れるのね……門番はスルーなのかしら? この子だから?それとも『青の農村』の子たちはみんな? ……でもまあ、
「モココ?(あの人?)」
僕がつい何気なく反応してしまうと、少し驚いたようにミミちゃんが僕のほうを見てきた
「もしかして口に出てたかしら?まあ、そこまで困ることじゃないからいいけど。……話には聞いてたけど、やっぱりちゃんと人の言葉を理解してるのね。コッチはさっぱりだけど」
ミミちゃんは僕のほうへと近寄って来て、少しでも僕に目線を合わせるかのようにしゃがみこんできた。それでも、僕のほうが少し目線が低いけど……
そして、ミミちゃんは右手を僕の首元へと伸ばしてきた
「アナタも着けてもらってるじゃない、この『青い布』。これって「自分からは人に危害を加えない優しい子」しかマイスさんから貰えないんでしょ?……あの人から認められた子なら、問題無いでしょうね」
「モコー、モコモコ(あははは……、コレが大元だからちょっと違うような)」
金モコの姿の時の僕を見かけたジオさんが、金モコが首に巻いていた青いバンダナを見て発想したのが『青の農村』の由来にもなる『青い布』だから、僕が巻いているのは特別そんな意味合いは無かったりするけど…………でも、当然だけど僕は人を襲ったりする気は無い
……というか、ミミちゃんの言う「あの人」って僕のことだったんだ
「アナタたちがどう思ってるか、ちゃんと理解できているかはわからないけど、マイスさんは凄い人なのよ? 真面目で、誠実で、優しくて……村ができるより前から街の人たちのために頑張ってて、みんなからの信頼も厚いわ。だから『青い布』をつけたモンスターを怖がらないの」
「フフン!」と僕の知っている昔のミミちゃんのようにかわいらしく、何故だか自慢げに話し出した。
「他にも色々あって、街で新鮮な野菜が食べられるのはもちろん、根本的に食材の質が高いことやアーランドの食料自給率が100%以上なことも、あの人の功績と言えるわ。機械での生産業が国の主な産業だったアーランドで農業をこんなにも発展させたのは、本当に凄いことよ」
ミミちゃんの話は止まらず……
「それに娯楽に関しても、『王国祭』が無くなって少し活気が無くなっていたところに、村でお祭りをすることを決めたりして積極的で、年に何度も様々な趣旨のお祭りを開催することで、みんなを飽きさせないようにしてみせたの。しかも、お祭りの中には物流・交易を促進するような内容もあって、経済的な効果が高いわ!……それに、最近では人材育成のことを考えているようなお祭りも開催したりしてるみたいで、先を見据えた村の運営も考えるくらい頭もいいの!」
なんだか段々とヒートアップしているような気もしなくもないような……?
「……モッコ、モコモコ(……というか、なんだかむずがゆい)」
陰口を言われてるわけじゃないから悪い気はしないんだけど……知っていること以外に、身に覚えのないことまで言われてしまってるから、なんだか喜んでいいのか分からないし……
……ん?この様子だとミミちゃんは僕の事を嫌ってる感じではないよね?
なら、ミミちゃんにずっと避けられているのは何でなんだろう?
――――――――――――
「そうね、あとはマイスさんの作る料理なんだけど……」
「モ、モコー……(な、長過ぎる……)」
ミミちゃんが僕について有る事無い事語り始めてから、どれくらいの時間が経っただろう? いつの間にか、窓からアトリエ内に差し込んできている陽の光は赤くなっていた
最初のうちは僕と一緒に語りに付き合っていたちむちゃんも、おのおの作業に戻っている。飽きたからなのか、作業に戻らないと予定がおくれてしまうからなのかはわからない
と、ようやくミミちゃんも結構な時間が経ったことに気がついたみたいで、窓のほうを見て少し意外そうな顔をした
「あら?もうこんな時間? 結局、トトリは帰ってこなかったわね。玄関の鍵が開いているから街の何処かに出かけただけだと思ってたんだけど」
「モコ、モコモーコ(僕もそう思ってたんだけど)」
「留守なのに鍵かけてないのは不用心過ぎじゃない?それとも、あのちっちゃい子たちがいれば大丈夫なのかしら? ……というか、私を置いて冒険に出てるの?もうっ、トトリったら」
そう言って、ちむちゃんたちを見た後に少しだけ頬を膨らませるミミちゃん
前にトトリちゃんからミミちゃんのことは話だけは聞いたことはあったんだけど、その時の話だと少し大人びている印象があったけど、こうしてみると子供っぽさが随分と残っている気がする
「これ以上待っても今日はもう帰ってきそうにないから、そろそろおいとましようかしら。……アナタはどうする?」
「モコッ(僕ももう帰ろう)」
頷いてみせると、意思は通じたようで「そう、なら一緒に出ましょうか」とミミちゃんは言った
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***職人通り***
帰る事をちむちゃんたちに伝えると、わざわざアトリエの玄関先まで皆でお見送りに来てくれた
「お邪魔したわ」
「モコ~」
「ちむー」
「ちむむ~」
「ちむっ」
「ちーむー」
僕とミミちゃんの言葉に、ちむちゃんたちはそれぞれ返事をする
それを確認したミミちゃんは、今度は隣にいる僕に目を向けて問いかけてくる
「アナタは一人で帰れるの? それとも、私が送って行ったほうがいいかしら」
「モコッコ!」
首を横に振ると、ミミちゃんはそれを予測していたようで「でしょうね」と何故かうっすらと笑みを浮かべて頷いてきた
……と、思ったんだけど、その表情が少しだけ変わった
よくわからないけど、ミミちゃんはなんだかわざとらしく明後日の方向を見たりして、少し目が泳ぎ出したのだ
「ええっと……ねぇ、ちょっといいかしら?」
「モコ?」
「あの人……マイスさん、私のこと何か言ってなかった? 『青の農村』に住んでる子なら何か聞いたことがあるんじゃないかって、思って……」
「モ、モコ……?(え、どういうこと……?)」
僕が首をかしげてしまうのとほぼ同時に、ミミちゃんがブンブンと首を振った
「いや、その別に何かあるとかそう言うわけじゃないから!だから、聞いたことが無いなら別にいいの、気にしないで! それに、私のこと嫌いとか言ってないだけで……」
段々と声が小さくなっていくミミちゃん。……と、バッっとミミちゃんがしゃがみ込んできて、抑えた声で言ってきた
「その…………もしよかったらマイスさんが私のこと怒ってないか、それとなく調べてくれないかしら? もちろん、私が探ろうとしてるってことは秘密にしなさいよねっ!いい?わかった!?」
そう、途中から一方的に言ってきたミミちゃんは「そ、それじゃあね」と足早に去っていった
そして、残された僕はと言えば……
「ちむ」
「ちむちむっ……」
「ちちむ~」
「ちむっ!ちむっ!」
「僕=金モコ」を知っているちむちゃんたちによる、何とも言えない視線を一身に受けていた
……でも、本当にどうしよう?
今日わかったのは、ミミちゃんが僕の事をそんなに嫌っているようじゃないこと。それと、僕が怒っているんじゃないかと気にしていること……けど、そんな怒ってしまうようなことをミミちゃんからされたような覚えは無い
うーん……僕が憶えてないだけで、何かそんな事があったとか?
そんな事を考えながら、裏路地の物陰に入り、変身して人間の姿になる
そうして、僕は村へと帰るのだった……
――――――――――――
そして、家まで帰ったあたりであることを思い出した
「あっ…、ちむちゃんたちにトトリちゃんのこと聞くの忘れてた……!」