***冒険者ギルド***
年も変わってから、また『アーランドの街』へと来たわたし
免許取得から3年の期限で一定以上の冒険者ランクにランクアップしていないと免許を取り消されてしまうから、色々と頑張って……それで、ポイントが貯まったから、ランクアップのために『冒険者ギルド』に来たんだけど……
「んー…ふむ……」
「どうしたんですか?わたしの免許ジッと見て…」
ランクアップ手続きを終えて、わたしに免許を返そうとしていたクーデリアさんがふと手を止めて、わたしの免許を凝視しだした
「いや、今更なんだけど、あんたの苗字ってヘルモルトなんだなーって。 ひょっとして、あのギゼラ・ヘルモルトの身内だったり……なんてことは流石に……」
「あ、はい。お母さんです」
わたしがそう答えると、クーデリアさんは「うんうん」と一人納得したように……
「ま、そうよねー。見た目は似てなくもないけど、性格は別物だし、ただの偶然よねー」
……って、わたしの言ったこと、ちゃんと聞いてない!?
「偶然じゃないです!お母さんですよ! クーデリアさん、お母さんのこと知ってるんですか?」
「…お母さん?本当に?」
「本当です!!」
わたしの言葉に訝しげに目を細めていたクーデリアさんだったけど、一度大きな息を吐くと信じてくれたのか大きく頷いた
「そう、本当なのね……よし、とりあえず母親の代わりにあんたのこと2,3発ひっぱたこうかしら」
「何でもいいですから、それよりお母さんのことを……えっ?ひっぱたく?」
何で?…というか、わたし、なんだか言っちゃいけないこと言っちゃったような気がー……
「いいのね? そんじゃ歯食いしばってー…」
良い笑顔で肩をグルングルン回すクーデリアさん。ひっぱたく気満々なのが見てわかる
「わあぁ!ひっぱたかないでください!? なんでひっぱたかれないといけないんですかー!?」
「なんで、ですって? あんたのお母さんのおかげで、あたしがどんだけ大変だったと思ってんの!?どこで大暴れしただの、橋を落しただの、往来のど真ん中で酒盛りしてるだの……毎日毎日、一体いくつの苦情を処理させられたことか!」
そう言って怒りだすクーデリアさん
その様子は前に『サンライズ食堂』でマイスさんに向かって怒っていたのと同じかそれ以上の勢いに思える
……というか、お母さんは何をしてるんだろう…?
『アランヤ村』でお母さんのことを聞いて回った時に、酒場でゲラルドさんから「遺跡を壊したー」…なんて話を聞いたけど。……あの時は冗談半分、本当かなーなんて思いながら聞いてたけど、もしかして……
「え……それ全部、お母さんが?」
「そうよ! まだ冒険者制度が始まったばっかりで、あたしだって仕事に慣れてなくて、ただでさえてんやわんやしてたのに! あいつ一人のせいで……!あー!思い出したらまた腹が立ってきた!」
「あああ、ごめんなさい!とにかくごめんなさい! でもあの、お母さんってすごい冒険者だったって聞いてるんですけど…」
「聞いてるってどういうことよ。あんたのお母さんのことでしょ?」
ひっぱたこうとあげていた手を降ろして腕を組んだクーデリアさんが、不思議そうにして首を少しかしげた
「それが……わたし、お母さんのことほとんど覚えてなくて。それで噂くらいでしか…」
「ふぅん…? まぁ、すごかったのは確かよ。良い意味でも、悪い意味でもね。……これでもかってくらい迷惑かけられたけど、冒険者としての功績もそれ以上に挙げてたし」
「そうなんだ、良かった……あっ、でももしかして、お母さん実は嫌われてたり、とか…?」
「少なくとも、あたしにはね。他の人にはどうかは知らないけど……あっ、いや……うん。たぶん」
……?
よくわからないけど、なんだかクーデリアさんが何か言葉を詰まらせたような気が……。とういか、「たぶん」っていうのも、凄くに気なる
「…でも、悪口とか言われてるのは聞いたこと無いわね、不思議なことに……って!なんであたしがフォローするようなこと言わなきゃなんないのよ!」
「わぁ!また怒った!?」
「ああ、もうダメだわ!直接会って文句言ってやんなきゃ、気がすまない! どこにいんのよ、あんたのお母さんは!?こっちには長いこと顔出して無いし…」
「あ……やっぱり、クーデリアさんも知らないんですね。お母さん、もう何年も帰ってきてないんです」
「何年も?それって…」
クーデリアさんの表情が驚いたものに変わって、声のトーンも少し低くなる
「で、でも、お母さんのことだし、きっとどこかで元気にやってると思うんです! だから、わたしはお母さんを探すために冒険者になって、それで、ええっと…」
「…そうね。簡単にくたばるようなタマじゃないだろうし」
そう言うクーデリアさんの口元は、少しだけだけど笑みを浮かべているように見えた……
「つーかね!そんな事はもっと早く言いなさいよ! そしたら、あたしのほうでも情報を集めたりとか色々できたのに!!」
「ご、ごめんなさい。てっきり、先生から聞いてるかと思って…」
「ま、いいわ。何かわかったら教えてあげる。他の冒険者連中にも聞いてみるわ。誰かしら知ってるかもしれないし…ね……?」
……どうしたんだろう? クーデリアさんが段々と首をかしげていき、なんだか難しい顔をしだした
「……ねぇ。あんたのお母さんのこと、マイスに聞いた?」
「えっ、あ、はい。聞いてますよ?」
「そう……それで何て?」
「たしか、「何年か前に家に来てから会ってない」って。その時期はちょうどお母さんがいなくなった時期と同じだったみたいです」
「ふぅん、そう……」
そう言ったかと思うと、クーデリアさんは目を閉じて 何かを考え込みだしてしまう
「あのー…、クーデリアさん?」
「…ん? ああ、ごめんなさいね。ちょっと気になることがあって」
気になること…? それも気になるけど、それよりも聞きたいのは……
「前から気になってたんですけど、マイスさんってわたしのお母さんと何か関係があったんですか? なんだか仲が良かったみたいに聞いてるんですけど」
「あの二人の関係ねぇ? あたしも本人からは「友達」としか聞いてないけど。知らないうちに仲良くなってたし」
「そうなんですか?」
わたしが聞くとクーデリアさんは大きく頷いて、その後、何故かため息を吐いた
「まあ、はたから見れば友達というか……なんだかよくわからない関係ね。それもお金絡みの」
「お金絡み……? なんだか凄い嫌な予感がするんですけど……」
「あら?良い勘ね…………あんたのお母さん、マイスに大量の借りがあるみたいよ?それも下手すれば国の予算並みの」
……わたしは目の前が真っ白になった