***サンライズ食堂***
俺はイクセル・ヤーン。毎度おなじみ、アーランドの街にある『サンライズ食堂』を任されているコックだ
今日も もう日が沈んでしまい、冷え込みだし薄暗くなった街。そして、今日の『サンライズ食堂』は客がほとんどいなかった。だが、別に何かあったわけではないから、たまたま今日がそういう日だった…というだけだろう
さて、今日もマイスが『
とはいっても、別に組み合わせが珍しいわけではない
この組み合わせで『
調理中の俺がチラリッと目を向けたテーブルにいるのは、マイスとコオル
コオルっていうのは、アーランドが王国だった時代から街を中心に行商人をしていた子供だ
その言葉通り、王国時代なんかはまだ年齢も一桁で、今でもまだ未成年なのだが……五歳年上のはずのマイスと同じか……それ以上に見えるくらいにはしっかりと成長している
……いや、この場合はコオルが異常に成長しているというよりも、マイスが成長していないだけかもしれない。…絶対そうだろう
そんな「年齢が逆なんじゃないか?」と思えるコンビだが、その繋がりは結構深いものだ
というのも、マイスが『青の農村』をなりゆきで立ち上げた際に、コオルは『アーランドの街』から『青の農村』へと活動の拠点を移し、王国時代にマイスと交流が有ったからか村の中でも重要な役回りに就いたのだ
それゆえに、村の行事とか何かあった時を中心にマイスとコオルは一緒にいたり、同じ物事に共同で取り組んだりすることがあるわけだ
…けど、そんな二人だが、ここ『サンライズ食堂』にそろって来るか?と聞かれたら、ほとんど来ない
それぞれがなにかしらの用……例えば、野菜の取引の確認なんかに来たりはするが、二人そろっては無い。二人で一緒に何かを食べるにしても、わざわざ街に来なくとも『青の農村』の中にある『集会場』なんかで済ませられるからな
じゃあ何で今日は『サンライズ食堂』に来たのか……
まあ、注文の内容を見ればすぐにわかったんだがな
「よし、っと」
調理を終えて、盛り付け、テーブルへと運ぶ準備をする
その途中、耳にマイスとコオルの声が少しだけ聞こえた
「でも…………そういう…………?」
「だから……だって言っただろ?………だな」
聞こえたのは途切れ途切れではあるが……何やらマイスがコオルから教えて貰っているようだった
ちょっと気になるから、料理を持って行った時に少し二人から話を聞いてみることにする
……店的には嬉しく無いことなんだが、客が少ないから厨房を少し離れても問題無いだろう
――――――――――――
「おまちどうさん!注文された料理、全部できたぜ」
そう言って持っていくと、水の入ったグラスを持っていた二人がこちらを向いてきた
「あっ、ありがとうございます、イクセルさん」
そう、いつも通りに礼を言ってくるマイス
対して、コオルのほうもいつも通りに……こちらはマイスに比べ幾分フランクな感じで俺に言ってきた
「ありがとな!…ああっ、わざわざ来たかいがあったぜ」
「そう言ってもらえると嬉しい限りだな。……つーか、ここに来るのはやっぱりコレ目当てか」
俺が言うコレとは、『イクセルプレート』という料理。自分で言うのもなんだが、超力作の一品だ
…で、何故それがそんなにコオルが嬉しそうなのかと言えば……
「…まあな。『青の農村』じゃあ魚系はあっても、肉系はほとんどメニューにないからさ」
そうコオルが言う通り、街とは違い『青の農村』では肉料理というものが1、2種類くらいしか無く、特別美味いほどではないのだ
その理由は……一見、複雑そうで簡単だ
『青の農村』が人とモンスターと共存する村だから……というわけでは無い。第一、モンスターの中には肉を主食にするヤツもいるんだから、そんな肉を禁ずる決まりがあったりはしない。……とは言っても当然のことだが村の住人・住モンスター(?)たちは互いに、モンスターが人を喰おうとしたり、逆に人がモンスターの肉をはぎ取ったりすることは無いのだが
じゃあ、何故、肉料理が発展しないのかと言えば……
「あはははっ……ゴメンね。肉料理はさっぱりで……」
そう申し訳なさそうに……そして、苦笑いをしているのは、目の前に魚料理が置かれたマイスだ
マイスは、以前いた地域の文化・食生活が理由で、昔から肉料理が苦手なのだ。マイスもマイスなりに頑張ってはいるようだったが……
それが、『青の農村』の食事事情とどう関係しているかと言うと……それは、『青の農村』の料理の大半がマイスの故郷の料理を マイスが再現しレシピにしたものだということ
つまりは、そのレシピたちの中には肉料理は無い。そのうえ、種類が豊富で美味いため、『青の農村』の店・各家庭は、従来から変わりの無い肉料理から離れていき マイス発案のレシピの料理が浸透・定着していったわけだ
もちろん、新たな料理も開発されたりはしているんだが、第一人者のマイスが肉料理が苦手なことによって、他よりも肉料理がそこまで発達しなかったのだ
まあ『
「別に『
「ううん……肉料理、開発……」
頭を抱えだすマイスを見て、笑いながら「まあまあ、無理すんなって!」と言うコオル
色々と趣味趣向の違いはあるみたいだが、コオル一人で来ればいいところを こうやってわざわざ二人で来るあたり、結構仲は良いみたいだな
「そういえば……話は変わるんだが、二人はさっきまで何話してたんだ?」
俺がそう聞くと、コオルが「ああ、あれか?」と口を開いた
「やっぱりマイスは商売には向いていないなって話」
それを聞いた俺が「どういうことだ?」と首をかしげると、変わってマイスが話を続けた
「この前、トトリちゃんのお手伝いをしたんだ、村の酒場にお客さんを増やすための名物酒作りのお手伝い。…その話をしたら、コオルに呆れられちゃって……」
「ん…?何でだ? 何か面白そうな話じゃねぇか」
「競争する店もほとんど無い……『
スイッチが入ったように語りだすコオルに、俺とマイスは苦笑いを浮かべた
……これが商売人の
それにしても、あのトトリが作った酒か……少し興味があるし、ちょいと本人に話を聞いてみるか?
いや待て。確か、今はその『アランヤ村』に帰ってるんだったか?
……じゃあまたの機会だな